不穏な隣人、月島さん
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ピピピピピ……ッと電子音が耳元で鳴り響いたのを聞いて私の頭は覚醒した、ゆっくりと目を開けて少し顔を動かすと窓の向こう側は明るくなっていた、ゆっくりと体を起こしてグッと伸びをすると心地が良い、いまだに鳴り響いているアラームを止めてのそのそとベッドから降りる
台所へ行き鍋に水を入れて火をかけてから身だしなみを整えるために洗面所へ向かう、まだ頭はボーッとしているが毎日毎日行っている習慣なので体は覚えているようだ、パチャリと冷水で顔を洗うと一気に目が覚めた気がした、タオルで水気を拭き取って顔を上げると少々疲れた顔をした私の顔が鏡に映っていた
「今日も仕事か……」
思わず呟いた言葉に溜め息をついてしまう、仕事内容が嫌な訳では無い、ただ疲れが取れていない状態で出勤するのが嫌なのだ、どうせなら疲れが取れるまでベッドでゴロゴロと惰眠を貪っていたいがそうはいかないので仕方なく出勤の支度を始める
冷蔵庫から味噌を取り出して、若干沸騰が弱いお湯を少し温めて更に沸騰させた後お玉で好きな分量の味噌を掬い箸を使い溶かしていく、ある程度溶けたらそこに乾燥ワカメを投入して鍋に蓋をして火を弱火にしてからお椀などの準備をする
お玉で掬い、美味しそうに湯気を立てている味噌汁を眺めながらテーブルに置いて、すぐに白米の支度をする、寝る前にしっかりと炊飯の予約を入れていたので炊飯器の蓋を開ければホカホカとした白米が姿を現す
「本当、良い時代になったなぁ」
まだ寝惚けている頭でそう呟きながら茶碗にパテパテと白米をよそっていく、ある程度よそったら蓋を閉めてそばに置いてあるふりかけを手に取って味噌汁の待つテーブルに戻る
昨日の月島さんとの会話で自炊をなるべくやると決めたので早速今日の朝から実践してみたが、なかなかに食欲をそそる、いつもは味噌汁だけだったり小さめのインスタントラーメンだったりと不健康な朝ご飯だったので余計にお腹が空くのかもしれない
手を合わせて食事に感謝してから箸の先を味噌汁に落とす、かき混ぜれば味噌の香りが鼻腔を刺激してそれに反応する様に空腹感が一気に襲ってきた、堪らず味噌汁に口をつける、少し熱めなので舌を火傷しない様に気を付けながら啜ると少し濃いめに作ってしまったようだった、しかし身に染みる
温かい味噌汁を一口飲んだだけだと言うのに私の目はシャキッと覚めた気がした、そのままパクパクと食事を進めていき思っていたよりも早く食べ終えたので食器を軽く洗ってから出勤前の支度を進め始める
「っし……」
軽くメイクを済ませて鏡を見れば人前に出ても大丈夫な状態の顔面がそこにあった、時計を見ればまだ少し時間はある、が、こんなにゆっくりとした充実感溢れる朝を過ごしてしまうと仕事に行くのが億劫になってしまうのでいつもより少し早くても床に根が張る前に出勤した方が良いだろう
そう考えて私は無理矢理身体を動かして定期券とスマホを片手に持って電気を確認してから家を出た、今度こそしっかりと鍵をいつもの所に入れて階段を降りようとした時、隣の方で似たような玄関の扉が開く音がした、顔を向けると眠そうな顔をした月島さんがガチャガチャと音を立てて鍵を閉めている所だった
「おはようございます月島さん」
「……ん、ああ瀬田か、おはよう」
声をかけると月島さんは鍵を閉めた後に口角を少し上げて私に挨拶をした、折角なのでと一緒に駅まで向かう事にする、カンカンと階段を降りながら月島さんと軽く世間話でもする事にした
「今日は一日中晴れてるそうですよ」
「らしいな……そう言えば今日はいつもより早いな」
「あ、昨日の話でちょっと自炊をしてみようと思いまして……早く起きたらこの時間で……」
階段を降りる頃には月島さんとの会話は朝がこの時間になるのは珍しいと言う話に変わっていた、月島さんの素朴な疑問に私は少し恥ずかしかったが今日の朝早速自炊を再開してみたと話した、まるでいつも自炊していないみたいな雰囲気になってしまいそうなのであまり言いたくはなかったが…
話し出すと月島さんは少し驚いた様に目を見開いた後歩みを止めて顔を手で隠してしまった、どうかしたのかと月島さんの方を向いて名前を呼ぶが月島さんは顔を隠したままだ、何かおかしな事を言ってしまったのかと首を傾げていると
「っふ、昨日今日で何気なく話していただけなのに、随分と素直なんだな瀬田は」
そう言いながら月島さんは肩を揺らして笑いだした、どうやら素直に言う事を聞いて早速実践した私が素直で面白かったようだ、月島さんは初めこそクスクスと笑いを堪える様に静かに笑っていたのに私の顔を再び見るとケラケラと声を上げて笑い出した
面白がられた事や素直だと言われた事に恥ずかしさを感じた私だったが、それよりも月島さんの今まで見た事ない表情筋の働き具合に驚いてしまった、しばらく笑っている月島さんを見ているとハッと気付いた様子で月島さんは笑うのをやめた
バッと私の方を見て反応を伺うかのようにジッと見つめてくる、頬に汗をかいている様に見えるのはきっと気の所為だろう、しかしそう見えてしまう程に月島さんは今焦っている、朝から声を上げて笑っていた事に
「月島さん、笑うんですね」
月島さんにジッと見つめられて若干緊張してしまった私は思わずそう零してしまった、直後私を見ていた月島さんの顔がカァーッと赤くなる、そんな月島さんの様子に今度は笑みがこぼれてしまう、クスリと笑うと月島さんはもう限界だった
「うるさいっ!!早く行くぞ!!」
若干身体がビリビリと震えたと感じる程大きな声でそう叫んだ後大股でズカズカと歩き出した、そんな月島さんの後を慌てて追いかける、月島さんに大きな声を出されたのは今まででも数回あるが照れ隠しの為に叫ばれたのは初めてかもしれない
月島さんも照れる時はあるんだなぁ…と思いながらまだ耳を赤くした月島さんの後ろ姿を見ながら私は月島さんの後を追う様な形で駅に向かう、それよりも月島さんに叫ばれるとなんだかいつも背筋がピンッと伸びてしまうのは何故だろうか
上司などに怒られた時とは少し違う、月島さんの声だからこそ伸びてしまう気がするが、それはきっと月島さんの声が大きいからだろうと自己解決した
「あ、月島さんホームどっちですか?私こっちなんですけど……」
「ん、俺はこっちだな……逆側か、まあ今朝はその……大きな声を出してしまってすまない」
「あはは、良いんですよ、私も笑っちゃってすいません」
「俺も少しからかい過ぎたな、悪い」
月島さんの耳の熱が解ける頃には目的地の駅に到着した、まだ出勤ラッシュの時間帯ではないがチラホラと学生やサラリーマンの姿が見える、そんな中改札を通りながら月島さんとホームの方向について離すとお互い逆方向を指さしたので、名残惜しい気もするがここで解散する事になった
今朝の一件について月島さんが謝ってきたが、謝るのは私もなので頭を下げると月島さんも同じ様に頭を下げた、そんな様子にまた笑い出してしまうが今度は月島さんも私と同じように笑い出した、一通りクスクスと笑ってからもう一度顔を見合わせる
「では、行ってらっしゃい月島さん」
「ああ、行ってらっしゃい瀬田」
お互い頑張ろうと言う気持ちを込めてそう言い合い私達は別々の方向に向かって歩き出した、途中チラリと後ろを見ると月島さんは眠そうに軽くあくびをしていた、そんな姿を見て、そう言えば月島さんは今日はどうして朝早くなったんだろうと思いながらも私は自分の乗る電車が止まるホームへと歩みを進めた
いつもは同じ時間帯に家を出てきた月島さんと軽く挨拶をしてから早足で駅に向かうのでこんなにもゆっくりとした朝は久しぶりかもしれない、たまには早起きもいいかもと思いながら私は職場に向かうため電車に乗り込んだ