不穏な隣人、月島さん
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月島さんと連絡先を交換してからと言うもの特にやり取りが続いている訳でもない、メッセージはあれから送ってないし月島さんも送ってこない、と言うのも毎日朝の出勤が一緒だからだろう、駅までの道のりで他愛のない世間話をしたりしているので改まってメッセージを送る必要も無いのだ
朝、玄関を開けて数秒後に月島さんが出て来るので思わず笑ってしまった、やはり月島さんはこうでなくては、クスクスと笑っていると月島さんが不思議そうな表情をしながらどうかしたのかと聞いてきたのでとりあえず駅に向かいながら話す事にした
「月島さんはいつも私が玄関を出た数秒後に出て来るんですよ、知ってましたぁ?」
「そうなのか、いや初めて知ったな……」
「そう言えば私達って帰りの時間帯とかもよく合いますよね」
「ん、確かにな……残業の時間とかも合ったりするな」
駅に向かいながらお互い歩幅を合わせながらそんな話をする、朝毎日のようにいつも顔を合わせる事すらこの変動し続ける世の中では珍しい事なのに、それに合わせて夜の帰りの時間帯も一緒なのは何気に凄い事だと個人的には思ってしまう
「こうして毎日のように顔を合わせるなんて、私達って波長が合うんでしょうかねぇ」
茶化すようにケラケラと笑いながら言ったが月島さんはその言葉を聞いて少し身体をピクつかせた、なにか言ってはいけない事を言ってしまっただろうかと一瞬身構えたが月島さんの表情は穏やかだった、穏やかな瞳で私を見た後少し背伸びをして私の頭にポンッと手を乗せた後口を開いた
「前世からの知り合いだからな、波長くらい合うだろ」
ゆっくりと懐かしむように私の髪の毛を撫でて月島さんは手を離した、どこかその撫で方に覚えがあるのは何故だろうか、懐かしさを感じてしまうのは何故だろうか、両親などは私をこんなにも壊れ物を扱うかのようには撫でない、こんなにも、愛おしそうには……
月島さんの優し過ぎる撫で方に思わず思考が停止しかけたが私は月島さんの発した"前世"と言うもう聞き慣れてしまった単語に口角を上げた
「でましたねぇ、月島さんのロマンチスト的発言」
ヘラリと笑いながら言うと月島さんは一瞬目を大きくしたがその後は小さく笑ってそうだな…と呟いた、どこか寂しそうに見えたのは気の所為だろう、そんなやり取りをしていればあっと言う間に駅に着いた、改札で月島さんと別れてそれぞれの電車に乗る
今日も一日頑張ろうと気合を入れて仕事に励む、異変が起きたのはお昼休みが始まってすぐだった、まず食欲が落ちたらしくいつもならペロリと平らげてしまう弁当の中身をほとんど残して私は食事を終えた、勿体ないなぁと思いながらもご飯の匂いを嗅ぐと気持ちが悪くなる程具合が悪くなってきた
周りの人達の弁当の匂いが漂ってきたのですら気分が悪くなってきてしまったので私は事務室を離れる事にした、立ち上がると同時に目眩に似た物が私を襲った、フラリと一瞬足元が覚束なくなったが耐えてそのまま部屋を出て行く
「ぅ、なんだろ…」
壁伝いに廊下を歩きながら思わずそう呟いた、朝起きた時はこんなにも体調が崩れるとは思えない程良好でむしろ元気な方だったのに、水分などもしっかりと摂っていたので熱中症などではないとは思うが…もしかするとなにか大きな病気なのではと一瞬嫌な事を想像して肝が冷えてしまった
喫煙所の同じ課の人達が不思議そうに私を見ているのを感じる、変に目立っている気がして嫌だと思いなるべく早足で煙草の煙の匂いを嗅ぎながら歩いていると不意に頭に激しい痛みが走った、思わず顬当たりを押さえてその場にしゃがみ込んでしまう
「い"っ……!!」
煙草の煙が何かのトリガーだったのか、私の頭は煙が鼻腔をくすぐる度に痛みを増していく、一瞬煙草とは違う別の煙の匂いがした気がした、乾燥した植物を焼いたのではなく、火薬や物が燃えるような匂い、何故だかそれがとても懐かしいと感じてしまった、朝月島さんに頭を撫でられた時のような感覚に似ていた
「大丈夫ですか?」
「……ぅ、」
私の様子を見兼ねてか喫煙所から数人出てきて私に声をかけた、しかし頭の痛みと目眩に襲われて私は上手く声を発する事が出来なかった、見覚えのある同僚の一人の女性が私の額に手を置いた、そしてすぐに息を飲んだ
「瀬田さんすごい熱よ!!」
クラクラとする視界の中でその言葉はやたらと耳に入ってきた、その直後誰の物かも分からないザワザワとした雑音が鼓膜を揺さぶりより気分が悪くなった私は静かに目を瞑った、そしてそのまま気を失ってしまったらしい、次に目が覚めたのは社内の応急処置室のベッドの上だった
なんだか前にも倒れてベッドに運ばれたなぁと呑気に思いながら会社独特のシンプルな天井を見続ける、まだ軽くフラつくが起きても大丈夫だと思い身体を起こしてキョロキョロと辺りを見渡していると丁度部屋に先程私の額を触った同僚の女性が入ってきた
「あ、目覚めた?」
「……はい、あの……すいませんでした」
「謝らなくて大丈夫だよ、部長にも報告しておいたから、今日はそのまま帰って大丈夫だって、大事を取って明日と次の土日もしっかり休んでって」
「っ、でも仕事……!!」
「大丈夫大丈夫、瀬田さんいつもノルマ以上の事をやってるから、一日くらい休んでも私達でフォローするから」
「……す、……ありがとうございます……」
女性の言葉に思わず謝りたくなったが以前月島さんに言われた謝罪よりお礼の言葉を言われたいと言う言葉を思い出して申し訳なくなりながらもお礼を言った、女性は軽く笑うと一人で帰れそうかと聞いてきたので大丈夫だと答えた、そして先程と同じように私の額に手を置いて熱を確かめた、どうやら倒れた時よりは引いたらしいが心配そうに私を見つめている
しかしこれ以上甘えてはいられないと思い大丈夫だともう一度伝えた、すると女性は少し考えた様な素振りをしたが納得したようで私のカバンを手渡してくれた、どうやら荷物をまとめてくれたらしい、もう一度お礼を言うと今日はこのまま帰って大丈夫だと言って扉を開けてくれた、どうやら出入口まで着いて行ってくれるそうだ
若干足元がフラつくが悟られないように歩いて私は女性に見送られながら早退をした、時計を見てみると昼過ぎで気を失っていたのは少しの間だと知った、歩いて駅まで向かおうとしたがやはり途中で辛くなってきたのでタクシーを捕まえて駅までお願いした
帰り道が歩けるか心配だったが最悪また駅でタクシーを捕まえようと考えながら私はタクシーの車窓から見慣れた街並みをボーッと眺めた、あっと言う間に駅に着いたのでお会計をしてから改札に向かいそのまま電車に乗った、数分揺られれば最寄りの駅だ、そこでもタクシーを捕まえ自分のアパートの名前を伝えてタクシーのシートに項垂れるように座り込んだ
運転手がミラー越しに心配そうに私を見ていたが気にせず窓の外をボーッと眺めた、アパートに着き見慣れた階段を上れば自宅に着く、力なく玄関を開けて中に入り鍵をかけてからのそのそと室内を歩いてベッドに倒れ込んだ、横になった途端再び凄まじい痛みの頭痛が私を襲う
「…ッ…ぅ……う"ぅ」
思わず唸り声を上げてしまうがもう私を助けてくれる人はいない、明日も休めるので今日はこのまま寝てしまおうと思うが痛みがそれを邪魔する、一体どうすれば良いだろうかと上手く働かない頭で考える、しかし思考を巡らせようとすると途中で止まりボーッと天井を見上げてしまう
「一体どうして……風邪なんか……」
一人で寂しく呟くが私の声は誰にも届かないし正解も出てこない、そもそもこれは本当に風邪なのだろうか、風邪にしては咳などは全く出ないし喉に痛みもない、あるのは激しい頭痛と熱のみ、そう言えばいつからこんなにも強い頭痛が来たのかとふと考えた、食欲が落ちてから気分が悪くなり部屋を出て……煙草の煙の匂いだ、あれがトリガーだったのだ
「なんで煙草の煙で……」
痛み続ける頭を押えながらひたすら疑問を口にする、思えばあの時タバコの匂いだけでなく別の、火薬のような匂いもした気がする、そしてその匂いはどこか懐かしさを感じて……そこまで考えた瞬間再び頭が痛み始めた、ガンッガンッと内側から頭蓋骨を叩かれている様な激しい痛みだ
このままではまた気を失ってしまうと思い私はとにかく誰かに助けて欲しくてスマホを手にした、誰でもいい、誰か……死に物狂いでスマホの画面を操作して電話帳を開いた、その直後再び鋭い痛みが走り私の視界は霞んでいきそのまま気を失った
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