金カム
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事の発端は最近この部署に配属になった鯉登さんの叫び声だった、叫び声と言っても鯉登さんは何かにつけて声を大きくして叫ぶので特別変わった事ではないと思っていた、しかし鯉登さんのいつもの変わった猿のような叫び声の後に発せられた言葉は私の盗み聞きスキルを大きく刺激した
「キエエエッ!!杉元!!また貴様のせいで書類がシワシワになってしまったではないか!!」
鯉登さんの怒りの矛先はどうやら私の同期で仲の良い杉元君らしい、しかし気になったのは鯉登さんの言葉の内容だ、書類にシワがついただけでそんなに騒ぐ事なのかと普通の人は首を傾げるだろう、しかし確かに言われてみれば杉元君に書類を渡すと高確率で一部にシワができて返って来る
もう慣れてしまって特に気にしてないし、このオフィス内の人間もこんな風に注意をする事はなかった、鯉登さんはきっと軽く潔癖症や完璧主義が入っているのだろう、気になる人は気になる、そのくらいの事なのだ
しかしどうしてこうも高確率でシワになって返って来るのか、ふと疑問に思った瞬間いつもの日常だった何気ない光景がひとつの謎として姿を変えた、こうなると私は答えを見つけるまでモヤモヤしてしまうタイプだ、一度疑問に思うと答えを見つけて納得するまで止まらない性格、良い方向に作用する事もあれば今回のようにどうでもいい事に作用する事がある
だが今回の謎はすぐに解ける事になる
「仕方ないだろ俺汗っかきなんだから、代謝が良くていつも肌がしっとりしてるんだよ」
鯉登さんには目もくれずパソコンに入力しながら杉元君が答えたのだ、自分は肌が少ししっとりしていると、乾燥肌の私としてはとても羨ましい限りだ、確かに杉元君は怪我などがすぐに治るので代謝が良いのだろう、代謝が良いと汗をかきやすくなるのも当然だ
「汚らしいぞ!!」
「汗なんて誰でもかくだろ!!そんな細かい所でギャーギャー言うな」
もはや悪口としか思えない鯉登さんの言葉に遂に杉元君が作業の手を止めて鯉登さんを睨み付けながら言い始めた、もう早く終わってどっかへ行ってくれと言わんばかりに少々早口で言うがそれが鯉登さんにとっては腹立たしかったようだ、ピクリと特徴的な眉毛を揺らした後少々切れ長の目を更に少し細めて話し出す
「なんだと、細かい所を気にして何が悪い」
「神経質すぎる男は嫌われるぜボンボン」
「えーころ加減な男ん方が嫌わるっにきまっとっ!!」
「なんて?」
杉元君が鯉登さんに対してボンボンだと悪口を言うとスイッチの入った鯉登さんは地元の方言が戻ってしまい更に早口で話し始める、きっと杉元君に対して悪口の様な物を言ったのだろうが特徴的な方言過ぎて何を言っているのか分からず杉元君が困惑した
しかし自分の言いたかった事が伝わらず消化しきれないストレスに耐えかねた鯉登さんは勢い良く杉元君に掴みかかった、こうなれば血気盛んな杉元君は黙っていない、結局小学生の様な取っ組み合いを始めた二人は間に入った谷垣君によって捕獲され、月島さんによって制裁が加えられた
そんな一連の様子を冷めた目で見つめながら私も自分の仕事を再開する、しかしカタカタとキーボードを弾く指がすぐに止まってしまう、理由は分かっている、だがすぐにどうにかできる問題では無いのだ
「どうしたナマエ」
「クッ……!!尾形さん、杉元君の肌ってどんな風にしっとりしてるのかなぁ?」
「うわぁ……」
私が一人頭を抱えていると近くを通った尾形さんが声をかけてきた、耐えきれなくなった私は遂に自分が気になっていた事を尾形さんに伝えたがやはり反応は拒絶的な反応だった、表情があまり変わらないと有名な尾形さんでさえ珍しく目を細めて冷や汗をかいていた
そう、私はあの杉元君と鯉登さんの会話によって表れた新事実、"杉元君の肌はしっとりしている"について凄まじく興味が湧いてしまい、更に溢れ出る好奇心が抑えられそうにないのだ、今でこそパソコンと向き合っている形をなんとか取り留めているがすぐにでも席を立って杉元君の手を触ってみたいのだ
しかしそんな事をしては確実に引かれるだろうし、社内での私のイメージが崩れてしまう、現に尾形さんは関わりたくないと言った雰囲気でそさくさとどこかへと行ってしまった
「そうか、さり気なく触ってみればいいんだ」
ふと、頭に降りてきた素晴らしいアイディアに私は思わず声を上げた、隣のデスクの前山さんが不思議そうに首を傾げていたが気にしないでと一言言ってから私は書類の印刷ついでに杉元君の元へと向かった、月島さんからの制裁を受けて杉元君は印刷機のインクを変えているので話をするのは簡単だった
「杉元君、使ってもいい?」
「ああ、ナマエさんか、丁度今終わったところ、使えるよ」
印刷機の前にしゃがみ込んでガチャガチャとインクを入れ替えている杉元君に声をかけると立ち上がりながらそう言ってくれた、お礼を言ってから印刷機を使う、その瞬間何気なく印刷機に置く手を杉元君の手と同じ位置に着地させようとした、これで私の抑えきれない好奇心が満たされるのだと思っていた
しかし、現実はそんなに甘くないようで、私の手が着地する寸前に杉元君はスッと手を動かして印刷機から離れてしまった、しっとりとしていると言っていた杉元君の手に着地するはずだった私の手は虚しく無機質な冷たい機械の上に着地したのだ
現在の状況が全く理解出来ず思わず瞬きを繰り返してしまった、そんな私を見て杉元君は不思議そうに首を傾げた、考えていた策がこんなにいとも簡単に崩されるとは思っていなかったが逆にこれを活かす事は出来ないだろうか
「ナマエさん?」
「杉元君……今日夜一緒に飲まない?」
杉元君が私の名前を呼ぶのとほぼ同時に私は杉元君を飲みに誘った、我ながら切り替えが早いと感心してしまう、しかし今までも一緒に飲んでいた事もあり怪しまれず更に杉元君に接近できるチャンスである、一緒に飲む場面であれば杉元君の肌の具合を調べるのは容易だろう
本当に危ないヤツの思考回路になっていると薄々感じながらもここまで行ってしまえば最後までトコトン行ってしまえと半ばヤケクソになっていた、そんな私の危険な考えなんて杉元君は知らないのだ、飲みの誘いに二つ返事で答えてくれた
「でもなんで急に……」
「……あー、鯉登さんへの愚痴、聞いてあげようと思って」
「あー……なるほど、まあ愚痴って程じゃないけどさ、話聞いてくれるだけでもありがたいよ」
何故急に誘うのかと不思議そうに問う杉元君に咄嗟に考えた事をそれっぽく伝えると納得した様に声を上げた杉元君、いや、正直な所私は杉元君の肌事情が確認出来ればそれで満足なので愚痴などはあまり聞ける自信が無いが、杉元君は嬉しそうにしているのでそれは黙っておこう
杉元君は外回りがあるので仕事終わりに会社の最寄りの駅集合と言う事にして私達は今夜飲む事にした、約束を取り付けて意気揚々と自分のデスクへと戻り私はなるべく残業をしないようにと自分の仕事を片付ける事に専念した
そして定時を少し過ぎた頃、仕事を終わらせて杉元君に連絡をした後すぐに駅へと向かった、もう少しで私の知識欲が満たされると、そう信じていた……しかし駅に到着してすぐに杉元君からかかってきた一本の電話によってそんな期待は打ち砕かれたのだ
「ごめんナマエさん、友人の寅次がちょっとトラブったみたいでその対応しないといけなくなっちゃったんだ、この埋め合わせは来週するから」
急いでいるのだろう少々早口で伝えられたその言葉に私はなんと答えたらいいのか分からず、ただここで何か波風立てて杉元君を困らせたくないと言う思いが動き、私は気が付けば"大丈夫"と口にしていた
何も大丈夫ではない、杉元君と飲む事が出来なかった、杉元君の愚痴を聞きながら時に励まし時に共感し時に叱咤する、そんな飲み会が出来なくなってしまった……事について嘆いているのではない、ただ私の杉元君の肌は一体どうなっているのかなと言う知識欲が満たされなかった事に対して嘆いている
機会はある、杉元君とは同じ職場だしよく話す方だと思っている、いつか欲が満たされると言う事は知っている、だが私は今、今日、数時間後に満たされるはずだった欲が満たされなくなってしまった事に対して嘆いているのだ
「アホらし……飲もう」
一人でポツンと駅前に立っている事がなんだか惨めで、思わずそう呟いて私は一人で多くの居酒屋が建ち並ぶ飲み屋街へと足を踏み入れた
結局居酒屋の騒がしい雰囲気は孤独な私には合わず、いつもなら活気があり楽しいと感じる雰囲気が今は苦痛でしか無かった、それ故かいつもより深酒をしてしまいアルコールによって思考がフワフワとした物に変わっていくのを感じた
流石に一人飲みで酔い潰れる訳にもいかず、早々に居酒屋を後にしたは良いが歩くと体内のアルコールが回り気持ち悪さが出て来たので駅に辿り着く前に道の端で立ち止まった
「あーー……これは、ヤバいかも」
クラクラとする頭、定まらない思考、それなのに視界はハッキリとしていて、かと思えば焦点が合わなくなり、心臓の鼓動がやたらと鼓膜を揺さぶる、何もかもがちぐはぐの感覚に翻弄された身体は正に気持ち悪いと言う言葉が似合う
もはや立っている事もままならなくなりその場にしゃがみ込んだ、辛うじて胃の中身を出す様な気持ち悪さではないが、グルグルと誰かに揺さぶられている感覚に陥る、自販機で水でも買うべきかと周りを見渡した時だった
「えっナマエさん!?嘘、一人で飲んでたのかよ……!!大丈夫?あ、俺水持ってるよ飲んで?」
パタパタとこちらに向かって走って来たかと思えばカバンからミネラルウォーターを差し出して来たのは友人のトラブルの手伝いに行った杉元君だった、遂に幻覚症状かと一瞬自分の視界を疑ったが差し出されたミネラルウォーターを受け取ると私の体温より遥かに冷たくて現実だと実感した
回らない呂律で杉元君にお礼を言ってミネラルウォーターの蓋を開けた時だった、何かに気付いて杉元君が慌て出したのですぐに口には運ばず首を傾げて杉元君を見上げた、すると杉元君は若干顔を赤くしながら口を開いた
「その……さっき俺、それ一口飲んじゃったんだよね……いや!!緊急事態だから仕方ないけど……ナマエさん嫌じゃない?大丈夫?新しいの買う?」
「なぁんだ、そんなことか」
「え、そんな事って……でも女性ってそう言うの気にしないの?」
「杉元君だから、良いよ」
どうやら咄嗟に手渡したはいいがミネラルウォーターに一口口をつけた事が気になったらしい、私は特に気にしないが、それは杉元君だから、と言う事も大きいと思う、思わずそれを口にすると杉元君は顔を真っ赤に染めた
そんな杉元君の顔を見ながら私はグイッと一口ミネラルウォーターを飲み込んだ
「だって、嫌な人と間接キスするよりマシでしょ?」
「あ、ぁあ……そう言う事か……ビックリした」
「杉元君は、嫌じゃなかった?」
「えっ俺?ナマエさんに対して嫌だとかそう言う感情は抱いた事ないから、むしろ申し訳ないよ、ごめんね」
ヘラリと人当たりの良い笑顔をこちらに向ける杉元君の顔はまだ少し赤くて、余程恥ずかしかったんだろうなぁと、どこか他人事のように杉元君の肌を見ていた
肌……そうだ、私は今日一日杉元君の肌に振り回されていた、他人からして見ればどうでもいい、なんて事ない事だけど私はどうしても気になっていた、杉元君の肌の感触は一体どんな風にしっとりとしているのかと、何故こんなにも気になっているのか自分でも不思議だった
「っと……とりあえず家まで送るよ、こうなったのは俺が急に約束破っちゃったせいだし……」
「え、あ……」
杉元君は気まずそうに頭を掻いた後しゃがみ込んでいた私の腕を掴みしっかりと体を支えながら引っ張った、杉元君にほとんど支えられる様な形で立ち上がった私は情けない事に足元が覚束無い状態だ
送って貰うのは流石に杉元君に申し訳がないと断ろうとしたが杉元君は私が口を開く前にせかせかと足を動かして駅へと私を運んで行く、断れる雰囲気でもないし、実際こうして杉元君に支えられないと歩けないのも事実だ、なので私は杉元君に甘える事にした
「ありがとう、杉元君」
「……ん」
ヘラリと笑いながら杉元君に掴まれていた腕を動かして杉元君の手を握った、これなら杉元君も支えやすいだろう、そう思いながらお礼を言うと杉元君は恥ずかしいのか少しそっぽを向いて小さく返事をした
そんなに恥ずかしがらなくてもいいのになんて思っていた時、ふと、杉元君と繋いでいる手が若干しっとりとしているのを感じた
あ、なるほどこんな感じなのか、と心の中で思いながら私は杉元君の人より少ししっとりとしている手の感じをにぎにぎと力を込めたり緩めたりして確かめた
もう少し確かめてみようと好奇心が働き、私は杉元君の手にゆっくりと指を絡めた、前を歩いている杉元君が一瞬驚いたように肩を揺らしたがこちらは見ようとしない、ただ杉元君の手から伝わる心拍数は早くなっている気がした
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