金カム
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※R15くらい
今日も今日とて無事一日が終わる、入社して一年、ようやく慣れて仕事での大きなミスは滅多にしなくなった、あとは細かいミスをしなくなれば仕事は完璧にこなす事が出来るだろう
夜のニュース番組を見終わりいよいよ床に就こうとテレビを消して歯を磨き水を一杯飲む、グッと伸びをしてアラームを設定して、さて布団に入ろうとした時に気の抜けたインターホンの音が響いた
こんな時間に誰だろうと思いモニターを確認する、どうやら男性のようだ、フードを深く被って俯いているのであまり顔は見えないが坊主頭である事はなんとか確認できた、安くて質の悪いモニターではそこまでしか確認できなかったが、ドアチェーンがあれば特に問題ないだろうと思い、玄関の扉のチェーンがついているか確認してから扉を開けた
「どちら様ですか?」
チェーン越しにそう声を掛けると坊主頭の男性はフッと嬉しそうに口角を上げた、フードのせいでまだ顔はハッキリと見えないが見た感じ私の数少ない知り合いにはどれも当てはまらない、今だに口を開こうとしない男性に痺れを切らし、いつもより少しだけ声のトーンを下げて話しかける事にした
「あの」
「ナマエだよな」
「え、あ……そうですが……」
意を決して発した私の言葉を半ば遮るかのように男性はどこで知ったのか私の下の名前を呼んだ、名前を呼ばれるなんて想像もつかなくて思わず素直に返事してしまった、まだ相手の身の上を知らないのに流石に不用心すぎたかも知れない
男性は私の名前がナマエだと言う事を確認すると穏やかに微笑んだ、その表情があまりにも自然で違和感がなく、その場に溶け込んでいた、このドアチェーンに隔てられた空間が無ければの話だが、だからこそ私は恐怖を感じてしまう、あまりにも穏やかな笑顔に
「これ、邪魔だな、壊すぞ?」
「え」
ふいに言葉を投げかけられて俯き加減だった顔を上げた、聞こえた言葉は気のせいだろうか、"壊す"と言う物騒な単語が聞こえた気がした、しかし言い終えると男性はゆっくりとした動作で私との間にあったドアチェーンを片手で掴んだ、先程聞こえた"壊す"と言う単語、そしてドアチェーンを片手で掴むと言う動作、その二つを合わせるとあまりにも非現実的な答えが導き出される
いや、そんな筈はない、ドアチェーンはしっかりとネジで止められている筈だ、防犯用に付けられた物なので壊されるのも見越して作られている筈だ、ましてや私とそんなに背丈の変わらない男性が壊せる訳がない、そう思った瞬間ドアチェーンの根元のネジが軋む音が私の鼓膜を震わせた
嘘だ、これは現実なのか?ありえないこんな事、絶対にありえない、頭の中が混乱していた、呆然と立ち尽くす私を他所に男性は自分の腕に力を込めている様でグッと口を紡いだ、そしてバキンッと金属音が響いた後、カランコロンと情けない音を鳴らしながらドアチェーンの根元のネジが転がった
「ぁ……ぇ?嘘……ッ」
思わず情けない声が出てしまった、しかしそんな声も出てしまうだろう、何故なら目の前でありえない出来事が起きたのだ、壊れる事なんてあってはいけない物がいとも簡単にあっさりと目の前の男性の手で壊されたのだ、呆気にとられてしまうのも仕方ない
呆然と先程まで根元にしっかりとはまっていて自身の役割を全うした転がったネジを眺めていると扉が動く音がした、ギギギ……と金属が軋む様な音は聞き慣れている筈なのに今だけは私の恐怖心を煽ってくる、ドクドクと自分の心臓が激しく動く音が耳元で聞こえ視点がブレ始めて息が上がる、恐怖しているのだ、今この状況に
逃げなくてはいけないと頭の中で警鐘が鳴り響く、しかし勝手口なんてないこの部屋の唯一の出入り口は目の前の玄関だ、ぬっと部屋に割り込む様に伸ばされた腕が行く手を阻む、無理だ逃げられない
「ひ、」
思わず息を飲んだ、部屋に入ってきた男性は私とそう変わらない身長だが身体付きが違う、先程見えた腕に私とは比べ物にならない程ガッシリと筋肉がついていた、きっと全身もそんな感じで屈強な身体なのだろう、男性は手に持っていたドアチェーンをカランと落とすとほんの少しだけ手が痛む素振りをしながら私を見て口角を上げた
「酷いじゃないか、こんな物を付けるなんて」
転がっているドアチェーンを見ながらそう言うと一言私に言い放ったが、口調がどことなく知り合いに話しかけるような物で逆に恐怖心を煽る、逃げなければ確実に危険だと頭ではわかっているのに身体が動かない、今の私にはガチガチと歯を鳴らして震える事しか出来ないのだ
ガタガタと情けなく震える私に男性は立ち上がらせるように手を差し伸べるがこの状況で男性の手を掴める程私の神経は図太くない、今はこの男性がただの恐怖の対象でしかないので思わず身を引いてしまう、そんな私の行動を見て男性は少しだけ寂しそうに眉を下げた
「あ……貴方、誰ですか……」
恐怖で声が震えるがなんとかして声を振り絞り思わず男性にそう問う、今更何を聞いているのだろうと思うが私に知り合いの如く声をかけるこの男性が不気味で仕方なかったのだ、少なくとも私の人生において、こんな常識外れの能力を持った人物はいなかったはずだ
「なんだ、俺の事覚えてないのか」
キョトンとした表情をしてそう呟く男性、その表情からは先程常識外れの力で玄関のドアチェーンを壊した男性と同一人物には見えない、そんな事より私は男性が言ってる事の意味が分からなかった、先程も思った通り少なくともこんな男性に会った記憶はない、男性が一方的に私の事を知っていると言う意味ならなんとな分かるがこの言い方はまるで私が自分の事を知っていて当然だとでも言う様な口振りだ
思わず頷くと男性は残念だと言わんばかりに小さく溜め息をついた、そして少しだけ考える様な素振りをしたあとまた私の目を見て口を開いた
「ナマエ、俺の名前は月島基だ、この名前に聞き覚えはないか?」
「……し、知りません……あ、あの……もし私が貴方の事を覚えていないのなら謝ります!!……だから、その……」
「いや、覚えてない筈がないんだ、大丈夫、きっと思い出すさ、俺が思い出させてやるからな」
自分の名前に聞き覚えがないかと聞いてきた月島と言う男性に私は怯えながらも必死に謝るが聞く耳を持たない、私の言葉を遮って"思い出させてやる"と言うその表情は虚ろで目の焦点が合わない
逃げろ逃げろと頭の中で警鐘が鳴り響くが身体は動かない、腰が完全に抜けてしまって立ち上がる事すらままならない、そんな私を見下ろして月島は優しく微笑んだ後少しだけ身を屈めて私の頬に手を這わせた
ゴツゴツとした男性特有の骨張った手に加えて分厚い皮の触感と少しだけガサガサと乾燥した触感が私の頬を這う、腕なんて私の物とは比べ物にならない程太くガッシリとしている、確かにこの腕ならドアチェーンも壊せる筈だと納得した、恐怖が目の前にいると言うのに呑気に相手の事を分析し始めているのでもう頭は現実から目を背けようとしているらしい
しかし、いくら思考が現実逃避していたとしても現実は何も変わっていない、当然の事だ、月島と言う先程会ったばかりのしかも恐怖を植え付ける事しかしてない男性が私の唇に舌を這わせているこの状況は紛れもない現実なのだ
「は、ぁ……ナマエ」
私の名前を切なげに呟いた後完全に膝をつき私を抱き締める月島、背中に回るあの太い腕の感覚が圧迫感を私に与える、今すぐにでも唇をタオルで拭きたいのにそれすら許されないこの状況、このまま蹂躙されても私はきっと何も出来ないのだろう、もう諦めてしまっている
私の肩に額を押し付け何度も何度も私の名前を呼ぶ月島はそのうちポツリポツリとなにやら昔話を話し出した、戦争だの刺青だの、軍曹だの師団だの、さっぱり分からない事を話し出す月島はどこか哀れだった
「覚えてないか?」
少しだけ私から離れて首を傾げながら私に問う月島の言葉をよく理解できなかった、私は軍人ではない、戦争だとかそんな血なまぐさい場所とは産まれて此方無縁だしそもそも世代が違うだろうと思いながら首を左右に振る
伏し目がちに私を見た後何か言いたげに口を開いたがそのまま口を紡ぎ目を瞑った後もう一度私を抱き締める月島、これ以上何を言われても私はきっと月島の願望を叶える事はできないのでいい加減解放して欲しいと思うが離す気は無いようだ、例え私が何も覚えていなくても
半ば諦めていた時不意に月島がゆるゆると私から名残惜しそうに離れた、ようやく解放されるのかと淡い期待を持った時、口元を釣り上げた月島から衝撃言葉が飛び出した
「じゃあ、昔のナマエを作るしかないな、教えてやろう、昔のナマエがどんな風に俺と一緒にいたのか……徹底的に叩き込む」
光を受け入れない淀んだ瞳でそう言いながら私の服を掴む、血の気が一気に引き先程まで使い物にならなかった喉が動き出す、恐怖で固まっていた体を必死に動かし月島の手から離れようとするが屈強な力で優に抑え込まれる
「ぁ……やだ、やだやだやだッ……やだぁ"……やめて、やめてください……ッ……やだ」
同じ事しか言えなくなる程頭がパニックになっていく、涙も自然と溢れ出てきて目の前が霞む、霞んだ視界の中月島が口角を上げたのが見えた、淀みきった瞳で私を見下ろして愛おしそうにもう一度私の唇に舌を這わせた
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