警鐘
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※闇人と人間(夢主)が殺し合わない平和な世界
※沖田さんは既に死んで闇人化してます
※闇沖さんと人間(夢主)の甘い話を書きたかった
※グロ描写注意
人間の死臭というものを嗅いだ事のある人間がどれだけいるだろうか、殺人事件等なかなかに物騒な世の中にはなっているものの被害に遭われた人物の死体、更にはそれから漂う腐敗臭を嗅ぐ事はそう滅多に無いだろう、無論そういう職業に就いていると機会はあるだろうが、一般人では滅多に無いと言う話だ
私も自衛官と言う特殊な職業に就いているとは言え、人間の死臭は嗅いだ事が無かった、一説では甘い匂いだとかチーズ等が腐った匂い等言われているらしいが、私は後者の説が正しいと今日まで信じていた
「甘い匂いが……しますね」
真っ黒な半纏だろうか、沖田さんが身に付けてる光を遮る為の着物に鼻を近付け思わずそう呟いた沖田さんは疑問符を浮かべながら首を傾けたが私は気にせず沖田さんの纏う香りを嗅ぐ
もう腐乱が始まっているのか若干内蔵や細胞が腐った腐敗臭はするが、その中に密かに果実が熟れた時のような甘い匂いがした、思わずその甘い匂いを深追いして沖田さんの着物に顔を押し付けるようにして匂いを嗅ぎ続ける
"殻"はもう腐り始めている、もしかするとこのまま沖田さんは動かなくなってしまうのではないかと怖くなった、視線を下に向けると見える腹部の致命傷の傷口から沖田さんの内蔵が飛び出ているのを私は知っている、内蔵に付着している血液はかつての赤色ではなくどす黒く変色している
思わず変色したそれに手を伸ばして沖田さんの内蔵に触れる、きっと少し前までは沖田さんの体温を直に感じる事が出来ただろうが今では冷たくただの物質と化してる、触ると気持ちの悪い冷たさが襲ってくる、だがしかしそれが少しクセになる
「ダメだぞナマエ」
子供を叱る様な口調で注意をして内蔵を触っている私の手首を沖田さんの真っ黒な革手袋で隠された手が掴んだ、視線を上げると沖田さんは少しだけ目を吊り上げて怒った顔付きをしていた、もしかすると痛かったのかもしれないと思い、思わず謝ろうとした時沖田さんがムスッとした表情で口を開いた
「擽ったいし、ナマエの手が汚れるから触ったらダメだ」
「え……擽ったいんですか?」
「しっかりとした感覚はないけど、若干触られてるって感じがするからそれが擽ったい」
痛いどころか擽ったいと言い出した沖田さんに思わず気が抜けたが軽く謝罪をして名残惜しいが沖田さんの内蔵から手を離した、私が手を離すと沖田さんはいつもの笑顔で褒めながら私の頭を撫でた
黒の革手袋の独特な肌触りが髪に伝わってくる、沖田さんが私の頭から手を離すと静電気が発生したのかホワホワと私の髪の毛が立ち上がった感覚がした、それを手櫛で宥めていると沖田さんは自分の腕辺りの匂いを嗅ぎ始めた
「どうしたんですか?」
「んー?さっきナマエが俺の匂い嗅いでたから臭いのかなぁって」
「そんな事ないです!!」
沖田さんが自虐的な笑みを浮かべて"臭い"と言う単語を口にした、思わず声を荒らげて否定すると沖田さんはポカンとした表情をした、見開かれた生前とは違う瞳孔の開いた真っ黒な瞳が可愛い、私の真剣な表情を見てか、沖田さんはクスリと笑うと自分の匂いを嗅ぐのをやめた
「ナマエは優しいなぁ」
「違います……本当に、本当に沖田さんの匂いは甘い匂いがするんです」
私が優しいと呟く沖田さんに思わず子供っぽい言葉を使ってしまった、しかし本当の事なのだから仕方ない、思わずムスッと拗ねてる私を他所に沖田さんは顎に手をやって考え事をしているようだった
そもそもなんであんな甘い匂いが死臭に混じっているのか気になる、よく聞く話では鼻にこびりついて一生忘れられない程の悪臭と謳われる死臭だが、私にとってはもっともっと嗅いでいたい落ち着く匂いだ、確かに腐乱臭は若干するが気にはならない
沖田さんの甘い匂いについて考えていると唐突に沖田さんが私の名前を呼んできた、無意識のうちに顔を俯かせていた様で地面に向けられていた視線を沖田さんの方に向けた時、不意に視界が真っ暗になった
それと同時にあの、何度でも嗅いでいたいと思う沖田さんが纏っている死臭が私の体を包み込む様に漂ってきた、思わず息を呑むとそれと同時に死臭も鼻腔を刺激してくる、後頭部に回っている沖田さんの革手袋の感触に遅ばせながら抱き締められているのだと理解した
「お……沖田さん?」
「どう?匂いちゃんと嗅げてるか?」
困惑しながら沖田さんの名前を呼ぶと沖田さんは匂いの事を尋ねてきた、沖田さんの抱き締め方のお陰でもれなく全身が包み込まれているかの様な感覚に陥っている、そんな私を沖田さんは一向に離そうとしてくれない
モゾモゾと体制を変えていると苦しがっていると思われたのか沖田さんは少しだけ力を緩めてくれた、しかし力を緩めるだけだ離そうとはしない、離して欲しい訳では無いが沖田さんはきっとしばらくこのままでいるつもりだろう、それでは少し困る
現に歩き始めると私を抱き締めたまま同じ様に歩くので背後霊の如く沖田さんが私にピッタリとくっついて歩いている状態だ、これを三沢さんや他の人に見られたら少し恥ずかしい、誰かに見られる前に沖田さんを半ば無理矢理自分の体から引き剥がした
「……ナマエも冷たいよな」
「誰かに見られたら恥ずかしいんです」
「じゃあ、手だけ握らせてくれ」
「……まあ、手だけなら」
拗ねる沖田さんを宥めるために手だけならと片手を差し出すと沖田さんはニコニコ笑いながら私の手を握った、キリキシとした革手袋の手触りが心地よい、少しして私が指を絡ませようと動かすと沖田さんも同じ様に指を動かしたので自然と指が絡まり思わず口角が上がってしまう
生前の沖田さんはちょっと恥ずかしがり屋な所があり、今の沖田さんの様な抱き締めてきたり手を握らせて欲しいと頼んできた事は稀で、私が半ば無理やり抱き締めて欲しいとタックルした時には沖田さんは困った様に笑った後、目を瞑って私を優しく抱き締めてくれた、その時沖田さんの胸元へ耳を当てた時心臓の鼓動がけたたましく鳴っていたのを私は知っている
だからこうして沖田さんから甘えてくるのは珍しいし私は内心嬉しくもある、最も今の沖田さんはもう以前の沖田さんではないのは理解しているが、この沖田さんも私は同じ沖田さんとして接しているだけだ
もし、このままの状態で元の沖田さんに戻ったりしたら恥ずかしがり屋の沖田さんはどんな顔をするのかちょっとだけ気になった、いつも冷静で理性的な沖田さんのちょっと可愛い一面を見る事が出来るかもしれない、そんな事が頭をよぎった時沖田さんがギュッと一瞬強く私の手を握った
「ナマエ何考えてたんだ?」
手を握るのと同時に沖田さんがそう私に問いかけて腰を少し曲げて私の顔を覗いてきた、人間とは違う真っ白くて見方によっては不気味な顔と目が合う、しかし沖田さんの瞳は若干の戸惑いが見えた気がした、沖田さんの問いかけに疑問符を浮かべている私が沖田さんの黒く淀み濁った瞳に反射していた
「え?なんでですか?」
「……さっき、懐かしんでるような顔してたから」
もしかして俺の事やっぱり怖い?と私を気遣う言葉を言いながらも沖田さんは少し寂しいと言う感情を纏っている様に見えた、意図的か無意識か私の手を握っている沖田さんの手に微妙ながら力が込められて革手袋が軋む音が微かに聞こえた
唖然としてしまい何も言わない私を見て沖田さんは寂しそうに笑った後目を伏せた、それと同時に握られた手が解かれた、あ、と思い慌てて沖田さんの手を握り締める、伏せられていた沖田さんの目が見開かれてバチッと音が鳴っても良い程に目が合った
「生前の沖田さんの事を思い出してました」
「……そ……か」
「でも、私は今の沖田さんも好きですよ」
「……ふーん」
正直に生前の沖田さんの事を思い出していたと伝えると沖田さんは明らかにショックを受けた声を放って私から目を逸らした、そしてキュッと唇を一文字に結んだ、どうやら拗ねたようだ、しかしすぐに今の沖田さんも好きだと伝えると紡がれた口が開いて素っ気ない返事が返ってきた
素っ気ない返事をしつつも沖田さんの表情はどこか安堵した様な喜んでいる様な、そんな表情をしていた、先程の拗ねていた表情とは全く正反対で、あの沖田さんにこんなにも子供っぽい一面があるのかと少し驚いてしまう
しかしふとこの沖田さんは生前の沖田さんとは違う事を思い出した、あくまでも沖田さんは"殻"だ中に入っている闇霊と呼ばれる存在とは別、それは分かっているが闇霊があまりにも自然に違和感なく"沖田宏"を模倣するので頭が錯覚を起こす
「さっき私を抱き締めてくれましたよね」
「ああ、そうだな」
「沖田さんはなんで生前、抱き締めてくれなかったんですか?……私、寂しかったです」
隣を歩く沖田さんの目が見開かれた、しかしすぐに沖田さんは記憶を巡るためかゆっくりと目を瞑った、時間にしては数秒か、いや一瞬だったかもしれない、沖田さんはすぐに目を開けた後優しく笑いかけた、その笑顔が生前の沖田さんその物で私は思わず声を漏らしてしまう、そんな私を他所に沖田さんはゆっくりと口を開いた
「恥ずかしかったからだよ……ナマエと居るといつも心臓が痛くなる程激しく動くんだ、でも今はちょっと後悔してる、なんでもっと生きてる時にナマエと触れ合わなかったんだろうって」
ちょっとだけ顔を赤らめて自分の心臓の位置に手を当てながら沖田さんは懐かしむ様な表情で話し始める、沖田さんの言葉に私は自分の心臓が高鳴ったのを感じた、沖田さんはそんなにも私の事を想っていてくれたのだと、あの日、沖田さんに抱き締めて欲しくてタックルした時に聞いた沖田さんのけたたましい心音、あれは私の気の所為では無かったのだと
思わず感極まってあの日のように沖田さんに向かってタックルをした、沖田さんは驚いた声を上げてバランスを崩しそのまま地面に倒れ込んだ、痛みを我慢する声を聞きながら私は沖田さんの胸元に耳を押し当てた、あの日と同じ心音が聞こえるのではないかと思ったのだ、しかし当然の事ながら今の沖田さんの心臓は機能していないのだ、胸元からはなんの音もしない
しかしそれでも良かった、私は生前の沖田さんでも屍がそのまま歩いている様な風貌の沖田さんでも今の闇霊と言う別の異物が中に入った状態の沖田さんでも、どれも紛れもない沖田宏と言う存在だと思っているのだ
「沖田さん、好きですよ」
「ありがとうな、ナマエ」
沖田さんの甘い甘い死臭を感じながら沖田さんに向かって好きだと伝えると沖田さんはお礼を言った後私の後頭部に手を回した、沖田さんの革手袋が軋む音が私の頭部の方から聞こえた
また静電気で髪の毛がホワついてしまうと思いながらも沖田さんの死臭を堪能する、今誰かに見られたらきっと恥ずかしいだろうがこの匂いを前にそんな事を気にする程の余裕は私にはなかった