警鐘
name changes
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闇沖視点
この殻を手に入れてから様々な情報を手に入れる事が出来た、沖田宏という殻の性格から殻の人間関係まで辿っていたら倒れてから結構な時間が経っていた様だ、倒れる前一人の人間を撃ったがアイツはちゃんと殻になっただろうか
キョロキョロと辺りを見渡すと先程撃った人間が俺達と同じ闇人として黙々と日光を遮るために服を着込んでいた、首周辺に巻いている帯がずり落ちそうで俺は咄嗟にそれを直そうと近付いた
「落ちるぞナマエ」
そう言いながら落ちそうになっていた帯を持ち上げる、なんの違和感もなくこの殻の名前を呼ぶ事が出来た事からこの殻達は生前仲が良かったのかもしれない
一瞬キョトンとした表情をした後嬉しそうに笑うナマエ、そう、この殻の名前はナマエと言うのだ、やはり呼び慣れてる雰囲気で名前を呼ぶと殻が安心しているように感じた
「まいてください、おきたさん」
舌っ足らずの口調でそう言うナマエにどこか違和感を感じる、頭上で帯を結びながらナマエを見ると口が裂けているのが見えた、これが致命傷でナマエは殻になったようだ、舌っ足らずの口調もこのせいらしい
「仕方ないなナマエは」
「えへへ、すいません」
ナマエと会話をするとやはりこの殻は喜んでいる、俺が撃っといて何だがナマエの口元を撃ったのは少し勿体なかったと思ってしまう、えへへと恥ずかしそうに笑うとナマエの口元はまた少し裂けた
まだこっち側に来たばかりだから傷が裂けてしまうのだろうかと少し気になってしまう、この殻はナマエの事を本当に気にかけていたようだ、それよりもそんな感情が湧いてしまう程俺の殻はガタ来てるらしい
「おきたさん、おきたさん、どうしたんですか?ぼーっとしてましたよ?」
「んー、ちょっとな、考え事」
殻を気にしていると構ってほしそうに俺の周りをウロウロしながらナマエは声をかけてきた、そんなナマエに返事をすると自然と腕が動きナマエの頭を撫でる、嬉しそうに声を上げるナマエを見てナマエの殻もガタ来てるのかと考えた
こっち側に来たばかりでこんなにも生前の記憶に振り回されているのなら、ナマエの殻はあまり長くもたないのかも知れない、少し寂しいと思った感情を誤魔化すように落ちていた銃を拾いナマエに渡した
銃を手にするとまるで人が変わったような真剣な目付きになりナマエは玉の残数を確認した後慣れた手つきでリロードをした、俺の殻である沖田宏の記憶によればナマエは射撃に関しての成績が優秀だったようだ、その腕が鈍ってなければいいが
そんな事を思いながら俺もリロードをして他に殻がいないか探す事にした、先程永井と呼ばれている殻を見かけたが残念な事に見失ってしまった、ならば他の殻をと思うがこの島にまだ他に人間はいるのだろうかと心配になる
「ナマエ、他に人間がいないか知らないか?」
「どうでしょうか、あ、ながいしってます?ながいなら、すこしまえにあいました」
「本当か?」
「でもやめたほうがいいです、ながい、めちゃくちゃおこってましたし」
一瞬ラッキーと思ったがナマエの一言を聞いて思わず息を呑んだ、永井にはまだ近づかない方がいいと言ってるように聞こえたからだ、ナマエのこう言う勘はよく当たるのを殻は良く知っていたようで自然と永井に近付こうとするのをやめる考えが出てくる
そう言えば先程三佐と呼ばれていた人間が殻になったと闇霊達が喜び騒いでいたのを思い出した、今永井が危険だと言うのなら三佐と合流してから迎え撃つのもいいだろう、そう思いナマエにその事を告げるとニコニコと笑いながらその作戦に賛成してくれた
反論せず受け入れてくれた事に安心しつつ早速三佐のいる方向へ向かう事にした、いつものように歩いているとふとナマエが近くにいない事に気が付いた、慌てて振り向くとナマエはどうやら歩くのが俺より遅いらしく、開いた距離を補う為に必死になって走っていた
「おきたさーん、まってくださーい」
向こう側からそう叫びながら走ってくるナマエに思わず笑みがこぼれる、こんなにも距離が開く前に一言言ってくれればよかったのにと思いながらナマエの到着を待つ事にした、新しい殻だからかどこかおぼつかない足取りでこちらに向かってくる姿はどこか可愛げがあった
その場でしゃがんでナマエを見ていた時、近くで人間の気配がして思わず周辺を見渡した、ナマエから視線を外した時聞き慣れた乾いた音が鳴り響いた、咄嗟にナマエの方を見るとナマエは力なく倒れ込んでいた
ゾワリと背筋が凍った気がした、それと共に人間の気配を真横に感じ慌てて身を低くする、直後頭上を弾丸が掠めていく、身体を起こし追撃を躱すために距離を取ると二、三発地面に撃ち込まれた、視線を上げるとそこには永井ではない人間が乱れた呼吸をして銃を構えていた
どうやら同じ自衛官の人間のようだがあの墜落で生存者がいて、更に今まで生き延びていた事に驚きだがこの人間は放っておいても直に失血死するだろう、だがそれまでにこちらが撃たれる可能性がある、それにこの人間はナマエを撃ったのだ
「さっさと死ねよ人間のクセに」
冷たくそう言い放ち一気に距離を詰めて人間を地面に叩き付ける、痛みに悶えている人間に向けて至近距離で銃を打つと呻き声を上げて人間は死んだ、直に新しい闇霊達がこの殻に群がるだろう
立ち上がりナマエの方に近寄ると、ナマエはまだ寝ているようで痛みを我慢している表情のまま倒れている、その表情を見て俺は悲しい感情が湧いてくる
「ごめんなぁ……ナマエ」
そう呟くと思い浮かぶのは殻の記憶、ヘリが墜落する時、ナマエに手を伸ばしたが届かず外に投げ出されたナマエを見つめる事しか出来なかった、結果としてナマエは墜落事故では無事だったがはぐれてしまったため、こうして危険な目に合わせてしまった
「……ん?おきたさん?」
目を覚ましたナマエは戸惑った表情でこちらを見ていた、ナマエが起きた事で俺は自然と笑顔になる、おはようと挨拶して手を伸ばすとナマエは少し不思議そうに俺を見ながらその手を掴んだ、グッと持ち上げナマエを起こす
ナマエはポフポフと身体に付いた砂埃を払い落とし、落ちていた銃を持ち上げた、準備万端なナマエを見て笑いが込み上げるが我慢して先を急ぐために歩き出す
それにしても俺は一体どうしたのだろう、あんな小さな殻如きに一人で喜んだり悲しんだりして気分がコロコロと変わっていく、今までこんな事はなかった筈なのに、こんな事が起きているのはこの殻がガタ来てるせいなのかそれとも殻に同調し過ぎたせいなのか、なんて色々と考えていると不意に背後から
「あーーーーー」
と気の抜けた悲鳴が聞こえてきた、まさかまた人間が襲って来たのかと慌てて振り向くとそこには一人で帯と戯れているナマエがいた、ぐしゃぐしゃになっている帯の隙間からは少量の煙が立ち上がっている、その箇所を隠すためにまたナマエはモタモタと手を動かすが帯の隙間はドンドンと広がっていく
思わず吹き出しそうになるがグッと堪えて数m先にいるナマエの元へ向かう、どうやらナマエを置いて一人で歩いていたようだ、ナマエに申し訳ない事をしたと思いながら煙が出ている箇所に手をかざして影を作る
「ありがとうございます、おきたさん」
「礼なんてあとで良いから、はやく帯巻きな」
「おきたさん、まいてくれないんですか?さっきはしてくれたのに……」
「……あーもう、じっとしてろ」
ナマエに巻くようにと言ったのだがナマエは俺が巻いてくれるのを期待していたようだ、無垢な瞳で見つめられると断れなくなってしまった、じっとしてろと言うとナマエはピシッと背筋を伸ばす
そんなナマエを見ながら帯を巻いていく、シュルシュルと音が鳴るとナマエは少し擽ったそうに肩を震わせた、俺が撃った口元の傷を隠すように帯を口周りにも巻くとナマエは嬉しそうに目を見開いた
「くちもと!!かくしてくれるんですね!!」
「ああ」
キラキラと目を輝かせそう言うナマエに俺は笑いながら相槌をする、帯を結び終えて手を離すとナマエは嬉しそうに口元にある帯を触り出す、子供のように喜ぶナマエを見て俺は思わず可愛いと思った
どうやら俺のこの殻は完全にガタが来たらしい、そんな冷静な分析をする中で今度はどんな事をしてナマエを喜ばせようと考えている自分がいた