警鐘
name changes
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
この殻を手に入れてから随分と経つ、記憶ももう充分と巡らせてもらい最早この殻その者になってしまいそうな程だ、もちろんそんな事はしないがこのナマエと呼ばれていた殻はなかなかに面白く興味深いのだ
「何ボーッとしてるんだ」
「あ、三佐」
やる事も特に無くボーッと空を眺めていた時甲式になった三佐が私の方に寄ってきてそう声を掛けてきた、三佐の方を向いて挨拶をすると甲式の大きな顔を少し歪ませて三佐は溜め息をついた
ただでさえ大きい顔をしているのにも関わらず大きな顔のまま溜め息をつかれると、とても呆れられている気になるので正直やめて欲しいが甲式はカッコイイのでそのままでいて欲しいのもある
「あまり殻と同調しすぎるなよ、この間もお前人間に声掛けて殺されかけただろ」
ある意味矛盾な事を考えていると三佐は顔を顰めてそう言った、思わず乾いた笑いが零れてしまうが私は私なりに考えて人間に近付く方が人間を殺しやすいという考えに辿り着いてこうしているのだから良いじゃないかと思った
確かナマエの記憶の中の三佐も今のように小言をボソリと呟くタイプだった事を思い出し、記憶を巡らなくても多少は殻の性格に近付くのかもしれないと思い少し笑ってしまった
「分かりましたよ三佐、あとお前じゃなくてナマエってちゃんと呼んでくださいよ」
「なんで俺がそんな事をしないといけないんだ、人間ごっこは一人でやってくれ」
「えー……」
三佐に名前で呼んで欲しくて頼んだが三佐はまた嫌そうに顔を歪めて私を叱り、そのままどこかへ行ってしまった、三佐の大きな後ろ姿を眺めながら私はまた空を見上げた
あぁ、早く、早くこの空が私達の物にならないかな、この世界が手に入ったらきっと母さんは喜んでくれる、私も褒めて欲しいなぁ……頭撫でて欲しいなぁ……
そう思いながら眺めていると背後から誰かが近付いてくる足音が聞こえた、三佐が戻って来たのかと思ったがこの足音は甲式の物ではない、人間かもしれないと思い振り向こうとした時私の視界は真っ黒になった
「えぇ!?何!?」
「だーれだ!!」
急に視力がなくなったのかと思い叫んだ直後明るい声が私の鼓膜を揺らした、この声は聞き覚えがある、真っ先に頭に浮かんだ名前を口に出す
「沖田さん!!」
声を張り上げて名前を呼ぶと私の目を押さえていた手がパッと離れたので慌てて後ろを振り向く、すると満足したようにニコニコと口角を上げて笑う沖田さんが立っていた
沖田さんは私ナマエの上司で三佐の部下、記憶の中の沖田さんも確か今のように私に構ってくれて優しい上司だった、確かナマエは自衛官としては三佐を、人間としては沖田さんを尊敬していた筈だ
「正解、沖田さんだよ、どう?人間がやってるのをテレビで見たんだ」
手をヒラヒラと左右に動かしながら沖田さんはカラカラと笑いそう言ってきた、この口振りだと先程まで休憩と言うサボりをしていたのだろうか、沖田さんの真っ黒な口元を目を凝らして見ると夜見鍋でもつついたのか食べカスが付いていた
それを指摘すると沖田さんは慌てたように声を上げてゴシゴシと乱暴に口を拭った、この沖田さんは三佐とは違い私と似た思考で人間に近い行動を好むので話していて楽しい
こうして沖田さんと話していると自分が人間になった気がしてなんだか新鮮だが、私や沖田さんの手にある小銃がその雰囲気を少し壊していた
「何してたんだナマエ?」
「やる事なくてボーッとしてたんです、でもそうしたら三佐に怒られて……」
コテンと首を傾げながら何をしていたのか聞いてきた沖田さんに私は先程三佐に怒られた事を愚痴った、すると沖田さんは苦笑いをしながら頬を掻いた、それよりも私は沖田さんがサラッと私の名前をナマエと呼んでくれた事に密かに喜びを感じていた
この前の他の闇霊が取り憑いた沖田さんはノリが悪くヘラヘラと笑顔ではいたが人間を容赦なく殺し、人間を少し毛嫌いしていたので私が何度頼んでもナマエと呼んでくれなかったのだ、そう考えるとこの沖田さんは記憶の中の沖田さんそっくりだ
「まあ三沢さんは殻自体が石頭だからなぁ、ナマエとは考え方が違うんだろう」
「石頭で悪かったね」
「あ、三佐戻って来たんですか」
「ぎゃっ!?三沢さんいつから!?」
沖田さんは腕を組みながら三佐の事を話したが直後三佐が私の背後から声をかけてきた、実は足音が少し聞こえていたがあえて気付いてなかった沖田さんを止めなかったのだ、お陰で三佐は少し不機嫌だ、大きな顔を顰めて沖田さんを睨むその姿には見覚えがある
なんか本当に私達が人間になった気がして思わず笑みを零した時、本物の人間の気配が私の真横からしたので振り向きつつ小銃を撃ち込んだ
しかし照準がズレてしまい人間には当たらなかった、驚いた声を上げる三佐と沖田さんを放っておいて私は人間がいた方に向かって走る、人間は私を見て驚いた声を上げて草むらに隠れようとしたが私は腕を伸ばし人間の首を掴んだ
「逃げちゃダメ、殻頂戴?」
なるべく安心させようと笑顔でそう言って私は絶望した表情の人間のこめかみを撃ち抜いた、直に闇霊がこの殻に取り憑くだろう、手に飛び散った血液をピピッと飛ばして私は二人の元へ戻った
草むらを出ると沖田さんが私に向かって手招きをしているのが見えた、心做しか三佐も笑っているように見える、きっと私が人間を躊躇なく殺したのを見て安心したのだろう
「ナマエ、おいで」
三佐の方を見ていると沖田さんが私に向かってそう言い両手を広げた、私は思わず微笑みながら思いっきり助走をつけて沖田さんに向かって走り出した、沖田さんは目を見開いて焦ったように声を出したが後の祭り
ドーーーンッと重たい物同士がぶつかる音が周囲に響き渡ったのが聞こえた、しかし沖田さんは倒れることなく私を抱き締めていてくれた、それに感動しつつ沖田さんの顔を見上げると
「痛つつ……ナマエ、勢いつけすぎ」
と困った様に笑いながらも痛みに顔を顰めている沖田さんが見えた、痛がり方が異常だったのでどうしたのかと思った時ヌルリと嫌な感触が腕を伝った、そこで私は沖田さんの殻の死因を思い出した
墜落事故の時部下を庇って腹部に大きな損傷をしてそれが致命傷となっていた筈だ、その致命傷は丁度私の腕の部分に位置するだろう、咄嗟に沖田さんの腹部を見るとやはり殻から赤黒い液体が流れていた、殻の中に残っていた血液だろう
「あ……おき、たさ……ごめんなさい……」
思わずゾッとして震える喉を必死に動かし謝りゆるゆると沖田さんから離れる、横で三佐が困った様に溜め息をついたのが聞こえたが私は沖田さんの殻を傷付けてしまった事にショックを受けていた
謝る私に沖田さんは少し咳き込みながら近付いて、ヌッと手を伸ばしてきた、きっと頭を叩かれて怒られるのだろうと思ってキュッと目を瞑ったが思いもよらない部分に軽い衝撃が来ただけだった
目を開くと視界には沖田さんの服が見える、顔を上げると先程と同じように沖田さんの顔が見えた、どうやら沖田さんは私を抱き締めているようだ、驚いていると沖田さんは微笑みながら
「そんなに気にするなよナマエ」
と言って私の頭をポンポンと撫でてくれた、沖田さんの温かさに私は安心してしまいヘニャリとだらしなく口角を上げてしまう、三佐が沖田さんにあまり私を甘やかすなと注意したが沖田さんはそれを笑って返すだけだった