警鐘
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ループ物注意
夢を見た、いや夢ならほぼ毎日見るのだが先程のは違った、夢と言う事を疑うほどリアルな物だった、叫びながら飛び起きて周りを見渡す私の呼吸は荒く、嫌な汗が背中を伝っていた
隣で友人が私の悲鳴に顔を顰めるのを見てからようやく夢だと実感し、もう一度溜め息をついてからベッドに身を沈めた、時計の秒針の音が部屋を包み込む
ふと顔の向きを変えて日めくりカレンダーに目を向けた、暗闇でよく見えないがカレンダーが大きく表す日付に違和感を覚えた、もう少し日にちが経って月が変わっていたのではと思ってしまう、しかしここ最近の記憶は日めくりカレンダーが表す日付に合っている、最近忙しくて日にちの感覚がおかしくなったのだと思う事にした
それよりも夢の事だ、思わず叫び飛び起きる程の悪夢、暗くて不安で不安で今みたいに息が荒い状態で何かから逃げる私、でも追い掛けてくる何かがとても懐かしくてそれがとても悲しい……?
「あ……れ?」
夢の内容を反芻している途中で私は思わず声を上げた、夢は忘れる事は良くある、しかし夢を見たと言う事自体を忘れる事は早々ないだろう、ましてや私はその夢を見て悲鳴を上げて飛び起きたのだ、周りを見渡した時の私の頭には確かに夢の事が頭にあった
だが今はどうだろう、何故私はこんなに息を荒らげているのかわからない程記憶があやふやになっている、私は夢を見たのだろうか、そもそも何故私は貴重な睡眠時間を潰してボーッとしているのだろう
直に訳が分からなくなっていき、私は静かに目を瞑った、とにかく明日は早いのだ一分でも一秒でも多く睡眠を取っておかなければ明日の訓練で疲れてしまう
「アンタ……その歳でボケるのはやめてね……」
「そんなんじゃないよ……」
昼休みに昨夜の出来事を友人に話すと半分驚き、半分気味の悪いと言った表情をして私の方を見てくる、そんな友人を無視して昼ご飯を食べていると、ふと目に永井士長が目に入った
普段ならそんなに話さない永井士長に対して私は懐かしいような昔の友人にあったような感覚に陥った、確かに最近話した記憶はないがそう言う感情ではなかった、上手くは説明できないが永井士長がこうして普通の生活を送っているのを見ると安心と言うか……
「って、何考えてるの私……母親みたいな事を」
「え?なに?ナマエのお母さんがどうしたの?」
「何でもないよ、独り言」
思わず呟いた私の声を聞いて友人はご飯を口に含みながら聞き返してくるが何でもないと言い残して私は食器を返却口へ返した、もう一度チラリと永井士長の方を見たが今度は特に何の感情も浮かばなかった
それはそれでどうかと思うが永井士長とはあまり接点がないので仕方のない事だ、まだのそのそとご飯を食べている友人に一言言って私は食堂を後にした
廊下を歩いていると休憩室の自動販売機で飲み物を買っていた三沢三佐が目に入った、敬礼をしようと立ち止まると三沢三佐はそれを制して手に持っていたコーヒーを私に渡すともう一度お金を入れて同じコーヒーを買った
「えっ……?」
「ナマエコーヒー飲めたよな」
「はい……?」
「じゃあやる」
「あ……ありがとうございます!!」
「八月の物資輸送訓練、頑張れよ」
「了!!」
三沢三佐は私にコーヒーを奢ってくれた、珍しい事もあるものだと思いながら時計を確認してまだ訓練再開まで時間がある事を確認してコーヒー缶のプルトップを引く、心地よい音が聞こえた後コーヒーのほろ苦い香りが漂う
それをグイッと煽るように口に運ぶ、ブラック派の私の舌にいつもと違う甘い味が口に広がった、口から缶を離してコーヒーの種類を見ると"微糖"の文字が書いてあったがメーカー名はコーヒーの味が甘い事で有名な会社だった
三沢三佐が隠れ甘党だった事実に密かに驚愕しつつもいつもと違う甘いコーヒーを飲み続ける、休憩室には私しか居ないので広々とした空間を独り占め出来るのは良い事だ
そう言えば三沢三佐を見た時も永井士長と同じ感情が頭をよぎった気がしたが、永井士長とは違って三沢三佐とはよく話す方だ、だとするとあの感情は一体何なのだろうか
「あれナマエが微糖なんて珍しいな」
考え事をしている私に向かってそう言いながら休憩室に入って来たのは最近よく私の事を気にかけてくれる沖田二曹だ、口に含んでいたコーヒーをゴクリと飲み込んで慌てて席を立ち敬礼をして挨拶をすると沖田二曹はケラケラと笑いながら三沢三佐と同じ様に手をヒラヒラと動かして敬礼を解くように言った
ゆっくりと敬礼を解いていると沖田二曹は自動販売機に向かって歩き、隅の方にある紙パックの販売機の前にお金を入れて野菜ジュースを押した
ストローを差し込みながら私の方に歩いて来て沖田二曹は隣に座った、ストローを咥えながら私の方を向き野菜ジュースを飲みながら私の持っていたコーヒー缶を指さした
「あ、よく見たら三沢さんと同じのじゃん」
「実は三沢三佐に貰ったんです」
「えっ!?嘘あの人が?……珍しい事もあるもんだ」
三沢三佐に奢ってもらった事を話すと驚いた様に声を上げた後珍しい物を見る様な目で私とコーヒー缶を交互に見てきた、ジロジロと見られる事に慣れてないからか頬が熱くなってくる、それを誤魔化すようにコーヒーを飲み干した
そんな私を見て沖田二曹はクスリと笑うと野菜ジュースをズゴゴと音を立てて飲み始めた、しばらくしてべコリとへこんだ紙パックを器用にストローを咥えたまま口だけで上下に動かし始めた
私もコーヒーを飲み干して少しの間プルトップをいじって遊んでいたが取れてしまったので仕方なくコーヒー缶を捨てる事にした、ついでに沖田二曹に一言言ってから紙パックを受け取り缶専用ゴミ箱の横にある燃えるゴミ専用のゴミ箱の方へ投げ入れた
口寂しくなったのか沖田二曹は口を尖らせて口笛を吹いている、聞こえた音楽は聞いた事ないメロディーの曲だった、まるで童話のよう……そうではない気がする、お坊さんが詠むお経に似てる気もする、とにかくゆったりとしたメロディーを沖田二曹は奏でていた
「なんの曲ですか?」
「んー?いやそれがさ、どんな曲名か思い出せないんだよ、それどころかどこで聞いたかも」
「えぇ?CMとか……?でもそんなメロディー聞いた事ないですね」
「ナマエもか、皆に聞いても知らないって言うんだよ」
「へぇ……でもなんか、怖い気持ちになります」
「え?本当に?」
沖田二曹にどんな曲名か聞いたが本人は知らないと言う、それどころかどこで聞いたかも分からないそうだ、どうやら他の人にも聞かせてなんとか曲名を調べようとしているらしい
だが私はそのメロディーを聞いて何故か怖いと思ってしまった、決してメロディーは悪いとは思わないが何故か怖いと思う自分がいた、そのメロディーが聞こえたら逃げないといけないと頭が思ってしまう程に
「怖がらせてごめんなナマエ」
「いえ……私が勝手に怖がってるだけですから」
眉を下げて謝る沖田二曹に大丈夫だと言ってから何気なく時計を確認した、訓練再開の時間もそろそろ近付いてきているので沖田二曹に訓練に戻ると言ってから休憩室を出る事にした
扉を開けようと手を伸ばした時、伸ばした方の手首をいつの間にか後ろに立っていた沖田二曹に掴まれた、何事かと思い振り向くと沖田二曹からなんとなく怖い雰囲気が漂っていた
沖田二曹の瞳はどこか虚ろで虚空を見ている様に見えるが、黒目の部分は確かに私を見据えている、思わず身を引いていると沖田二曹の口元がニヤリと吊り上がった気がした、それと同時に掴まれている手首を強く握られる
「お……沖田二曹どうしたんですか?」
「……あ……?あれ?俺何して……!?悪いナマエ痛かったか?」
「大丈夫です……けど沖田二曹は?」
「あ、あぁ……大丈夫だ……あー本当に何やってるんだ俺」
沖田二曹に恐る恐る声を掛けると沖田二曹は目をぱちくりとさせた後慌てて私の手首から手を離した、沖田二曹に大丈夫かと声をかけると目頭をキュッと摘んで大丈夫だと言った後ブツブツと呟いて先程座っていたソファーに向かって歩き出した
先程とは打って変わっていつもの沖田二曹に戻ったのはいいが、本人に疲れが溜まっているのではないかと少し心配になってきてしまう
気になったが時間が迫っている、沖田二曹にゆっくりと休憩した方が良いのではないかと言うと沖田二曹は困ったように笑い私に謝りながら手を振った、沖田二曹の事が気掛かりだが、私はもう一度敬礼をして訓練場に向かった
訓練中集中出来なかったのはその沖田二曹の事ともう一つ、沖田二曹と話している時に感じた感情だった、例の永井士長や三沢三佐を見た時に感じた物と同じ感情、しかし考えても分からないものは分からなかった
私が永井士長達に謎の感情を感じた日から数日経ち、いよいよ物資輸送訓練の日になった、機体に乗せた荷物と共に目的地に向かっている中、なんとなくライトの電源を確かめていると背後から
「もうすぐ会えるな、ナマエ」
と沖田二曹の声が聞こえた、聞き間違いかと思ったが振り向くと沖田二曹がこちらを見ていた、しかし何か違和感を感じた、沖田二曹の目だこの目は見た事がある、あの休憩室での一件の時の虚ろな目
「沖田二曹……?」
何かがおかしいと感じ思わず声を掛けると沖田二曹はビクリと肩を揺らした後元の表情に戻り、やはりあの日の休憩室での出来事と同じ様に目をぱちくりとさせた後私を見て微笑んだ
「なんだナマエ?」
「今のはどういう意味ですか?」
「えっ……俺なんか言ったか?」
「…………いえ……やっぱりなんでもないです」
「?そうか」
沖田二曹の顔は嘘偽りなく何をしたのか分からないと言った表情をしていたのでこれ以上追求するのはやめようと考え、何でもないと言い残して私はまたライトの電源を確かめる事にした
充電を確かめようとした時機体が大きく揺れて警報機のブザーが鳴り響いた、その直後三沢三佐と沖田二曹が操縦席へ走って行った、鳴り響く警報機の音が激しく鼓膜を揺さぶる
大きな音に思わず耳を塞いだ時、ふとこれから起こる事が凄まじいスピードで頭をよぎった、それと同時に機体が動力を失い身体が重力に晒された
あぁそうだ、この後私はこの機体から投げ出されるが奇跡的に無傷で、しかし周りにいた仲間達は息絶えている、それが動き私に銃を向けてくるんだ、なんて悪夢だろう
「……あははっ……」
思わず乾いた笑いが漏れた後、私の身体は機体から離れて空中に投げ出された、目まぐるしく変わる視界に頭が混乱して途切れ途切れの視界しか映さなくなっていき私は意識を失った、が目を覚ますとやはり悪夢が広がっていた
一体私は何回この悪夢を繰り返すのだろう
「会いたかったよナマエ、会いたくて仕方なくてこの間も手首掴んじゃったし、さっきなんて思わず出てきて話しかけちゃった、さあ今度はしっかりナマエもこっち側に来いよ」
ヘラヘラと笑いながら私に銃を向ける沖田二曹、の殻を被った何か、そうだ私は"前回"この沖田二曹から逃げ延びたが人の形を留めてない三沢三佐に殺されたのだ
鮮明に思い出すあの日の夜の悪夢の内容に思わず苦笑した、この沖田二曹の口調からして沖田二曹もこの悪夢を繰り返しているらしい、きっと永井士長や三沢三佐も同じなのだろう
ヘラヘラと笑う沖田二曹の口からあのメロディーが聞こえてきた、あぁまた思い出した、この曲はこいつらがよく歌っている曲だ、だからあの時沖田二曹が吹いた口笛を怖いと思ったのだ
「はやくこの悪夢が覚めればいいのに」
思わずそう呟いた私の声は沖田二曹が発砲した銃声によってかき消された