警鐘
name changes
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※謎世界軸
(あまり深く考えずお読みください)
一体どうしてこんな事になってしまったのだろう、何故、どうして、私はただいつも通りに、普通に日常を暮らしていた筈なのに、こんな、こんな非日常とは関わりなんて一切無かった筈なのに
グルグルとそんな事を考えながらも私の足は必死に生きようと、この場から逃げ出そうと、いつも以上に速く動く、半ば縺れてしまいそうになるが恐らく転けてしまったら終わりだろうから気を付けながらも急いで足を動かす
「っ!!はぁっ……!!はぁ……っ!!」
身体が酸素を欲しがり息を激しく乱しながら肺を動かす、若干口の奥の方から血の味がするのは気のせいではないだろう、こんなにも沢山息を吸い込んでいるのだ、乾いて傷付いても何もおかしい事は無い
喉を切りながら、息を荒らげながら、必死に必死に逃げている私だが、背後からの追っ手は実に余裕そうにゆっくりとした足取りで私の方へと近付いてくる、ゴッゴッ…と若干重ための靴音が耳から離れてくれない、一般的なブーツとは違う、所謂半長靴と呼ばれている自衛隊さんが履いている靴の音だ
何故追っ手が自衛隊さんだと分かったのか、不気味で面妖な形をした上着の下にファッション用の模様とは少し異なった実用的な迷彩模様が見えたのだ、では何故そんな自衛隊さんが私を追いかけてくるのか、これに関しては全く理解できない、心当たりも一切ない
「ナマエ…待ってくれよ」
なので彼が私の名前を知っている事に関しても、全く理解できないのだ、いつ、どこで私の名前を知ったのか、いやこのご時世だその気になれば名前も調べる事ができるだろう、しかしそうまでして名前を呼ばれるような筋合いはない
第一彼の存在自体がどこか浮世離れしていて、悪い夢でも見ているのではないだろうかと思ってしまう程どこか現実味がなかった、しかし追いかけてくるのは事実、私は得体の知れない男性に易々と近付く馬鹿な女ではない
「ぜっ……は、っ……ぜぇっ……!!」
酸素が上手く供給されていないのか、酸欠状態に陥ってきた様で私の視界は段々と焦点が合わなくなってきた、足元も覚束なくなり、次第に速度が低下して脇腹の激痛に耐えながらも動かしていた足が止まり始める、あぁ、駄目だ駄目だ、逃げなくては、あの得体の知れないモノから、逃げなくては
浅く、素早く呼吸を繰り返しなんとか耐え凌ごうとしたが一度止まりかけた足が再び早く動く事もなく、私の体は休息を求めていた、後ろを振り向くと彼の姿を確認する事は出来なかった、一瞬上手く逃げ切る事が出来たのかと安堵したが、うっすらと暗闇の中から彼の人間とは違う真っ白な肌と着けている青色の帯が見えた気がした
背中に嫌な汗が伝った、まだいる、まだ私を追ってきている、慌てて周りを見渡し目に付いた建物の影に隠れる、もう走る事は出来ない、足はほとんど動かないし脇腹は抉られているかのように激痛が走り、喉は完全に乾いて切れている、固唾を飲めば必ず鉄の味が喉を通ってくるのだ、こんな、文字通り命を削って逃げているのに何故逃げきれないのだろう
「ひゅっ……はぁ、っ……!!来た……!!」
空気を吸い込む度にヒリヒリと痛む喉を気にしていると自分の中の激しい心拍音に紛れて微かに半長靴の足音が聞こえてきた、思わず自分の体を抱え込みより小さくして気配を殺す、身体は酸素を欲しがり続けているので呼吸が荒いままだが口元を手で覆ってなんとか音を殺した
「ナマエ?どこだぁ?」
「ふ、っ……!!っ、……ふ、」
「ナマエ、ナマエ?俺だよぉ?ここは街灯が眩しくて苦しいからさ、一緒に夜見島に戻ろう?」
「……?夜見、島?」
私を探す声を聞いて緊張で背筋に嫌な汗が伝う、しかしその後耳に入ってきた言葉に少し違和感を感じていた、まず"眩しくて苦しい"と言う言葉、もしかするとあの不可解な存在には弱点があるのではないかと、もしそれが事実なら今この最悪な現状を打破する事が出来るかもしれない
そしてもう一つは"夜見島"と言う単語、初めて聞く島の名前だがそんな名前の島がこの日本に存在しているのだろうか、彼は戻ろうと私に言っているが戻るも何もそんな島なんて知らないし産まれてこの方関わった覚えもない
見た目だけではなくどうやら精神的にも異常なようで捕まったら一体どんな結末になるのか全く謎なのがまた私の恐怖心を駆り立てた、捕まったら五体満足な状態で無事でいられる保証がどこにも無いのだ
「ここじゃないのかぁ?……ナマエー?ナマエどこだぁ?」
「…………」
「……まーえーまーえ、こぉなぎー……こぅべのかざりをうちふるいぃー……」
物陰から様子を確認する事ができた、しばらく私の名前を呼んではキョロキョロと忙しなく周りを見ていたが少しして聞いた事ない歌を歌いながら別の方向へと歩みを進めて行った、彼の背中が暗闇に消えて行くのを眺めながら思わず大きく息を吐いた
まだ少しここで身を潜めてからこの場を離れた方が良いだろう、もしかしたら戻って来るかもしれない、そう思い周囲を警戒しながら身を潜め続ける事にした
それにしても何故私がこんな目に遭うのか全く意味が分からない、彼の事はもちろん知らないし夜見島と言う島の名前も初めて耳にした単語だ、私と彼の間に何かしら接点があればこれ程まで追われる理由も分かるが本当に私は彼の事を知らないのだ
「なんで、なんでこんな事に……」
膝を抱えている自分の腕に額を乗せて思わずそう呟いた、自分が置かれているこの状況が全く理解できないのだ、しかしまずはこの理不尽な事実を受け止めて状況を打破するしかない、そう思い私はゆっくりと確実にそれでいて冷静にこの状況をまとめてみる事にした
不審な人物を見かけた等の噂は聞いた事がない平和ないつも通りの帰路を仕事を終えて今日の晩ご飯は何にしようかなぁなんて呑気に考えて歩いていた、そんないつもの変わらない道だった筈なのに、一体なぜ私がこんな目に合っているのだろうか、そして先程耳にした"夜見島"と言う単語、手元にあったスマホで検索をした途端文字化けを起こして画面が真っ暗になって使い物にならなくなってしまった
きっと検索すらしてはいけないものだったのだろう、無闇矢鱈に異常者の発する単語を深追いしてはいけないと教訓になったは良いがスマホが使えないとなるとこれから先の助けを呼ぶ方法が限られてしまう、そして唯一知った弱点の光も浴びせられる事が出来なくなってしまった
「ナマエー?おかしいなぁ、忘れちゃったのかぁ?」
「ッ!!来た……!!」
再び彼の声が聞こえてきてキュッと自分の身を小さくさせた、私には彼に対抗出来るほどの力は持っていないし相手は自衛隊だ、それに異常者である、見つかったら確実に無事では済まないだろう
先程と同じように息を潜めて立ち去るのを待つ、息をすることさえ恐怖だと感じてしまうほどの緊張感が漂い始めた、少ししてゴッ…ゴッ…と半長靴の足音が響き始めた、目を瞑り音に集中する、相手がどこを見ているのか分からないので耳で何とかするしかない
「まーえーまーえ、こぉなぎぃ…」
再びあの歌を歌いながら私の傍を歩く彼、先程も聞こえてきたこの歌は聞いているとじわじわと私の心を恐怖で染めていく気がする、そんな恐怖からかすぐにこの場を逃げ出したくなりはやくどこかへ行ってくれと懇願する
「……ナマエ」
ポツリと私の名前を呼んだあと、再びゴッ…ゴッと足音を鳴らしながら私が隠れている方向とは逆方向に向かって行く、この場から逃げ出して彼を巻くのは今がチャンスだと即座に判断して身をかがめたまま歩き出した
恐怖から若干腰が抜けていたがここから逃げ出すためだと叱咤して足を動かす、足元を照らす物が無いので枝などを踏んで音を立ててしまわないように慎重に、それでいて急いで足を動かす
とにかく今は助けてくれる人を探すのが最善策かもしれない、彼を相手に一人で立ち向かうのは明らかに無理だ、このまま私を諦めてどこかへ行ってくれるのが私にとって一番嬉しい事だが彼の探しているものが私なのでその可能性は無いに等しい
「とりあえずコンビニかどこかに逃げ込んで……」
「みぃつけた」
コンビニなら二十四時間人が居ると踏んでキョロキョロと周りを見渡してお店の光を探した時だった、耳元で低めの男性の声が聞こえて手袋をした手でギュッと肩を強めに掴まれた、思わず息を呑んで身を固めてしまう
そんな、なんで、足音は確かに私の方から遠のいていた、それどころか声だって、近付いてくる気配や足音すら聞こえてなかったのに何故、どうして彼が背後からやってくるのか
「ダメだろぉ?探すの凄い疲れたんだからな」
「ぁ……い、っや……」
「帰ろう?ナマエ」
「やめてっ……!!やめてくださ、」
深い深い溜め息をつきながら探すのに苦労したと呟く彼はやはり人間とはかけ離れた真っ白な肌をしていて、それとは対照的に口元には血にも見えるし汚れにも見える真っ黒な物体が付着していて実に不気味だった、着込んだ着物は光を遮るように少々乱雑に彼を覆っている
彼の放つ不気味な雰囲気に圧倒されて喉が震えてしまい上手く声を発する事が出来ない、帰ろうと私の手を恐ろしく感じる程優しく握る彼の手を振り解く事が出来ない、私はもう彼から逃げられない
「向こうに着いたら起こすからな、それまでおやすみ……」
錯乱する頭の中でやたらと彼の声が響いた、その直後まるで催眠術にでもかかったかのように眠気に襲われる、クラクラとする視界の中で生者とは違い光を宿していない彼の目がゆっくりと三日月型に歪んだのが見えた後、私はゆっくりと目を閉じた