警鐘
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人間誰しも泣きたい時はある、どんなに平気そうに笑っている人でも、仕事を他人より多くこなす人でも、文武両道な完璧人間の人でも、普通に生活して普通の日々を送っている人でも
誰しも生きている日々で、傷付く言葉や何気ない一言で気分が落ち込んだり、感動する話を聞いたりドキュメンタリーを観たり、大切な存在と別れたり、そう言った事がきっかけで涙が溢れる時がある
私はただ今絶賛その泣きたい時で、誰もいない休憩室でソファに腰掛けグスグスと泣いていた、きっかけは仕事で大きなミスをしてこっぴどく叱られたのだ、最近ピリピリしていた上司の前でミスをしてしまったばっかりにとても大きな声で怒鳴られた
耳はキンキンしているし涙が溢れてくるしでてんやわんやで逃げるように休憩室に来たのだ、ひたすら涙が零れるのを拭こうともせず流しっぱなしにしていた、蛇口の壊れた水道の様に涙が流れていく
「はー、疲れた」
大きな溜め息と共に休憩室の扉が微かな音を立てて開いた、声を聞くに休憩室に入って来たのは沖田二曹だ、私の憧れの人の一人である沖田二曹にこんな情けない姿を見られたくない、咄嗟にそう思って立ち上がり休憩室から出ようとした時
「あれ?ナマエどうした?」
と沖田二曹が声を掛けてきた、無視する訳にもいかないしかと言ってこんな涙でグズグズな顔も見せたくない、そう思い私は少し失礼だが深く俯いて沖田二曹の方を向く事にした声はなるべく出したくない、きっと涙声になっているから
失礼しますとボソッと呟くように言ってから踵を返し休憩室の扉を掴もうとしたが先に沖田二曹に肩を掴まれた、やはり態度が悪かったから怒っているのだろうか、また、怒られるのだろうか
怒られる恐怖に思わず血の気が引いた気がした、自然と流れていた涙も止まり、扉を掴もうと伸ばした腕から力が抜けてドクドクと激しく脈打つ心臓の音が内側から聞こえた、緊張しているのだとすぐに分かった
「ナマエ」
沖田二曹が私の名前を静かに呼んだ、肩に置かれた手がゆっくりと背中側に周り上下に動く、優しく摩っているのか沖田二曹は何も言わず時々ポンポンと私の背中を優しく叩く、さっきまで怒られると身構えていた分緊張が解けてしまい沖田二曹を見つめる事しか出来ない
また溢れ出した涙でボヤける視界には沖田二曹が困ったように笑いながらこちらを見ているのが見えた、沖田二曹にこんな情けない泣き顔を見られたくなくて思わず顔を手で覆った、既に大量に溢れ出した涙でびしょ濡れの顔は熱いが涙は冷たくてチグハグの気持ちの悪い感触が襲ってくるが気にしない
「なにしてるんだ?」
「……沖田二曹、失礼ですが、私はこの後用事が、あるので」
沖田二曹の言葉に淡々と返すがやはり涙声になっている自分の声に呆れた、沖田二曹に無駄な心配をかけて自分は一体何をしているのだと、思わずそう思い顔を覆う手に力が入る、涙が変に乾いて目元が痒い様なよく分からない感覚に襲われた、とにかく違和感があるのだ、もしかするとこのまま瞼が腫れ上がってしまうかもしれない
瞼が腫れたら後々のケアが面倒だと思い足早にここを去りたいのだが沖田二曹は退く様子が無い、むしろ一歩二歩と近付いてきたので思わず驚いて声が出てしまう、あぁ、やはり情けない涙声だ、なんて思っていると沖田二曹が私の手首を掴んだ、手を退かすつもりだと言うのは何も言われなくても分かった
「や……やだ、やだ」
グッと力強く手首を退かそうとする沖田二曹の行動に思わず敬語を使うのを忘れてしまう、もう泣いている事なんてとっくに知られているのは分かっているが何がなんでも沖田二曹に泣き顔は見られたくないと言う意味の無い意地が働いて沖田二曹の力とは逆方向に力を込めて抵抗する
しかし私の抵抗なんて沖田二曹の手に掛かればいとも簡単に崩されるのだ、手を退かされて私の涙でグチャグチャの情けない顔を沖田二曹に見られてしまった、先程も見られたが軽く止まっていたのでそんな酷い状態ではなかった筈だが今は訳が違う、完全に溢れ出した涙によって私の顔面は酷い事になっている筈だ、こんな酷い顔を見て沖田二曹もさぞ気分を害しただろうと申し訳ない気持ちでいっぱいになる
涙を止めようとするが先程のミスの事や沖田二曹に対しての申し訳ない気持ち、そう言えば先程から沖田二曹に対して失礼な態度を取っていたと思い出し怒られるのではないかと言った恐怖、なんで涙が止まらないのかと言う自分に対しての蔑みと混乱、様々な感情が入り交じってしまい止めよう止めようと思う度に逆に涙が溢れてくる
「すいま、せん、っ……おき、た二曹……私、わたっ……」
涙が流れるとしゃっくりが止まらなくなり上手く声を出す事が出来なくなる、途切れ途切れの私の声は沖田二曹の耳にちゃんと届いたのだろうかそれすらも分からない、完全にパニックに陥っている私を沖田二曹は貶したり蔑んだりはしなかった、困った様に笑い私の頬を両手で包んだのだ
沖田二曹の瞳に涙でグチャグチャの情けない私の顔が映る、お構い無しにボロボロと溢れ出てくる涙を沖田二曹は親指を動かしてすくい取る、目元を触られた事によって必然的に目を瞑る、目を瞑った事により必然的に視界は真っ暗になる、完全に視界がゼロになった中不意に額に柔らかい物が当たった気がした
急に何があったのかと慌てて目を開けると目の前には沖田二曹の制服の胸部分が視界いっぱいに広がっていた、額の柔らかい感触が無くなるのと同時に沖田二曹がゆっくりと離れて視界に広がっていた制服も離れる、そこでようやく沖田二曹が私の額にキスをしたのに気付いた、頭がフリーズしてしまった私を他所に沖田二曹は私の後頭部を押さえて自分の胸元に押し付けるようにして抱き締めた、沖田二曹が纏っている上品で爽やかな香水の香りが鼻をくすぐった
「お、おき……?」
「ナマエ、ゆっくり深呼吸、ゆっくり…ゆっくり」
沖田二曹の予想外の行動に思わず気の抜けたような声が出てしまうが沖田二曹はそんな私の頭をリズム良く撫でながら深呼吸するように言った、いつもの上官命令を有無を言わさず聞く癖で沖田二曹に従って深呼吸を繰り返す、初めこそしゃっくりが混じり上手く吸えなかった呼吸も回数を追う毎に落ち着いてきてしゃっくりが収まる頃には涙も止まっていた、私の呼吸が落ち着いたのに気付くと沖田二曹はいつもの様に笑いながら
「いい子」
と優しく耳元で囁いて私の頭をポンポンと撫でた、まるで幼い子供をよしよしと可愛がる様な仕草だ、沖田二曹の笑顔に自分でも驚く程に落ち着きを取り戻している、しかし落ち着きを取り戻すと共に正常な思考回路も戻ってきて今自分がどんな状況なのかを冷静に分析する事ができた
不可抗力とは言え沖田二曹に額をキスをされて抱き締められて、更には"いい子"だと頭を撫でられたのだ、度重なる沖田二曹の予想外の行動にすっかり放心状態となってしまったがすぐに意識を取り戻し
「た……たたっ……大変失礼を致しました!!」
と慌てて沖田二曹から離れる、沖田二曹は少しだけ寂しそうに微笑んだ後納得した様に頷いた、それにしてもいくら動揺したからと言って慌てて離れすぎてしまったかも知れない、まるで沖田二曹を拒む様になってしまったのかも知れない
「ナマエの泣き顔は見てるとこっちが悲しくなってくるからさ、ナマエは笑っていた方が良いよ」
さっきまで私を落ち着かせる為に頭を撫でてくれていた沖田二曹の手が行き場を無くした後沖田二曹の首元に移動した、気まずそうに首筋を軽く撫でながら沖田二曹は私にそう言うと身体の向きを変えた
このままではいけないと思い咄嗟に沖田二曹の腕を掴む、このまま沖田二曹に勘違いをされたまま別れたくないと、私は別に沖田二曹に抱き締められたり頭を撫でられたり優しく額にキスを落とされたりされたのが嫌だった訳では無いのだと、ちゃんと自分の口から伝えたい
「沖田二曹、私がまた泣いてしまったら、さっきみたいに慰めてくれますか?私の事……嫌いになったりしませんか?」
頭の中で思い描いていた台詞とは全く異なった言葉が自分の口から飛び出した、違う違うそうではないのだ、ただ単にお礼を言いたかっただけであって、私は別に沖田二曹にこんな、こんな告白の様な言葉を言いたかったわけではないのだ
沖田二曹は鳩が豆鉄砲食らった様な顔をして私を見下ろしている、まさかただ泣いていた部下を慰めたら告白紛いの言葉を言われるとは思っていなかったのだろう、誰だってそうだろう、現に私はそんな事を言うつもりはなかったのだから
私と沖田二曹の間に気まずい沈黙が流れる、沖田二曹が何か言い出そうと口を開いたのが見えて思わずギュッと目を瞑ってしまう、きっと次に聞こえるのは沖田二曹の困惑気味な苦言だろう
「ナマエの事、嫌いになった事なんてないよ」
「え……ッ」
聞こえてきたのは予想とは真逆のじんわりと暖かく優しい言葉だった、小さな子に話し掛ける時のような優しい声色、穏やかに発せられたその声に思わず目を見開いて沖田二曹を凝視してしまう、私の驚いた表情を見て沖田二曹は困った様に笑った後
「嫌いになる訳が無い……はちょっと違うなぁ、けどまあ、俺はナマエの事大好きなんだよ、もちろんそう言う意味で」
と続け様に先程私が言った様な言葉を言った、そう、あの告白の様な甘酸っぱい言葉、沖田二曹のいつもとは違う少しだけ熱を帯びた瞳と目が合った、途端に顔が熱くなり心臓が急にやる気を見せ始める、ドクドクと脈打ち血管の中を血液が勢い良く流れて行く、上手く頭が働かない
「えッ……えッ!?」
「面と向かって言うと恥ずかしいなぁ……うん、そう言う事だから」
「……え、まっ……沖……!?」
混乱している私を他所に沖田二曹は少しだけ恥ずかしそうに笑った後私の頭を撫でて休憩室からそさくさと出て行った、扉が閉まる音がして残されたのは顔を赤くして立ったままの混乱した私だけだ
私をそんな状態にした犯人が居なくなった後急激に頭が働き先程言われた沖田二曹の言葉を反芻し始める、つまり沖田二曹は私の事を好いているのだ、しかもただの部下としてでは無く、そう言う……一人の女性としてと言う意味で
嘘だ嘘だと否定しようとするが先程私の鼓膜を揺らした言葉は確かにそう言ったのだ、初めは悲しくて流れた涙が今嬉しさで再び流れ出した、ボロボロと溢れ出てくる涙が止まったらすぐに沖田二曹の所に行こう、もう一度ちゃんと目を見て話がしたい、この涙が止まったら、もう一度