警鐘
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(沖田視点)
俺はどちらかと言えば物に執着しないタイプだった、それは人との関係にも表れていて、今まで様々な人と出会ってきたがどれもこれも浅い関係で終わっていた気がする、言うなれば広く浅く人と関わる、そんな人間関係を築いていた
バディである永井とでさえ、俺はさほど深く関わろうとはしなかった、他の部下や上司もそうだ、名前や性格などは全員覚えているが深く立ち入った事は覚えてないし知ろうとも思わなかった
そんな人間関係をしているからか、本気で好きになった女性もいない気がする、もちろん今まで付き合ってきた女性の事はちゃんと好きだったが、それだけだ、相手の事を自分から知ろうとはせず、向こうが話す自分の事を忘れずに覚えていただけだ
そんな関わり方をしていたからか、いつしか恋人から、どこか冷たいと言う理由で破局になるのが定番になっていた、しかし俺はそれを直そうとはしなかったし、悪い事だとは思ってなかった
そうだ、俺はそういう人間だった筈だ
なのに何故俺は今目の前にいるナマエに対してこんなにも独占したいと言う欲が溢れてくるのだろうか、ナマエは先程までただの俺の部下だった筈だ、数秒前まで他の奴らと同じ、浅く軽く付き合っていく知り合いの一人だった
三沢三佐に向かって一生懸命に話すナマエの表情を見て急に溢れてきた独占欲、上手く処理できなくて気持ち悪さまで感じ始めた時、三沢三佐が俺に気付いたようでこちらを見て声を上げた
「沖田、ちょっと来い」
「……あ……はい」
一瞬反応が遅れたが三沢三佐の元へと駆け足で向かう、向かっている最中にも俺の独占欲は留まる事を知らず頭の中で疑問符が巡っていた、三沢三佐の元に着くと、三沢三佐は何も言わず俺の肩を掴みナマエの方へ身体を向けさせた、驚いていると三沢三佐は俺の背中を少し強めに叩き
「ナマエが相談事があるんだと、俺じゃちょっと役不足だからお前に任せるわ、こう言うの得意だろ」
と早口に伝えてそのまま俺の返事を待たずにそさくさとどこかへ行ってしまった、残されたのは俺とナマエ、元々人通りがあまりない休憩所の近くだ、他に人なんているはずもなかった
人がいないのと先程まで感じていた薄汚れた独占欲のせいで俺はナマエの目を見る事が出来ないままでいた、そんな俺に対してナマエは申し訳なさそうに頭を下げてから口を開いた
「すいません……射撃訓練がどうしても上手くいかなくて……誰かにアドバイスを貰おうかと思いまして」
俯きながらポツリポツリと呟くようにそう言ったナマエの言葉に俺は思わず顔を上げた、改めてしっかりとナマエを見ると本気で悩んでいる様で目には涙の膜が薄らと浮かんでいた
先程まで自分の馬鹿みたいな感情に振り回されて部下の悩み事を本気で聞かなかった自分を思わず本気で殴りたくなりながら、ナマエの頭に手を置いた、俯いていたナマエが様子を伺うように顔を上げた
そんなナマエの髪の毛をボサボサにしないように気を付けながらポンポンと二、三回撫でた、自然と俺の口角も上がる
「いくらでも上官を頼れよ、そのために俺達はいるんだから……早速射撃場に行くか?口で説明しても難しいからな」
そう言うとナマエは目を輝かせコクリと頷いた後俺に感謝の言葉を述べた、そのまま俺達は射撃場へ向かう事にした、移動中ナマエとは他愛のない話をしたが普段はつまらないと思っていた他人との会話もナマエとの会話ならとても楽しいものに感じた
話を続けているとナマエの好きな物、家族構成、最近の趣味、苦手な物など様々な情報が少しずつ入ってくる、いつもなら全く覚える気にならなかったこれらも勿論記憶に刻み込んだ
やはり俺はおかしくなってしまったのだろうか、それとも元々ナマエに興味がありながらも知らないフリをしていただけなのか、箍が外れた今となっては真実を知る事は出来ない
そんな事を考えているとあっと言う間に射撃場に着いた、幸い周りには誰もいない、許可証を通して場内に入りナマエに小銃を渡すとナマエはそれを緊張した表情で受け取った
「じゃあまずは普段通りに撃ってみろ」
「はいッ!!」
ナマエの後ろに立ち注意深くナマエの構えや照準の見方などを観察する、乾いた音がした後ナマエが狙っていた的より少し下の場所に数cmの穴が空いた、ナマエはゆっくりと小銃から離れた
「いつもなんです、本来の的より少し下に当たるの……なにかおかしな点ありましたか?」
困った様に微笑みながら自分の頭に手を当てナマエはポツリと呟いた後、俺にアドバイスを求めてきた、俺は少し考え、自分の撃ち方とナマエの撃ち方を比べてみる事にした
ナマエに一言言ってから場所を交代して自分も小銃を構える、肘を固定してゆっくりとスコープを覗き的に照準を合わせる、一旦動きを止めて呼吸を整えてから引き金に指を掛ける、呼吸によりブレが生じるので一瞬息を止めてもう一度照準を合わせ、的と照準が合致した瞬間を見逃さず引き金を引いた
先程と同じような乾いた音が響き、的の真ん中に穴が空いた、それを確認するとナマエは驚きの声を上げた、今の自分の行動と先程見たナマエの動きを合わせるとなんとなく改善する点が分かってきた
「ナマエは引き金引く時どうしてる?」
「え?どうしてるって……」
「息荒くなってると重心ブレるんだよ、人それぞれだけど、俺は息止めてる、ナマエは?」
腕を組みながらナマエに質問をするとナマエは少し戸惑いながら聞き返してきたので、自分が思う事を伝えるとナマエはハットした表情をした、やはり俺の予想通りナマエは引き金を引く時に呼吸が乱れているのだ、そのせいで肩が動き的を上手く射てない
それを伝えるとナマエは真剣な表情で数回頷いた後もう一度その点を反省して射撃をしたいと言ったので、小銃を渡すとナマエは二、三度深呼吸をして小銃を構えた
呼吸を意識しながら先程と同じ様に構えるナマエ、真剣な表情に思わず俺も息を呑んだ、こんな真剣な表情のナマエを俺は今まで見た事が無かった気がする、いや、気に止めてなかっただけか、今までナマエと過ごしてきた時間を大切にしようなんて思ってなかったのだから当然だ
もったいない事をしてしまったなと思っているとナマエの呼吸が一瞬止まった、そして乾いた音が響いた後ナマエがゆっくりと息を吐いた、的を見ると今度は下ではなくちゃんと中心の方に穴が空いていた
「あ……当たった……」
小銃から体を離して被弾場所を見たナマエは小さい声でそう呟いた、その声は俺の耳にしっかりと届いていて、思わずナマエの頭をぐしゃぐしゃに撫で回した、初めはボサボサにしないように気を付けていたが今回ばかりはそうはいかなかった
「うわああ!?沖田さん痛いです!!」
「よくやったなナマエ!!おめでとう!!」
「ありがとうございます!!でも、髪の毛がッ!?」
驚いたように声を上げるナマエを思いっ切り褒めると嬉しそうにお礼を言いながらも頭にある俺の手の動きを止めようとナマエの手が動き回った、そろそろ勘弁してやろうと頭から手を離すと案の定ナマエの髪の毛は俺の黒手袋の静電気も相まってボサボサになっていた
困った様に笑いながらナマエは髪の毛を整える、少しはしゃぎすぎたと思わず反省した時、髪の毛をある程度整え終わったナマエがキラキラとした瞳でこちらを見て
「沖田さん本当にありがとうございます!!」
と大きな声で俺に向かってハッキリとした声で言うナマエ、今ようやくナマエと目が合った気がした、今まで罪悪感やらなんやらでナマエの目を見る事が出来なかった
ナマエの目は俺の独占欲なんて吹き飛ばす程キラキラとしていて汚れを知らないまさに純粋無垢な目だった、その目を向けられて正直嬉しかったが同時に不安な気持ちになった
その目を他の誰かにも向けているのではないかと、例えばそう、初めに三沢三佐と話していた、三沢三佐にもこの汚れが一つもない綺麗な瞳を向けていたのではないかと
そう思うと吹き飛ばされていた筈の独占欲がまた溢れ出てきた、ナマエが目の前にいるのでそれは勢いを増して俺はほんの少しの理性すら手放そうとしてしまう
ナマエを誰にも渡したくない、いっその事このままここでナマエを気絶でも何でもさせてどこか誰も知らない所へ閉じ込めてしまおうか、そうすればナマエのこの綺麗な瞳は、声は、髪は、唇は、身体は、全てが俺の物に……
「……お、沖田さん……?」
ナマエの戸惑ったような声が聞こえて思わずハッとした、俺はナマエの肩を強く掴んでおり、爪がナマエの肩に軽くだが食い込んでいた、ナマエは何が起こっているのか分からないと言った表情で俺を見上げていて、目から恐怖心が感じ取れた
「いや……すまんな、嬉しくってつい力が入った」
「い……いえ……でも、本当にありがとうございます」
「あー、いいって、ほらそろそろ戻らないと」
パッとナマエの肩から手を離して謝った後苦しい言い訳をした、きっと痛むであろう肩を軽く撫でながらナマエはもう一度お礼を言ってきたが俺はこれ以上ナマエと一緒に居てはいけないと感じ、早足で射撃場を出ようと動く
ナマエが少しバタバタとしながら小銃等を片付けるのを見ながら俺は自分の独占欲に恐怖していた、まさかナマエに危害を加えようとしているなんて、肩をあんなに強く掴んでいたなんて、完全に無意識の内にやっていたので俺は恐ろしくなっていた
いつか、いつかナマエに対して取り返しのつかない事をしてしまうのではないかと、ナマエを心身共に傷付けてしまうのではないかと、そんな恐ろしい事をいつかしてしまうのではないかと、俺は一人で怯えていた、自分の中の異常な独占欲に
「沖田さんお待たせしました」
申し訳なさそうに眉を吊り下げて笑うナマエ、俺がもしこの感情をお前にぶつけたら、ナマエ、お前はどういう顔をするんだ?そう聞きたい言葉をグッと呑み込んで俺はナマエに笑顔を向けた
するとナマエも笑顔になる、そうだ、ナマエが笑っていられるならそれでいいじゃないか、狂気じみた独占欲でナマエを傷付けるよりナマエと笑っていられるなら俺はそれでいい
そう決めつけて俺は自分の独占欲に蓋をした、二度と開かない様に理性や常識などで閉じ込めた、これが最善だと自分で思い込んでいた
「けど、違うよなァナマエ」
闇霊と呼ばれる異物が俺の身体の中に入ってきた瞬間、思わずそう呟くと自分でも驚く程開放感に満たされた、屍霊ではここまで意識がハッキリしなかったが、闇霊ならハッキリとした意識を持って行動ができる
入ってきた闇霊が驚いた様に声を上げるが驚いているのは俺の方だ、俺は確かにあの時に死んだ筈だ、永井を庇って脇腹が抉れてとても痛かったのを覚えている、しかし屍霊が身体に入った瞬間確かに俺、沖田宏の意識も蘇ったのだ
永井や三沢三佐に銃を向けるのは辛かったがあの時の俺は自分の意識が蘇った事に驚いていて身体を動かす方法が分からなかったのだ、だが今となっては自分で操作が可能で自由に動けるようになっている
闇霊が入った事により自分の身体が起き上がるのを感じて俺はゆっくりと周りを見渡した、俺の目的はただ一つ
「ナマエ?ナマエ居るんだろ?」
ナマエを見つけ出して今度こそ自分の物にする事だけだ、生前は自分の気持ちに蓋をしたが闇人になってからは箍が外れたのかナマエをそばに置きたくて堪らない、三沢三佐を笑えないなと思いながらナマエの名前を呟きながら周りを見渡す
確か俺が倒れる少し前ナマエの後ろ姿を捉えた筈だ、ならまだ近くに居る筈、ナマエの後ろ姿が見えた場所に行き地面を観察するとやはりナマエの物と思われる足跡が残っていた
「ナマエどこだ、隠れてないでさ、出てこいよ」
なるべく優しく声をかけるとナマエの荒い息遣いが微かに聞こえてきた、思わず釣り上がる口角を手で隠して息遣いが聞こえる方に向かって歩く、一歩一歩近付く度にナマエの息遣いが荒くなっていく
ああ、かわいいな、そんなに怯えて、早く殻にしてこっち側に……おっといけない、危うく闇霊に乗っ取られる所だった
出てきた闇霊の意志を押さえつけながらナマエに近付く、物陰に隠れながら口に両手を当てて息を抑えているナマエを見下ろす、ようやく捕まえた、傷付けないように銃を放ってナマエを抱き締める、ナマエが驚いて息を呑んだのが聞こえた、身体はガタガタと震えている
「いやッ!!」
ナマエはそう叫び手に持っていた銃を俺に向けた、向けられた銃身を片手で掴み、グッとナマエを引き寄せる様に自分の後ろ側に銃を引っ張った、ナマエがこちらに倒れ込む様にわざと体勢を崩したがナマエは手に力を込めて銃からは手を離していない
「お、偉いぞ」
「離しッ……やだ、やだ沖田さん……」
「落ち着けって、な?大丈夫、大丈夫だから」
「やだ、触らないで……ください……やだ」
銃を離さなかったのを褒めるとナマエはもがきながら混乱しているのか涙目で首を振ってそう呟く、そんなナマエを落ち着かせようと頭に手を置くとナマエに拒絶された
少しショックだったが仕方のない事だろう、今の俺は人間ではないのだから、ナマエが怖がって当然だ、冷たい身体、この暗闇にぼんやりと浮かぶ不気味な白い顔、これだけでも十分怖い
だが落ち着かせようとすればする程ナマエは暴れて俺から逃げようとする、力を込めてナマエを押さえ込み、ナマエの手から銃を奪い、半ば引ずる形で事前に調べておいた誰にも見つからない場所へと連れて行く
本当にナマエが自分の物となる喜びでウキウキとしている俺と、どこに連れて行かれるか分からない恐怖で震えているナマエ、少し可哀想に見えたがナマエもきっと俺と一緒に居た方が安心してくれるだろう
「やだ、やだやだ、沖田さんやめて」
後ろで俺の手を振り解こうともがくナマエの声を聞こえないフリをして俺はただ歩き続けた、いつもの俺ならナマエがこんなに嫌がるなら身を引く筈だがもう自分の欲に蓋をするのはやめたのだ
罪の意識はもちろんあるが、もう箍が外れた欲を抑え込む事は不可能だ、ナマエの悲鳴に近い声をもっと聞きたいとも思ってしまっている、こうして一歩一歩歩く度に俺は罪を犯すのだ