警鐘
name changes
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
この顔を見るのは何度目だろうか、笑い方は記憶の中にある沖田二曹そのままなのに、見た目は全く異なっている、それどころか纏っている雰囲気も異常だが、かつての上司に銃を向ける、そんな私が取っている行動も異常だろう
しかしもう上司だのなんだのと言っている状態ではなかった、信じ難いが今目の前にいる上司は一度死んだ、確実に脈は止まっていたはずだ、その後蘇生処置を行っていないのに起き上がったのだ
死者が蘇るなんて映画の中の事だけだと思っていたのに現実にそれが起こるなんて誰が想像しただろうか、少なくとも私は想像してなかった
銃と言う鉄の塊の向こうに見える沖田二曹は真っ白な顔をして一瞬瞳を三日月型に歪ませた後引き金に引っ掛けていた指を動かした、破裂音と共に足首に熱が走った
私の意志とは関係なく体が動き、高熱を持った足を押さえるような姿勢に身体が動いた、背中が丸まりなんとも不格好だ、私が持っていた銃は倒れた勢いでどこかへ行ってしまった
「ごめん、ごめんなぁナマエ」
沖田二曹の声が上から聞こえる、目を瞑って聞くとやはりこうなる前の優しい沖田二曹の声だ、いつも私達の事を心配をしてくれて偶に隠れて助け舟を出してくれたり、時々怖かったけど誰よりも優しく人柄が良かった沖田二曹だ
しかし目を開ければ思い出を粉々に砕かれたかのような現実に引き戻される、視線を上げれば異形と化した沖田二曹、足首にはドクドクと血が流れていく感覚
思い出と全く異なるこの状況で沖田二曹の声だけが変わらずにここにある、それだけで私は何もかもが嫌になってくる、もうこれ以上沖田二曹の声を出さないで欲しい
「ナマエ」
再び聞こえてきた沖田二曹の声は心配する時の声色で、この声を出す時は沖田二曹は身を屈めて私の視線に合わせて話してくれた事が多い、また一つ沖田二曹との思い出を汚された気がして私は片耳を塞いだ、手についていた血の感触が耳を走って気持ち悪い
「ごめんな、許してくれナマエ」
「やめ……」
「痛いよなぁ、だってほら、こんなに血が出てる」
「やめて……」
「ナマエ、早く楽になれよ」
「やめて!!」
何度も何度も沖田二曹の声を出すソレに思わずそう叫ぶ、足首の痛みはもう麻痺したのか感じなくなっていたが今はまだ動かせそうだ、とにかく今の沖田二曹から逃げ出したくて、昔の沖田二曹との思い出をこれ以上汚されたくなくて私は無駄だと分かっていながら身体を動かした
何度も何度も訓練で行ったほふく前進、今になって役に立つなんて残酷な事だ、思えば以前沖田二曹にコツを教えてもらってから私は格段にほふく前進が上達した気がする
いや、やめよう、もう何も考えない方がこれ以上苦しまなくて済む、今はとにかく逃げる事だけを考えるべきだ
そうは思っても当然いとも簡単に私は沖田二曹に追い付かれた、身体を仰向けにされると沖田二曹は私に馬乗りになり私の首をゆっくりと締め上げてきた
「ぐっ……は」
「ごめん、ごめんなぁナマエ」
酸素が回らずクラクラとしてくる頭、思考回路もめちゃくちゃになってくるが頭上から発せられた沖田二曹の声はやたらと耳に届いてきた
先程からずっと謝ってくるのは何故だろうか、謝るくらいならここから逃がして欲しいくらいだ、なんて思うなんて私もとうとう疲れてきたらしい
フワフワとした感覚が脳みそを埋め尽くしていく、このまま私は死ぬのかと思った瞬間急に首を絞めていた手が緩み一気に酸素が肺に送られた
「ヒュッ……ゲホッ!!ゴホッ……ゲホッ!!」
一気に送られた酸素を上手く処理できず私は思わず咳き込んだ、それをボーッと眺めてくる沖田二曹はなにか違和感を感じているようだ、何度も何度も手を握ったり開いたりを繰り返している
ようやく呼吸を整え、絞められていた首をさすっていると急に沖田二曹が私の手を地面に押し付けてきた、そのまま見下ろされるが私はもう半分諦めていたので抵抗はしないでいた
健康的な印象を受けた沖田二曹の焼けた肌はもう見えず、暗闇にぼんやりと浮かび上がる真っ白な肌、生気を失った瞳はギョロギョロと不規則に動く
「俺達は殻が欲しいんだ」
「……殻……?」
「そう、殻、殻を手に入れるのには人間を殺す必要がある……なのに、なんでだ?」
「……何をさっきから言っているの?」
独り言のようにブツブツと呟くソイツに私は思わず問い掛けた、しかし私の声は届いていない様でずっと焦点の合わない目でブツブツと呟いている
何が何だかよく分からないが手の力が抜けている今が逃げるには絶好のチャンスだと思い、私はもう一度身体を動かしその場から這いつくばりながら逃げ出したが、すぐにバレてしまい足首を掴まれ元の位置へ引き摺られた、地面が砂利道だったため、私の腕や顎は傷だらけになってしまったが今はこの状況を打破しなければならないので気にしない事にした
「離しッ……!!」
「早く死んでくれよナマエ」
元の位置へ戻された私の上に沖田二曹はまた馬乗りになり笑いながら首を絞める、今度は先程とは違い絞める力が強い、一気に苦しくなり藻掻くがビクともしない
再び頭がボーッとし始める、先程とは違い視界までボヤけてくる始末だ、沖田二曹の手を掴んでいた私の手は力を無くしボトリと音を立てて私の顔の横に落ちた
視界と共に段々と思考も霞んでいく、今までの事を急に思い出し始めてこれが走馬灯なのだと思った時、記憶の中の沖田二曹と今の沖田二曹の顔が一致した、信じたくない現実を突きつけられ涙が零れた、泣いたら負けだと心の中で決めていたのに沖田二曹がもう戻って来ない事実を改めて知ると泣かずにはいられなかった
「お……ぎだ……に"……そう」
首が絞められて上手く声が出ないが私は思わず沖田二曹の名前を呼んだ、沖田二曹は首を少し傾けた後光を持たない目を少しだけ見開いた、そして私の涙に気付いたのかハッと息を飲んだ
「ナマエ、ごめんなぁ、痛いよなぁ、苦しいよなぁ」
沖田二曹は辛そうに目を瞑るとポツリポツリとそう話し出した、それと同時に首を締めていた力が段々と抜けていった、今度はゆっくりと酸素が肺に送られむせる事はなかったがそれが逆に不気味さを増した
完全に沖田二曹の手が私の首から離れた後、沖田二曹は真っ黒な手袋をした手を私の目元に置いた、流れていた私の涙が沖田二曹の黒手袋に染み込んでいく
「沖田二曹……」
「ナマエごめんな、俺やっぱりナマエを殺さないといけないんだ」
沖田二曹の名前を呼ぶと沖田二曹は瞑っていた目を開いて申し訳なさそうに話し出した、そこで私は確信した、こんな状態になっても部下想いの沖田二曹は私という部下を守ろうとしてくれているのだと、異形に体を乗っ取られても、沖田二曹は部下を死なせたくないと言う意思で私を助けようとしているのだと
しかし、私はもうここから逃げられないのを知っていた、先程撃たれた足首の感覚がもう無いのだ、数分前までは多少なりとも感覚があり動かせていたが、それももうプツリと途切れてしまって全く動かない
ここから動く事ができなければ私は沖田二曹からは逃げられないので殺されるのを待つだけなのだが、沖田二曹の意思が異形を押さえ込んで私を殺そうとさせない
なんて残酷なのだろうと頭の片隅でそう思った
「ナマエ、逃げろ」
「沖田二曹すいません……」
「ナマエ早く死ねよ」
「すいません……私はもう……」
沖田二曹が確かに逃げろと言ったのを聞いて私はまた涙が零れた、私はなんて酷い奴なのだろう、沖田二曹がやっとの思いで助けてくれるチャンスをくれたのにそれを活かせないなんて
ギリッと奥歯を噛み締めた瞬間、また沖田二曹が私の首を締め上げた、再びフワフワと思考が壊れていく中、いっそこのまま意識を手放してしまおうかと諦めの言葉が頭に浮かんだ、しかし意識を手放す直前になって首を絞め上げる力が抜けた
フワフワとした思考から目が覚める、身体は私の意志とは無関係に生きようとしているのが分かる、誰かこの連鎖を止めてくれと心から願うが周りに人の気配はない
完全に思考が覚醒した後、また同じように沖田二曹の手が私の首に触れた