警鐘
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昔小学校でハムスターを飼う事になり、クラス全員その子を可愛がった、名前を多数決で決める事となりその多数決を行う日そのハムスターは冷たくなっていた
当時の私は何故死んでしまったのか謎だったが今思えばクラス全員でその子をぬいぐるみのようにベタベタと触っていたのだ、ストレスが溜まって仕方なかったのだろう
ハムスターは元々ベタベタと触られる事に慣れてないと聞いた事があるし、ペットショップの生活からいきなり学校に連れられて来て、環境の変化に慣れてないのに触られて苦だっただろう
兎にも角にも、そのハムスターはあの小さな身体で私達のクラス全員に命の尊さと言う物を教えてくれたのだ、今でもあの出来事は私の中で重要な出来事として残っている
目の前にいる上司も私に命の尊さについて教えてくださっているのだろうか、あのハムスターは死んだ後運動場の砂場に埋められたが、人間はそうではないようだ
動き回ったり、笑ったり、銃を構えてくるようだ
「ナマエ、動くなよ」
銃を私に向けて不気味な笑みを浮かべる上司、沖田さんはヘリの墜落で確かに脈は止まっていたはずだった、しかし直後起き上がり私の同僚の永井に向けて発砲したり、その後は不思議な着物を着て周囲を徘徊している
能面を連想させる見た目は普段からホラー映画が苦手な私にとっては不安要素でしかない、銃口の向こうの能面がニタリと笑った、ゾワッとした寒気が背筋を撫でた
本能が危険信号を発し、咄嗟に体を動かしたが破裂音と共に激痛が走った、激痛と言うよりは熱さが身体を貫いたような感覚だ
「うっ……う"ぁああぁぁあッ!!!!」
発した事の無い声が私の口から飛び出す、熱さが痛みにジワジワと変わっていく、思わず目をやると被弾したのは足の様で服が破けている部分からは血が流れているのが見えた、意識が飛びそうになるのを必死に耐える
ふと視界が暗くなり微かに服が擦れる音が聞こえた、誰かが身を屈めてこちらを見ている様だ、その誰かなんて決まっている、ここには彼と私しかいないのだから
「痛そうだなナマエ、動いちゃダメだぞ」
穏やかな表情でそう言う沖田さん、話している内容と表情と行動があべこべだ、なんて呑気な事を考える、痛みはいつしか消えていた、激痛過ぎて脳が処理をしなくなったのだろうか、思考もどこか虚ろで沖田さんが銃口をもう一度向けているのを私は他人事の様に眺めているだけだ
しかし人間と言うのは面倒な生き物らしい、今になって死ぬ事に対してとてつもない恐怖を感じた、まだ死にたくない、そう思った途端重かった身体が羽根のように軽くなり私は飛び起きる様に体を起こした
「痛いなぁナマエ」
「沖田さん、許してください」
体を動かしたので撃たれた足からまた激痛が走るが気にせずに沖田さんに馬乗りになる、ヘラヘラと笑ったままの沖田さんの腕を膝で固定して一言謝る、沖田さんは全く反応を見せないがグッグッと腕を動かそうと静かにもがいている
小さい声でもう一度沖田さんに謝った後、私はゆっくりと沖田さんの首に手を添えた、ピクリと沖田さんが反応を示したがすぐに元に戻った、ヘラヘラと目を三日月型にしたままの沖田さんを見つめつつ、首を添えていた手に力を込める
訓練で一度だけ教えられた気道と頸動脈を絞める首絞めだ、普通なら既に苦しさでもがいてもいい頃だが沖田さんは何も抵抗はしない、先程までしていた腕の拘束に対しての抵抗すら行おうとしていない
正直、上司の首を絞めるのがこんなにも精神的にきついものだとは思わなかった、ましてや沖田さんに対して首絞めなんてこの島に来る前の私なら切腹するレベルだ
「沖田さん、許してください、許してください……」
うわ言のように沖田さんに謝罪する、次第に涙が頬を濡らした、尊敬していた上司に対して私は何をやっているのだろうと言う感情と生き延びたいと言う感情、本当は沖田さんを尊敬していただけじゃなくて別の感情も密かにあったと言う感情、様々なものがぐちゃぐちゃに混ざって私の思考回路は壊れる寸前だ
今私はとても酷い顔をしているのだろう、光を映さない沖田さんの瞳は私の顔を写していないが見なくてもわかる、沖田さんの頬に沢山私の涙が落ちているからだ
何滴目かの涙が沖田さんの頬に落ちた時、沖田さんは目を三日月型に歪ませたまま笑い私に対していつもの口調で言った
「もうやめろよナマエ、"殻"が苦しんでる」
その一言を聞いて私は息を呑んだ、沖田さんの言う"殻"とはこうなる前の沖田さんの事なのだろうか、それとも沖田さんの身体なのか定かではないが、沖田さんを苦しめているのには変わりない
沖田さんは一度死んでいるのだ、ヘリの墜落で確かに死んでいたのだ、そんな沖田さんを苦しめてまで私は生きたいのだろうか
そんな事が頭をよぎり、私は思わず首を絞めていた手を緩めた、ボトリと力を無くして音を立てながら地面に落ちた私の手を見て沖田さんが笑った
そして手から視線をこちらに向けた後、哀れむような瞳を向けた
「可哀想に、ナマエ苦しかったよな、楽になろうな」
全く感情の篭ってない言葉だったが、もはや正常な思考回路ではない私にとっては救いの言葉に聞こえた、止まりかけていた涙がまた溢れ出す
「沖田さん……私本当は……ッ」
沖田さんに向かってある事を言おうと口を動かした瞬間、沖田さんが急に体を起こして私の首元に顔を向けた、一瞬見えた白い八重歯は人間より尖っていたように見えた
あ、と思った瞬間ブチブチッと何かが千切れる音が鼓膜を支配した、その瞬間視界の端に鮮やかな赤色が見えた、段々と身体から力が抜けて私は気が付くと沖田さんの胸に体を預けるように倒れ込んでいた
ふと顔を上げた時沖田さんの口元には先程見えた鮮やかな赤色がこびりついていた、思わず綺麗だと思った瞬間私の意識はブラックアウトした