警鐘
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身体がズシッと重く、頭は何もしてないのにクラクラと言うかフワフワと言うか不思議な感覚に襲われ、喉は乾いているかの様な感覚に陥りイガイガと痛み出す、自然と身体が喉にある異物感を取り除こうと咳を出す、鼻は詰まり口で呼吸をしようとするがやはり喉の異物感が邪魔をする、そして咳を出し、身体が微妙に動く事で頭のクラクラとした感覚が気持ち悪さを誘い視界が軽く回る
そんな負のスパイラルに陥った私、ギリギリ学生だった頃広い部屋に憧れて大きめの間取りの部屋にした事を今になって少し後悔した、この広い部屋で一人寂しく私は風邪と戦わなければいけないのだ
壁掛け時計の秒針が動く音がやけに響き、より一層不安感を煽ってくる、普段なら気にならないのに今となっては酷い孤独感に苛まれている、息苦しいのはマスクのせいや風邪のせいだけではないだろう
「……寂しい」
思わずポツリと呟いた声も誰かの返事があるわけでもなくただただ寂しく消えて行った、当然の事なのに寂しさが募る、視界が少し揺らめいた気がした、あと少しで目から涙が零れ落ちそうな時インターホンの気の抜けた音が聞こえた
甲高い音が頭のクラクラに響き思わず眉を顰めた、このまま居留守をしてしまおうか来客者に風邪を伝染してはいけない、そんな都合の良い考えをしたが宅急便等だと迷惑がかかってしまう
グッと身体に力を込めてベッドから落ちる様に降りてまた聞こえたインターホンの音に頭を押さえつつ玄関に向かって壁伝いに歩いた、鍵を開けてドアのチェーンロックを確認してから扉を開けた
「やっほー、遊びに……え、ナマエ?」
チェーンロックの向こう側には沖田さんがいつものにこやかな笑顔でビニール袋を少し持ち上げて立っていたが私の顔を見ると沖田さんは真っ青な顔をして目を見開いて驚いた様に私の名前を呼んだ
忙しい沖田さんにこんな厄介な風邪を伝染してはいけないと慌てて扉を閉めると、扉の向こう側から沖田さんが慌てる声が聞こえる、何も言わずに帰すのは悪いと思いゆっくりと扉を開けた、今度はチェーンロックは付けてない、その方が沖田さんと目を合わせやすい
「伝染すと、悪いので」
「ちょっと待て!!明らかに熱あるだろ?」
「測ってない、です」
「そんな状態じゃ治るもんも治らない、ちょっと入るぞ」
伝染すと悪いとだけ伝えて扉を閉めようとしたら沖田さんは足を扉の隙間に入れて切羽詰まった表情で私の熱の事を聞いてきたが残念ながら測る程の体力がないので今自分の体温が何度か知らない、咳き込みそうなのを我慢してそれを伝えると沖田さんはガッと扉を掴んでそのまま入ってきた
慌てる私を沖田さんはヒョイッと軽く抱き上げてそのまま真っ直ぐ私をベッドへ運んでくれた、重いだろうから降ろしてと言っても沖田さんは聞く素振りすら見せてくれなかった、しかし、助かったのは事実だ、多分自力でベッドには戻れなかっただろう
クラクラとした感覚はまだ治らない、先程立ち上がってたせいで余計に視界が回っている気がする、ベッドに腰掛けながら思わず眉間に皺を寄せて目を瞑った
「ナマエ、体温計どこ?」
「……ぅ、多分机のそばのリモコン入れの…どこかです」
「なんでリモコン入れなんかに入れたんだよ」
鼻が詰まっているからか喉が腫れているからか、やたらと聞こえにくい耳に沖田さんが体温計を探す声が届き、眉間に寄せた皺を指で解しながら沖田さんに体温計がある確率が高い場所を伝えると困った様な笑い声が微かに聞こえた
ガサガサと机の周辺を探す音が聞こえる、先程の物寂しかった部屋が一気に騒がしくなった気がする、しかしそれは不思議と嫌な気持ちにはならずむしろ心地良いと感じる程だった
「あったあった……ってナマエ!?大丈夫か?」
体温計を見付けたのか沖田さんの嬉しそうな声が聞こえたと同時にその声が焦った声色に変わった、何故かと思ったが自分がいつの間にかベッドに横たわっている事に気が付いた、いつから横になってしまっていたのだろう、少し戸惑いながらも沖田さんに悪いので体を起こそうとするとスッと肩を押さえられてベッドに逆戻りしてしまった
「おき、たさ……」
「いいから、辛いなら横になってろ、温度測れる?」
「はい、大丈夫です」
沖田さんの名前を呼ぼうとすると頭をポンポンと優しく叩かれて横になるように言われた、沖田さんが体温計を渡してきたので受け取り、自分の脇の下に入れて体温を測る、少し時間が経って気の抜けた音と共に自分の今の体温が表示された、のそのそと手を動かして体温計を見ると想像よりも高い温度が表示されていた
横で荷物を出していた沖田さんが体温計を覗き込んで驚きの声を上げたのが聞こえた、38.0と表示された体温計を私の手から優しく受け取り沖田さんはバタバタと私の台所へと姿を消したがすぐに戻って来て一言言ってから私の額に冷たい手を当てた
「うわ……熱」
少し引き気味にそう呟いた後、反対側の手に持っていた濡れたタオルを額に乗せてくれた、冷水の冷たい感覚がこんなにも気持ちのいいものだとは思わなかった、気持ち良さで思わず目を瞑った
「ごめんな、本当は冷えピタとかの方が良いんだろうけど……」
「いえ、冷たくて気持ちいいです」
そう言いながら改めて謝ろうと思いタオルを持っていた沖田さんの手を掴んだ、沖田さんの手も冷水に触れた為ひんやりと気持ちが良いが、私のせいで沖田さんには辛い思いをさせてしまったと罪悪感でいっぱいになった
私が手を掴んだ事に驚いている沖田さんを他所に謝ろうとした私の口は上手く動かず、頬も熱くて冷たい感覚を求めていた、思わず沖田さんの冷たい手を自分の頬の方へ動かして当ててみた、やはりひんやりとして気持ちが良い、火照っていた頬が冷やされて一時期的にだが通常の状態に戻った気がする
私が勝手に沖田さんの手を頬に当ててしまったので沖田さんはオロオロとどうしたらいいのか分からないと言った状態でいた、それが分かり一瞬思考が冷静に戻り私は慌てて沖田さんの手を離した
「す、すいません……謝ろうと、思ったのですが」
「いや、大丈夫……でも本当にしんどそうだね、ナマエ薬ある?」
慌てながら沖田さんに謝ると柔らかい笑顔で大丈夫だと言ってくれた、沖田さんは薬の有無を聞いてきたのでどうやらこのまま看病を続ける気らしい流石に悪いので断ろうとしたが、このままでは状態は良くならない事は確実だ、沖田さんには申し訳ないがもう少しだけ甘えよう
そう思い薬箱の中身を必死に思い出す、最後に使ったのはいつだったか、市販の風邪薬、確かあと一回分だけ残ってた気がする、沖田さんに台所近くの棚にある薬箱の位置を伝えるとすぐに持ってきてくれた
「うーん……食後か……ナマエ食欲は?」
箱の裏面をしかめっ面で眺めながら呟いて沖田さんは私に食欲があるか聞いてきたが生憎頭がクラクラしていて食欲を感じる暇もない、胃の中はきっと空っぽだが今日一日は特に食べようとも思わないだろう、沖田さんの言葉に首を振ると少しだけ困ったように笑った、こんな事なら食前でも飲める市販薬を買っておくんだったと後悔した時、なんの前触れもなく沖田さんが立ち上がった
「ちょっと待ってて、なんなら寝てていいから、台所借りるな?」
沖田さんは私の額のタオルの位置を直しながらそう言って私の台所へと向かった、何をするのかと気になったが寝ててもいいと言われたせいか急に眠気が襲ってきた、沖田さんに看病されて緊張の糸が切れたのかもしれない
しかし看病してくれているとはいえ来客がいる状態で寝るのは如何なものかと思い、襲ってきた眠気に抗う、考え事でもしていれば寝る事はないだろうと思っていたがふと気が付くといい香りが台所から漂ってきた、急にいい香りがするなんてと思い時計を見ると先程より数分だけ針が動いていた
どうやら気を失うように寝ていたらしい、自覚が無い程一瞬の眠りだったようだ、しかし逆に良かったのかもしれない、沖田さんに寝ている事が知られたら少し気まずくなってしまう
「起きてたのか、寝てて良かったのに」
「いえ、ちょっとだけ、寝ちゃいました、すいません」
「気にするなって、あと咳、さっきから気になってたけど我慢してるだろ?」
「伝染すと、いけませんから」
「辛いだろ?そんなの気にしなくていいからさ、咳出したいなら出しな?」
沖田さんに咳を我慢しなくて良いと言われたが沖田さんは私と違って優秀だ、沖田さん一人で回せる仕事は私とは比べ物にならない、そんな沖田さんに風邪を伝染して辛い思いをさせて仕事の邪魔をさせるなんてできる訳が無い、フルフルと首を振ると沖田さんは仕方ないといった様子で溜め息をついた
「分かった、でも本当に辛かったら我慢しなくていいからな?」
そう言って沖田さんは私の頭に手を置いてポンポンッと優しく叩く様に撫でた、片手には湯気が立っている底の深い皿があり、ほのかに卵と醤油の味が漂ってきた、思わずジッとそれを見つめると沖田さんはクスリと笑った後熱いから気を付けるようにと一言添えて皿を渡した
皿の中には卵とじのお粥が醤油の香りを湯気と共に漂わせていた、思わずゴクリと唾を飲み飲んでしまう、沖田さんがベッドの横に腰掛けながらスプーンを手渡してくれた、それを受け取りいただきますと一言言ってからスプーンをお粥に差し込んだ
中にある米をひっくり返す様にスプーンを動かすとまた食欲を誘う香りが鼻腔を刺激してきた、一口大に掬って余分な熱を冷まして口に運んだ、まだ少し熱くて舌が少しヒリヒリとしたが気にせず咀嚼すると醤油の風味と卵の味が口いっぱいに広がった
「美味しい……」
「ん、良かった、それ食べたら薬飲もうな?今日は俺がちゃんとナマエの看病してやるから、安心しな?」
思わず味の感想を呟くと沖田さんは嬉しそうに言った後、私の背中を撫でながら看病をしてくれると言ってくれた、これ以上は悪いので断ろうかと思ったが沖田さんはもう看病する気でいる、今日だけは少し甘えてもいいだろうかと思い、沖田さんの言葉に素直に甘える事にした、もう一口お粥を口に運ぶとやはり優しい卵の味が口に広がった、このままなら思っていたより早く完治しそうだ
完治したらすぐに沖田さんにお礼として何かを奢らせていただこう、優しい沖田さんならきっと断ってくると思うがここまでしてもらったのだ何かしないと気が済まない、兎にも角にも早く完治しようと思い、私はゆっくりとだがお粥を食べ進めた