第二十五訓
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「……ふぅ、助かったよヅラ」
「ヅラじゃない桂だ」
あれから桂のパラシュートのおかげで無事に近くの港口に降り立つ事が出来た、着地の際に足など痛めてしまうのではないかと身構えたが取り越し苦労だったようだ
パラシュートを畳む桂にお礼を言うが桂は相変わらずのようだ、そんな中一緒に着地した銀時は呑気にくぁ…と欠伸を噛み締めていた
二人はこれから先に高杉の船から撤退した人達と合流するのだろう、が、私がそこに入ってしまったら万が一真選組の皆に見つかった時に確実にややこしくなるので二人とはここで別れる事にする
そもそも病院を抜け出した身の私だ、それだけでも副長の一時間説教コースなのは確実なのに、それに加えて桂一派と仲良くやっていたなんて勘違いされた際には局中法度違反で特別切腹コースになってしまう、それだけは避けたい
「じゃあ私はそろそろ行くわ」
「そうだな、真選組の誰かに見られたら面倒な事になる……花無為……また敵同士だな」
「……次会った時は手錠を付けられる準備をしておきなよヅラ」
「ヅラじゃない桂だ」
今回は利害の一致で手を組んだだけだと認識し合うとお互いにしたり顔をして私達はそれぞれの行く道へと踏み出す、が、桂から離れようと歩みを進めようとした私の前に銀時が立ち塞がった
見慣れた黒色のインナーが視界に入り、思わず視線を上げた時だった、不意に私の頬を片手で鷲掴みにしてきた銀時、唇が押し出され情けない顔を銀時に向けてしまう
「ひ、ひんほひ……は、はにを?」
「忘れ物だ……と言っても必要ねぇかもしれねぇけどな」
押し出された唇を微かに動かしながら何をするのかと銀時に問いかけると銀時は特に表情を変えずに忘れ物だと言い始めた、一体なんの事だろうかと頭に疑問符を浮かべてしまう
そんな私の顔面に銀時は小さな本のようなものを押し付けてきた、思わず情けない声を上げてしまう、目を瞑りながらも慌てて押し付けられた物を手にするとその正体が分かった
目を開けてそれを確認する、気が付くと銀時の手は離れていて、少しだけ怒った雰囲気を纏いながら私を見下ろしていた
「私の……警察手帳……」
「血に塗れてもう使えないだろうがな」
銀時が私に渡してきたのは岡田似蔵に斬られた時に持ち去られた私の警察手帳だった、同時に雨の中新八と会った時に聞いた話を思い出した、銀時と岡田似蔵が交戦をした時に挑発のために桂の髪の毛と私の手帳を見せびらかしてきたと新八は言っていた、これがそうなのだろう
「ヅラの髪とは違って花無為の警察手帳は偽装できないからな…………本気で心配した」
「……銀時」
「祭りの時高杉に斬られたのも、今回も、昔も……心配してたんだぜ」
「…………すまない」
銀時は私を見下ろしながら話し出す、しかし段々と銀時の声量は小さくなっていった、それに合わせて表情も曇っていき、それを見ただけで私は銀時が今どんな心境なのか優に想像がついた
本当に銀時には心配ばかりかけてしまっている気がする、昔は何を言わずに目の前から消えて、再会できたと思いきや祭りの場で重傷の私を見つけ、そして今回は血塗れの警察手帳ときたもんだ、そんな事が続けば銀時が顔を曇らせるのも分かる、特に銀時は仲間想いだ
私は自分の事は自分で片そうとしていた、決して心配をかけさせようとして動いていた訳では無い、むしろ心配をかけたくなかったから無理にでも動かなければと思っていた、しかしどうだ、目の前の銀時のこの表情は私が思い浮かべていた表情とは全く異なる
こんな表情をさせたかった訳では無いのだ
「……そんな落ち込むなよ、花無為の強さは良く分かっている……だが万が一、って事があるだろ、心配かけさせんな」
「……ぐうの音も出ないな」
銀時の言葉は正に正論そのもので、私は思わず力なく後頭部を掻いた、銀時に申し訳なくて視線も合わせづらい、そんな私の空いてる方の手を銀時は強く握ってきた
一体何事かと思い銀時に目を向けると銀時は普段とは想像がつかない程しおらしい表情で握っている私の手を見ていた
「ぎ……ッ」
「傷は?」
銀時に声をかけようとした時それを遮るかのように銀時はスッと視線を上げて私の目を見つめた、銀時の小豆色の瞳と目が合うと声を発しようとした喉が動きを止めた、そんな私を見つめたまま銀時は傷の事を聞いてきた、きっと沢山心配をかけしまったのだろう
「……あ、あぁ、見た目より浅いから大丈夫だ」
「違ぇよ、傷は……残るのか?」
しおらしい雰囲気の銀時を見て調子が狂ってしまったが戸惑いながらも銀時の問いかけに答える、出血は多かったが思っていたより傷は浅い、それを銀時に伝えたが銀時はムッとした表情で違うと言った、どうやら聞きたかったのは傷が残るかどうからしい
銀時に聞かれてようやく私もその事について考えた、確かにあんな大きな刃物で腕と脇腹を斬られたのだ、傷が残ったとすればなかなかに立派な痕が残ってしまうだろう、しかし病院に運ばれてすぐに医師から傷の状態について説明を受けた時に聞いた言葉を思い出した
"運良く傷は浅いので痕も残らないと思います"
目が覚めてすぐで意識も朦朧としていたのであまり覚えていないし、言われた事すら忘れていたが確かそう聞いた記憶がある、信憑性は全くなかったがとりあえずこのしおらしい銀時に何か言わなければと思い私はそれを伝える事にした
「多分、残らないと……思うが……」
「なんだよそのどっちか分からねぇ言い方は」
「いや、私も記憶が不確かで……思い出せないんだよ」
歯切れの悪い言葉を銀時に言うと銀時は顔を顰めたが記憶が不確かなので仕方ない、言われた気もするし言われていない気もする、まあ実際以前負った傷よりも浅いのは確かなので残らない可能性の方が高いのだが、変に癒着すると痕が残る事もあるから何も言えない
「ったく……まあ良いわ、花無為よぉもうこんな事やめてくれよ、心臓がいくつあっても足りねぇや」
うぅんと何とか思い出そうとして唸っていると銀時はほんの少し溜め息を着いた後そう言った、そして握っていた私の手をにぎにぎと数回握って離してを繰り返していた、まるで私の存在を確かめるように思えたその行動に思わず動きを止めてしまう
「銀時、花無為、貴様らもしや俺の知らぬ間ににゃんにゃんしたのか」
「「はぁ??」」
急に手をにぎにぎとした銀時に驚いているのも束の間、いつの間に戻って来たのか銀時の背後から私達を覗き見るように顔を覗かせて桂が話し出した、私と銀時には似合わない"にゃんにゃん"と言う古すぎる言い回しを使う桂に思わず青筋を立ててしまう
それは銀時も同じなようで、私とほぼ同時に怒りの声を発し桂の方へと振り向いた、当の桂は感心しているような、どこか怒りを抱いているような、そんな表情をしていたが正直なところ怒りたいのは私達の方だ
一体何をどう考えれば、どう言う思考回路になれば私と銀時がそのような関係になると言うのだ、思わず表情を顰めたが桂はそんな事は全く目に入っていない様だ、そもそも"にゃんにゃん"と言う単語を使っている事がなんだか腹が立つ
「思えば息もピッタリだったな……不純だぞ貴様らァァァ!!」
「うるっせェェッ!!急にデカい声出すんじゃねぇよ!!」
「そもそもなぜそんな考えになるのかが分からないな……」
段々ヒートアップしていく桂は声を荒げていくが、それに負けじと銀時も声を荒げる、そんな二人を前にすると流石の私も冷静になってしまう、深く溜め息をついてギャアギャアと騒ぐ二人を見守る
「本当に付き合っていないのか……」
「だからなんでそんな考えになるんだ……?銀時にも私にも失礼だろ、なんだよクソ馬鹿アホ死ねよ」
「言い過ぎだろ花無為貴様ァ!!」
あまりにも銀時が否定し続けるからか、ようやく桂が落ち着きを取り戻したかのように弱々しく言う、そんな桂を私はほんの少しだけ睨み付けた、銀時も隣で大きく首を振って頷いていた
冷静な私達を見てか桂は表情をなくした、どうやら興味が無くなったようだ、なんとも勝手な奴だと内心思いながらこんな事に時間を割くよりも一秒でも早く病院に戻らないといけない事を思い出し、私は二人に一言言ってから背を向けて歩き出した
「なんだまだ花無為と付き合っていなかったのか銀と……うごああぁぁぁああぁッ⁉︎」
「うるせぇって言ってんだろうがァァッ!!そのまま海に沈めコノヤロー、死ね!!」
「何しているんだアンタらは……」
不意に桂の断末魔が聞こえてきたと思い振り返るとどうやら銀時が桂を海に落としたようだ、バシャバシャと水面で半ば暴れながら浮こうとしている桂を見下ろしている銀時がいた
全く謎な行動をしている二人に冷ややかな視線を向けながらも歩き出す、この二人に付き合っていると時間がなくなってしまう、港口から出てすぐにタクシーを捕まえ、私は一人病院に戻る事にした
病院に着くと出入り口にとんでもなく怖い顔をした看護師と医師が立っており、私は完全に開いた傷を縫われながら説教を受ける羽目になった、怒られる覚悟はしていたが看護師さんの恐ろしい剣幕に思わず涙が出てしまったのは秘密だ
結局その後は出入口に看護師さんの監視がついてしまい今後無闇矢鱈と病室から出ることは出来なくなりそうだ、しかし色々な無茶はしたが紅桜の脅威を防ぐ事ができたのは良い功績だと思う、とりあえず今度こそ安静にして傷を癒す事に専念しようと思い私はゆっくりと目を瞑った