第二十四訓
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先程まで曇っていた空が晴れて、綺麗な青空が広がる中、高杉の後ろ姿を見据える、私が高杉に向かって自分の気持ちをぶつけてから私達三人の間にはずっと静寂が訪れていた
正直、あれ以上高杉にかける言葉はない、しかしあんな言葉で高杉を説得できそうにもないのは私でも分かる、これ以上何を言えばいいのだろうか
「高杉……俺はお前が嫌いだ、昔も今もな……」
私が迷っていると桂が何の前触れも無く口を開いて高杉の事が嫌いだと暴露した、人が折角高杉を説得しようとしているのに急に何を言い出すのかと思い、私は勢い良く桂の方を向いた
「だが仲間だと思っている、昔も今もだ」
続けられた言葉は思わぬ物で文句を言おうと開いた口を私はゆっくり紡いだ、桂の目は真剣で言った言葉が本気なのだと聞かなくても理解出来た、高杉は今だにこちらを向かないのでどんな表情をしているのかは分からない、そんな表情情が見えないままの高杉に向かって桂は言葉を続ける
「いつから違った……俺達の道は」
「フッ……何を言ってやがる」
静かに呟く様に問い掛けた桂を鼻で笑った後高杉は自分の懐を探り出した、ゆっくりと何かを取り出してそれを眺め始める、その時強い風が吹き一瞬高杉の着物が風で靡いた、その隙間から高杉が先程取り出した物が見えた
深い緑色の表紙……松下村塾の教科書
少し前に桂に斬られた時に高杉が懐に入れていた物だ、深い緑色の表紙にはその時の傷か若干血が付着しているのが見えた
「確かに俺達は始まりこそ同じだったかもしれねェ、だがあの頃から俺達は同じ場所など見ちゃいめェ……どいつもこいつも好き勝手、てんでバラバラの方角を見て生きていたじゃねぇか」
高杉の言葉を聞いて私は昔のあの風景を思い出した、私は先生の授業を受ける時は良く外の桜を見たり空を見たりしていた、しかしその時桂は真剣に教科書を見ていたのを知っている、そして隣の席の銀時はいつも居眠りをしていて、高杉は教科書もロクにに見ずに先生だけを見ていたのを知っている
確かに高杉の言う通りだ、私達は同じ方向を見ていなかった、進んでいた方向もきっと違っていたのだろう、同じ方向を進んでいると思っていたが初めから私達はバラバラだったのだろうか、そんな事を思っていると高杉が続けざまに口を開いた
「俺は……あの頃と何も変わっちゃいねェ……俺の見ているモンは、あの頃の何も変わっちゃいねェ……俺は…………」
私達に話しながらも何かを思い出しているかのように高杉はどこか遠くを見ていた、私達に背を向け、今は後ろ姿しか見る事が出来ないが視線は空を見ているのが分かる、あの一件から片目しか見る事の出来ない世界で高杉は何を見ているのだろうか
「ヅラァ、花無為ィ、俺はなテメェらが国のためだァ仲間のためだァ剣を取った時も、そんなもんどうでもよかったのさ……考えてもみろ、その握った剣、そいつの使い方を俺達に教えてくれたのは誰だ?俺達に武士の道生きる術、それらを教えてくれたのは誰だ?俺達に生きる世界を与えてくれたのはまぎれもねェ…松陽先生だ」
高杉は依然空を見上げたまま私達に話し出す、攘夷戦争の時高杉がそんな事を思って参加していたのはなんとなく分かっていた、分かっていたが私はそれを知らないフリをして一緒に戦っていた、高杉がいつも松陽先生の為になるように選択し、行動していたのを私は心のどこかで知っていた
異常なまでに松陽先生を神格化する気持ちが私にも理解出来たからだ、松陽先生は私達を救ってくれた、私にとっても高杉にとっても桂にとっても銀時にとっても先生と言う存在は何者にも代えられない尊い存在なのだと思う
だからこそ先生の為に私は約束を守る為に生きているし、桂は世の中を変えようと動いている、銀時は……正直何を思っているのか分からない、だがその中でも高杉は世界を壊すと言う異質な考えに至ってしまったのだろう
「なのにこの世界は、俺達からあの人を奪った……だったら俺達はこの世界に喧嘩を売るしかあるめェ、あの人を奪ったこの世界をブッ潰すしかあるめェよ」
ゆっくりと何かを思うように目を瞑っているのか少しだけ頭を動かしながら高杉は続けた、確かに先生を奪ったのはこの世界だ、しかしだからと言って潰していい物なのだろうか私はずっと疑問だった
「なァ、ヅラ、花無為……お前達はこの世界で何を思って生きる?俺達から先生を奪ったこの世界をどうして享受し、のうのうと生きていける?俺はそいつが腹立たしくてならねェ」
珍しく高杉は声を荒げて私達に問うた、高杉の言葉に思わず顔を顰めてしまう、高杉はきっとずっと許せないままなのだろう、先生を亡くした苦しみから逃れる事が出来ずにいるのだ
まるで昔の自分を見ているようだった、苦しくて毎日なんのために生きているのか謎で、ひたすら自己否定を繰り返しては行き場のない怒りをどこにぶつけていいのか分からなくてもがいていた、きっと局長達に出会わなかったら私は今頃高杉のようになっていたのだろう
そんな高杉に私は何も言えないでいた、きっと同情に近い感情が溢れてしまったのだろう、さっきまで高杉に向かって怒っていたのが嘘のようだ、すっかり意気消沈してしまった私の代わりに今度は桂が話し出した
「高杉…俺とて何度この世界を更地に変えてやろうと思ったかもしれぬ、だがアイツが……それに耐えているのに、銀時が……一番この世界を憎んでいるはずの銀時が耐えているのに、俺達に何ができる」
「…………そう、だね」
「俺にはもうこの国は壊せん、壊すには…ここには大事な物ができすぎた」
桂の言葉に思わず私は声を漏らしてしまう、銀時が耐えている、その一言に私は胸が張り裂けそうな気持ちになる、いくら私達がどうこう言っていても一番傷付いているのは銀時なのだ
続けざまに桂はハッキリとこの国は壊せないと言った、瞼を閉じて誰かを、大事な物を思い出しているようにも見えた、しかしそんな桂の言葉すら高杉には届いていないようだ、こちらをチラリとも見ようとしていない、だが桂は高杉を説得し続ける
「今のお前は抜いた刃を鞘に収める機を失い、ただいたずらに破壊を楽しむ獣にしか見えん……この国が気に食わないなら壊せばいい、だが江戸に住まう人々ごと破壊しかねん貴様のやり方は黙って見てられぬ……他に方法がある筈だ、犠牲を出さずともこの国を変える方法が……」
桂の言葉に高杉ではなく私が心を動かされそうだった、一時期は過激派の攘夷志士として私達真選組の敵だった桂が犠牲を出さずに国を変える方法を考えている、一体いつからそんなに丸くなったのかは分からないが何にせよ安心した
だからと言って真選組の職務を放棄するようなマネはしない、無論国を守る為に今後も攘夷活動を行う輩は捕まえるつもりだ
そんな事を思いながら私は桂の言葉がどれほど高杉に届いたのか気になりゆっくりと高杉を見据えた
「松陽先生もきっとそれを……」
桂が言葉を続けた時、私達の頭上の方向で二人分の足音が聞こえてきた、思わず振り向いてその音の主を確かめた時私は思わず目を見開いた
「キヒヒ桂だァ」
「ホントに桂だァ~ん?隣の奴は何者だ?」
「なんだっていいだろ、引っ込んでろアレは俺の獲物だ」
下品な笑みを浮かべながら話している足音の主達は人間ではなかった、豚の様な容姿と猿の様な容姿の天人だったのだ
私はそれらを見上げながら静かに刀に手を添えた、今は隊服も着ていないので私が真選組だとバレる事は無いだろう、その分好き勝手やれるのだ、それに斬って肉塊にしてしまえば何の問題もない、だが今はとりあえず状況を把握するために堪えるしかない