第二十四訓
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桂と二人で並んで走るなんて一体何年ぶりだろうか、今後今のような状況が起こる事はきっとないだろうな、なんて考えながら高杉が居ると思われる場所に向かって走り続ける
「花無為」
前を見据えて走っていると不意に桂が私の名前を呼んだ、横を見ると桂は前を向いたまま言葉を続ける、無論走ったままだ
「お前も紅桜に斬られたと言うのは本当か?」
船内は鉄製なのでカンカンと甲高い足音が響く中桂の声がやたら鮮明に聞こえた気がした、桂は前を向いてはいるものの眉間にシワを寄せて不機嫌そうな表情のまま走っている
桂の事だ、いくら私が真選組と言う攘夷志士にとっては敵側の存在に居る状態でも心配をしているのだろう、昔はよく無茶をして怪我をした時に怒られたものだ
「まあね……さっき傷口開いちゃったけど、すぐに閉じるよ」
先程新八と神楽を助けようとした時に開いてしまった傷を思い出しながら私も前を向いて桂の質問に答えた、見なくても桂の眉間のシワが深くなったのが分かる
昔の様に仲間同士の関係で桂が怒るのは理解できるが、今は敵同士、真選組である私が怪我をして桂が怒るなんてそんな事が知られたら後々の部下達の士気に影響するだろう、そう思い私は少々冷たく桂に言い放った
「今は違うけど、本来私達は敵同士、気持ちは分からなくもないけど私の心配はしないで良いから……」
「あぁ、敵同士だ……だが、今はお互い高杉を止めようと奮闘している友人だ……心配して当然だろう」
突き放す様に言った私の事を桂は嫌な顔一つせず友人だと言う"今は"と言う言葉がついてはいるが桂が私の事を友人だと言ってくれただけでもどこか心がじんわりと温まる気がした
桂にお礼の一言でも言おうかとしたが目の前の道が日光で照らされ始めて出口が近い事を意味しているのだと気付いて桂と顔を見合せた、お互いに頷いて走るスピードを速めた
高杉の後ろ姿を捉えた時、物陰から鬼兵隊の隊士が飛び出して来て私と桂に斬りかかってきた、攻撃を受け止めて刃の向きを峰に切り替えて腹部に押し込む様にして斬りつける、鈍い音がした後鬼兵隊の隊士が崩れ落ちる様に倒れ込んだ
ピッと刀を振るって刃に付いた汚れを振り払った、刀を鞘に納めて船の手すりの部分にもたれている高杉を見据える、高杉は何を見ているのか空を見上げていて私達と視線は合わない、視線を合わさないまま高杉がどこか嬉しそうに話し出した
「ヅラ、花無為、あれ見ろ銀時が来てる……紅桜相手にやろうってつもりらしいよ、ククッ…相変わらずバカだな、生身で戦艦とやりあうようなもんだぜ」
高杉の言葉に私は弾かれた様に上を見上げた、船の屋根にあたる部分で銀時と岡田似蔵が戦っているのが見えた瞬間思わず背筋が凍った
岡田似蔵はもはや刀とは呼べる様な代物ではなくなった紅桜を振り回していて、それを銀時が刀で受けたり避けたりしながら岡田似蔵に攻撃を与える隙を伺っている様だ、しかし銀時は私や桂と同じ様に紅桜に斬られて重症を負ったと新八から聞いたのだ、とても重症の身であの動きをしている様には思えない
「……もはや人の動きではないな」
「アイツ傷は大丈夫なのか?」
桂がポツリと二人の攻防戦を見て呟く、私も銀時の様態が気になってしまい思わず口に出てしまった、見るからに今の岡田似蔵は怪物と呼んでも良い程の見た目になっている、動きすらも速さが尋常ではない、それに追い付いている銀時も銀時なのだが
「紅桜の伝達指令についていけず身体が悲鳴をあげている……あの男……死ぬぞ」
「そりゃあアレだけ人並み外れた動きをしていたらね……高杉、どういうつもり?」
「……貴様は知っていたはずだ、紅桜を使えばどのような事になるのか……仲間だろう、なんとも思わんのか」
桂が岡田似蔵を見ながら高杉を責めるように言った、私もそれに便乗して高杉に問うが高杉は何を考えているのか分からない様な雰囲気で岡田似蔵と銀時の戦いを見ていた
少しして高杉は目線をようやく下に下げてやはり掴みどころのない表情をしたままゆっくりとした口調で話し出す
「ありゃアイツが自ら望んでやった事だ、あれで死んだとしても本望だろう」
そう言って高杉はゆっくりと手すりから体を離す、私はまるで言い捨てるように仲間が死ぬ事を"本望"だと言う言葉一つで片付けた高杉に対して静かに拳を握った
そんな一言で片付けていい物ではない、そう言って高杉を殴ってやりたい所だが今は話し合いをするためにわざわざ走って来たのだ、それをそんな一時の感情でめちゃくちゃにしてしまう訳にはいかない、叫びたくなる気持ちをぐっと堪えて我慢する、ギリッと奥歯が音を立てて軋んだのは気の所為ではないだろう