第二十三訓
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変わらない物があると言うのに私達は随分と変わってしまった、目を瞑りあの楽しい日々を思い出す、教室の際には綺麗な桜の木があって春になると少しだけ肌寒い風と共に桜の花びらが教室に入り込んでくる、偶に教科書に桜の花びらが挟まっていて見付けた時は何だか嬉しかったのを覚えている
綺麗な記憶に意識を向けていたが所詮は現実逃避をしているだけ、高杉の船を攻撃していた船が沈んだ大きな音が鼓膜を震わせて私は強制的に現実に戻された、目を開けると変わってしまった私達がお互いを見据えている
「クククッ……お前らもそいつのおかげで紅桜から護られたってわけかい……思い出は大切にするもんだねェ……」
「いいや、お前の無能な部下のおかげさ、よほど興奮していたらしい、ロクに確認もせずに髪だけ刈り取って去って行ったわ…たいした人斬りだ…」
「私も似たようなものだよ、まあ髪じゃなくて手帳だったけど……人の物盗むなんて一体どう言う教育してるんだ高杉」
どこか嬉しそうに高杉は私達の持っている教科書を見つめながら話し出す、そんな高杉に桂は岡田似蔵がどうやって去って行ったかを少々呆れながら伝えた、私も桂の言葉に頷いて冗談混じりに高杉に話す
こうしていると昔の思い出が蘇ってくる、もう戻れないあの時代にいつまでも想いを寄せていても何も解決にはならないのは知っている、知っているのに今尚こうして思い出してしまうのはきっとあの頃が楽しすぎたからだろう
しかし、今は私は真選組、桂と高杉は攘夷志士、立場は全く逆だ、現時点で桂とは利害の一致で一緒にいるだけ、昔のような真の仲間ではない、私達は変わってしまったのだ、この現実はどうあがいても変えられる物ではない、無論私の人生が間違っていたとは思えないので変える事が出来たとしても結果は同じだろう、そう信じて私は今度こそ真っ直ぐ高杉を見据えた、覚悟はもう既にできている
「逃げ回るだけじゃなく、死んだフリまでうまくなったらしい…いや、花無為に関しては死んだフリは元々得意だったか……で?わざわざ復讐しに来たわけかィ、奴を差し向けたのは俺だと?」
高杉は口角を上げたまま私達に茶化す様な口調でそう言った、好きで死んだフリが上手くなった訳では無いと噛み付きたい所だがグッと堪える、今ここで噛み付いたらまともに話も出来なくなってしまいそうだ、あくまで言葉選びは慎重にしないといけないと感じて口を紡いだ時、私の代わりに桂が答えた
「アレが貴様の差し金だろうが、奴の独断だろうが関係ない…だが、お前のやろうとしている事、黙って見過ごすワケにもいくまい」
桂が言い終わるのとほぼ同時に甲板の奥にあった部屋が大きな音を立てて爆発した、爆風で髪が激しく靡いてしまうが短髪になった桂は気にしていないようだ、代わりに高杉と来島また子が驚いた表情で爆発した部屋の方を見ていた、どうやらあの部屋に何か大切なものがあるらしい
「貴様の野望……悪いが海に消えてもらおう」
「桂ァァ!!」
驚いたままの高杉に桂は冷たくそう言い放った、その言葉に対して真っ先に声を上げたのが来島また子だ、桂の名前を叫びながら青筋を立てている、来島また子の背後で武市変平太も同じ様にものすごい剣幕で桂を見ている
来島また子の声に集まる様に船内にいた高杉の部下、鬼兵隊の隊士達がワラワラと集まって来る、この状態では話して解決する訳ないので私は集まって来た奴らを桂に任せて神楽の拘束具を外す事にした
「貴様ァァァッ!!」
「生きて帰れると思うなァ!!」
ジリジリと桂と私達との距離を詰めながら集まって来た隊士達はそう叫ぶ、神楽の拘束具も無事外せたので私はゆっくりと立ち上がり刀を構える、桂も迎え撃つ気の様で下げ気味だった刀を再び持ち上げてゆっくりと構えながら隊士達を見据える
「江戸の夜明けをこの眼で見るまでは死ぬ訳にはいかん、貴様ら野蛮な輩に揺り起こされのでは江戸も寝覚めが悪かろうて……朝日を見ずして眠るがいい」
真剣な表情でそう言い切っ先を隊士達に向ける桂、私も隊士達の攻撃に備えて呼吸を整えた時、視界の端で神楽のチャイナ服がゆっくりと桂の背後に回ったのが見えた
一体何をするつもりなのかと思わず刀の構えを解いて神楽を見てしまう、神楽は何を思ったのか桂の腹部を腕で絞める様に固定すると無表情のまま口を開いた
「眠んのは……てめェだァァッ!!!!」
怒鳴り声を上げた瞬間神楽は自分の身体を背面に反らした、無論掴まれている桂も背面に身体を持って行かれる、ドゴォッ!!と大きな音を立てて桂の後頭部は甲板の床に叩き付けられた、俗に言うジャーマンスープレックスと言う技だ
何故神楽がそんな行動に出たのか私は訳が分からず情けない声を上げて刀を握る手の力が抜けてしまった、頬を伝う汗はきっと冷や汗だろう