第二十三訓
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「エリザベスぅぅぅ!!」
新八の悲痛な叫び声が響く、私は思わず奥歯を噛み締めてしまう、いくらエリザベスと言えどここまで私を連れて来てくれたり先程の窮地から助けてくれた恩人なのだ、これ以上犠牲者を増やす訳にはいかないと高杉に刀を向けるがそんな私を高杉は不気味に笑って見ているだけだった
「いつの間に仮装パーティー会場になったんだここは、ガキが来ていい所じゃねぇよ……なあ花無為?」
呆れた様にそう言う高杉はどこか余裕のある様子で立っている、無意識に刀を握る手に力が込められる、以前は心外にも負けてしまったが今回ばかりは負ける訳にはいかない、銀時が居ない今二人を守れるのは私だけなのだから余計にだ、呼吸を整えて高杉を見据えて攻撃を仕掛けようとした時だった
「ガキじゃない」
「ッ!!」
聞きなれた声が下方からした後エリザベスの胴体の切り口から誰かが飛び出して高杉の腹部を横薙ぎで斬りつけた、ザンッと物を斬った時のような音はしたが高杉は後方に飛んで避けた、どうやら刀で防御もしていたようだが予想外の攻撃で完全には防ぎきれなかったようだ
腹部に一筋の傷が出来た高杉は驚いた表情でエリザベスの胴体部分を見据えている、私も同様だ、先程聞こえた声を聞き間違える訳はない、思わず目を見開いてエリザベスの胴体部分を見つめてしまう、空洞だと思っていた部分から出てきたのは
「桂だ」
岡田似蔵に斬られて死んだと思われていた桂小太郎だった、髪の毛は何故かいつもの長髪ではなく短髪になっているのが気になるが私の警察手帳同様岡田似蔵に持っていかれたのだろう、それよりも桂が生きていた事実に私は密かに喜びを感じた
岡田似蔵の口から名前を出された時は死んでないにしても重傷だと思っていたが、エリザベスの中に入った状態でアレだけ軽やかに動ける様子なら心配は無用だろう、誰にも気付かれないように安堵の溜息を零してしまう、真選組の人間が桂の身を案じるなんて通常なら切腹ものだ
それよりも桂に斬られてから高杉は膝をついたままピクリとも動こうとしていない、見た時はそんなに傷が深そうには思えなかったが一体どうしたのだろうと思っていると甲板の奥の方から人が走ってくる音が聞こえた
「晋助様ァァァッ!!晋助様ァ!!」
「……ほう、これは意外な人達とお会いする」
走って来たのは先程まで新八と神楽と甲板で走っていた来島また子と武市変平太の二人で、来島また子は高杉の名前を叫びながら慌てた様子で傍に駆け寄る、そんな二人の前に立つのは私と桂を見て呟く武市変平太だ、きっと鬼兵隊の中では岡田似蔵が桂と私と銀時を殺したと触れ回っていたのだろう、表情は変わらないが驚いた様な口調の武市変平太を見て私はそう思った
「あ……ああ……嘘……桂さん!!」
「この世に未練があったものでな、黄泉帰って来たのさ」
新八が驚きながら桂に駆け寄ってそう叫ぶ、桂は新八の方を見ながら黄泉帰って来たなどと冗談を言う、冗談を言える程元気そうな桂の姿を見て私は自分の口角が上がるのを感じた、が、すぐに桂は高杉を見下ろして冷たく言い放った
「かつての仲間に斬られたとあっては、死んでも死にきれぬと言うもの……なァ、高杉お前もそうだろう?」
「クククッ……仲間ねェ……まだそう思ってくれていたとは、ありがた迷惑な話だ」
高杉に少々挑発的に聞く桂に対して高杉は不気味に笑いながらゆっくりと立ち上がった、高杉の腹部には確かに先程見た一筋の傷が出来てきたがその傷は不自然に途中で途切れていた、何故そんな風に傷が途絶えてしまうのかと不思議に思った時高杉の懐から顔を覗かせているある物が目に入った
驚きから思わず息を飲んだ、高杉を桂の攻撃から守った物、それは私も良く知っている物だった、深い緑色の表紙の本、使い古しているのかすっかり形は歪んでいて少しの風に当てただけでもパラパラとページが捲れてしまう状態だが分かる、あれは松下村塾の教科書だ
「高杉、アンタまだ……」
「…まだそんな物を持っていたのか……」
高杉と教科書を見比べながら呟くと桂も呆れた様に声を出した、昔に囚われすぎだと怒るのかと思っていたがそうではないようだ、桂はおもむろに自分の懐を探り出した、まさかと思いながら桂を見つめていると
「お互いバカらしい」
そう言いながら桂は教科書を掲げるように見せた後溜め息混じりにそう呟いた、そんな桂の教科書は私と同じように斬りつけた跡と血が付いていた、恐らく紅桜に襲われた時も持っていたのだろう、私と同じように……
「過去ばかり気にしていたらダメなのにね」
思わずそう呟いて私は自嘲的に笑った後懐から教科書を取り出す、風でパタパタと表紙が靡く音がどこか心地良さを感じさせる、記憶にある綺麗な教科書の姿とは程遠い血塗れの教科書だが手触りや思い出は何一つ変わらなかった