第二十一訓
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鴨が葱を背負って来る、まさに今の状況を指すのだろうか、いや山崎はこう見えてもなかなかに鋭い男だ、鴨ほど手応えが無い男ではないし何より私は絶対安静の身、こうして歩いている事自体おかしい事なのだ
驚いて何も言わない山崎に私はあくまでも冷静を装っていつも通りの口調で話しをする事にした、このまま山崎の腕から刀だけを盗んで走り去ってもいいが正直言って着替えが欲しい、病院服で高杉と対面したくはない、刀も着替えも手に入れるには山崎を何とか説得するか言いくるめて誤魔化すしか道はないだろう
「山崎、丁度いい所に」
「花無為さんもう傷は大丈夫なんですか?」
「あ、ああー、まあ立ち話もなんだし外に出ないか?外の空気吸いたいなぁ」
いつも通りの口調で話しかけたが山崎は直ぐに顔を強ばらせて傷口の事を聞いてきた、あまりにも真っ直ぐに聞かれるものだから思わず言葉を濁しそうになったがとりあえず看護師さん達の目もあるので外に出ようと提案すると山崎は疑いの目を向けたまま一緒に外に出てくれた、これで少しは逃げやすくなる、上手くいかなかったら必要な荷物だけ手にしてタクシーに乗り込んで逃げればいい
正面玄関を出て少し歩くとバスやタクシーを待つ為のベンチがあるのでそこに座る、山崎は少し違和感を感じて警戒しているのか持っていた荷物を自分の体の後ろに置いて座った、これには正直舌打ちをしたくなったが我慢だ、私の視線から荷物を隠す様に身体を動かして山崎は私の格好をジト目で見ながら口を開いた
「で、傷口は」
「ん、まあ塞がったよ」
「完全にですか?ちょっと体を動かしてくださいよ、脇腹の傷口から血が滲まないか見ますので」
「山崎、新手のセクハラか?」
「なんでですかッ!!」
早速傷口の事を聞いてきた山崎に素早く塞がった事を言うと体を動かせと言われてしまった、こんな状態で体を動かしたら滲む所か噴水の様に血が噴き出しそうだ、ただでさえ今朝伸びをしようとして痛みに悶えたと言うのに
ひとまず誤魔化したがこれで山崎の疑念はより濃くなったかも知れない、だからと言って言われた通りに体を動かし、文字通りの出血大サービスで血を噴き出させるのは良い手とは思えない
やはり山崎から私の荷物をひったくってタクシーに乗り込むしか手はないのだろうか、そう考えて思わず病院服のポケットに密かに忍ばせていた財布の存在を確かめる、確か中にはタクシーで出してもお釣りが出るくらいのお金は入っていた筈だ
「治ってない」
先程の山崎と同じくらい真剣な声色で私はそう言い切った、私があまりにも当然の事のようにシレッと言ったからか山崎は一瞬反応が遅れたが直ぐに言葉の意味を理解して驚きながらベンチから立ち上がった、そして私の怪我をしていない方の腕を掴むと
「病室に戻りますよ!!」
と切羽詰まった表情で私に向かって半ば怒鳴りながら言った、他人の怪我にこんなにも真剣になれるなんて山崎は良い奴だなと呑気に思いながらとりあえず山崎を落ち着かせる事にした
私の腕を掴んでいる手を落ち着かせる様に反対側の手で撫でると山崎は少し躊躇したがゆっくりと手を離してくれた、とりあえず座って話そうと言う意味でベンチをポンポンと叩くと山崎はゆるゆると腰を落とした
なんだか忠実に言う事を聞いてくれるので思わず笑ってしまいそうになるが、山崎が真剣な眼差しで私を見ているのでしばらくの間笑って茶化したり誤魔化す事は出来なさそうだ、思わず開きかけた口を閉じるとしばらく私達の間に気まずい雰囲気が流れた、今からすぐにでも病院を抜け出して高杉の所に行かないといけないのに予想外に山崎に時間を取られそうだ
「どうしてそんな無茶をするんですか」
気まずい雰囲気を破ったのは山崎で真剣な眼差しと半分心配するような眼差しで私を見据えたまま口を開いた、山崎の言葉に思わず目を見開いてしまうが確かに……と考えてしまう
私がこんなに無茶する意味はあるのだろうかと思ったが高杉が馬鹿げた事をする前に止めると決心したのだ、今更その決意を曲げる必要は無いだろうと感じるがここで止めなかった結果、もし高杉が誰かを手に掛けるような結末になったら後悔するのは私だ
「全部私の為だよ、私が後悔したくないからなんだ」
困った物だよと笑うも山崎は初めこそなにか言い返そうとした勢いだったがグッとそれを飲み込むと耐える様に身体を震わせる、怒鳴るのを我慢しているのだろうか膝に置いてある手は強く握られていた、山崎はギュッと目を瞑って歯を食いしばった後ガシガシと乱暴に頭を掻いた
そんなに我慢する事なのかと少しショックを受けそうになったが、山崎は数秒唸った後頭にやっていた手を降ろすと自分の背後に置いていた私の荷物に手をやった、カチャリと私の愛刀が音を立てたのを聞いて思わず肩がビクついてしまう
「本当は、花無為さんを行かせるべきではないと言う事は知っています……ですが……ですが、ここで花無為さんを引き止める事は俺にはできません」
山崎はゆっくりとした動作で振り返りながらまるで懺悔でもするかのような口調で話し出す、それを聞いてなんだか山崎に申し訳なくなってきて思わず顔を顰めてしまう、山崎が気病む必要なんてどこにもないのにと言いたい所だが正直このまま荷物を渡して欲しいので何も言わずにただ待つだけにする
山崎は私に荷物を手渡すとグッと瞼を閉じて辛そうに顔を顰めた、そんな山崎に礼を言ってベンチから立ち上がって病院の敷地から出るために歩き出す、正直早いところタクシーを使いたいがいきなりそれは流石にまずいと思いとりあえず敷地から出るまでは徒歩で行く事にしたのだ、背後から山崎の心配そうな視線を感じるが歩き続ける、もう決めたのだから