第二十訓
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(銀時視点)
鍛冶師の依頼で紅桜と言う刀を探し回っていた時、辻斬りに襲われそうになった新八とついでのエリザベスを助けて紅桜が辻斬りの手に渡っている事を知った、そして辻斬りが前に一度戦った岡田似蔵だと言う事が判明した
新八はエリザベスの依頼で辻斬りを、俺は鍛冶師の依頼で紅桜を、目的は違えど俺達が岡田似蔵に用があるのは一緒らしい、岡田似蔵と戦うために隠れていたゴミ箱から出る
「嬉しいねェ、わざわざ俺に会いに来てくれたってわけだ、コイツは災いを呼ぶ妖刀と聞いていたがね、どうやら強者を引き寄せるらしい……桂に裟維覇にアンタ、こうも会いたい奴に会わせてくれるとは俺にとっては吉兆を呼ぶ刀かも知れん」
月明かりに照らされて鍛冶師の言った通り刀身が淡い紅色を帯びていてる紅桜を片手にゆったりとした口調で話す岡田似蔵の言葉に思わず声を上げそうになったが、新八が俺の代わりに驚いた様に声を上げた
「桂さんと花無為さん!?二人をどうしたんだお前ッ!!」
先程奉行所の役人が斬られたのを見たせいか、新八の声は若干震えている様にも聞こえたが岡田似蔵は気にせずにまたゆったりとした口調で話し出した
「おやおや、おたくらの知り合いだったのかい、それはすまん事をした……俺もおニューの刀を手に入れてはしゃいでたものでね、ついつい斬っちまった」
「ヅラと花無為がテメェみたいなただの人殺しに負けるわけねェだろ」
「怒るなよ悪かったと言っている、あ……そうだ」
岡田似蔵の二人を斬ったと言う発言に我慢出来ずに怒りを隠さずに話すと岡田似蔵は全く悪いと思っていない口調で謝罪の言葉を口にしたと思ったら、思い出した様に懐を探り俺に鬼の首でも取ったかの様にそれを見せびらかしてきた
「ホラ、せめて奴らの形見だけでも返すよ」
そう言い目の高さまで掲げた物は、ヅラの髪らしき髪の毛と血塗れの真選組の警察手帳だった、髪の毛はご丁寧に白い紙で束ねられていて、警察手帳は付いている血がまだ少し濡れているのを見ると血がついてあまり時間が経っていない様だ
新八とエリザベスが驚いた様に息を呑む音が隣から聞こえてきたが、俺は岡田似蔵に意識を集中した、二人の物ではないとは思いつつも怒りが込み上げてくるのを感じた
「記念にとむしり取って来たんだがアンタらが持ってた方が奴らも喜ぶだろう」
ニタニタと腹の立つ笑みを浮かべながらそう言う岡田似蔵の言葉を遮る様に俺は走り出し、一気に間合いを詰めて木刀を振り下ろした、残念ながら俺の一太刀は受け止められたがお陰で奴の口も閉じて聞きたくない言葉をこれ以上聞かなくて済む
「何度も同じ事言わせんじゃねぇよ、ヅラと花無為はテメェみてぇなザコにやられる様な奴らじゃねぇんだよ」
「クク……確かに、俺ならば敵うまいよ、だが奴らを斬ったのは俺じゃない……俺はちょいと身体を貸しただけでね……」
怒りに任せて岡田似蔵に向かって言うと何が面白いのかクツクツと喉を鳴らして笑いながら岡田似蔵は話し始めた、一呼吸入れる度に岡田似蔵の腕が不気味に脈打つのが見えた、思わず目を見開いて腕を凝視する
脈打ちながら遂には岡田似蔵の腕に穴が空く、しかし血等は出て来る様子は無く、代わりにケーブルの様な物が不気味にうねりながら顔を出した、それは段々と肥大化して遂には木の根の様な状態になった
「なァ……"紅桜"よ」
岡田似蔵がそう言うと腕から伸びているケーブルの様な物はまるで返事をするかの様に脈打った、見ているだけでヤバい物だと分かるが負けるわけにはいかない手にしている木刀を握る力を強めた
結論から言えば紅桜を手にした岡田似蔵は以前とは全くの別人だった、同一人物とは考えられない程の力量の差だった、以前なら見切れた奴の動きが今は全く読めない、一瞬離れたかと思うと同じ人間とは思えないスピードで一気に間合いを詰めてくるのだ
二、三回紅桜を大きく振った次の瞬間切っ先を真っ直ぐ俺の顔面に向けて突いてきた、それを木刀を横に倒して防ぐが受け止めるのに必死な俺とは対照的に岡田似蔵は喉の奥でクツクツと笑っている、思わず距離を取る為に下がるが一瞬で移動したのではと錯覚する程のスピードで俺の目の前に現れた
「なっ!?」
思わず声が出た時下から上に紅桜が振られた、それを顔を仰け反らせて躱す、しかしそのままの勢いで紅桜は振り下ろされるのですぐに体勢を立て直して木刀で防ぐ、周辺の土が舞うが今は気にしてる暇もない、重たい一撃を受け止めたかと思うと奴はすぐに紅桜を降ろした後更に勢いをつけて俺目掛けて振り下ろす、一瞬当たったかとヒヤリとしたが紅桜は地面を斬っただけだ、しかしその衝撃で俺は少し飛ばされた
土埃が舞う、遠くの方で新八が俺を呼ぶ声が聞こえたが今は正直構ってられる程の余裕が無い、この土埃のせいで奴が今どこにいるのか分からない、しかしそれは奴も同じだ、土埃が晴れるのを待ちながら奴の気配を探る
一瞬紅桜の不気味な淡い紅色が見えた、しかし機械的な音を立ててそれは振りかぶられた、そして土埃の中から岡田似蔵がこちらに向かって一直線に走ってくる
「そこっ!!」
俺の首の高さで真横に振られた紅桜は背後の民家を斬った、咄嗟に身体を仰け反らせて避けたは良いが普段の堕落した生活で訛った身体には重労働だ、紅桜はすぐにまた俺目掛けて振り下ろされる、それを両手を使い木刀で防ぐ、体を動かして勢いを殺すが、岡田似蔵は紅桜を振り俺の木刀を退けようとする、二回目に振られた紅桜の勢いは強く、突風が吹いた様に体が飛ばされた
一気に橋の所まで飛ばされ、ヤツの方に目を向けたが目の前にはもう姿はなかった、思わず上を見上げると雄叫びを上げながら奴が紅桜を振り下ろしていた、橋が壊れ、背中から叩きつけられる様に川に落ちた、濡れる着物が肌に張り付いて鬱陶しい
「おかしいねオイ、アンタもっと強くなかったかい?」
紅桜の衝撃でポッカリと穴が空いた様に壊れた橋から岡田似蔵の声が聞こえた、完全に俺を挑発している声色でムカついてくる、少々乱暴に頬についている川の水滴を拭い橋を見上げる
「……おかしいねオイ、アンタそれ本当に刀ですか?」
奴と同じ口調で話しながらも自分の声が動揺を隠し切れてないのか少し震えていて心底嫌になる、不気味にチカチカと紅色が点滅する紅桜はもはや俺の知ってる刀ではなかった、少し前に地球防衛基地の店員や沖田が言っていた目撃者の言葉を思い出した"刀と言うより生き物みたいだった"冗談じゃない
「ありゃ生き物ってより化ケ物じゃねぇか」
思わずそう呟くが岡田似蔵は容赦なく橋から落ちる勢いを利用して紅桜をこちらに向けて振り下ろして来る、衝撃音と共に新八の声が聞こえた、身体を倒して川の水を利用して奴の背後に移動する
奴の頭目がけて木刀を振ったが腕と紅桜で防がれた、しかし元々当てる事が目的ではない、木刀に意識が向けられた隙に足元に目を向けて体勢を崩させる為に足首を蹴る、堪らず倒れた岡田似蔵の手首を踏み付けた
「喧嘩は剣だけでやるもんじゃねぇんだよ!!」
そう叫び木刀を振りかぶる、あとは岡田似蔵目がけて振り下ろすだけだと思ったが岡田似蔵は静かに口元を釣り上げた、嫌な予感がした、紅桜からシュルルルルと気味の悪い音がしたかと思ったら木刀が拘束された、振り下ろそうとした動きが固定される
思わず視線を岡田似蔵から逸らしてしまった、その隙を突かれ腰辺りを膝蹴りされた、衝撃と痛みが襲って来てバランスを崩してしまった、俺が転ぶのと同時に奴は起き上がり俺に向かって走ってくる、殺気を感じて慌てて振り向く
「喧嘩じゃない……殺しあいだろうよ」
そう言い終わると岡田似蔵は勢い良く紅桜を横に薙ぎ払った、それを慌てて木刀で防いだが一際大きな衝撃音が響いた時木刀が嫌な音を立てて折れたのが見えた、思わず目を見開いてしまうが衝撃でそのまま俺を壁に叩き付けた、肺の中の空気が強制的に吐き出される
痛みで意識が飛びそうになるが新八の声が聞こえてなんとか持ちこたえた、木刀無しでどうやって戦うかと思考を巡らせようとした時腹部より少し上の胸部辺りに違和感を感じた、視線を向けた瞬間ブシュッと肉が裂ける音と共に鮮血が噴き出した、少し血の気が引いたのは気の所為ではないだろう
「オイオイ……こりゃヤベ……」
思わず苦笑いしながら呟いたが途中でまた殺気を感じ顔を上げた、気味の悪い笑みを浮かべた岡田似蔵が紅桜を俺の頭目がけて突こうとしていた、傷口の状態を見るために屈めていた身体を半ば無理矢理持ち上げて急所にならない箇所に当たるように移動する
しかし衝撃はモロにくるので背中には全体的に激痛が走る、刺された部分は脇腹辺りだ、口から血が吐き出されるので見た目は痛そうだが見た目程痛みはない筈なので俺の体はまだ動く筈だ、そう信じたい、そうでなければ誰がアイツらを守る?
衝撃からか脳みそが揺さぶられて焦点が定まらず酷い耳鳴りがして実に気持ち悪い、雰囲気が雰囲気ならこのまま吐いても良いくらいの気持ち悪さだが残念ながら口から出てくるのは自分の真っ赤な血液だけだ、昔は鬼と揶揄された俺でも血は赤いのだ、そんな事はどうでもいい、まずはこの脇腹にぶっ刺さっている紅桜をどうにかしないといけないのだ
歯を食いしばりながら時間差で襲いかかって来た激痛と気持ち悪さに耐えながら紅桜に手を掛ける、岡田似蔵は意識の遠くの方でペラペラと俺達の過去の話をしている、もう終わった事なのだ、いつまでもほじくり返して何になると言うのだろうか
「士道だ節義だ、くだらん物は侍には必要ない、侍に必要なのは剣のみさね……剣の折れたアンタ達はもう侍じゃないよ……」
岡田似蔵のその言葉に思わず折れてしまった自分の木刀に目を向ける、新しいのをまたテレビショッピングで買わないといけないと思いながらもふと"残りの剣"の事について思い出して口元が密かにつり上がった
「惰弱な侍はこの国から消えるがいい…」
勝ち誇ったように笑いながらそう言う岡田似蔵を見て決心が着いた、完全に倒せるとは思えないがやってみる価値はある、そう決心して脇腹辺りの紅桜をグッと抜けない様に掴んだ、岡田似蔵が驚いたように顔を顰めたのが見えた
「剣が折れたって?剣ならまだあるさ、とっておきのがもう一本」
ミシミシッと音を立てる程紅桜を掴んでいるので痛みがジワジワと湧き上がってくるがこれで岡田似蔵は動けない、そして思っていた通り頭上から人の気配を感じた
「ああああああああ!!!!」
橋から飛び降りたのか新八が叫びながら頭上から現れて刀を振るう、慌てて身を引いた岡田似蔵だが肉が裂けて千切れる嫌な音がした直後川にそれが着水した水音が響いた、紅桜が身体から離れて力が抜けてそのまま壁にもたれかかるが足に力が入らずズルズルと座り込んでしまった
そんな不甲斐ない俺を守る様に新八が前に立ち岡田似蔵に刀を向ける、いつもはあんななのに頼もしくなってしまったなぁと思いながらも岡田似蔵の動きに目を向ける、少しでも新八に危害を加える素振りを見せたら俺が盾にでもなんでもやってやる
そんな覚悟を決めていても身体は動いてくれそうにないのでどうしようかと考えを巡らせていた時だった、奉行所かどこかの警笛の音が響き渡った、それに勝負の邪魔をされたのが気に障ったのか岡田似蔵はのらりくらりとした足取りでいつの間にか元の大きさに戻った紅桜を拾い上げて暗い闇の中に消えて行った
それを見届けると危機が去って安心してしまったのか身体を起こしている事が困難になり倒れ込んでしまった、その音に気付いて新八が何度も俺の名前を呼びながら駆け寄って来た
「ヘッ……へへ……新八ィ……お前はやれば、できる子だと……思ってた…よ……」
慌てる新八を安心させようといつもの様に茶化してやろうと気の抜けた言葉を掛けようとしたが言い終わる前に意識が朦朧としてきて、結局全て言えたか分からないまま意識を手放してしまった