第十八訓
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お登勢さんはその後酒瓶を片手にカウンターから私の隣の席へと移動した、またお猪口に注ぎながらお登勢さんは自然に話を進めていく、流石スナックのママと言った所か
お登勢さんならどんな話でも受け止めてくれる様な気がしてならない、それ程懐が大きい人に感じるのだ、無論実際重い話などはしないがある程度の悩み事なら聞いてくれそうだ、今話している他愛のない話でもこんなにも膨らむのかと感心してしまう、お登勢さん以外の人と話したらこんなにも話は膨らまないだろう
お猪口の何杯目かのお酒をグイッと飲み干した時、お登勢さんは何かを思い出したように私の手に手を伸ばし、労わるように擦りながら伏し目がちに口を開いた
「アンタも女なんだから、無理するんじゃないよ」
そう言うお登勢さんはどこか憂いを帯びていて私は思わずお猪口を落としそうになる、お猪口を持ち直し落とさないようにカウンターに置きながらお登勢さんの方を向く
「大丈夫ですよ」
「本当かねぇ?アンタみたいなのが一番無理して自分の事は後回しにして傷付いていくんだよ」
「そんな事はないですよ、ちゃんと自己管理はしてますし……無理しない程度に頑張ってますから」
「……花無為、アンタは銀時と同じ匂いがする、そう言えば少しは私の言ってる意味が分かるかい?」
お登勢さんはそう言うとフッと笑って私の手を離し腕を組んでこちらを見てきた、銀時と同じ匂いと言われてどこか納得する自分がいた、銀時もどちらかと言えば自分の事は後回しに考えるタイプでそんな所を私はよく心配していた、今のお登勢さんは銀時を心配する私と同じ気持ちになっているのだ
言い訳が思いつかず俯いてしまうがお登勢さんは顔を上げろと一言言い放ち私と自分のお猪口に日本酒を注いだ、そしてグイッと飲み干すと軽くお猪口をカウンターに叩き付けてまたこちらを見た
「自分は大切にしな、じゃないといざって時助けれるモンも助けられなくなるよ」
「ごもっともです……」
まるで母親に怒られる子供の気分だ、お登勢さんの言ってる言葉がズシリと重みを持って心に刺さった、特にお登勢さんには高杉との一件でお世話になっているのだ、どこまでも頭が上がらない
私が反省をしているのを見兼ねてかお登勢さんはそんなに落ち込む事はないと笑いながら言ってくれた、その笑顔に私も小さな笑みが零れる、お登勢さんはやはり優しい人だと改めて思った
注意するだけでなくその後のフォローもしてくれてそれでいて説得力がある、流石二十年と少ししか生きていない私とは違う
「まあ、程々に頑張りな、真選組として江戸の市民を守りなよ」
「はい、もちろん」
私にそう言うとお登勢さんは慣れた手つきでタバコを咥えて火をつけた、その動作もどこか凛としていて思わず目が奪われる、副長とは違う銘柄なのか嗅いだ事ないタバコの香りが漂ってくる
私はお酒を追加してグイッと飲み干す、アルコール度数が高いのか喉が一瞬熱くなるが気にせずにもう一杯注ぐ事にした、ついでにお登勢さんの分も注ぐとお登勢さんはタバコを持ってない方の手を挙げてお礼を言った
「ババア、パチンコで当たったから今月分の家賃持ってきたぜ」
気の抜けた声が聞こえ玄関の扉が開いたのはその直後だった、"ババア"と呼ばれたお登勢さんだが気にせずに声がする方へ顔を向けた、それにつられて私も顔を向けると思っていた通りの顔が見えた
相変わらずの銀髪の天然パーマで死んだ魚の目をした銀時だ、両手にはパチンコの景品のお菓子が入った袋を抱えているのでどうやら行儀悪く足で扉を開けた様だ
「珍しい事もあるもんだねぇ」
「まあな、俺も驚いたぜまさかあの赤保留から大当たりするなんて……って花無為なんでこんな所にいるの?」
タバコの火を消しながらお登勢さんが立ち上がり銀時に近寄る、話からしてこうして家賃を払うのは珍しい事の様だ、銀時はいかにしてパチンコで大当たりを取ったか自慢げに話し出すが私の顔を見ると驚いた様に声を上げた
「この間の怪我の手当てのお礼に」
「酒飲んで?」
「それは成り行きでだ」
銀時は私が飲んでいたお猪口をジロジロと見ながら言ってくる、そんな銀時からお登勢さんは家賃を催促し始めた、それを宥めつつ銀時は私に抱えていた景品が入った袋を押し付けた、急に来た衝撃と重さに顔を顰めながら中身のお菓子を落さない様に袋を持ち直し、ソファーにゆっくりと降ろしついでに私自身もソファーに腰掛けた
とりあえずお登勢さんと銀時の話が終わるのを待つ事にして、私は袋の中から棒付きキャンディを取り出して口にくわえた、広がるレモンの味に思わず目を瞑った