幼少期
name changes
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
銀時、高杉、桂……この三人は私が想像していた通り、良く気が合い、稽古もしながら一緒に遊ぶ事もあった、高杉と一緒に桂で遊んだり、銀時と一緒に昼寝したり、桂をヅラとバカにして川に落とされたり、先生も連れて祭りに行ったり、閃光花火競争したり……
他人と馴染めずにいた私が、最近は先生に四人で遊んだ事を話すのが日課になっている、化け物だと母親に言われ続けていたのに、近付いたら呪われるだのと周りの人から疎まれていたのに、そんな私もこうして普通の人間らしく過ごせる様になった
「先生ェ」
先生の部屋の襖を開け、何かの本を読んでいた先生の着物を掴んだ、すると先生は本に栞を挟んで私の方を向いてくれる、先生の綺麗な髪の毛が傾き始めた太陽の光で反射する、それがとても綺麗でいつも目を奪われてしまう
「どうしました花無為?」
「あのねぇ今日もまた四人で遊んだんだ」
ヘラリと笑いながら先生にそう言うと先生は微笑みながら私の頭を撫でてくれた、この手が私は大好きだ、いつも優しく私を撫でてくれるこの手が、偶に拳骨を食らう時もあるけれどそれは先生の愛情故の物だと分かっている
この手から様々な事を教えてもらってきた、大好きな大好きな先生の手……
先生が優しい手付きで私の頭を撫でてくれるので、気持ち良さに思わず目を細めてしまう、しばらくすると不意に先生の手の動きが止まった、どうかしたのかと目を開けて顔を上げる
「花無為、この数ヶ月で貴方は本当に変わりましたね……」
先生は少し嬉しそうに微笑みながら私にそう呟いた、私が変わった事を先生はまるで自分の事のように嬉しそうにしてくれる、私はなんだかそれが嬉しいような恥ずかしいような気持ちになり思わず自分の頬を掻いてしまった、こう言うのにはまだあまり慣れてない
「……そう?」
「ええ、明るくなりました」
先生の言葉を聞いて気持ちがスッと軽くなった気がした、私は変われている、あの頃よりも確かに成長しているのだと、このまま大きくなるまで松陽先生、銀時、高杉、桂とずっと一緒に過ごして行くのだと思うと自然と口角が上がるのが分かった
明日はどんな遊びをしよう、どんな事を三人に話そう、明後日は明明後日は……また来る日常の予定を私は先生に聞かせる、先生は時々相槌を打ちながら私の頭を優しく撫でてくれた、この時間は幸せだ、こんな幸せな時間を私はこれから先もずっと過ごして行けるのだ
そんな事を思っていると、再び先生の手が止まった、そしてゆっくりと先生は私の頬を両手で優しく包み込むようにして自分の方に顔を向けさせる、先生の優しい瞳に少し気の抜けた私の顔が写っているのが見えた
「花無為、一つ約束をしてくれますか?」
「約束?」
先生の瞳はこんなにも綺麗なんだなぁと思いながらボーッと眺めていると、先生はゆっくりと瞳を瞑りながらそう言ってきた、思わず先生の言葉を聞き返すと先生は静かに頷いた後、再び目を開いて話し出す
「ええ、花無為がもっと人との繋がりを楽しめるように……」
「人との繋がり……?」
先生の言ってる事がよく分からず思わずポカンとしてしまう、しかしそんな私を他所に先生は真剣な表情をしていた、先生がそんな表情をするので、気の抜けていた私もしっかりと先生の言葉に耳を傾ける
これから先生が言う事を忘れない様にと心に決めながら
「人から借りた恩は必ず返す事、そしてそれ以上に仲間を助ける事……そうすればもっと人との繋がりが出来て仲間も沢山出来ます、そしてその人は大きくなれるんですよ」
先生はそう言うが私はまだ良く分からなかった、こういう時に頭の良い人は先生の言葉をスッと理解できるのかと思いながらも先生の言葉に疑問符を飛ばす
「つまり……どういう事……?」
「ふふッ、人を大切にする事です、助ける事が出来る人を一人でも多く………ね?花無為ならきっとそれが出来ますよ」
首を捻りながら聞き返す私に先生は軽く笑った、そして私にも分かるように先程の言葉を簡潔に伝えてくれた、まるで授業中分からない生徒に教える時のように優しく伝えてくれる先生のお陰で私はようやく言葉の意味を理解した
そして教えられた事を忘れないようにと心に留めた、きっとこの先、私は一生この言葉を忘れないだろう、理由は分からないが何故かそう感じた
「分かったよ先生、私は借りた恩は必ず返すし仲間も見捨てない……約束ね」
「はい、約束です」
先生にそう言いながら私は静かに小指を差し出した、約束をする時はゆびきりげんまんをするのだと教えられたから、そんな私の指に先生の小指が絡まる、ギュッとおまじないを掛けるように小指同士が強く絡まった
先生の指は細くて暖かくて……私は本当にこの人が大好きだ、いつまでも笑い合える、いつまでも一緒に……そんな日がずっと続くと思っていた、思っていた筈なのに
ある日先生は見知らぬ奴らに連れて行かれた
私の身体には縄が巻かれて身動きが取れない状態で、更には行く手は笠を深く被り顔が見えない奴らのせいで阻まれる
「先生ェェェ!!」
「離せよ!!先生が何したって言うんだ……離せェェェ!!」
銀時の叫び声の後に私達を押さえつける奴らに怒鳴りつけるがそれでも阻む手は退かない、それどころか先程より強く押し付けられる、息が苦しくなってきて遂には咳き込んでしまうが私は先生に向かって声は上げ続けた、離れたくない一心で
手を伸ばせば届く距離に先生がいる、それなのに私は助けられない、もどかしさにギリッと奥歯を噛み締めた、私の耳にパチパチと何かが焼ける音が聞こえてくる、背後に視線を向けると松下村塾に火の手が上がっていた、毎日が楽しくて堪らなかった、ずっと一緒に、ずっと幸せに暮らして行けると信じていた松下村塾が燃やされている
そこは私にとっての地獄だった
私と銀時は必死になって連れて行かれる先生を止めようとするが、数歩先で先生はゆっくりと振り返った、その表情は私達とは違い落ち着いていてまるでこの出来事が嘘なのではないかと思える程だ、思わず目を見開いて先生を見据えてしまう
「銀時、花無為……大丈夫ですよすぐ帰ってきます、約束です……銀時皆をお願いします、花無為私との約束守って下さいね……」
先生はいつもとは少し違う声色でそう言った、私達を落ち着かせるような、穏やかな声に先生の言葉は自然と耳に入っていく、しかしそんな声色で何かを伝えられてしまってはもう先生と二度と会えないのかと感じてしまう
背後から降ってくる火の粉が先生の顔をぼんやりと照らす、一瞬先生がとても悲しんでいるように見えた、そんな先生の表情を見た私の両方の目から自然と涙が溢れ出る
先生は再び私達に背を向けたが、小指だけはしっかりと伸ばしていた、いつか交わした先生との約束を思い出す、涙で前が霞んで見えなくなっていく
「「松陽先生ェェェェ!!!!」」
私と銀時の叫び声は炎のせいで少し赤みを帯びた夜空に消えていく、そして先生もまた笠を深くかぶった黒服の連中に連れ去られてしまった