幼少期
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家を飛び出した私は、死体の山を漁り生活していた、母親はもういないこれからは自分で生きていくのだ、雨風は凌げる廃墟のような建物で夜を明かしては死体から物を剥ぎ取る、刀も死体から剥ぎ取り、浪士などにも会ったとしてもすぐに対処出来るようにした
ある日いつも通り死体を漁っていた時、なんの前触れもなく背後から人の声がした、人間の気配には注意していたのに背後を取られるとは思ってもみなかった
「君はいつも死体の山を漁って生活してるのですか?」
「ッ!!!?…………誰?……」
慌てて振り向き刀に手をやりながら話しかけて来た人間の顔を見据える、軽蔑の目を向けられていると思っていたがその人は驚いた様な表情で私を見ていた
「その声は……もしかして君は女の子……?」
「…………」
その人は少しだけ目を見開いて私の性別を聞いてきた、それに嘘を付く必要もないのでゆっくりと頷き答えるとその人はとても辛そうに顔を歪ませた、もしかしたら体調でも悪いのだろうか、だとしたら逃げるのに好都合なのだが……
普段なら大人と関わっても面倒なだけなのでさっさと逃げ出すのだが、私はなんとなく逃げ出す事は出来なかった、私を見てまるで自分の事のように辛そうに顔を歪ませるこの人の事が無意識の内に気になっているのかもしれない
「怖くないの?こんな場所に独りでいるなんて……家族は?他に誰か居ないのかい?」
「…………お母さんは私に向かって"消えろ"って言ったんだ……だから家から飛び出した」
「……そうか、なんて酷い事を…………辛かったね……」
独りで居るのは怖くないと言ったら嘘になる、廃墟のような建物で寝るのは幽霊が出てきそうで怖いし、何よりも寂しい、しかし私の家族は……母親はこの世から消えろと私に向かって言ってきた、死んでも良かったがなんとなく怖くて今はただ生きているだけ……
それを伝えるとその人の辛そうにしていた表情が驚いた表情に変わり、また眉を顰めて辛そうな表情に変わった、よく表情が変わる人だ……なんて思っているとその人は不思議そうに首を傾げて私に尋ねてきた
「髪が白いですね?不思議な色だ……いつから?」
「…………元から……生まれてからずっと……皆は呪いだとか祟だって言うけど、私は知らない」
「あぁ……」
あまり答えたくなかった質問だったが私は答える事にした、髪の毛の次は目の事を聞かれるかもしれないと思ったが包帯を巻いているので気付かれないだろう、そう思っていたがその人はその場でしゃがみ込み私の顔を覗き込んだ、私を見据える真っ直ぐな瞳に思わず肩が竦んでしまう
「その目は怪我しているの?」
「……違う、人と違うから……隠してる」
「隠さなくても良いと私は思うけどなぁ……見えづらいだろう?」
「……隠さないと……気味悪いって、怒られるから……」
やはり無理矢理隠している目について尋ねられてしまった、この人の真っ直ぐな瞳に見つめられると何故か素直に答えてしまう、普段なら他の人間にこんな事を聞かれたらその時点で逃げ出しているのに
白い髪に人とは違う目……もしこの人に隠している目を見せたらどんな反応をするのだろう、他の人と同じ様に驚いて逃げ出すのか、それとも怯えるのか、気持ち悪いと罵倒するのだろうか
この真っ直ぐな瞳が壊れる事はあるだろうか
気が付くと私は包帯の結び目に手をかけていた、ゆっくりと結び目を解いていく、その間その人は変わらず私を真っ直ぐな瞳で見据えていた、パサリと音を立てて包帯が地面に落ちる、ゆっくりと白い睫毛が生えている瞼を開いていく
「……どう?気味悪いでしょう?」
自嘲気味に笑いながらそう言った、今この人の目には私の瞳孔が縦に伸びた黄色の目が映っている筈だ、どんな反応をするのか少し楽しみだと思っていたが私の期待は外れた
真っ直ぐな瞳は崩される事なく、相変わらず私を見据えたままだった
「そんな事ないよ、綺麗な目だ」
「ッ……!!そんな嘘はやめて!!気味悪いって正直に言えよ!!」
「気味悪いなんて思うわけないじゃないか」
私に向かって微笑みながら"綺麗"だと言う、予想外の言葉にどうしていいのか分からずただただ狼狽えてしまう、そんな私に笑顔を向けるこの人は一体何者なのだろう
「君が良ければ私と一緒に来ないか?私はここから少し先へ行った場所で寺子屋をやってるんだ」
ゆっくりと立ち上がり手を差し伸べながらそう言われた、何故急にそんな事を言うのか分からず顔を顰めて首を傾げる、するとその人は私の反応を見てクスクスと笑い出した
「その刀の本当の使い方を知っているかい?」
「……知らない」
刀の使い方は"斬る"それだけだがこの問い掛けが聞いている事はそう言う事ではない、もっと意味のある事だと察した、刀はただの人斬包丁、しかしそれだけでは無いとこの人は言いたいのだろうか
先程この人は寺子屋をやっていると言っていた、きっとそこでは刀の本当の使い方とやらを教えているのだろう、他の人間と比べて少し細身の体型のこの人が剣術をやるとは思えないが……
「良ければ私に着いておいで、寺子屋……松下村塾に歓迎するよ」
「松下村塾……でも寺子屋なんて、他の人達が居る……きっと皆怖がるよ」
「そんな事ないよ、皆優しい子ばかりさ……それにもし何か言われても私が怒るから大丈夫」
「……アンタが怒っても怖くなさそう」
「ハハハッ、私は怒ったら怖いんですよ、拳骨もかなり痛い、皆きっと大泣きするよ」
松下村塾と言うのが寺子屋の名前らしい、一瞬惹かれてしまったが寺子屋と言う事は他の子供もいる訳で、異端である私が混ざって良い場所では無いと思い首を振った
しかし何か言われたら説教と拳骨をすると言われた、正直優男っぽいこの人が怒る姿が想像できないが、ニコニコと笑いながら拳を握る辺りちょっと怖い人なのかもしれない
「どうですか?」
首を傾げ優しい目を向けながら問い掛けられる、正直言うとかなり迷っている、この人も母親と同じ事するのでは?私を化け物と罵り暴力を振るうあの母親のように……そう思うと首を縦に振れない
ただ……一つだけこの人が母親と違う事があった、この人の目は母親とは違う、真っ直ぐとした鋭い目なのに、どこか優しさがある……そんな目だ、私の気味の悪い目を見てもその目は揺らがなかった
この人なら……この人の事なら信じられるかもしれない
「……いいよ、アンタについてく」
私はこの人を信じてみる事にした、死体から離れてその人の元へ歩みを進めた、嬉しそうに優しく微笑む表情にどんな反応をして良いのか分からない
「ほら」
隣に立った私に向かってそう言い再び手を差し伸べるその人の行動に私は首を傾げてしまった、差し伸べられた手に私はどうすればいいのだろうか、その人の顔と差し伸べられた手を交互に見ているとその人は苦笑いをした後私の手を優しく掴んだ
手を握られたと理解するのに時間はかからなかった
「……ッ!!!!」
初めての感触だった、人と手を繋いだ事なんて今まで無かったから、他人の手はいつも私に痛みを与えていた筈なのに、今はこんなにも優しく温かい感覚を与えてくれている
私は他の人の温もりが嬉しくして、あまりにも温かくて泣いてしまった、私と初めて手を繋いでくれた人はそんな私をただただ黙って松下村塾まで連れて行ってくれた