神様へ
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世間は夏休み駐屯地も軽い夏休みが入り、この時期の駐屯地は帰省する人や残る人で少しバタバタする時期でもある、つい昨日も人手不足が起こり今日のオフは休みたい一心である
しかしいつも通りの起床時間の鐘は鳴る、いつも通り飛び起きて身支度を済ませる、そこでふと今日は訓練が無い事に気がついた、小さくため息をつきベッドに腰掛けた、もう一眠りしようかと思ったが普段の規則正しい生活により目はすっかり覚めてしまっている
気分転換にと部屋から出て休憩室へ向かう、幸い今は喫煙者は居ないようで煙草の残り香が漂うだけだ、休憩室のソファに腰掛けホッと一息つく
その時なんの前触れもなく急に頭に誰かの手が置かれた、ビクリと肩を揺らす間もなくその手が左右に強く揺さぶられ、私は髪の毛がボサボサになるほど頭を撫でられた
「わぁあ!?」
「アハハッ気の抜けた声だなナマエ」
髪の毛をボサボサにされた事や急に頭を撫でられた事により私の喉からよく分からない悲鳴が出された、その悲鳴を聞いたらしい声の主が笑いながら私の前に移動してきた
ボサボサになった髪の毛を手櫛で直しながら見上げるとそこにはやはり沖田さんがいた、入隊してからやたらと絡んでくる上司でそれは私だけでなく全員平等に交流している、なんとも人懐っこい人だ
沖田さんはヘラヘラと笑い髪の毛の事を謝りながら私の隣に座った、格好を見ると私服なのでどうやら沖田さんも今日はオフらしい、そう言えば沖田さんの私服を見るのはこれが初めてかもしれない
「もう夏か、早いなぁ」
「そうですね、沖田さんは帰省しないんですか?」
「独り身は帰省より職場に居た方が楽しいの、そう言うナマエは?」
「私はこの次の長期休暇に帰ります」
沖田さんと話していると自然と会話は弾んでいく、それはこの人の人柄や会話能力が影響しているのだとしみじみと感じる、上司と部下の関係性をいい意味で無くして話しやすい距離感を保ってくれるのだ
不意に沖田さんが立ち上がり休憩室の一角にある自販機を操作してレモンティーを私に投げ渡した、ミスをしないようにそれを受け取りお礼を言うと沖田さんは自分の分のコーヒーを取り出しながら奢りだと笑ってくれた
もう一度お礼を言い蓋を外しゆっくりと飲む、室内にいてもやはり暑いようで自分の身体とは温度が違う冷たい液体が喉を通って行くのを感じた
「……冷たい……」
「暑いと体調崩しやすくなるからな……ところでナマエ、そのレモンティーのお礼と言ってはなんだけど……」
「……元からそれが狙いでしたね沖田さん」
「バレた?」
レモンティーを飲み込みホッと一息ついていると沖田さんがまた隣に座りプルタブを開けながら遠回しに断れない頼み事をしてきた、沖田さんはよくこの手をやる、この間も永井さんが餌食になりおやつ唐揚げのお礼として資料室の掃除を頼まれたらしい
きっと沖田さんはこうして上司と部下の上下関係を教えているのかもしれない、その点では尊敬するが物と頼み事が釣り合ってないのがなんとも言えない
果たしてこのレモンティーにはどれ程の量の仕事が込められているのかと少し心配になった時、沖田さんが少し考えるような素振りをしてから私に笑いかけた
「今日の夜さ、一緒に浴衣着て夏祭りに行かないか?」
「……は?」
「こんなオジサンと行きたくないのは分かるよ、でもこの間掃除してたら着てない浴衣出てきて……ナマエも確か浴衣持ってたって永井から聞いてさ、このままタンスの肥やしにするのも嫌だけど一人ってのも嫌だしな」
私が思わず聞き返すと慌てたようにツラツラと弁明の言葉を述べる沖田さん、その姿に思わず吹き出しそうになるがぐっと堪える、それと同時にもう少し沖田さんを困らせてみたいと言う欲が出てくる
普段は冷静で落ち着いている雰囲気の沖田さんがこんなにも慌てるのが珍しいのでもう少し見てみたいと言う気持ちがあるからだろう、そうと分かればあとは沖田さんが困る一言を発するだけだ
「えっと……二人で、ですか?」
困った素振りをしてなるべく戸惑った時のようなか細い声をして沖田さんにそう言うと、沖田さんは一瞬身体をビクつかせてから完全に硬直してしまった、その表情は明らかにショックを受けている表情だ
あの沖田さんがこんなにもコロコロと表情が変わるなんてなんとも面白い事だろうか、何も言わなくなってしまった沖田さんを見て私は笑いを堪えきれずついに吹き出してしまった
一度笑ってしまうともう止まらなくなってしまいクスクスと笑い続ける私を沖田さんの困惑した目が見つめてくる、顔を上げて沖田さんの方を向くとまだ何が起きたのか分からないような表情をしている
「冗談ですよ、ちょっとからかっただけです、夏祭り行きましょうか」
私がそう言うと沖田さんは困惑していた表情をコロリと変えて嬉しそうに笑った、しかしふと何かを思い出したのか少し考えるような素振りを見せた
「良かった……けど、それってつまりナマエは上司の俺をからかって遊んでたんだよな?」
良かったと安堵するような溜め息を吐いた時は嬉しそうな表情だったのにも関わらず沖田さんはまた表情を変えて少し怒った時のような低い声を出した、まずいと思ったが時すでに遅し、沖田さんは私の頭を両手で掴むとワシワシと撫で回した
先程手櫛で直した髪の毛はあっと言う間にぐしゃぐしゃにされてしまった、それを悲鳴を上げながらも直していると不意に沖田さんが笑い出した、何を笑っているのかと少し怒りを感じたが沖田さんは私から離れ
「じゃあ夜な、五時くらいに俺の部屋来てくれればいいから」
と言い残して飲み干した缶コーヒーをゴミ箱に投げ入れてそのまま休憩室を出て行った、沖田さんの背中を眺めながら私は恥をかかないようにしなければと再び手櫛で髪の毛を整えながら思った
部屋に戻り、収納ボックスの中を探るとクリーニングに出してから一度も触ってない浴衣が出てきた、帯なども見つけてあとは着るだけ、着方はうろ覚えだが覚えているはずだ
念の為祖母に電話してなんとか浴衣を着る事が出来た、髪の毛は不器用な私には軽くまとめる事しか出来ないが中々良い出来になっていると思う、数少ないメイク道具を駆使して沖田さんの隣を歩いても恥ずかしくない様に仕立てあげ、荷物なども整えているとあっと言う間に四時だ
あと一時間だが支度はもう済んでいる焦る必要はないだろう、沖田さんの急な誘いによって少しバタバタとした休日だが嫌な気はしない、上司として憧れの存在の一人である沖田さんと一緒にどこかへ行くのだけでも嬉しいのだ
「……変じゃないよね……?」
結局私は五時になるまで鏡の前で身なりを整え続けていた、その甲斐もあってか今までで一番素敵な出来になっていると思う、時計を確認してから私は部屋を飛び出して沖田さんの部屋へと向かった
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