巡り巡って
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今日も厳しい訓練を終えて休憩していると沖田さんがどこからともなく現れてタオルを差し出してくれた、それを少し緊張しながら受け取ると沖田さんはいつもの私が大好きな笑顔を見せて笑った
クシャリと笑うその笑顔は、目元に少しシワができる、沖田さんはよく笑う人だからその目元のシワが笑ってない時でも薄らと跡になっているのを私は知っている、その跡が沖田さんの年齢を表している様な気がして年の差を感じ少し切なくなる
沖田さんから貰ったタオルで汗を拭き、持っていた水筒の水をグイッと飲むと疲れた体が生き生きとしていく気がした、ぷはっと水筒から口を離すと沖田さんは微笑みながら拍手をして
「いい飲みっぷり」
と茶化す様な声色でそう言った、いつもより顔が熱いのは訓練で体を動かしたせいではないだろう、思わず沖田さんの肩を軽く叩きながら茶化さないでくださいと言う、そんな私を見てまた沖田さんは笑った
沖田さんはよく笑う人だ、士長の永井君が上官に小声で文句を言った時も、三沢三佐が真顔で冗談を言った時も、沖田さんはいつも笑っていた、そんなに笑うから目元にシワが出来るのだと心の中で少し悪態をつく
「訓練を頑張るのはいいが、無理はダメだぞ」
「え?」
ふと沖田さんが私の目を見てそう言った、いつもとは違う真剣な表情に思わず胸が高鳴るが私はそれよりも沖田さんの言葉が気になった、思わず聞き返してしまうが仕方ないだろう
沖田さんは私が聞き返したのを聞いて、真剣な表情のまま自分の目の下を指さした、沖田さんの目の下には特に何も無いが私は違う
「クマ、ダメだぞナマエ折角可愛い顔なのに」
「す……すいません……」
「どうせ一藤さんだろうけどな、上官だからって夜中まで飲むの付き合わなくていいんだぞ」
「そうですね……でも、昨日は私が相談してたんです、まあ後半から一藤さんの愚痴になりましたが」
私の目の下には沖田さんの言う通りクマがある、昨夜一藤さんに誘われて晩酌をしたのだが盛り上がってしまい深夜まで語り合っていたのだ、訓練の事を思い出したのは既に日付が変わっていた時間だった
少し眉を釣り上げる沖田さんに謝りながらも昨夜の晩酌の内容を軽く話すと沖田さんは釣り上げていた眉をあっという間に下げて楽しそうに笑った、それよりも私は先程の沖田さんの言葉にまた心臓が高鳴ってしまったせいで落ち着かない
"可愛い顔"沖田さんは確かにそう言った、それがお世辞だとしても私としては嬉しいもので、どうしても心臓が反応してしまった、誰だって憧れている想いの人にそんな事を言われたら心臓が高鳴るだろう
「……」
「あの……沖田さん?」
自分の心臓を気にしているとふと視線を感じ沖田さんの方を見ると私の方をジッと見ていたが視線はどこにも合わない、どうやら考え事をしているようで思わず名前を呼んだ、すると二三回素早く瞬きをしたあとキョトンとした顔でこちらを見た沖田さん、沖田さんがそんなに考え事をするなんて珍しいと思いながらどうしたのかと聞いた
すると沖田さんはいつもの様に微笑み、少しだけイタズラをした時の子供の様な無邪気な笑顔をして内緒だと言いそのままどこかへ行ってしまった、少しだけ悲しくなったが沖田さんには沖田さんの用事があるのだろうと割り切り、また少し滲んできた汗をタオルで拭いた
そう言えば明日は物資輸送訓練だと思い出し、もう一度荷物の整理をする事にして部屋へと向かった、荷物の整理が終わるとすぐにご飯の時間になったので友達と食堂へと向かった
「いつもより混んでるね」
「まあ、明日輸送訓練だし皆気合入ってるんだよ」
「そう言えばナマエも行くんだっけ?」
「うん、頑張るよ」
友達と同じ献立を選び隣同士に座りそれぞれのペースでご飯を食べていく、いつもより混んでいると溜め息混じりに言う友達に明日の訓練の事を言う、すると自然と話題は明日の事についての話になる
白米を半分程食べ終えた時、友達が何かを思い出したように声を上げたので思わず隣を見た、すると友達はニタリと少し気味の悪い笑みを浮かべた、友達がこの笑い方をするのは決まって私をからかう時だと思い出したがもう遅かった
「明日、沖田さんも行くんだよねその訓練」
「そうじゃないかな?」
「いいなぁ……ねぇ、もし機会があったら仲良くなっておいてよ」
「そんな余裕ないと思うけどなぁ……」
友達は笑いながらそう言ってくるが正直な所私はあまり良い気分にはならなかった、友達が私に沖田さんと仲良くなれと言うのは自分が沖田さんと話したいだけなのは分かっている、自分の話題を作るために沖田さんを利用するなんて私は良い気分にならない
しかし話は続くので場の雰囲気を保つために我慢してそれらしい相槌を打っていく、きっと友達は沖田さんを芸能人か何かの様に扱っているのだろう、しかし私は違う、恥ずかしながら私は沖田さんを本気で尊敬しているし、持ち合わせてはいけない感情……つまり恋愛感情を持っている
恋愛に現を抜かしている暇なんて私には無い事は分かっているが一度芽生えてしまった物を無かった事にする事は私にはできなかった、今日の訓練終わりの時のように私は無意識にその感情に水を与えてしまっている、しかしその感情が上手く咲くとは到底思えないのでこうして友達にも秘密にしているのだ、ある一人を除いては
「お、ナマエじゃん」
「……永井君」
私達の献立とは少し違う物を手に持った士長の永井君が声をかけてくれた事によって友達との話題が途切れた、永井君に感謝しつつ手招きすると永井君はなんの抵抗もなく私の隣に座りいただきますと手を合わせ始めた
私もご飯を食べるのを再開しようとした時、永井君とは反対側の方向からごちそうさまと言う声が聞こえた、声がした方を見ると既に友達はご飯を食べ終えていた、そしてそのまま私に一言言ってそさくさと食堂を出て行ってしまった
友達が食堂を出て行く後ろ姿を見て、そう言えばあの子最近永井君が少し苦手だと他の子に言っていた気がすると思い出した、思い出せなかったとは言え彼女が苦手な永井君を手招きしてしまって申し訳ない事をしてしまったと思いながらも終わった事なので気にせずご飯を食べ進めた
「訓練終わり、よかったじゃん」
「……え?」
丁度味噌汁を啜っていた時、不意に唐揚げを箸で摘んでいた永井君が私にそう言ってきた、急な一言に気の抜けた声が出てしまったがその後すぐに何の事を言っているのか理解した、訓練終わり……つまり沖田さんとのやり取りを永井君は見ていたのだろう
永井君は私の沖田さんに対する感情を知っている唯一の存在だ、と言うか厳密に言えば永井君が私の恋愛感情を指摘したのだ、指摘されてから相談事がある時は永井君に頼んでいるので頼れる同僚だ
「嬉しかったよ」
「だろうな、ちょっと今もナマエ機嫌良さそうだから」
「え?本当?顔に出てる?」
「ちょっとだけだけどな」
素直に沖田さんと一緒にいた時の感情を伝えると永井君は少し笑って返事をした、そのままポツリポツリと会話していく、いつの間にか茶碗の中に白米はなかった、残すは味噌汁だけになったがすぐには飲まず少しだけ永井君と話そうと思ったが永井君はお腹が減っているのかなかなかに早いスピードで食べている
流石健康優良日本男児だと感心しつつ永井君が食べている姿を眺めていると、急に頭に軽い衝撃が二回程来たので慌てて体を反転させ顔を上げた、私の急な動きに驚いたのか隣で永井君が米粒を飛ばしながら少し声を上げた
「うわっ永井汚ッ!!」
「……沖田さん?」
永井君が飛ばした米粒の方向を見ながら少しだけ顔を顰めながらも口角は上げているのは先程から話題に上がっていた沖田さんだ、手が私の視界から上の方に向かって伸びているのを見るとどうやら先程の私の頭に来た衝撃は沖田さんが私の頭を軽く叩いたからだろう
思わぬ登場に名前を呼ぶと沖田さんは私の方に視線を動かしヘラリと笑い私の頭に置いていた手を左右に揺さぶり私の頭を撫でてきた、しかし少し雑な上沖田さんは手袋をしていたので静電気で私の髪はボサボサになっていってしまった
そんな私の髪の様子を見て沖田さんは慌てて手を止めて謝りながら手櫛で私の髪型を整えてくれた、ありがとうございますと小声でお礼を言うと笑いながらどういたしましてと答えた沖田さんに思わず頬が綻んでしまう
「どうしたんですか?」
「ん?特に用はないんだけどな……あ、あと明日の訓練の激励?」
「わざわざ、ありがとうございます」
永井君が飛んで行った米粒を紙ナプキンで拭き取りながら沖田さんにどうかしたのか聞いたが沖田さんは特に理由はないようだ、ただ姿が見えたから、きっとそれ位の理由なのだろうそれがなんだか寂しくもあり、でもわざわざ来てくれた事に喜びを感じ、私はなんだか矛盾している感情に酔っ払ってしまいそうになった
一瞬ボーッとしていた頭から捻り出されたお礼の言葉を声に出すと沖田さんはニコリと笑い、明日の訓練頑張れよと私達に言い残しどこかへ行ってしまった、沖田さんの言葉に返事をして永井君の方を見るとなにやらニヤついていた
「どうしたの永井君?」
「いやぁ……面白い事になりそうだなって」
「?何が?」
「なんでもねぇよ」
どうかしたのかと聞いたが永井君は教えてくれなかった、そのままご飯を食べ進める永井君を横目に私は味噌汁を飲み干し、明日はよろしくと永井君に言い残し食器を片付けに向かった
部屋に戻り荷物のチェックをもう一度して、消灯の時間の少し前にベッドに潜り込み、私はゆっくりと目を閉じた
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