第二訓
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神楽と出会った日以来サボり防止のためか見回りがなくて買い出しなどもないので、屯所から出ていない、だが見回り以外にも当然仕事はある
のろのろと書類作業の仕事をしていると、ふと襖の方から人の気配がしたので目を向けた、するとそこには局長がなにか言いたげな表情で襖の隙間からこちらを見てた
「なにやってるんですか局長、あの噂は本当って事ですか?局長がストーカーになったって」
そんな局長に呆れながらそう言うと、局長はガタリと襖を揺らしながら狼狽えていた
傍から見ると本当に不審者だなと冷静に思っていると局長はいつもよりも大きな声を上げた
「花無為冗談でもそう言う事を言うな!!俺はお妙さんを見守っているだけだ!!噂は事実無根!!ストーカーではない!!」
局長は襖を勢い良く開けながら手を強く握っていたが、この発言は色々と問題があり過ぎる、なによりその事実に局長自身が気付いていないのが厄介だ
「あー……はいはい、分かりました…………転職したくなってきた」
思わず溜め息をつき局長の妄言を軽くあしらう、屯所内で"局長はある女性に対し監視と称してストーカー行為をしている"そんな黒い噂が立ったのはここ最近だ
事の発端はその女の人をかけた喧嘩に負けた事らしいが、局長との決闘に勝ったのは一体誰なのか、このままでは真選組として示しがつかないと局長の対戦相手を副長が血眼で探しているらしい
「花無為、少し話したい事があるんだ……俺の部屋に来てくれないか?」
「え……ええ、良いですけど……?」
ここでは話し辛い事なのか局長はキョロキョロと周辺に目を向けながら先程とは異なる小さな声で私にそう言って廊下に出た、局長の様子に戸惑いながらも廊下に出ると局長は私について来いと言わんばかりに歩き始めている
まさかこの間の見回りの件がバレてしまったのかと一瞬身構えた、しかしそれなら共犯である沖田も一緒の筈だ……それとも沖田が私を売ったのか……!?
そんな事をグルグルと考えながらも歩けば目的である局長の部屋に辿り着く、部屋に入ると早速局長が話を始めた、これからきっと怒られるのだろうかなんて考えてしまい局長の些細な言葉でも驚いてしまう
「……で、話と言うのはな」
「ッ!!は……はい!!」
「なんで緊張してるんだ……?」
緊張からビクビクしている私を不思議そうに見る局長だが気にせずに話を進める事にしたようだ、懐から紙のようなものを出してこちらに渡してきた、一体何の紙なのかと疑問に思いながらもそれを受け取り内容を拝見した
「これは写真?って…………え?」
「この顔に見覚えは?」
写真に写っていた人物を見て私は思わず息を呑んだ、左目に包帯を巻いた男性と長髪の男性がそこには写っていた
見覚えはあるのかと聞いてくる局長の言葉に私は返事をする気力はなかった、見覚えもなにもこの二人は私の昔からの知り合いだ
高杉晋助と桂小太郎……松下村塾に通っていた頃からの友人で、攘夷戦争の頃にはお互いを助け合い生き残ってきた
何と答えれば良いのか分からず口を噤んだ私を見て局長は察したのか申し訳なさそうに表情を暗くした
「……知り合い……なんだな?」
局長の発したその言葉に頷き返す、局長の手元にこの写真があると言う事は……この二人は攘夷志士を辞めていない、それどころかテロリストとして指名手配されているのだろう
苦虫を噛み潰したような表情になっているであろう私に対して局長はもう一枚紙を渡してきた、静かに受け取り目を通すとどこかの旅館の間取り図の様なものが描かれている
「……この二人は攘夷志士の中でも厄介な連中でな、しばらく探りを入れていたんだ、そしてこの間桂小太郎の足取りが掴めた……その旅館に拠点の一つがあるらしい」
「つまり……今だ懲りずに攘夷活動をしている桂を捕まえると?」
やはり高杉と桂は厄介な攘夷志士と呼ばれる様な人間になってしまったらしい、あの二人ならやりかねないと思いながらも局長に間取り図を返す
「花無為、無理しなくていいんだ……いくら真選組に入ったからって昔の仲間を斬るなんて……そんな酷な事……」
局長は間取り図を懐に戻し、哀しそうな表情で私にそう言った、バカが付く程優しくてお人好しな局長ならそう言うと思っていた、私は静かに目を瞑りここに来る前に決めた一つの決意を思い出した
「お気遣いありがとうございます局長……大丈夫です……覚悟はしてました、それに……けじめをつけたいと思っていた所なので」
そう言うと局長は一瞬目を見開いたがすぐに戻りゆっくりと笑った、優しい局長だきっとこの情報を手に入れてから心配だったのだろう、局長は安心したように笑いながらゆっくりと立ち上がった
「無理はしてくれるなよ、トシには事実は隠して伝えておくから、花無為は当日捕まった浪士を輸送するだけで大丈夫だ」
局長はそう言い残して部屋を出て行こうとした、どこまでも優しい人だと思いながらもその優しさには感謝しかない、私は頭を下げて礼を言った
「ありがとうございます……」
そう言うと局長は微笑み返し部屋を出て行った、私は廊下を歩いていく局長の足音を聞きながら自分の部屋に戻る
だが部屋に戻っても頭の中はあの事ばかり浮かんでいた、もし桂と高杉以外にもっさんや銀時がいたとしたら、覚悟はしていたがあの四人を斬る事が本当に私に出来るのだろうか
グルグルと考えを巡らせていると相当な時間が経っていたらしい、襖の向こう側の空はいつの間にか白んでいた