攘夷時代
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この日本が天人に攻め入られてからしばらく経った、江戸城は破壊され最早幕府は負けを認めている様なもの、しかしそんな絶望的な状況でも私達は諦めなかった
攘夷戦争と言う大きな戦に幼馴染みの私達四人は参加する事にした、各々目的は違っていたのだろうが目指す道は同じ、毎日毎日天人達と戦う毎日、しかしそこには大義があると信じていた
「花無為本当にお前も来るのか?遊びじゃねぇんだぞ」
「ご忠告どうも……だが、私も行く、もう決めた」
攘夷戦争に参加する事を高杉と桂、銀時に伝えると真っ先に聞き返してきたのは銀時だった、顔を顰めている銀時の表情からはほんの少し心配している様子も伝わってきたが私はもう決めたのだ、それを伝えると銀時は深く溜め息をついたがそれ以上は何も言わなかった、私の意見を尊重してくれたのだろう
戦争に参加するのはほとんどが男性だ、しかし私の様に女性でも参加している人間はほんの僅かではあるが存在していた、しかし戦地に赴く機会が多い私の場合は自分の性別を伏せる事にした、その方が何かと都合が良く、なにより他の人間に舐められないからだ
正直言って体格の差とかで指摘されてもいいと思うのだが今ところ誰一人バレてないし疑問にも思っていないだろう……まあ、そんな事を気にする場合ではないが……
そんな日々を続けている私達は今日も無事生き延びる事ができた、今の拠点に戻り大広間で明日の作戦について話したり、傷の手当てを軽く済ませる
「花無為、そろそろ良い頃合いではないか?」
不意に桂が私にそう耳打ちをした、桂にお礼を言ってから大広間から出る、夜もすっかり深くなり拠点の中は実に静かだった、廊下を歩き向かった先は浴室……女性である事を伏せている以上こうして誰も居ない時間を見計らって入浴しているのだ
脱衣所に入り周りに人が居ない事を確認してから服を脱ぎ、大きめの手拭いで身体を覆う、いつ天人が攻めて来ても対応できるように刀は手放さない
身体は疲れ切っている、ようやく入浴出来るという事に喜びを感じつつ浴槽へと続く扉に手をかけた時
「おっ花無為!!なんじゃ今からか、遅いのォ!!ワシはもう済ませたがなんなら背中でも洗って…………?」
聞きなれた大きな声が背後から聞こえてきた、慌てて振り向くと目の前にはこの攘夷戦争で知り合った通称"桂浜の龍"坂本辰馬が立っていた、入浴後なのだろう、いつものモジャモジャ頭は水によってほんの少し落ち着いていたが服は着替えていたので恐らく忘れ物を取りに来たのだろう
私は一つ致命的なミスをしていた、脱衣所の鍵をかけるのを忘れてしまったのだ
「も……もっさん……」
坂本辰馬では呼び難いと勝手に付けたあだ名を思わず呟いてしまう、もっさんは私が呆然としている間に私を頭のてっぺんから爪先まで見ていた
どうか気付かないでくれ、もっさんの空っぽの頭は何も考えていないように見えて実は察しが良いなんて事はなく本当に何も考えていないので、こういう時に通常の三倍察しが良かったりするが、今回も何も考えていませんようにと願うばかりだ
「か……花無為おんし、もしかして……女子……」
「フンンッッ!!!!」
何でこう言う時にだけ察しが良いのだ
もっさんが最後まで言う前に私は持っていた刀を勢い良く縦に振った、すると鞘が飛び出しそのままもっさんの鳩尾に命中した、少しでも記憶を飛ばそうと頭を狙ったのだがやはり顔見知りなので無意識に躊躇してしまったようだ
腹部を抑えて蹲るもっさんに心中で謝りながらも私は急いで着流しを羽織り帯を締める、このまま記憶が吹っ飛んでくれる事を願ったがもっさんの脳みそは鳩尾にはない、忘れるわけもなくもっさんは鳩尾を押さえたまま私を見上げる
「その反応……本当らしいのォ……」
掠れた声でそう言うもっさんは信じられないと言った表情をしていた、どうやら私の行動が仇になってしまったようだが後悔しても遅い
戦場に女性がいるだけでも肩身が狭いのに同僚への暴力行為が重なれば立場は危うくなるだろう、いよいよ私は戦争から離脱かと半ば諦めた時、もっさんは顔は青いがいつもの笑顔を私に向けた
「安心せぇ、誰にも言わん、この戦には花無為みたいな奴が必要じゃ」
「……もっさん……」
もっさんの意外な言葉に私は思わず目を見開いてしまう、そんな私を見てもっさんはニコリと笑った、暴力行為を働いたのに笑顔で許してくれるとは……
本当に良い仲間を持ったものだ、自分でも絶賛したい……鳩尾に鞘をぶち当てられても私の事を思ってくれる仲間なんて早々いない
もっさんに一言謝ってから礼を言うともっさんはいつものように笑った後ゆっくりと立ち上がった、まだ少し痛むらしい鳩尾を軽く手で撫でている
「しかし花無為が女だとは……全く思わんかったのォ」
「まあね……自分で言うのもなんだけど男らしいもんね……」
「本当じゃ!!アハハハハハッ!!付いとらんとは思わんかった!!アハハハハッ!!」
「……うん……もっさん、デリカシーって言葉知ってる?」
驚いているのか笑っているのか遠回しに私の性別を否定しているのか分からなかったが、バレたのがもっさんで良かったと密かに思った、これがもっさん以外の誰かだったらこんなに穏便に済む事はなかっただろう
もっさんはデリカシーこそないが信頼できる人だ
後日もっさんにバレた事を幼馴染みの三人に話したところ、もっさんは変なところで抜けているので心配されたが多分大丈夫だという結論に達した
その日から四人の秘密は五人の秘密になった、それと同時にもっさんとも前より仲良くなった気がする