幼少期
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私の片目と髪色は他の皆とは違っていた、それに気付いたのは自我と言うものがしっかりとしてきた時、鏡で見る自分と周りの皆との違いは一目瞭然で、母親はきっとそんな私が大嫌いだったのだろう、いつも私を邪険に扱っていた
仕方のない事だと、大人になってからはそう割り切る事ができたが幼少の頃の私は何故母親がこんなにも自分を嫌うのか謎だった、幼心に母親からの愛情を無意識に求めていたのもあるのだろう
しかし母親は一度たりとも私に愛情を与えてはくれなかった、そんな母親を持ちながらも大きくなれたのはきっと記憶にない父親のお陰だろうか、どんな声だったのかもどんな髪色だったのかも今では全く覚えていないが……
「貴方なんて産むんじゃなかった、近付かないで化け物、私を母なんて呼ばないでよ」
母親は私を見るといつもそう言っていた、子供になんて酷い事を言うのかと思うが私の母親はそう言う人だ、自分にとって得のある人間には人が違う様に優しく接していた、逆に自分にとって得のない人間にはいつもそうして罵詈雑言を浴びせる
だがそれも仕方のない事だろう
私の目は右目だけ猫のように瞳孔が縦に伸びており、右目だけ別人の瞳の様になっている、そんな右目の睫毛と髪色は真っ白で祟だとか呪いだとか私を見た人はそう言っていた、しかし私には全く心当たりがない
好きでこんな目と髪色を持って産まれる人がどこにいるだろうか、だが持って産まれてしまった私は理不尽も苦痛も全て受け入れて生きて行かなくてはならないだろう、その覚悟が昔にはなかったが今はしっかりとある
覚悟も持てなかった頃の私がどうやって自分を嫌う母親から逃げ出す事が出来たのか……それはある出来事が始まりだった
私の家に養子がやってきたのだ、今となっては記憶はあやふやだが確か養子は当時の私と同じ位の年齢だった、当然髪色も目も正常……黒い髪色で両眼とも瞳孔が縦に伸びているなんて事はない
初めはなんとも思っていなかった、家に人が増えただけ……そう思っていたが見た目も普通のその子は母親に酷く溺愛されていた
「いい子だね」
母親の言葉に嫉妬した、私には一度も言われた事のない言葉をかけられている養子を羨ましく思った、母親の愛情を何よりも欲していたのだ、自分にも一言でも養子に向けている言葉を向けて欲しかった、優しく微笑んで欲しかった
しかしふと、養子が来たこの家に、果たして自分は必要なのかと感じた
来る日も来る日も、母親に与えられた物置のような狭い部屋で考える
私はこの家に必要なのか、この他人とは違う容姿はどうすればあの子のようになるのかと、答えなんて出るわけでもなかったが当時の私はそんな事に気付ける程賢くなかった
いつも人目を気にして部屋に隠れるように過ごしている私の事が気になったのか、ある日養子が私の部屋に入ってきた、私とは違う真っ黒な髪の毛が、綺麗な両の目が私を見下ろしていた、その子は座っている私に向かって無邪気に問い掛ける
「ねぇ、なんで髪の毛白いの?」
「……知らない……」
「ふぅん……」
不思議そうに首を傾げるその姿は年相応の純粋な姿だった、眩しいとさえ感じてしまう程の曇のない眼、日々大人達からの蔑みの目や罵詈雑言を受けている自分とは違うとすぐに分かった
この子は様々な人から愛されているのだと
しかしその純粋さが仇となったのかも知れない、養子の子は続けざまに私に向かって話し出した
「その目……まるで物語に出てくる化け物みたいだね」
不思議に思っただけかもしれない、前日に母親から聞いていた物語に出てくる怪物の想像に似ていただけかもしれない、今となってはそんな質問した理由はわからないが、その言葉を聞いて私がやった事はどんな事をしても変わらない
何故か養子に化け物と言われた瞬間、とてつもない憎悪が私を包んだ、そんな事を言われたくない、何も知らないくせに母親から愛されているアンタにそんな事を……そう思ったからかもしれない
私は養子に飛びかかり、馬乗りになりながら養子を殺す勢いで首を締めた
しかし子供の私にそんな力はない
「離し……てッ……お母さんッ!!」
首を絞めようとする私の手を、これ以上近付けまいと腕を押さえながら養子は外にいた母親に助けを求めた、養子の叫び声にいち早く気が付いた母親は私の部屋に入ると目を見開いた
自分の子供が養子を殺そうとしている、こんな状況にあったら普通の母親はどうするのだろう?
自分の子供を叱る、養子を助ける、誰かに助けを求める……沢山選択肢はあるだろう、だが私の母親はその中でも恐らく異常であろう選択をした
私に薙刀を向けたのだ、もの凄い形相だったのを覚えている、しばらく人の顔が見れない位恐ろしかった、母親の瞳は確実に殺意を抱いていた、実の娘に向ける物ではないのは明らかだ
「消えなさい……この家から……この世界からッ!!」
母親にそう言われたが、私は自分の身に何が起きたのか分からず呆然と母親を見据える、馬乗りになっていた筈の養子はいつの間にか私から離れて母親の傍に寄り添っていた
「おかあ……さ……ん」
思わず母親を呼んだ、いつだって返事はなかったけれど、養子に母親を取られるくらいなら全く価値のない希望に縋りたかった、しかし母親は私の声を聞くと顔を顰めた
「消えろォォォォッ!!」
母親の怒号が周囲に響き渡る、私は身体をビクつかせ咄嗟にその場から逃げ出した、宛なんてない、ただただ目の前にいる母親から逃げ出したかった
縺れる足を必死に動かして逃げた、ただひたすら逃げた、涙が零れ落ちようと、呼吸が乱れようと、口の中が切れようと母親の確かな殺意から逃げられるなら身体がどんなになろうが構わなかった
何時間も走り、私は遂に足が動かなくなりその場に倒れ込んだ、全身が痛み、呼吸も定まらない、そんな中でも母親のあの殺意だけが私を恐怖に陥れていた、当時は家を飛び出して本当に良かったのかと不安になったが、今となってはあんな家から飛び出して正解だったと思う
その数日後、私は恩人と出会うのだから……今思い出しても幸運だったと思う、私、裟維覇花無為の人生はあの日を堺に変わった事は確かだ