第九訓
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急に意識が戻ってきて真っ先に思ったのが生きていると言う実感だった、いつも朝見る天井とは異なった天井が見えるが誰かが助けてくれたのだろうか
二、三度瞬きをすると視界がクリアに見えてきた、とりあえず体を起こそうとしたがどうにも怠さが残っていて動きにくい
怠さが抜けるまで寝たままの方がいいと思い、見慣れない天井を見つめたまま私は意識を失う前の事を思い出す事にした
「……高杉にやられたんだっけ」
自分の腹部を見ると包帯が肩まで巻かれていた、一瞬身を引いたのと高杉の腕を引っ込めさせたのが幸いだったようだ
あとは折れた切っ先の方で刺された肩の様子が気になるところだ
それよりもここがどこだか全く分からない、助けてくれたのはありがたいが長居しては申し訳ないのではないだろうか
ふとそう思い、私は今の傷の様態を診るのも兼ねて体を起こしてみた、しかし肩から来た激痛と腹部に来る突っ張った感覚が邪魔をして結局私は敷かれた布団に逆戻りした
「……痛ぁい……」
思っていたよりも激痛で私は思わず薄らと涙を浮かべてしまった、傷が開いてしまったのかなんとなく血が滲んでいる感じが肩から伝わってくる
しかしこの痛みは私が生きている証拠でむしろ喜ぶべきだと、戦争時代誰かが言った気がする
「攘夷戦争……ね」
高杉と再会して私は決めていた覚悟が揺れるのを感じた、いつまでもこんな事で悩んでいてはいけないのにどうしても元仲間を見ると覚悟が鈍ってしまう
とっくに吹っ切れたと思っていた感情はふとした時に出てくる物なのか分からないが、確かなのは私はまだ皆の事を仲間だとどこかで思っている事だ
このままではいけないと思っているのに私は今だに高杉と斬り合った時殺さなくてよかったなんて微かに思っていた
私もまだまだ精進しないといけないな、なんて思いながらもう一度眠る事にした
目を覚ますと先程とは少し異なった景色が見えた、どうやら夕方の様で天井が夕焼け色に染まっていた
怠さはもう無くなっていてゆっくりと体を起こすとこの部屋の襖が静かに開いた
「起きましたか花無為さん」
「……新八……か?なんでお前が私を?」
顔を上げるとそこには新八が包帯や湿布を持って立っていた、思わず何故私を助けたのか聞いてしまったが、私の記憶が正しければあの祭りのパニック状態で新八が私を見つけるのはほぼ不可能だろう
どうやって新八より身長が高い私を運んだのだろうか、途中で高杉に見つからなかったのか、そんな事が頭の中で巡っていた
新八にどうやって運んだのか聞いてみると意外な答えが出てきた、万事屋に運んだのは新八ではないと言う
「じゃあ……誰が?」
「銀さんです、祭りから帰る時、切羽詰った様な表情で血塗れの花無為さんを……」
新八のその言葉に私は思わず絶句してしまった、銀時のお節介焼きの所や仲間思いの所が全く変わってなかったからだ、同時に気を失う寸前に見たモコモコした物体の正体がわかった、あれは銀時の頭だったようだ
今回だけは銀時のお節介な性格に感謝している、お陰で命拾いしたのだからどうやって私の体に包帯を巻いたのかとかは聞かないでおこう
「あ、安心して下さいね、花無為さんの体の包帯は僕達がやったわけじゃないですから、ちゃんと下の階のお登勢さんにやってもらいましたから……」
「そうか……安心した、ありがとう」
私の気持ちを察してか、すかさずフォローをした新八になんとなく副長と同じ匂いを感じたのは言わないでおこう、どうやら手当てをしてくれたのは下の階のスナックにいる人らしい、また挨拶も含めてお礼を言う事にした
新八の言葉に安心しつつ、腕や肩を痛めているようで湿布を貼ってもらった、肩から腹部にかけての傷はそう深くはなく傷は残らないそうだが他の傷はどうなるかまだ分からないらしい
新八の言葉を聞きながら銀時のだろうか渋い青色の私には少し大きい着物を羽織る、今更傷跡の事を気にしても仕方ない、斬られた肩に注意しながら伸びをするとパキパキと関節が伸びた音がした
「……そう言えば銀時は?」
「それが……花無為さんが目を覚ます少し前まですぐ傍にいたんですが……今は依頼が入ってて……」
「そうか……悪かったな新八、お前の仕事の時間を取ってしまって」
「大丈夫ですよ、気にしないでください」
新八の言葉に謝りつつ私はゆっくりと立ってみた、新八は慌てた声を上げたがそろそろ傷も塞がってきて立てる頃だろう
結局新八に若干支えてもらうなら立てるようになったが、まだ動くにはしばらく時間がかかりそうだ
とりあえず今は真選組に連絡を入れるために電話を借りる事にした、新八に支えてもらいながら部屋を出た