第八訓
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侍の国、そう呼ばれていたこの国が鎖国を解禁して早二十年になる、元攘夷志士の私からしたら記念でもなんでもない日だが、巷の人達にとってはこの日は祭りを行う程のものだ、そんな祭典に珍しく天下の将軍様が参加するらしい
祭りだなんだと浮かれている人が多いが、将軍様が参加するとあっては私達真選組は浮かれた気分ではいられない、傷一つでも付く様な事があれば容赦無く私達の首は飛ぶ
万全を期し、珍しくピリついた雰囲気が真選組屯所内に漂っている
「いいか、祭りの当日には真選組総出で将軍の護衛につく事になる」
隊士達を集め、副長が祭典の護衛について話を進める、そんな副長の横に座り、私はこの会議の為に作成した書類に軽く目を通していた、護衛の配置、手配する武器の数や種類……人一人を護る為にこんなにも手間を掛けるなんてと少々溜め息をついてしまいそうになる
「間違いなく攘夷派の浪士どもも動く……とにかくキナくせぇ野郎を見付けたら迷わずぶった斬れ、俺が責任を取る」
「マジですかィ土方さん?俺ァどうにも鼻が利かねぇんで、侍見付けたら片っ端から叩き斬りますァ、頼みますぜ」
「オーイ皆、さっき言った事はナシの方向で」
真剣な表情で当日の作戦を提案した副長だったが沖田の一言でその作戦は急遽中止となった、侍だからと言う理由で何の罪もない一般人を傷付けるのは流石の私も勘弁だ
しかし、ここまで副長が真剣になる理由も分かる、副長が咥えていたタバコを持ち、その"理由"を話し始めた
「それから、コイツはまだ未確認の情報なんだが……江戸にとんでもねぇ野郎が来てるって情報があるんだ」
「とんでもねぇ奴?一体誰でェ?桂の野郎は最近大人しくしてるし……」
副長の言葉に沖田や他の隊士達は不思議そうに首を傾げた、そんな皆の表情を見ながら私は手元にある資料を副長に手渡した、しかし副長は資料を受け取ってくれない
「お前から言え花無為、タバコが切れた」
「えぇ……仕方ないですねぇ」
資料を受け取ろうとしない副長に戸惑っていたが、懐からタバコの箱を取り出しながら"理由"を説明しろと言われた、少々面倒だったが仕方なく隊士達に向かって口を開いた
「以前料亭で会談をしていた幕吏十数名が皆殺しにされた事件、覚えているか?あれはソイツの仕業だ……」
手元の資料に目を通しながら全員に聞こえるように話す、料亭での事件は実に凄惨な現場だったと耳にした、その犯人の顔写真が資料に載っている、犯人の顔を目にすると自然と手に力を込めてしまう、手元の資料がクシャリッと音を立てて皺を作った
「……攘夷浪士の中でも最も過激で、最も危険な男……高杉晋助のな」
飛び回る蝶々の柄がアイツの最近のお気に入りらしい、資料に載っている高杉の写真を見つめながら私は全員に警戒するように伝えた、私の緊張感が伝わったのか、隊士達は身を引き締めた様な様子で段取りについての話を聞いて、無事会議は終了した
もし高杉が本気で将軍の首を狙いに来たら……なんて一人で考え事をしているとキョロキョロと周りを見渡しながら局長が私の傍にやってきた
「か……花無為大丈夫か?高杉はお前の旧友じゃあ……」
私にそう耳打ちをする局長の言葉にこの人は相変わらずだと思わず笑みを浮かべてしまう、桂の時もこうして心配そうに私に聞いてきたなぁと思い出しながらやんわりと局長に私の覚悟を伝える
「心配ないですよ局長、桂の時も今回の高杉も……私はちゃんと覚悟決めてますから」
「そうか……?それなら良いんだが……無理はするなよ?」
「大丈夫ですって、無問題」
大丈夫だと何度も局長に伝えるが、まだ局長は心配そうにこちらを見ている、仲間想いの良い人だからこそ私が昔の仲間を斬ろうとしているのを心配しているのだろう、しかし局長には悪いが私としては皆より明らかに道を踏み外している高杉を止めるチャンスだと考えている
一人街でバッタリ出くわすより真選組の皆と一緒にいた状態で出会った方が危険が少ない、目立つ髪色をしている私だが上手くいけば人混みに紛れる事もできるだろうし
高杉について私がここまで考えているのだ、将軍様には悪いが高杉には是非とも祭り当日、なにかしらの形で姿を表して欲しい所だ
そんな事を考えながら祭り当日、パトカーやらなんやらで開催場所に向かう、すっかり日も落ちてきてなかなか祭りらしい雰囲気が漂う中、私達は将軍が鎮座する櫓のような形の下で周囲の警戒を固めていた
「楽しそうな音楽……私達も祭りを楽しみたいですよ副長……」
「我慢しろ、将軍を護るのが今回の俺達の仕事だ花無為」
「……分かってます、けど……」
副長に向かって小声で文句を言ったが聞かれていたようで一喝されてしまった、渋々承諾したがどうにも乗る気がしない、と言うのも日が暮れてしまって祭りも終わりが近付いている、このまま本当に高杉が現れるのか微妙な空気が漂っているのだ
やる気が少々削がれた頃、警備の配置の関係で私は副長の傍から離れてまた沖田と組む事になった、周囲の見回り兼将軍がいる周りを護衛する係になった私達だが、案の定沖田は私が少し目を離した隙に逃げ出してサボりを決め込んだ
こんな状況でもサボりを決める沖田に呆れて溜め息すら出てこないが、食欲は出てきたので目の前にあったたこ焼きの屋台で買う事にした、サボりではない決して
「お兄さん、一パック頂戴」
数を聞き間違われないように指で数字の一を指しながら屋台のお兄さんにそう言うと元気な返事が返ってきた
その返事に思わず笑ってしまったが、少しして美味しそうなたこ焼きが一パック出てきた、ホカホカと湯気が出ている所がまた食欲を駆り立ててくる
お兄さんに礼を言って、どこか座れる所を探すが花火が始まってしまっているからか、どこもかしこも先客がいたので仕方なく立って食べる事にした
爪楊枝で刺してたこ焼きを一つ口に放ると熱過ぎる程熱を持ったたこ焼きが口の中に入り込んできた
「あ"っづ!!」
思わず涙目でそう叫んだが残りのたこ焼きは落とさなかった、涙を薄ら流しながらも花火を見つつ、たこ焼きを味わう、生地の味やソースの味が私好みの濃いめの味付けで思わず頬が綻んだ、しばらくこの美味しさを堪能する
今度は同じ間違いをしないように少し穴を開けてから息を吹いてたこ焼きを冷ましてから口に放る、やはり生地はサクサク、中身はトロリとした上で濃いめの味付け……中々腕のいいお兄さんだ
「うーん、やっぱり美味しい……」
もぐもぐとゆっくり咀嚼して味わっていると、一際大きな音を立てて花火が打ち上がった、いつもなら綺麗だと思う花火なのに、その花火を見た瞬間なんだか嫌な気配を感じた、その瞬間将軍がいる方向から大きな爆発音が響き渡った
爆発音だけでなく煙も立ち込め始めて、すっかりパニックになった人達が声を上げて慌てて逃げ出す中、私はただただ唖然とその場に立ち竦んでいた
「将軍の傍には局長と副長が……!!」
この爆発音からすると結構な規模だろう、もしも将軍のすぐ近くで爆発が起きたのなら二人は致命傷ではないとは言え無事ではないだろう
一瞬真っ白になってしまった頭を無理矢理フル回転させて、人混みを掻き分けながら将軍の元へ、いや、局長と副長の元へ向かう事にした