鳥肉食べたい 尾形百之助夢
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その日はなぜか心がざわざわして落ち着かなかった。
母ちゃんのお洗濯の手伝いをすれば水のたっぷり入った桶をひっくり返しちゃうし、父ちゃんと一緒に藁で靴を編もうとすれば途中から網目が分からなくなってぐちゃぐちゃにこんがらがっちゃうし、なにもかもうまくいかない。
父ちゃんも母ちゃんも「もういいよ、大丈夫だよ」って笑ってくれたけど、私は何かちょっとでもいいから2人の役に立ちたくて、「山菜を採ってくる」って家を飛び出した。
もう辺りは日が暮れかかっていて暗いし、耳が痛くてたまらないくらい寒いんだから山菜なんて採りに行けないことぐらい分かっているけど、なんの収穫もないのにお家に帰るなんてできなくて、私は山に向かって歩き続けた。
「あれ?」
村の中を歩いていたら、顔を真っ青にしてお医者様がこちらに駆けてきた。
いつもだったらこの真面目で優しいお医者様は夕方に会うと「早くお家に帰りなさい」と笑って声をかけてくれるのに今は私のことなんて見えてないみたいだ。
なにかおかしい、と思った時にはお医者様の後を追って私も駆け出していた。
「ねえ、お医者様!どうしたの?なにかあったの?」
精一杯に声を張り上げて尋ねると、お医者様は走りながら答えてくれた。
「尾形さんのところのトメさんが危ないんだ」
「え!?」
尾形さんのお家のトメさんって…まさか…まさか…!
驚いた拍子に足がもつれて転びそうになるのをなんとか堪えた頃にはお医者様の背中はずっと遠くになっていた。
大変だ!私も早く百之助のところに行かないと!
もうとっくに胸がはち切れそうなくらい苦しくって、息も上手くできないけど、私は全力でお医者様を追いかけた。
尾形のお家の前に着くと、玄関を出てすぐのところに百之助が1人で立っていた。
「百之助っ!」
大きな声で呼んでも百之助はぴくりともしない。
やっぱり、なにかがおかしい。
慌てて駆け寄って百之助の前に回り込むと、やっと百之助と目が合った。だけど、その顔はお面みたいにまっさらで、夕焼け色の影が映ると恐ろしい表情に見えた。
震えてしまいそうになるのを抑え込んで私は強く一歩、踏み込んだ。
「ねえ、百之助、百之助のお母さんが今危ないって本当?」
「ああ。今、お医者様が診てくれているから邪魔にならないように外にいろ、だとさ」
「そっか」
百之助はそれ以上何も言わなかった。
そして、お返事をした私も次になんて言えばいいのか分からなかった。
百之助のお母さんが危ないって聞いた時は居ても立っても居られなくってここまで来ちゃったけど、私にできることなんてなかったんだ。
それが悔しくて、悲しくてどうしようもないけれど、私は意を決して顔を上げた。
「百之助、私、今日は帰る。だけど、明日また会いに来るからね。絶対、絶対来るから!」
「ああ」
私の言ってることを聞いているのか聞いていないのかも分からないまっさらな返事をする百之助の手を握って「またね!」って声をかけて、私は来た道を戻っていった。
ちょっと進むと、身震いしてしまうような冷たい風にびゅう、と吹かれた。
百之助は大丈夫かな?
なんとなく気になって振り返ると、百之助はさっきと同じ場所で寒さから身を守るように体を丸めてしゃがみ込んでいた。
百之助、何してるの!?あのままじゃ寒さで凍えちゃうよ!
百之助の元まで急いで戻ると、私は息が切れてぜえぜえいっているのもお構いなしに百之助の腕を思いっきり引っ張った。
「百之助!お家に…あっ…お外で待ってないといけないんだもんね…じゃあ、一緒に山に行こう!たき火をして、おいしい鳥肉を食べて、いっぱいおしゃべりするの!ねっ!こんなとこにいるよりずっと楽しいよ!!!」
百之助が「一緒に行きたい」って思ってくれるように、私はとびっきりの笑顔を作ってそう話した。
それなのに百之助はされるがままに揺らされているだけでちっとも笑顔になってくれなかった。
「ねえ、百之助ってば!早く行こうよ!!!」
このままじゃだめだ!
そう思って私はありったけの力を込めて百之助を引っ張った。
「触るな」
「え?」
何がなんだか分からなくなってとっさに力を抜いた瞬間、私の手は強い力で振り払われた。
「こんな時でも鳥肉を獲れ、か。お前は自分のことしか考えていないんだな」
「百之助…?」
ぶつぶつ早口に話していつもと様子が全然違う百之助に私はおそるおそる近づいた。
「寄るな」
「うわあっ!」
百之助の方へ伸ばした腕に何か硬いものが打ち付けられた。
じん、と痛む腕を抑えて周りを見ると、私と、百之助の間に赤黒く濁った干し肉が転がっていた。
「お前の好きな鳥肉だ。それを取ったら早く帰れ。これ以上お前の我儘に付き合わされるのは御免だ」
「なんでこんなひどいことをするの…?百之助、どうしちゃったの?」
「なんだ?まだ足りないのか?」
百之助は着物の袖からひときわ大きな干し肉を取り出した。
「や、やめて!!!」
大声でそう言ったけれど、百之助はためらいもしないで干し肉をまた投げつけてきた。
バチンッと大きな音を立てて干し肉が私の頬に当たったのを見ると、百之助は何も言わずに家の中へ消えていった。
頬にそっと手をやると、自分の身体じゃないみたいにみるみる熱くなっていって、最後には強い痛みに変わった。
「うっ…うう…うわああああん!!!」
今まで感じたことのない痛みに、私は大声を上げて泣いた。
「百之助、百之助…!」
いつもの優しい百之助ならちょっとばかり嫌なことをしても最後は絶対助けに来てくれる。だけど、この日はついに百之助がやって来てくれることはなかった。
その内に忙しなく物音がしていた百之助のお家がしん、と静かになった。
泣き疲れたびしょびしょの顔でぼうっと見上げると、小さく誰か女の人がすすり泣く声が聞こえてきた。
「あ…ああ…」
そのいつもと違う百之助のお家が恐ろしくて、私は地面に落ちたままの干し肉のことも忘れて家へ逃げ帰った。
後で知ったことだけれど、この日、百之助のお母さんが毒の入ったご飯を食べて死んじゃったらしい。
そして、大人達は百之助のお母さんが死ぬ直前、一緒にご飯を食べていた百之助が毒を食わせたのだと言い始めた。
それからというもの、百之助はあの大きな銃を背負って山に獲物を狩りに行く時以外は家にこもったきりで、私とも会ってくれなくなった。
母ちゃんのお洗濯の手伝いをすれば水のたっぷり入った桶をひっくり返しちゃうし、父ちゃんと一緒に藁で靴を編もうとすれば途中から網目が分からなくなってぐちゃぐちゃにこんがらがっちゃうし、なにもかもうまくいかない。
父ちゃんも母ちゃんも「もういいよ、大丈夫だよ」って笑ってくれたけど、私は何かちょっとでもいいから2人の役に立ちたくて、「山菜を採ってくる」って家を飛び出した。
もう辺りは日が暮れかかっていて暗いし、耳が痛くてたまらないくらい寒いんだから山菜なんて採りに行けないことぐらい分かっているけど、なんの収穫もないのにお家に帰るなんてできなくて、私は山に向かって歩き続けた。
「あれ?」
村の中を歩いていたら、顔を真っ青にしてお医者様がこちらに駆けてきた。
いつもだったらこの真面目で優しいお医者様は夕方に会うと「早くお家に帰りなさい」と笑って声をかけてくれるのに今は私のことなんて見えてないみたいだ。
なにかおかしい、と思った時にはお医者様の後を追って私も駆け出していた。
「ねえ、お医者様!どうしたの?なにかあったの?」
精一杯に声を張り上げて尋ねると、お医者様は走りながら答えてくれた。
「尾形さんのところのトメさんが危ないんだ」
「え!?」
尾形さんのお家のトメさんって…まさか…まさか…!
驚いた拍子に足がもつれて転びそうになるのをなんとか堪えた頃にはお医者様の背中はずっと遠くになっていた。
大変だ!私も早く百之助のところに行かないと!
もうとっくに胸がはち切れそうなくらい苦しくって、息も上手くできないけど、私は全力でお医者様を追いかけた。
尾形のお家の前に着くと、玄関を出てすぐのところに百之助が1人で立っていた。
「百之助っ!」
大きな声で呼んでも百之助はぴくりともしない。
やっぱり、なにかがおかしい。
慌てて駆け寄って百之助の前に回り込むと、やっと百之助と目が合った。だけど、その顔はお面みたいにまっさらで、夕焼け色の影が映ると恐ろしい表情に見えた。
震えてしまいそうになるのを抑え込んで私は強く一歩、踏み込んだ。
「ねえ、百之助、百之助のお母さんが今危ないって本当?」
「ああ。今、お医者様が診てくれているから邪魔にならないように外にいろ、だとさ」
「そっか」
百之助はそれ以上何も言わなかった。
そして、お返事をした私も次になんて言えばいいのか分からなかった。
百之助のお母さんが危ないって聞いた時は居ても立っても居られなくってここまで来ちゃったけど、私にできることなんてなかったんだ。
それが悔しくて、悲しくてどうしようもないけれど、私は意を決して顔を上げた。
「百之助、私、今日は帰る。だけど、明日また会いに来るからね。絶対、絶対来るから!」
「ああ」
私の言ってることを聞いているのか聞いていないのかも分からないまっさらな返事をする百之助の手を握って「またね!」って声をかけて、私は来た道を戻っていった。
ちょっと進むと、身震いしてしまうような冷たい風にびゅう、と吹かれた。
百之助は大丈夫かな?
なんとなく気になって振り返ると、百之助はさっきと同じ場所で寒さから身を守るように体を丸めてしゃがみ込んでいた。
百之助、何してるの!?あのままじゃ寒さで凍えちゃうよ!
百之助の元まで急いで戻ると、私は息が切れてぜえぜえいっているのもお構いなしに百之助の腕を思いっきり引っ張った。
「百之助!お家に…あっ…お外で待ってないといけないんだもんね…じゃあ、一緒に山に行こう!たき火をして、おいしい鳥肉を食べて、いっぱいおしゃべりするの!ねっ!こんなとこにいるよりずっと楽しいよ!!!」
百之助が「一緒に行きたい」って思ってくれるように、私はとびっきりの笑顔を作ってそう話した。
それなのに百之助はされるがままに揺らされているだけでちっとも笑顔になってくれなかった。
「ねえ、百之助ってば!早く行こうよ!!!」
このままじゃだめだ!
そう思って私はありったけの力を込めて百之助を引っ張った。
「触るな」
「え?」
何がなんだか分からなくなってとっさに力を抜いた瞬間、私の手は強い力で振り払われた。
「こんな時でも鳥肉を獲れ、か。お前は自分のことしか考えていないんだな」
「百之助…?」
ぶつぶつ早口に話していつもと様子が全然違う百之助に私はおそるおそる近づいた。
「寄るな」
「うわあっ!」
百之助の方へ伸ばした腕に何か硬いものが打ち付けられた。
じん、と痛む腕を抑えて周りを見ると、私と、百之助の間に赤黒く濁った干し肉が転がっていた。
「お前の好きな鳥肉だ。それを取ったら早く帰れ。これ以上お前の我儘に付き合わされるのは御免だ」
「なんでこんなひどいことをするの…?百之助、どうしちゃったの?」
「なんだ?まだ足りないのか?」
百之助は着物の袖からひときわ大きな干し肉を取り出した。
「や、やめて!!!」
大声でそう言ったけれど、百之助はためらいもしないで干し肉をまた投げつけてきた。
バチンッと大きな音を立てて干し肉が私の頬に当たったのを見ると、百之助は何も言わずに家の中へ消えていった。
頬にそっと手をやると、自分の身体じゃないみたいにみるみる熱くなっていって、最後には強い痛みに変わった。
「うっ…うう…うわああああん!!!」
今まで感じたことのない痛みに、私は大声を上げて泣いた。
「百之助、百之助…!」
いつもの優しい百之助ならちょっとばかり嫌なことをしても最後は絶対助けに来てくれる。だけど、この日はついに百之助がやって来てくれることはなかった。
その内に忙しなく物音がしていた百之助のお家がしん、と静かになった。
泣き疲れたびしょびしょの顔でぼうっと見上げると、小さく誰か女の人がすすり泣く声が聞こえてきた。
「あ…ああ…」
そのいつもと違う百之助のお家が恐ろしくて、私は地面に落ちたままの干し肉のことも忘れて家へ逃げ帰った。
後で知ったことだけれど、この日、百之助のお母さんが毒の入ったご飯を食べて死んじゃったらしい。
そして、大人達は百之助のお母さんが死ぬ直前、一緒にご飯を食べていた百之助が毒を食わせたのだと言い始めた。
それからというもの、百之助はあの大きな銃を背負って山に獲物を狩りに行く時以外は家にこもったきりで、私とも会ってくれなくなった。