鳥肉食べたい 尾形百之助夢
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あれからずっと銃の撃ち方を教えてって頼んでいるのに、百之助は貸してくれるどころか触らせてもくれない。
「ねえ百之助!今日こそ銃を教えて!」
おいしい鳥肉を食べた帰り道、去っていく百之助の着物を掴む。
「またその話か。何回も言っているだろう。お前じゃ体も小さいし力も無いし無理だ」
そう言うと、百之助は私の手を外そうとぐいぐい引っ張り始めた。
「無理じゃないもん!百之助と練習したら絶対できるようになる!」
「いや、無理だ!いい加減諦めろよ」
べりっと無理やり私を引き剥がすと、百之助はそのまま帰ってしまった。
「百之助のばかー!」
地面に尻もちをついたまま、思いっきり叫んだ。
「おい、莉緒」
畑のお手伝いが終わってお家に入ろうとすると、百之助が入口の前にぽつんと立っていた。
けど、私はふいっとそっぽを向いて百之助の横を通り過ぎた。
「この前は悪かった」
「え?」
ぼそりと聞こえた小さな声にびっくりして振り向くと、百之助はじっとこっちを見ていた。
「この前は悪かった」
「え?」
「聞こえていないのか?この前は、悪かった」
「聞こえてる!聞こえてるよ!」
慌てて両手をぶんぶん振ってそう言うと、百之助にぺしっと頭をはたかれた。
「聞こえてるならちゃんと返事しろ。このばか」
「だって、百之助が謝ってきたのなんてはじめてなんだもん!すごくびっくりした!」
そう言うと、百之助はまた頭をはたいてきた。
「それは今までの全部お前が悪かったからだろう」
「そんなことないもん!百之助が悪い時もあったもん!
…でも、この前は、ずっとわがまま言ってごめんなさい」
ぎゅっと裾を握りしめると、ぽたぽたと涙がこぼれた。
百之助は、一瞬目を丸くして、それからそっと私の頭に触れた。
「よし。早速行くか」
「いつもの山?」
ゆっくり見上げると、百之助はほんの少しだけ伸びた前髪を撫で上げた。
「ああ。今日はお前専用の銃も用意してきた」
「え!?それ本当!?」
「本当だ。今から使い方を教えてやるからついてこい」
「うん!やったー!!!ありがとう!百之助ー!」
大きな背中にぼふんっと顔をうずめたら、「どけ」って引き剥がされちゃったけど、いつもと違って今日はずっと嬉しいままだった。
「ここでいいか」
木の中を抜けると、百之助は急に立ち止まった。
石でいっぱいの地面に、転びそうになりながら、慌てて隣に並ぶと、百之助はこっちをちらり見て、はあ、と息を吐いた。
「そんなに慌ててけがでもしたらどうするんだ。ちゃんと待っててやるからもう少しゆっくり来い」
「はあい」
足元の石を、目の前をさあっと流れる川をめがけて思いっきり蹴とばす。
百之助はまた、はあ、とため息を吐いた。
「まあいい。どうせお前は言っても聞かないからな。もう始めるぞ」
「うん!」
ぶんっと大きく頭を振ると、百之助は何かを袖の中からごそごそ探し始めた。
「ほら、お前の分だ」
両手のひらにぽとり、と落とされたそれは、つるつるしてて、取っ手の付いた、ちょっと大きな竹の筒だった。
「なに、これ?」
じっと目を近づける私に、百之助は頭を撫で上げながら得意げに胸を張った。
「それは、水鉄砲だ」
「水鉄砲?」
「口で説明するより実際に使ってみた方が分かりやすいか。おい、莉緒、その筒の取っ手抜いてみろ」
「う、うん!」
言われた通り、取っ手を持ってぐいぐい力いっぱい引っ張ってみる。
だけど、取っ手はぴったりはまったままでうんともすんとも言わない。
「百之助…」
筒をぎゅっと握りしめて見上げると、百之助は不機嫌そうに「貸してみろ」って言って私の手からひょい、と水鉄砲を取った。
すぽんっとなんてことないみたいに抜けた筒を私の手にころん、と落とすと、百之助はそのまま川のほとりまで、私の腕を引っ張った。
「こうやって抜いたら筒の中に水を入れるんだ。それくらいは自分でやれ」
「うん!頑張る!」
もうとっくに目の前の川を見てる百之助に、ふんっと鼻を鳴らして大きく頷いてみせると、私はそっと筒を沈めた。
ひやり、とした感触に最初はびっくりしたけど、ごぽごぽと音を立ててあぶくを出すのが面白くって筒をもっと底まで入れてみた。
「もうそんなもんでいいぞ」
「分かった!」
ぷく、ぷく、とほんの小さな泡しか出なくなった筒を、よいしょっと勢いをつけて頭の上まで持ち上げると、案外重くって、体がぐらりと揺れた。
「おい、大丈夫か?」
「大丈夫!ねえ、それよりこの後どうすればいい?」
「ああ、貸してみろ」
差し出した水鉄砲をひょい、と取り上げると、百之助はてきぱきと取っ手を差し込み直した。
と、思ったら急に私に筒の先っぽを向けて
「うわっ!」
「ははっ、マヌケ面」
「いきなり何すんの!百之助のバカ!」
「お前はそれしか悪口を知らないのか?水鉄砲がどんなもんか見せてやったんだよ。いいか、この取っ手を押し込むとな…」
「えっ!?ちょっと待って!うわあっ!」
「ははっ、これで分かっただろう。水鉄砲はこうやって遊ぶもんだ」
そう言うと、百之助は、おでこを撫で上げながらニヤニヤと意地悪く笑った。
「もう頭にきた!絶対百之助にも水鉄砲バンバン当ててやるんだから!」
片手でポンポン投げて遊ばれているかわいそうな水鉄砲を奪い取ると、私は百之助めがけて思いっきり取っ手を押し込んだ。
「百之助!覚悟ー!!!」
「ははあっ、やれるもんならやってみろよ」
百之助は、ニヤアっと笑うと、もう片方の袖の中から私のよりももう一回り大きな水鉄砲を取り出した。
「くやしいー!私ばっかりバンバン水かけられるのに、なんで、百之助には全然当たらないの!?」
ダンッダンッと地面を踏みつけながらきっと睨みつけると、百之助はニヤニヤ笑ってこっちにやってきた。
「油断したなー?これでもくらえー!!!」
すぐに向き直って、残ってた水をありったけ撃ちこんだ。
だけど、百之助はぐいっと体をよじって、それを軽々と避けてしまった。
「そんなもの、当たるわけないだろう。ばぁか」
私の手からすっと、水鉄砲を取り上げると、百之助はまたさっきみたいにポンポン投げて遊び始めた。
「あっ!ちょっと、返してよ!」
うんと背伸びをしてめいっぱい腕を高く上げても、百之助が頭の上まで持ち上げるとちっとも届かない。
「だめだ。もうじき暗くなる。早く帰らないとお前の父ちゃんと母ちゃんは心配するだろう」
「えー!やだ!百之助に一発当てるまで帰らない!」
「わがまま言うな」
ぴょんぴょん跳んで、銃を取り返そうとする私を器用に避けると、百之助は私のおでこをちょっと強めに弾いた。
「痛い!なによ!そんなこと言っちゃってさ!百之助こそ、じぶんだけ大きな水鉄砲使って、ズルして勝ったくせに!」
「俺の方が体がでかいんだ。ずるくない」
そう言うなり、百之助は川の方に歩いて行ってしまった。
「ちゃんと話聞いて!」
川に向かって立つ百之助の腕にしがみついて、ガンガン揺らした。
「どけ、阿保!かかるだろ!」
とっさにさっと持ち上げられた水鉄砲は、まんまるのしずくを降らせながら勢いよく水を噴き出した。
ふらふらと立ち止まって、とっさにぎゅっとつむった目を開くと、一瞬、小さな小さな水のつぶが赤にも黄色にも青にも見えた。
「ね、ねえ!百之助!今のなに?」
「はあ?今の?何のことだ?」
ゆっくりと水鉄砲を下ろすと、百之助はぎゅっと眉毛を寄せた。
「今のは今のだよ!えっと…その水鉄砲の水がいろんな色に見えたの!百之助にも見えたでしょ!」
腕にぶら下がっている水鉄砲をぐいぐい引っ張り上げて聞くと、百之助は「ああ」と面倒くさそうに返した。
「虹のことか?」
「ニジ?なにそれ?」
「太陽の光が水に当たって色がついて見えるやつだ」
「えっ!?じゃあ、あのきれいな色は全部お日様の色なんだ!」
太陽って意味が伝わるように、腕をめいいっぱい広げてとびきり大きな丸を描く。
百之助は「そうなんじゃないのか」って興味なさそうに言うと、またくるりと向き直って私の水鉄砲から水を出し始めた。
「あ!ねえ!また水を出すんだったらもう一回虹を見せてよ!」
慌てて駆け寄って肩を叩くと、百之助はまだぽたり、ぽたりと雫が垂れている水鉄砲を私に押し付けてきた。
「そういうと思った。ほら、俺のやつの水を抜くからこっちで見てろ」
「うん!」
百之助がちょっとずれてできた隙間に立ってからこくんと頷く。
かぽん、と傾いた水鉄砲の取っ手がぐいっと押し込まれた。
「うわあ!」
勢いよく噴出された水がうっすら白いしぶきを上げて広がると、その先に両手のひらを合わせたのより少し大きいくらいの虹がさあっと浮き上がった。
しっかり目を凝らしていないと分からないかもしれないほど透き通っている虹は、百之助と私だけの秘密の宝物みたいだと思うと、もっとずっとキラキラして見えた。
「きれいだね、百之助!」
「そうか?よく分からん」
そう言ってふんっと息を吐くと、百之助はまた、かぽん、と水鉄砲を傾けた。
「ねえ百之助!今日こそ銃を教えて!」
おいしい鳥肉を食べた帰り道、去っていく百之助の着物を掴む。
「またその話か。何回も言っているだろう。お前じゃ体も小さいし力も無いし無理だ」
そう言うと、百之助は私の手を外そうとぐいぐい引っ張り始めた。
「無理じゃないもん!百之助と練習したら絶対できるようになる!」
「いや、無理だ!いい加減諦めろよ」
べりっと無理やり私を引き剥がすと、百之助はそのまま帰ってしまった。
「百之助のばかー!」
地面に尻もちをついたまま、思いっきり叫んだ。
「おい、莉緒」
畑のお手伝いが終わってお家に入ろうとすると、百之助が入口の前にぽつんと立っていた。
けど、私はふいっとそっぽを向いて百之助の横を通り過ぎた。
「この前は悪かった」
「え?」
ぼそりと聞こえた小さな声にびっくりして振り向くと、百之助はじっとこっちを見ていた。
「この前は悪かった」
「え?」
「聞こえていないのか?この前は、悪かった」
「聞こえてる!聞こえてるよ!」
慌てて両手をぶんぶん振ってそう言うと、百之助にぺしっと頭をはたかれた。
「聞こえてるならちゃんと返事しろ。このばか」
「だって、百之助が謝ってきたのなんてはじめてなんだもん!すごくびっくりした!」
そう言うと、百之助はまた頭をはたいてきた。
「それは今までの全部お前が悪かったからだろう」
「そんなことないもん!百之助が悪い時もあったもん!
…でも、この前は、ずっとわがまま言ってごめんなさい」
ぎゅっと裾を握りしめると、ぽたぽたと涙がこぼれた。
百之助は、一瞬目を丸くして、それからそっと私の頭に触れた。
「よし。早速行くか」
「いつもの山?」
ゆっくり見上げると、百之助はほんの少しだけ伸びた前髪を撫で上げた。
「ああ。今日はお前専用の銃も用意してきた」
「え!?それ本当!?」
「本当だ。今から使い方を教えてやるからついてこい」
「うん!やったー!!!ありがとう!百之助ー!」
大きな背中にぼふんっと顔をうずめたら、「どけ」って引き剥がされちゃったけど、いつもと違って今日はずっと嬉しいままだった。
「ここでいいか」
木の中を抜けると、百之助は急に立ち止まった。
石でいっぱいの地面に、転びそうになりながら、慌てて隣に並ぶと、百之助はこっちをちらり見て、はあ、と息を吐いた。
「そんなに慌ててけがでもしたらどうするんだ。ちゃんと待っててやるからもう少しゆっくり来い」
「はあい」
足元の石を、目の前をさあっと流れる川をめがけて思いっきり蹴とばす。
百之助はまた、はあ、とため息を吐いた。
「まあいい。どうせお前は言っても聞かないからな。もう始めるぞ」
「うん!」
ぶんっと大きく頭を振ると、百之助は何かを袖の中からごそごそ探し始めた。
「ほら、お前の分だ」
両手のひらにぽとり、と落とされたそれは、つるつるしてて、取っ手の付いた、ちょっと大きな竹の筒だった。
「なに、これ?」
じっと目を近づける私に、百之助は頭を撫で上げながら得意げに胸を張った。
「それは、水鉄砲だ」
「水鉄砲?」
「口で説明するより実際に使ってみた方が分かりやすいか。おい、莉緒、その筒の取っ手抜いてみろ」
「う、うん!」
言われた通り、取っ手を持ってぐいぐい力いっぱい引っ張ってみる。
だけど、取っ手はぴったりはまったままでうんともすんとも言わない。
「百之助…」
筒をぎゅっと握りしめて見上げると、百之助は不機嫌そうに「貸してみろ」って言って私の手からひょい、と水鉄砲を取った。
すぽんっとなんてことないみたいに抜けた筒を私の手にころん、と落とすと、百之助はそのまま川のほとりまで、私の腕を引っ張った。
「こうやって抜いたら筒の中に水を入れるんだ。それくらいは自分でやれ」
「うん!頑張る!」
もうとっくに目の前の川を見てる百之助に、ふんっと鼻を鳴らして大きく頷いてみせると、私はそっと筒を沈めた。
ひやり、とした感触に最初はびっくりしたけど、ごぽごぽと音を立ててあぶくを出すのが面白くって筒をもっと底まで入れてみた。
「もうそんなもんでいいぞ」
「分かった!」
ぷく、ぷく、とほんの小さな泡しか出なくなった筒を、よいしょっと勢いをつけて頭の上まで持ち上げると、案外重くって、体がぐらりと揺れた。
「おい、大丈夫か?」
「大丈夫!ねえ、それよりこの後どうすればいい?」
「ああ、貸してみろ」
差し出した水鉄砲をひょい、と取り上げると、百之助はてきぱきと取っ手を差し込み直した。
と、思ったら急に私に筒の先っぽを向けて
「うわっ!」
「ははっ、マヌケ面」
「いきなり何すんの!百之助のバカ!」
「お前はそれしか悪口を知らないのか?水鉄砲がどんなもんか見せてやったんだよ。いいか、この取っ手を押し込むとな…」
「えっ!?ちょっと待って!うわあっ!」
「ははっ、これで分かっただろう。水鉄砲はこうやって遊ぶもんだ」
そう言うと、百之助は、おでこを撫で上げながらニヤニヤと意地悪く笑った。
「もう頭にきた!絶対百之助にも水鉄砲バンバン当ててやるんだから!」
片手でポンポン投げて遊ばれているかわいそうな水鉄砲を奪い取ると、私は百之助めがけて思いっきり取っ手を押し込んだ。
「百之助!覚悟ー!!!」
「ははあっ、やれるもんならやってみろよ」
百之助は、ニヤアっと笑うと、もう片方の袖の中から私のよりももう一回り大きな水鉄砲を取り出した。
「くやしいー!私ばっかりバンバン水かけられるのに、なんで、百之助には全然当たらないの!?」
ダンッダンッと地面を踏みつけながらきっと睨みつけると、百之助はニヤニヤ笑ってこっちにやってきた。
「油断したなー?これでもくらえー!!!」
すぐに向き直って、残ってた水をありったけ撃ちこんだ。
だけど、百之助はぐいっと体をよじって、それを軽々と避けてしまった。
「そんなもの、当たるわけないだろう。ばぁか」
私の手からすっと、水鉄砲を取り上げると、百之助はまたさっきみたいにポンポン投げて遊び始めた。
「あっ!ちょっと、返してよ!」
うんと背伸びをしてめいっぱい腕を高く上げても、百之助が頭の上まで持ち上げるとちっとも届かない。
「だめだ。もうじき暗くなる。早く帰らないとお前の父ちゃんと母ちゃんは心配するだろう」
「えー!やだ!百之助に一発当てるまで帰らない!」
「わがまま言うな」
ぴょんぴょん跳んで、銃を取り返そうとする私を器用に避けると、百之助は私のおでこをちょっと強めに弾いた。
「痛い!なによ!そんなこと言っちゃってさ!百之助こそ、じぶんだけ大きな水鉄砲使って、ズルして勝ったくせに!」
「俺の方が体がでかいんだ。ずるくない」
そう言うなり、百之助は川の方に歩いて行ってしまった。
「ちゃんと話聞いて!」
川に向かって立つ百之助の腕にしがみついて、ガンガン揺らした。
「どけ、阿保!かかるだろ!」
とっさにさっと持ち上げられた水鉄砲は、まんまるのしずくを降らせながら勢いよく水を噴き出した。
ふらふらと立ち止まって、とっさにぎゅっとつむった目を開くと、一瞬、小さな小さな水のつぶが赤にも黄色にも青にも見えた。
「ね、ねえ!百之助!今のなに?」
「はあ?今の?何のことだ?」
ゆっくりと水鉄砲を下ろすと、百之助はぎゅっと眉毛を寄せた。
「今のは今のだよ!えっと…その水鉄砲の水がいろんな色に見えたの!百之助にも見えたでしょ!」
腕にぶら下がっている水鉄砲をぐいぐい引っ張り上げて聞くと、百之助は「ああ」と面倒くさそうに返した。
「虹のことか?」
「ニジ?なにそれ?」
「太陽の光が水に当たって色がついて見えるやつだ」
「えっ!?じゃあ、あのきれいな色は全部お日様の色なんだ!」
太陽って意味が伝わるように、腕をめいいっぱい広げてとびきり大きな丸を描く。
百之助は「そうなんじゃないのか」って興味なさそうに言うと、またくるりと向き直って私の水鉄砲から水を出し始めた。
「あ!ねえ!また水を出すんだったらもう一回虹を見せてよ!」
慌てて駆け寄って肩を叩くと、百之助はまだぽたり、ぽたりと雫が垂れている水鉄砲を私に押し付けてきた。
「そういうと思った。ほら、俺のやつの水を抜くからこっちで見てろ」
「うん!」
百之助がちょっとずれてできた隙間に立ってからこくんと頷く。
かぽん、と傾いた水鉄砲の取っ手がぐいっと押し込まれた。
「うわあ!」
勢いよく噴出された水がうっすら白いしぶきを上げて広がると、その先に両手のひらを合わせたのより少し大きいくらいの虹がさあっと浮き上がった。
しっかり目を凝らしていないと分からないかもしれないほど透き通っている虹は、百之助と私だけの秘密の宝物みたいだと思うと、もっとずっとキラキラして見えた。
「きれいだね、百之助!」
「そうか?よく分からん」
そう言ってふんっと息を吐くと、百之助はまた、かぽん、と水鉄砲を傾けた。