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「親愛なる一郎へ」
8月27日。
夏の盛りを過ぎたはずなのに秋の気配もさらさらない一郎の誕生日、私は初めてペンを執った。勿論、一郎にサプライズで手紙を送るため、だ!!!
お気に入りのモモの香りのペンもあったけど、真っ黒なボールペンにしたのは、減量中の一郎がこの甘~い、いい匂いを嗅いだらお腹が空いちゃって、ついついお菓子をい~~~~っぱい食べたくなっちゃうだろうから!…いや、嘘です。本当は一郎に「お子様」って笑われるのが本当に本当に嫌だからっ!!!本当に最低!なんであんなヤツが好きなんだろう私!!!
って!!!何言われてもないような悪口を妄想して勝手に怒ってんのよ私!!!
気を取り直して私は再びペンを執る。
「お元気ですか?」
こう書いて、ペンはぴたりと止まる。
元気なことくらい、さすがに知ってたね。
何度も何度も国際電話をかけてやっと出てくれた一郎にいつも私は真っ先にそれを聞いていた。そしたらいつも決まって練習疲れの気だるげモード、それかイライラMAXモードで「ああ」って答えられる。
答えてくれるのは嬉しいけど、大体その態度にムカーっときてケンカになってさっさと切り上げちゃうからそれ以外は何にも知らないんだけど。
はあ~あ、なんか、貴重なスペース、無駄にしちゃったな…。
駅前の雑貨屋さんで買ったかわいらしい柄のレターセットは値が張るクセして便箋が5枚しか入っていない。封筒だってたった2つ。かわいいからってあまりにもな内容量だ。
あっ!いけない、いけない!!!一郎へのちょっぴり周回遅れの誕生日プレゼント兼、一郎ともっともっとおしゃべりしたいっていう可愛いワガママで書いてるこの手紙にそういう暗いのはナシ!!!絶対ナシなんだから!!!
気を取り直して、私はじわりとできたインキの玉をなぞった。
「私は元気です。
電話じゃあんまり話せないし、大体は一郎のせいだけど、いっつもケンカになってばっかりだから、今回は私の近況を手紙にしてみることにしました!
私はいっぱい一郎に話したいことあるし、大好きな彼女からのラブレターなんて一郎にとっても最高のお誕生日プレゼントでしょ?
これってなんて言うんだっけ?一石二鳥?合ってる?まあいっか!とにかくいいことばっかってこと!このナイスアイデア、帰ってきたらいっぱい褒めてもらうから!そのつもりでね!!!」
一郎の手厳しいツッコミが無いから言いたいことを次から次に書ける…手紙、最高!!!
私はぐいっと口角を引き上げた。
「本題に入るね!
意地っ張りで愛想も態度も悪い最悪のボクシングバカの彼女でいるにはもったいない絶世の美少女な私、小宮莉緒は毎日楽しくやってます!
この前なんてね、友達と旅行に行ってきたんだよ!ほら、高校1年の時一郎とも同じクラスだったあの子達!覚えてる?覚えてないか!一郎、学校の人とほとんど喋ってなかったもんね…
ほんとは超超超バカなのにそのせいでクールで落ち着いたオトナなイケメン♡とか女子に騒がれてたもんね…!!!クッソ~!腹立つ!!!中学1年の数学ですでに取り返しのつかないやらかし方してたアホ野郎のクセに…!!!
あ…無駄な話をしちゃった。本題に入るね。」
旅行先の地名を辞書片手に書き写す。大概私もおバカちゃんだったわ。
こうして考えてみると、ボクシングさえ関わればズブの素人から英語ペラペラバイリンガルにもなれる一郎って案外すごい気がしてきた。この旅先だって有名なボクサーの出身地~とか、超BIGな試合会場が実はあるとかだったらガイドブックで勉強した私なんかよりずっと詳しいかもしれない…
おー、怖っ!
幼馴染兼彼氏ながらその超局所的にやたら高いスペックに恐れおののきながら、私はキラキラのラメペンでたくさん落書きしたアルバムを手に取る。
「その旅行で泊まった旅館、とっても素敵でね、何だっけ、かいいし料理?だっけなんかすんごい美味しくて超豪華な和食ディナーだったよ!!!一郎も帰ってきたら一緒に行こうよ!あれなら多分野菜と魚ばっかりだからそんなに太んないし大丈夫でしょ?またまたナイスアイデア!」
さすが私…あ!!!!!!!やば!!!これ、まずくない!?!?!?
最悪のやらかしをした…!!!
一緒に旅館でご飯食べよう!なんて、そんなの2人きりで旅行行こう!って意味とほぼ同じだし、2人きりで旅行したい!なんて、私のこと朝までいっぱい抱いて♡って言ってるようなもんじゃない~!!!いやぁ~!!!
…別にシたくないワケじゃないんだよ?それは断じて違う!でもさぁ~、なんかさぁ~、私の方から誘うのは恥ずかしいじゃん?いや、一郎から「デザートはお前。頭から足の先まで美味しく食べてやるよ。イクラはシャケのベイベー(イケボ)」とか言われても恥ずかしいよ!?いや、この台詞は嫌だな。ダッサいしクッサい。あー、でも、シャケのベイベーはともかく、デザートはお前、は言わないとも言い切れないとこあるな…一郎、たまにこっちが引くくらいクソキザ野郎になるから…
やば、でも本当に言われたらどうする?すぐOKするのはやっぱはしたない…?ってかそれ以前に心の準備っ!!!断ろ!!!「私には、心に決めた方が…」って~い!それ一郎やないか!!!
あ、ダメだこれ、頭がぐちゃぐちゃ。一旦例のとこ、消そう!!!
私は手近にあった消しゴムをひったくるように取り上げ、力強く擦った。
え!?うそ!?なにこれ!?
力いっぱい擦ったけど、「旅行」の2文字が汚く掠れただけ。
なんでよ~!?あっ!!!!!!
手の中の油性!黒ボール!滑らかな書き心地!
終わった…
私は消しゴムを机に放り、「なんて、冗談だからね!」と往生際悪く書き足した。
気を取り直して別の話題に入る。というかそうするしかない…これまでの大失態を完全になかったことにして忘れ去りたい。それで一郎にも絶対気付かれたくない…
「そういえば最近、私は一人暮らしを始めました!びっくりでしょ?」
書きながら笑い声が漏れる。
なんだかんだ言っても結局手紙書くの楽しい。
いっつもつまんなそうなポーカーフェイスの一郎が頬をぴくっと動かして動揺してるのがすんごい目に浮かぶんだよね。分かりやすく驚いているのに「別に」なんて言ってなんでもないようなフリをしているのが最高に笑えるんだ、一郎は。
「家事もね、ちょっとずつだけど慣れてきたし、もう一人前の大人になれた!って感じ!!!」
この前マスターした低カロリー高たんぱくの鶏の蒸し焼き、一郎も気に入ってくれるかな?誕生日のカップケーキはなんだかんだ気に入ってくれてるけどあれはなんというかこう、思い出補正もかかってるじゃん?他の手作りを美味しいって言ってもらわもらわないと胃袋掴んだ!とはならないよね!!!
よっし!今の内に約束取り付けて、帰ってきたらソッコー作るよ!!!
って、ちょっと待って!あ、やっぱり!もう最後の便箋突入してるし!
え!?っていうかもう半分近く埋まっちゃってんじゃん!?
バタリ、と机に突っ伏す私。一応ペンは咄嗟にキャップを閉めたから多分手紙は無事だけど。
ど、どうする…?書きたいことはまだ山ほどあったのに。最近ハマってるバンドの話とか、今住んでる町のこととか。それに…
それに、まだ手紙で一郎が好きって言えてない…こんなのでも一応ラブレターなのに。
うあー…どうしよう。書くべき、というより書きたいんだけど、好き、なんてやっぱ軽々しく書けないよ…!!!
手紙を端に追いやって、私は机にぐりぐり頭を擦り付けた。
今住んでるとこのことは別に一郎がこっち戻ってきてから案内するつもりだし、あんま必要ないっちゃ必要ないよね。ってか好きなバンドの話ってなによ?それこそ一番無駄じゃん~!!!一郎、絶対そういうのハマんないタイプだしさ…
だからと言って「よし!書こうか!!!」ってなる程、肝据わってないもん私…ぶっちゃけそういう感じだから電話じゃなくて手紙でなら言えるかもって思った節もあるような気もするし…
あーあ、もし一郎がこの場にいたらなんて言うだろう。人の気も知らないであのノンデリカシー男、「言いたいことがあるならハッキリ言えよ」って怒るんだろうなあ~…デリケートな乙女心が分かってないよアイツは…
でもって、言ったら言ったでやばいんだろうな…
抱き締めてキスは絶対してくるとして、こっちが恥ずかしくって死にたくなるようなやたらめったら甘~いセリフを延々と耳元で囁き続けた挙句ベッドに直行!
そこからエッチ…はまあ、一郎のことだから土壇場で怖気付く可能性もあるからやる!とは断言できないけど、その限りなく手前くらいのことはネチネチ、ネチネチ何時間もやってきそう。というかやるな…
あー、もうあのクソド変態野郎~…!!!
頭の中をぐるぐるしてる悪口とは裏腹に、私は顔どころか全身が熱くなってきて、それはもう酷い風邪と熱の日みたいに胸が苦しくなった。
なんかもう、ここまで来たら逆に「好き」とか書かない方がいい気もしてきた。書く書かないで迷うだけでこれじゃもう無理っしょ…今回は書かない!!!一応最初に「ラブレター」って書いてるしこっちの意図はまあ伝わるでしょ!!!もういいや!!!
そう思い直して、ペンのキャップを勢いよく外す。
でも、いざ空いたスペースを目にすると、また何を書いたらいいかよく分かんなくなってきた。さっき考えてたあの言葉以外にも書きたいことがいっぱいあったはずなのに。
ねえ、やっぱりこれってさ、本当は私、めちゃくちゃ「好き」って書きたいんじゃないの?
手の中のペンをくるくる回してみながらそんなことを思ってみる。さっきみたいに「いや!でも!」ってまた思うでしょって考えてたのに、全然そんなことなくって、むしろすっと納得しちゃった。
はあぁ~あ…
深く深くため息を吐いて、私はもう一度姿勢を正す。それでもぶるぶる震える手をもう片方の手でしっかり抑えて手紙に向き合う。
「…とにかく、誕生日おめでとう。それと、一郎
大好き、だよ」
文字にした瞬間、案の定、というかやっぱり、というか、すぐにカアっと顔が熱くなってくる。
こうなっちゃったら正真正銘自分の文字で書かれた私の一世一代の告白なんて恥ずかしすぎて見てらんない!!!
私は便箋を素早く折りたたむと、セットの同じ柄の封筒に押し込んでさっさと台紙の一番上のシールで封をしてしまった。
ほんとはシールだってどれが一番かわいいかしっかり悩んで選びたかったし、小さな封筒は無理に便箋を押し込んだからミッチミチになってるし、なんか変なとこに皺とか折り目とか入っちゃってちょっと汚い。
やっちゃったな…
だけど、あれだけ悩んで悩んで書いたさっきまでの自分の気持ちを無駄にするわけにはいかないよね。
私は意を決して立ち上がった。
ジリリリリ…ジリリリリ…
ドッキドキのまま郵便局から帰宅すると、部屋中に電話の音がけたたましく鳴り響いていた。
な、なんて間の悪い…!!!
領収書を握ったまま慌てて電話に駆け寄る。
「もしもし!」
出た瞬間、受話器の奥でクスクスとこちらを小馬鹿にしたような笑い声。
は?なに?近所の悪ガキのイタズラ!?ほんと、勘弁してよね!!!
「あの!用がないなら切ります!!!」
「ちょっと待てよ、莉緒」
私の迫真の怒鳴り声にも関わらず、電話の主は悪びれもせずこの余裕。なんなのコイツ!しかも莉緒だなんて呼び捨てにして!生意気よ生意気!!!
ん?莉緒…?
「…もしかして、一郎?」
「そう。恋人の声くらいすぐに分かれよ」
あー、この性悪でエラソーな感じ!絶対一郎だ…!!!
嬉しくなってはしゃいじゃいそうになる気持ちを抑えて、ふん、と咳払いする。
だって、私ばっかり喜んでるみたいでなんか嫌なんだもん。
「なによ。仕方ないじゃない。こっちから電話したって一郎、ほとんどしゃべってくんないし、ちょっと喋ったとしても嫌味か怒ってるかのどっちか!それにほんの最近まで減量だ試合だなんだって言ってまともに取り合ってくんなかったじゃない!忘れて当然でしょ!」
「でも一応喋ってはいるだろ。フツー忘れねえよ」
ムッとした感じの一郎の声。なによなによ私、変なことなんか1つも言ってないんだからねっ!!!
でも、ここで怒ったらまたいつもみたいに喧嘩になってすぐに電話終わっちゃう…
「…ごめん」
なんだかモヤモヤしたまんまだけど、私はぼそりとそう言った。
しょんぼりと項垂れると、また受話器の奥から小さな笑い声。
「悪い。別に怒ってねえよ」
「…本当に?」
「本当に」
真っ直ぐな一郎の声。一郎のことを疑いたいわけじゃないのにそれでも私の中のモヤモヤは消えない。本当の本当に一郎、怒ってないの?
「なあ」
黙り込む私にお構いなく一郎は話しかけてくる。
「俺、今日誕生日なんだけど?」
「え?ああ、おめでとう、一郎」
「サンキュー。で、プレゼントなに?」
そう言われてドキリと心臓が跳ねる。
プ、プレゼント…!?
手の中の領収書がカサリとひしゃげる。
「えっとー…ごめん。今年はカップケーキも他のモノも送ってあげられないからさ…」
分かりやすく慌てる私にふっと笑みを溢すと、一郎は続けた。
「知ってる。だから今、こうして他のプレゼント貰うために電話掛けてんだぜ。莉緒から掛かってくるの待っていたけど、このままじゃ日が暮れちまうからな」
「え?電話でプレゼント…?」
いや、マジで本気で分からない。
しばらく黙って考え込んでいると、一郎が呆れたように「ほんと、お前って鈍いよな」とか言ってきた。
「そんなの知ってますー!でも、それを知ってて変に遠回しに話してくる一郎の方がずっと悪いからね!!!」
「莉緒」
もうすっかりカンカンになって怒鳴り声を上げるのを遮るように一郎は私の名を呼んだ。それも絶対いつもやんないすっごく大人っぽくてカッコいい低い声で!!!
「な、なに?」
条件反射でちょっと態度が丸くなってしまう。
でもでも!しょうがないじゃん!!!あんなにカッコいいのずるいじゃん!!!あー…まだ耳に余韻が残ってる。胸が爆発しちゃいそうなくらいドキドキしてるよ…一郎の大バカ野郎…!!!
「好きだ」
「え?」
「好きだ」
「え、ええええええ!?!?!?」
い、一郎が、一郎が私のこと、好きって!好きって~!?!?!?
やばいやばいやばい…落ち着け落ち着け落ち着け~!!!
いやね、知ってるけどね、そんなこと!!!そうじゃない子と付き合うようなヤツじゃないもん!
それに…日本にいた時だって気が向いたら言ってくれることもあったもん…
ちょ!やだ!!!なに頭の中で考えてるだけなのに小声になってんのよ!!!
ってかそうじゃなくて!!!え?なんで今!?急に!?!?!?そんなこと言うの!?!?!?ここ1年そんなことチラッとでも言われてこなかったから心の準備ゼロすぎて、ビックリとドキドキで死にそうだよ~!!!なんなのよもう~!!!
「で、莉緒は?」
あっ、そういうこと~!?!?!?
ヤツは得意げにふっと笑ってそんなことを聞いてきた。語尾に「当然、答えは決まってるよな?」と腹立たしい幻聴まで聞こえる。
勘弁してよ~!!!もうさっき偶々偶然答えになる一世一代の告白、書いて提出しちゃったよ~!?提出期限の8/27は確実に割って到着だけど、出したもんは出したんだよ~!!!
え!?正直に言う???いやでも、「ラブレター書いたよ♡読んでね♡」もめっちゃめっちゃ恥ずかしいよ~!!!
「何黙ってんだよ、早く言えよ」
悩みに悩んでたら短気の極み男一郎がやっぱり怒り始めてきた…!!!
「いや、でも…」
ラブレターなんて言えないし…
「お手本、もう1回聞かせてやろうか?」
またまた一郎があの低くってカッコい~い声で囁いてくる。っていうか、一郎、私の反応、ちょっと面白がってるでしょこれ!!!
「いい!結構ですー!!!」
「遠慮すんな。恋人同士だろ?」
「え、遠慮じゃな…」
「好きだ」
ギャー!!!!!!
「ふっ、もう1回お手本言ってやろうか?」
一郎、死ぬほど笑ってる。さっきのギャー!!!!!!、声に出してたみたいだ。やばい。恥ずかしすぎて今度こそ死にそう…
「いいです結構ですっ!!!ねえ、一郎?」
「なに?」
「本当に言わなきゃダメ…?」
「ダメだね。言うまで切らねえから」
「え!?ちょっ…!!!電話料金!!!やだ!!!今月結構ピンチなのに!!!」
慌てて切ろうと受話器を耳から離したらまた一郎の笑い声。しかも今度は大爆笑。
「ちょっとなに?私、変なこと言ってないんだけど?」
「言っただろ。なんだよ電話料金って…俺から掛けてんだからお前には金かかんねえだろうが。ちょっとは頭使えよ」
「…一郎に頭使えとか言われたくないんだけど。万年赤点野郎だったくせに」
「英語は主席だっただろ?」
「…それ言われるとムカつく!」
「で?」
「なによ…」
「お手本、もう1回言うか?」
「いや!」
話題が逸れてラッキー!って思ってたのに…これ、本当に言うまで切らないつもりだ…一郎、頑固だもんな…
ここまで来たらもう逆に手紙書いたから!って言った方がダメージ少ないかなあ…さらっと言っていい感じに流れで切ろう!よし!
「お手本いらねえなら早く言えよ」
「いや、だってさあ…」
「なんだよ?」
「書いたもん」
「何を?」
「手紙」
「…手紙?」
今の、一郎にしてはちょっと間があった気がする。言われてみたら確かに私って手紙とか書いちゃうタイプに見えないかも…
「そう。手紙。それ、今日書いて出したからちょっとしたら届くし、読んでよ。一郎の聞きたい言葉、多分書いてあるから」
最初の言葉が出てくれば思いのほかスラスラ喋れた。我ながらやるぅ!
ちょっと余裕が出てきて、そのまま強気に「じゃ、そういうことだから!」と言葉を切ると、一郎が「待てよ」と呟いた。ドキリ、と心臓が嫌な跳ね方をする。
「その「俺が聞きたい言葉」っていうのはなんだよ。手紙に書いたくらいだから言えるだろ?はっきりこの場で言えよ」
声しか聞こえないのに一郎の鋭い目つきが目に浮かんでくる。全く納得してないヤツだこれ…!!!
「それは、その…読んでからのお楽しみ、みたいな?」
「エアメールだろ、それ。届くのにどんだけ時間かかると思ってんだ。そんなん待ってられるかよ」
早速一郎の迫力に負けてタジタジになりながら、まだ未練がましく逃げようとする私に、一郎はぴしゃりとそう言った。
でも、私だって負けてばっかじゃいらんない!!!
「待ってくれたっていいじゃん!一郎のドケチ!!!だってしょうがないでしょ!面と向かって「大好き」なんて恥ずかしくって言えないんだから!!!素直に手紙に書いてあげたんだから逆に感謝してほしいくらいなんだけどな!!!」
「……」
「なによ…なんか文句ある?」
「いや。それより、今のもう1回」
「は?」
ガンガン怒ったって言うのに一郎はなぜかゴキゲンだ。意味分かんない。
「よく分かんないけど、まあいいや。何回でも言ってあげるから!えっと、何だっけ。一郎のドケチ!」
「その後」
「えー?えっと…」
いやいやいや!本当に意味分かんない!もう1回「ドケチ!!!」って言ってやったのにまだゴキゲンだよ!?なんなの!?明日、私の町だけ槍とナイフのゲリラ豪雨になるっていうの!?!?!?
「しょうがないでしょ!…だったかな」
「その後は?」
「面と向かって大す、あ…」
「なんだよ、続けろよ」
口調から一郎がニヤニヤしながら聞いてるのがなんとなく分かる。ムカつく~!!!
「だ、大好き…なんて面と向かって言えないから!!!」
「ふぅん。今のとこ、最初だけもう1回」
「なっ!!!もう言ったんだから終わりでいいでしょ!!!」
「ダメ。さっきお前、何回でも言ってあげるって言った」
「言ってない~!多分…」
嘘。絶対言った。言っちゃってる。私のバカ~…カバ~…!!!
「いや、言ったね。ほら、早く言えよ」
「うぅ~…大好き」
「ふっ…莉緒、もう1回」
「…好き、かも?」
「やり直し」
「…好きっ!もうこれでいいでしょ!!!」
「う~ん、まあそれでもいいぜ。じゃあもう1回。次はちゃんと、な」
「一郎、だ、大好き…」
「俺は莉緒のこと愛してるぜ」
「へ!?!?!?」
ぼんっと顔中から火が吹き出してしまいそうな程顔が熱い!!!
「プレゼント、サンキューな。手紙も楽しみにしてる」
言うだけ言って、一郎はこっちの気もしらないで満足げに電話を切ってしまった。
私はというと、ツーツーと音をたて続ける受話器を離せないままその場に棒立ちになっちゃってる。
だって、だって…あんなこと言ってくるなんて思わないじゃん…!!!つい何年か前は私が頼んでやっと嫌々言ってたような感じだったんだよ!?なんなのもう!!!
一郎、大人になってるんだな…
ゆっくりと受話器を置いてため息を吐く。
ふと、最近雑誌で見た一郎の写真を思い出す。小さなページだったけど、ジミーなんたらって向こうのスター選手を傷だらけになって倒したあの逞しい姿。
ようやくあの写真が今の一郎と重なった。
8月27日。
夏の盛りを過ぎたはずなのに秋の気配もさらさらない一郎の誕生日、私は初めてペンを執った。勿論、一郎にサプライズで手紙を送るため、だ!!!
お気に入りのモモの香りのペンもあったけど、真っ黒なボールペンにしたのは、減量中の一郎がこの甘~い、いい匂いを嗅いだらお腹が空いちゃって、ついついお菓子をい~~~~っぱい食べたくなっちゃうだろうから!…いや、嘘です。本当は一郎に「お子様」って笑われるのが本当に本当に嫌だからっ!!!本当に最低!なんであんなヤツが好きなんだろう私!!!
って!!!何言われてもないような悪口を妄想して勝手に怒ってんのよ私!!!
気を取り直して私は再びペンを執る。
「お元気ですか?」
こう書いて、ペンはぴたりと止まる。
元気なことくらい、さすがに知ってたね。
何度も何度も国際電話をかけてやっと出てくれた一郎にいつも私は真っ先にそれを聞いていた。そしたらいつも決まって練習疲れの気だるげモード、それかイライラMAXモードで「ああ」って答えられる。
答えてくれるのは嬉しいけど、大体その態度にムカーっときてケンカになってさっさと切り上げちゃうからそれ以外は何にも知らないんだけど。
はあ~あ、なんか、貴重なスペース、無駄にしちゃったな…。
駅前の雑貨屋さんで買ったかわいらしい柄のレターセットは値が張るクセして便箋が5枚しか入っていない。封筒だってたった2つ。かわいいからってあまりにもな内容量だ。
あっ!いけない、いけない!!!一郎へのちょっぴり周回遅れの誕生日プレゼント兼、一郎ともっともっとおしゃべりしたいっていう可愛いワガママで書いてるこの手紙にそういう暗いのはナシ!!!絶対ナシなんだから!!!
気を取り直して、私はじわりとできたインキの玉をなぞった。
「私は元気です。
電話じゃあんまり話せないし、大体は一郎のせいだけど、いっつもケンカになってばっかりだから、今回は私の近況を手紙にしてみることにしました!
私はいっぱい一郎に話したいことあるし、大好きな彼女からのラブレターなんて一郎にとっても最高のお誕生日プレゼントでしょ?
これってなんて言うんだっけ?一石二鳥?合ってる?まあいっか!とにかくいいことばっかってこと!このナイスアイデア、帰ってきたらいっぱい褒めてもらうから!そのつもりでね!!!」
一郎の手厳しいツッコミが無いから言いたいことを次から次に書ける…手紙、最高!!!
私はぐいっと口角を引き上げた。
「本題に入るね!
意地っ張りで愛想も態度も悪い最悪のボクシングバカの彼女でいるにはもったいない絶世の美少女な私、小宮莉緒は毎日楽しくやってます!
この前なんてね、友達と旅行に行ってきたんだよ!ほら、高校1年の時一郎とも同じクラスだったあの子達!覚えてる?覚えてないか!一郎、学校の人とほとんど喋ってなかったもんね…
ほんとは超超超バカなのにそのせいでクールで落ち着いたオトナなイケメン♡とか女子に騒がれてたもんね…!!!クッソ~!腹立つ!!!中学1年の数学ですでに取り返しのつかないやらかし方してたアホ野郎のクセに…!!!
あ…無駄な話をしちゃった。本題に入るね。」
旅行先の地名を辞書片手に書き写す。大概私もおバカちゃんだったわ。
こうして考えてみると、ボクシングさえ関わればズブの素人から英語ペラペラバイリンガルにもなれる一郎って案外すごい気がしてきた。この旅先だって有名なボクサーの出身地~とか、超BIGな試合会場が実はあるとかだったらガイドブックで勉強した私なんかよりずっと詳しいかもしれない…
おー、怖っ!
幼馴染兼彼氏ながらその超局所的にやたら高いスペックに恐れおののきながら、私はキラキラのラメペンでたくさん落書きしたアルバムを手に取る。
「その旅行で泊まった旅館、とっても素敵でね、何だっけ、かいいし料理?だっけなんかすんごい美味しくて超豪華な和食ディナーだったよ!!!一郎も帰ってきたら一緒に行こうよ!あれなら多分野菜と魚ばっかりだからそんなに太んないし大丈夫でしょ?またまたナイスアイデア!」
さすが私…あ!!!!!!!やば!!!これ、まずくない!?!?!?
最悪のやらかしをした…!!!
一緒に旅館でご飯食べよう!なんて、そんなの2人きりで旅行行こう!って意味とほぼ同じだし、2人きりで旅行したい!なんて、私のこと朝までいっぱい抱いて♡って言ってるようなもんじゃない~!!!いやぁ~!!!
…別にシたくないワケじゃないんだよ?それは断じて違う!でもさぁ~、なんかさぁ~、私の方から誘うのは恥ずかしいじゃん?いや、一郎から「デザートはお前。頭から足の先まで美味しく食べてやるよ。イクラはシャケのベイベー(イケボ)」とか言われても恥ずかしいよ!?いや、この台詞は嫌だな。ダッサいしクッサい。あー、でも、シャケのベイベーはともかく、デザートはお前、は言わないとも言い切れないとこあるな…一郎、たまにこっちが引くくらいクソキザ野郎になるから…
やば、でも本当に言われたらどうする?すぐOKするのはやっぱはしたない…?ってかそれ以前に心の準備っ!!!断ろ!!!「私には、心に決めた方が…」って~い!それ一郎やないか!!!
あ、ダメだこれ、頭がぐちゃぐちゃ。一旦例のとこ、消そう!!!
私は手近にあった消しゴムをひったくるように取り上げ、力強く擦った。
え!?うそ!?なにこれ!?
力いっぱい擦ったけど、「旅行」の2文字が汚く掠れただけ。
なんでよ~!?あっ!!!!!!
手の中の油性!黒ボール!滑らかな書き心地!
終わった…
私は消しゴムを机に放り、「なんて、冗談だからね!」と往生際悪く書き足した。
気を取り直して別の話題に入る。というかそうするしかない…これまでの大失態を完全になかったことにして忘れ去りたい。それで一郎にも絶対気付かれたくない…
「そういえば最近、私は一人暮らしを始めました!びっくりでしょ?」
書きながら笑い声が漏れる。
なんだかんだ言っても結局手紙書くの楽しい。
いっつもつまんなそうなポーカーフェイスの一郎が頬をぴくっと動かして動揺してるのがすんごい目に浮かぶんだよね。分かりやすく驚いているのに「別に」なんて言ってなんでもないようなフリをしているのが最高に笑えるんだ、一郎は。
「家事もね、ちょっとずつだけど慣れてきたし、もう一人前の大人になれた!って感じ!!!」
この前マスターした低カロリー高たんぱくの鶏の蒸し焼き、一郎も気に入ってくれるかな?誕生日のカップケーキはなんだかんだ気に入ってくれてるけどあれはなんというかこう、思い出補正もかかってるじゃん?他の手作りを美味しいって言ってもらわもらわないと胃袋掴んだ!とはならないよね!!!
よっし!今の内に約束取り付けて、帰ってきたらソッコー作るよ!!!
って、ちょっと待って!あ、やっぱり!もう最後の便箋突入してるし!
え!?っていうかもう半分近く埋まっちゃってんじゃん!?
バタリ、と机に突っ伏す私。一応ペンは咄嗟にキャップを閉めたから多分手紙は無事だけど。
ど、どうする…?書きたいことはまだ山ほどあったのに。最近ハマってるバンドの話とか、今住んでる町のこととか。それに…
それに、まだ手紙で一郎が好きって言えてない…こんなのでも一応ラブレターなのに。
うあー…どうしよう。書くべき、というより書きたいんだけど、好き、なんてやっぱ軽々しく書けないよ…!!!
手紙を端に追いやって、私は机にぐりぐり頭を擦り付けた。
今住んでるとこのことは別に一郎がこっち戻ってきてから案内するつもりだし、あんま必要ないっちゃ必要ないよね。ってか好きなバンドの話ってなによ?それこそ一番無駄じゃん~!!!一郎、絶対そういうのハマんないタイプだしさ…
だからと言って「よし!書こうか!!!」ってなる程、肝据わってないもん私…ぶっちゃけそういう感じだから電話じゃなくて手紙でなら言えるかもって思った節もあるような気もするし…
あーあ、もし一郎がこの場にいたらなんて言うだろう。人の気も知らないであのノンデリカシー男、「言いたいことがあるならハッキリ言えよ」って怒るんだろうなあ~…デリケートな乙女心が分かってないよアイツは…
でもって、言ったら言ったでやばいんだろうな…
抱き締めてキスは絶対してくるとして、こっちが恥ずかしくって死にたくなるようなやたらめったら甘~いセリフを延々と耳元で囁き続けた挙句ベッドに直行!
そこからエッチ…はまあ、一郎のことだから土壇場で怖気付く可能性もあるからやる!とは断言できないけど、その限りなく手前くらいのことはネチネチ、ネチネチ何時間もやってきそう。というかやるな…
あー、もうあのクソド変態野郎~…!!!
頭の中をぐるぐるしてる悪口とは裏腹に、私は顔どころか全身が熱くなってきて、それはもう酷い風邪と熱の日みたいに胸が苦しくなった。
なんかもう、ここまで来たら逆に「好き」とか書かない方がいい気もしてきた。書く書かないで迷うだけでこれじゃもう無理っしょ…今回は書かない!!!一応最初に「ラブレター」って書いてるしこっちの意図はまあ伝わるでしょ!!!もういいや!!!
そう思い直して、ペンのキャップを勢いよく外す。
でも、いざ空いたスペースを目にすると、また何を書いたらいいかよく分かんなくなってきた。さっき考えてたあの言葉以外にも書きたいことがいっぱいあったはずなのに。
ねえ、やっぱりこれってさ、本当は私、めちゃくちゃ「好き」って書きたいんじゃないの?
手の中のペンをくるくる回してみながらそんなことを思ってみる。さっきみたいに「いや!でも!」ってまた思うでしょって考えてたのに、全然そんなことなくって、むしろすっと納得しちゃった。
はあぁ~あ…
深く深くため息を吐いて、私はもう一度姿勢を正す。それでもぶるぶる震える手をもう片方の手でしっかり抑えて手紙に向き合う。
「…とにかく、誕生日おめでとう。それと、一郎
大好き、だよ」
文字にした瞬間、案の定、というかやっぱり、というか、すぐにカアっと顔が熱くなってくる。
こうなっちゃったら正真正銘自分の文字で書かれた私の一世一代の告白なんて恥ずかしすぎて見てらんない!!!
私は便箋を素早く折りたたむと、セットの同じ柄の封筒に押し込んでさっさと台紙の一番上のシールで封をしてしまった。
ほんとはシールだってどれが一番かわいいかしっかり悩んで選びたかったし、小さな封筒は無理に便箋を押し込んだからミッチミチになってるし、なんか変なとこに皺とか折り目とか入っちゃってちょっと汚い。
やっちゃったな…
だけど、あれだけ悩んで悩んで書いたさっきまでの自分の気持ちを無駄にするわけにはいかないよね。
私は意を決して立ち上がった。
ジリリリリ…ジリリリリ…
ドッキドキのまま郵便局から帰宅すると、部屋中に電話の音がけたたましく鳴り響いていた。
な、なんて間の悪い…!!!
領収書を握ったまま慌てて電話に駆け寄る。
「もしもし!」
出た瞬間、受話器の奥でクスクスとこちらを小馬鹿にしたような笑い声。
は?なに?近所の悪ガキのイタズラ!?ほんと、勘弁してよね!!!
「あの!用がないなら切ります!!!」
「ちょっと待てよ、莉緒」
私の迫真の怒鳴り声にも関わらず、電話の主は悪びれもせずこの余裕。なんなのコイツ!しかも莉緒だなんて呼び捨てにして!生意気よ生意気!!!
ん?莉緒…?
「…もしかして、一郎?」
「そう。恋人の声くらいすぐに分かれよ」
あー、この性悪でエラソーな感じ!絶対一郎だ…!!!
嬉しくなってはしゃいじゃいそうになる気持ちを抑えて、ふん、と咳払いする。
だって、私ばっかり喜んでるみたいでなんか嫌なんだもん。
「なによ。仕方ないじゃない。こっちから電話したって一郎、ほとんどしゃべってくんないし、ちょっと喋ったとしても嫌味か怒ってるかのどっちか!それにほんの最近まで減量だ試合だなんだって言ってまともに取り合ってくんなかったじゃない!忘れて当然でしょ!」
「でも一応喋ってはいるだろ。フツー忘れねえよ」
ムッとした感じの一郎の声。なによなによ私、変なことなんか1つも言ってないんだからねっ!!!
でも、ここで怒ったらまたいつもみたいに喧嘩になってすぐに電話終わっちゃう…
「…ごめん」
なんだかモヤモヤしたまんまだけど、私はぼそりとそう言った。
しょんぼりと項垂れると、また受話器の奥から小さな笑い声。
「悪い。別に怒ってねえよ」
「…本当に?」
「本当に」
真っ直ぐな一郎の声。一郎のことを疑いたいわけじゃないのにそれでも私の中のモヤモヤは消えない。本当の本当に一郎、怒ってないの?
「なあ」
黙り込む私にお構いなく一郎は話しかけてくる。
「俺、今日誕生日なんだけど?」
「え?ああ、おめでとう、一郎」
「サンキュー。で、プレゼントなに?」
そう言われてドキリと心臓が跳ねる。
プ、プレゼント…!?
手の中の領収書がカサリとひしゃげる。
「えっとー…ごめん。今年はカップケーキも他のモノも送ってあげられないからさ…」
分かりやすく慌てる私にふっと笑みを溢すと、一郎は続けた。
「知ってる。だから今、こうして他のプレゼント貰うために電話掛けてんだぜ。莉緒から掛かってくるの待っていたけど、このままじゃ日が暮れちまうからな」
「え?電話でプレゼント…?」
いや、マジで本気で分からない。
しばらく黙って考え込んでいると、一郎が呆れたように「ほんと、お前って鈍いよな」とか言ってきた。
「そんなの知ってますー!でも、それを知ってて変に遠回しに話してくる一郎の方がずっと悪いからね!!!」
「莉緒」
もうすっかりカンカンになって怒鳴り声を上げるのを遮るように一郎は私の名を呼んだ。それも絶対いつもやんないすっごく大人っぽくてカッコいい低い声で!!!
「な、なに?」
条件反射でちょっと態度が丸くなってしまう。
でもでも!しょうがないじゃん!!!あんなにカッコいいのずるいじゃん!!!あー…まだ耳に余韻が残ってる。胸が爆発しちゃいそうなくらいドキドキしてるよ…一郎の大バカ野郎…!!!
「好きだ」
「え?」
「好きだ」
「え、ええええええ!?!?!?」
い、一郎が、一郎が私のこと、好きって!好きって~!?!?!?
やばいやばいやばい…落ち着け落ち着け落ち着け~!!!
いやね、知ってるけどね、そんなこと!!!そうじゃない子と付き合うようなヤツじゃないもん!
それに…日本にいた時だって気が向いたら言ってくれることもあったもん…
ちょ!やだ!!!なに頭の中で考えてるだけなのに小声になってんのよ!!!
ってかそうじゃなくて!!!え?なんで今!?急に!?!?!?そんなこと言うの!?!?!?ここ1年そんなことチラッとでも言われてこなかったから心の準備ゼロすぎて、ビックリとドキドキで死にそうだよ~!!!なんなのよもう~!!!
「で、莉緒は?」
あっ、そういうこと~!?!?!?
ヤツは得意げにふっと笑ってそんなことを聞いてきた。語尾に「当然、答えは決まってるよな?」と腹立たしい幻聴まで聞こえる。
勘弁してよ~!!!もうさっき偶々偶然答えになる一世一代の告白、書いて提出しちゃったよ~!?提出期限の8/27は確実に割って到着だけど、出したもんは出したんだよ~!!!
え!?正直に言う???いやでも、「ラブレター書いたよ♡読んでね♡」もめっちゃめっちゃ恥ずかしいよ~!!!
「何黙ってんだよ、早く言えよ」
悩みに悩んでたら短気の極み男一郎がやっぱり怒り始めてきた…!!!
「いや、でも…」
ラブレターなんて言えないし…
「お手本、もう1回聞かせてやろうか?」
またまた一郎があの低くってカッコい~い声で囁いてくる。っていうか、一郎、私の反応、ちょっと面白がってるでしょこれ!!!
「いい!結構ですー!!!」
「遠慮すんな。恋人同士だろ?」
「え、遠慮じゃな…」
「好きだ」
ギャー!!!!!!
「ふっ、もう1回お手本言ってやろうか?」
一郎、死ぬほど笑ってる。さっきのギャー!!!!!!、声に出してたみたいだ。やばい。恥ずかしすぎて今度こそ死にそう…
「いいです結構ですっ!!!ねえ、一郎?」
「なに?」
「本当に言わなきゃダメ…?」
「ダメだね。言うまで切らねえから」
「え!?ちょっ…!!!電話料金!!!やだ!!!今月結構ピンチなのに!!!」
慌てて切ろうと受話器を耳から離したらまた一郎の笑い声。しかも今度は大爆笑。
「ちょっとなに?私、変なこと言ってないんだけど?」
「言っただろ。なんだよ電話料金って…俺から掛けてんだからお前には金かかんねえだろうが。ちょっとは頭使えよ」
「…一郎に頭使えとか言われたくないんだけど。万年赤点野郎だったくせに」
「英語は主席だっただろ?」
「…それ言われるとムカつく!」
「で?」
「なによ…」
「お手本、もう1回言うか?」
「いや!」
話題が逸れてラッキー!って思ってたのに…これ、本当に言うまで切らないつもりだ…一郎、頑固だもんな…
ここまで来たらもう逆に手紙書いたから!って言った方がダメージ少ないかなあ…さらっと言っていい感じに流れで切ろう!よし!
「お手本いらねえなら早く言えよ」
「いや、だってさあ…」
「なんだよ?」
「書いたもん」
「何を?」
「手紙」
「…手紙?」
今の、一郎にしてはちょっと間があった気がする。言われてみたら確かに私って手紙とか書いちゃうタイプに見えないかも…
「そう。手紙。それ、今日書いて出したからちょっとしたら届くし、読んでよ。一郎の聞きたい言葉、多分書いてあるから」
最初の言葉が出てくれば思いのほかスラスラ喋れた。我ながらやるぅ!
ちょっと余裕が出てきて、そのまま強気に「じゃ、そういうことだから!」と言葉を切ると、一郎が「待てよ」と呟いた。ドキリ、と心臓が嫌な跳ね方をする。
「その「俺が聞きたい言葉」っていうのはなんだよ。手紙に書いたくらいだから言えるだろ?はっきりこの場で言えよ」
声しか聞こえないのに一郎の鋭い目つきが目に浮かんでくる。全く納得してないヤツだこれ…!!!
「それは、その…読んでからのお楽しみ、みたいな?」
「エアメールだろ、それ。届くのにどんだけ時間かかると思ってんだ。そんなん待ってられるかよ」
早速一郎の迫力に負けてタジタジになりながら、まだ未練がましく逃げようとする私に、一郎はぴしゃりとそう言った。
でも、私だって負けてばっかじゃいらんない!!!
「待ってくれたっていいじゃん!一郎のドケチ!!!だってしょうがないでしょ!面と向かって「大好き」なんて恥ずかしくって言えないんだから!!!素直に手紙に書いてあげたんだから逆に感謝してほしいくらいなんだけどな!!!」
「……」
「なによ…なんか文句ある?」
「いや。それより、今のもう1回」
「は?」
ガンガン怒ったって言うのに一郎はなぜかゴキゲンだ。意味分かんない。
「よく分かんないけど、まあいいや。何回でも言ってあげるから!えっと、何だっけ。一郎のドケチ!」
「その後」
「えー?えっと…」
いやいやいや!本当に意味分かんない!もう1回「ドケチ!!!」って言ってやったのにまだゴキゲンだよ!?なんなの!?明日、私の町だけ槍とナイフのゲリラ豪雨になるっていうの!?!?!?
「しょうがないでしょ!…だったかな」
「その後は?」
「面と向かって大す、あ…」
「なんだよ、続けろよ」
口調から一郎がニヤニヤしながら聞いてるのがなんとなく分かる。ムカつく~!!!
「だ、大好き…なんて面と向かって言えないから!!!」
「ふぅん。今のとこ、最初だけもう1回」
「なっ!!!もう言ったんだから終わりでいいでしょ!!!」
「ダメ。さっきお前、何回でも言ってあげるって言った」
「言ってない~!多分…」
嘘。絶対言った。言っちゃってる。私のバカ~…カバ~…!!!
「いや、言ったね。ほら、早く言えよ」
「うぅ~…大好き」
「ふっ…莉緒、もう1回」
「…好き、かも?」
「やり直し」
「…好きっ!もうこれでいいでしょ!!!」
「う~ん、まあそれでもいいぜ。じゃあもう1回。次はちゃんと、な」
「一郎、だ、大好き…」
「俺は莉緒のこと愛してるぜ」
「へ!?!?!?」
ぼんっと顔中から火が吹き出してしまいそうな程顔が熱い!!!
「プレゼント、サンキューな。手紙も楽しみにしてる」
言うだけ言って、一郎はこっちの気もしらないで満足げに電話を切ってしまった。
私はというと、ツーツーと音をたて続ける受話器を離せないままその場に棒立ちになっちゃってる。
だって、だって…あんなこと言ってくるなんて思わないじゃん…!!!つい何年か前は私が頼んでやっと嫌々言ってたような感じだったんだよ!?なんなのもう!!!
一郎、大人になってるんだな…
ゆっくりと受話器を置いてため息を吐く。
ふと、最近雑誌で見た一郎の写真を思い出す。小さなページだったけど、ジミーなんたらって向こうのスター選手を傷だらけになって倒したあの逞しい姿。
ようやくあの写真が今の一郎と重なった。
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