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8月27日。アイツの誕生日だ。
私は机の上の深いブルーの紙袋に包まれたプレゼントを指でちょこんと突き倒した。
小学生の頃までは家族ぐるみのお付き合いをしていることもあって、よくアイツの家に遊びに行っていたからアイツの誕生日が夏休み中でも当日に渡すことができていた。けれど、中学生に上がる頃には特に何かあったわけでもないのになぜかアイツの家に行くことが気恥ずかしくなってきて、遊びに行く回数が減っていった。今では年に数回くらい親からアイツの家へのおつかいを頼まれた時にちょっと顔を出しておじさんにお茶をごちそうしてもらうだけになってしまっている。
せっかくお店のおじちゃんに無理言ってちょっといい袋に包んでもらったっていうのにこのままじゃ今年もアイツにこれを渡すのは夏休み明けになってしまうかもしれない。
テレビのニュースで美人のアナウンサーさんがお出かけはなるべく控えるようになんて言っていたけれどそんなのは無視だ。
私は突き倒してしまった紙袋を今度はそっとポケットにしまって今年一番の猛暑に飛び込んだ。
ろくな荷物も持たずに勢いで家を出てしまった私はニュースで言っていた通りのうだるような暑さの中、アイツがロードワークでいつも通っている公園に土手、よく使うってこの前言っていた家からはちょっと離れたコンビニ、アイツがいそうなところを思いつく限り全部回った。
けれどやっぱり今年もアイツと会うことはできなかった。
そりゃそうだよね。アイツももうプロデビューしたって言ってたしきっと今はすごい忙しいんだ。
ポケットの中の紙袋をそっと指で撫でて、私は来た道を戻るべく踵を返した。
「うそ」
来た道を戻ろうと振り向くと、軽快なリズムを刻みながらアイツがこちらに向かって走ってくるところだった。
「宮田?」
音楽でも聴いているのか、女の私よりも長いんじゃないかっていうくらい長く繊細な睫毛を伏せてこちらに向かってくるアイツにそう声をかけると、アイツは特に驚いたような様子もなく私の目の前で立ち止った。
「よお、久しぶりだな莉緒」
「うん、久しぶり」
宮田はにこりともせずにそうお決まりの挨拶をしてきた。
なんだかプレゼントまで用意して宮田のことを探していた私がばかみたいだ。
私はプレゼントをポケットのさらに奥まで指でぐっと押し込んで「元気してた?」と同じようにお決まりの質問を宮田に投げた。
宮田からはすぐに「ああ」と淡白な答えが返ってきた。けれど誕生日のこと以外に特にこれといって話すことも思いつかなかった私は「じゃあまた夏休み明けね」と言うことしかできず、そのまま手を振ってすぐさま家の方へと向き直った。
「待てよ」
アイツの意外によく通る声が響いた。
「え、なに?」
反射的に振り向くと、宮田はいつの間に取り出していたのか、手にした大きめの白いタオルで突然私の視界を包んで顔やら頭やらを引っかき回しはじめた。
「ちょっとなによ?」
わしゃわしゃと無造作に髪をかき乱してくる手を払いのけようとすると、「うるさい」と宮田がお日様のにおいがするほかほかのタオルを口元めがけて押し当ててきた。
こうなったらもうどうしようもないなと、私は抵抗するのを諦めた。
そのまま宮田にされるがまま私はタオルで顔と頭をぐしゃぐしゃにされて、「ここじゃ暑いから移動するぞ」と近くのコンビニまで腕を引かれて連れていかれた。
自動ドアをくぐって涼しい店内に入るなり私は乱れた髪を手櫛で直しながら宮田を睨みつけた。
「急になにすんのよ」
「なにって、お前あんな汗だくになるまでこの暑い中外にいたんだぜ。あのままにしてたら倒れてたぞ」
「それでも強引すぎ」
宮田に真顔でそんな正論を言われたものだから、つい口ごもりながらもそう文句を言ってやると、宮田は
「べつに、莉緒だし気い遣わなくてもいいだろ?」
と面倒臭そうに頭を掻いた。
「莉緒だしってなによ?」
そんな宮田の態度に腹が立って私はもう一度宮田を睨みつけた。
もう今年は誕生日プレゼントなんてあげなくてもいいかな。
私は小さくため息を吐きながら近くにあるお菓子コーナーに視線を移した。
あ、新発売のふわとろチョコだ。
雑誌の広告を見て気になっていたショコラブラウンのワンちゃんのパッケージを見つけてなんとなく手に取ると隣から不機嫌そうに「おい」と言う声が聞こえた。
「なに?」
目だけを宮田の方へ向けて適当に返事を返すと、宮田はいつも通りの無表情、いや、ちょっと不機嫌そうな顔で腕を組んでこちらをじっと見ていた。
まずい。もしかして怒ってる?めんどくさくて無視しようとしたから?それとも暑いのになにも考えないで外出するなとかお説教される?
一瞬でそこまで考えてから、私はすかさず体まで真っすぐ宮田の方に向けておそるおそる尋ねた。
「なに?宮田」
「莉緒。なんか俺に渡すもんねえのかよ?」
「は?」
予想外の発言に、滑り落ちそうになったふわとろチョコを慌てて掴んで、そう聞き返してみると、宮田は子どもの頃みたくはっきりと面倒くさそうなのがわかるくらい顔をしかめた。
「誕生日のやつだよ。毎年くれるだろ?今年はねえのか?」
「はあ?」
あの宮田が誕生日プレゼントのことを聞いてくるなんて信じられなくて、せっかく落とさないで済んだはずのふわとろチョコを今度は盛大に落っことしてしまった。すると宮田はふっと不敵に笑って、
「その反応は今年も用意してあるってことでいいんだな?」
なんて言ってきた。
そんな宮田に驚いて固まってしまって「え?え?」なんて上ずった声で、繰り返していると、いつの間にか宮田は私の目の前に落ちているお菓子の箱を拾い上げていた。
お菓子の箱を棚に戻しながら宮田はさらに「今それ持ってんならもらってやるよ」なんて腹立つ言い方で催促してきた。
私はまた一つため息を吐いてから「わかったよ。今あげる」と半歩宮田に近づいた。
そして、ポケットからもうかなり熱くなった深い青を引っ張り出してアイツの胸のところに「はい、これ、誕生日のやつ。おめでとう」と素っ気なく付け足して強めに押し付けた。
それなのに、宮田は私の押し付けた深い青を両手で受け止めて「サンキュー」と少し緩んだ表情でお礼を言ってくれた。
不覚にも珍しい宮田のそんな表情を見て固まってしまった。
けれど宮田はこちらのことなんてちらりとも見ずに、突然袋をぐちゃぐちゃに破りはじめた。
マジか。べつにどうせ聞かれたって普通にいいよって言うけどさ、そういうことは一応ちゃんと聞くものじゃないの?
私は一言文句を言ってやろうと口を開いた。
「ぷっ」
一足早く紙袋を剝ぎ取った宮田がなぜか突然吹き出した。
何事かと思って、文句を言ってやろうとしていたのも忘れて「え、なに?」と宮田の方を見やると、宮田はくくっと時折笑い声を漏らしながら失礼にも
「お前、これが今年のプレゼントかよ?」
なんて聞いてきた。
「なによ。宮田、バンテージよく使うじゃない。なにがおかしいのよ?」
手の中の私からのプレゼントをちらりと見ては堪えきれないと「くっくっく」と背中を丸める宮田に、私はここがコンビニだということもお構いなしにそう怒鳴った。
けれど、当の宮田は余計面白がってさらに腹を抱えるだけで、こちらを振り向いたのは近くでお菓子を選んでいた怖い顔をしたお姉さんだけだった。
私は慌ててそのお姉さんに謝って、宮田に「行くよ」と告げて店の外へ飛び出した。
近くの土手まで走ったところで息が切れてしまい、膝に手をついてしゃがみこむと、腹立たしいことに汗一つかかずに後ろをついてきた宮田が口元を手の甲で抑えて笑いを堪えながら「大丈夫か?莉緒」ともう片方の手を差し伸べてきた。
その手を借りて立ち上がるのはなんか癪だから、しばらく息を整えてから「大丈夫」と立ち上がると、宮田は「そうか」とまだ笑ったまま手を引っ込めた。
「それにしても去年はシャーペンで今年はバンテージか。お前のプレゼント年々女っ気無くなってきてねえか?」
「うるさいな。そんなこと言うなら来年は何もあげないよ?」
隣で失礼だけどそうじゃないとも言い切れないような軽口を叩いてくる宮田をそう睨みつけると、宮田は「悪い」とまた長い睫毛を伏せて笑った。
「じゃあ、一郎ちゃんは来年はかわいいかわいい莉緒ちゃんからのお誕生日プレゼントはいらないのね」
そんな宮田に腹が立って、私はあえて子供に対して言うみたいに大げさな抑揚をつけてゆっくりとそう言ってやった。
「かわいくねえな、お前。ガキの頃とかそんな生意気なこと言わなかったし、誕生日にカップケーキとか焼いて持ってきてくれたりしてたのにな」
「は?そんなの宮田だってそうじゃない。小さい頃はもっと素直で優しかったのに今じゃいっつも「ふっ」とか笑っちゃって変にかっこつけちゃってさ」
そう言って歩きながら宮田の脇腹を肘で小突くと、宮田も「うるせえ」と軽く体をぶつけてきた。
そんな風に時々お互いにちょっかいをかけながらしょうもない言い合いをしていたら、いつの間にか私の家の前に着いていた。
「ねえ、もううちに着いたんだけど」とまだ軽口を叩く隣のヤツをじろりと見上げると、宮田は「ああ、そうだな」とすぐに真顔でこちらを向き直った。
ついさっきまで散々色んなことを言い合ってたのにそれをぱっと止められると、本気でイラついていた私がばかみたいでなんかムカつく。
そんな気持ちで宮田の方をじろりと睨むように見上げると、なぜだか私を見て宮田は緩く微笑んだ。
そして、私のあげたバンテージを片手で軽く投げたりつかまえたりもてあそびながら「これ、ありがとうな。莉緒」と目を細めた。
「べつに毎年のことなんだからそんな何回もお礼とか言わなくてもいいよ」
私はそう笑う宮田から目を逸らしてそう返した。
なんだかんだ私のプレゼントを本当に喜んでくれる宮田を見てるのは嬉しいはずなのになぜか素直に笑顔でどういたしましてとは言えない。ここ数年は毎年そうだ。
「じゃ、来年はガキの頃みたくカップケーキな」
あんなに優しそうな笑顔で喜んでくれたと思ったらこれだ。
宮田はからかってくる時にいつもするあの不敵な笑みを浮かべてそんなことを言ってきた。
「は?誰が来年のリクエスト聞いてあげるなんて言ったのよ?カップケーキ作るなんて面倒なことしないからね」
私はまたここが家の前だなんてことも忘れて思いっきり大声でそう言うと、宮田は「かわいくねえな」と笑ってきた。
ムカつく。
「なによ、かわいくないって。そんなに言うなら来年は絶対宮田がかわいいって言うようなプレゼント用意してみせるから」
けれどそう声高々に宣言したら、宮田はなぜか満足そうにふっと笑って「はいはい、楽しみにしててやるよ」と去っていった。
なんなのよ、アイツ。
私は去っていくアイツの後ろ姿を人睨みして、玄関のドアを勢いよく閉めた。
私は机の上の深いブルーの紙袋に包まれたプレゼントを指でちょこんと突き倒した。
小学生の頃までは家族ぐるみのお付き合いをしていることもあって、よくアイツの家に遊びに行っていたからアイツの誕生日が夏休み中でも当日に渡すことができていた。けれど、中学生に上がる頃には特に何かあったわけでもないのになぜかアイツの家に行くことが気恥ずかしくなってきて、遊びに行く回数が減っていった。今では年に数回くらい親からアイツの家へのおつかいを頼まれた時にちょっと顔を出しておじさんにお茶をごちそうしてもらうだけになってしまっている。
せっかくお店のおじちゃんに無理言ってちょっといい袋に包んでもらったっていうのにこのままじゃ今年もアイツにこれを渡すのは夏休み明けになってしまうかもしれない。
テレビのニュースで美人のアナウンサーさんがお出かけはなるべく控えるようになんて言っていたけれどそんなのは無視だ。
私は突き倒してしまった紙袋を今度はそっとポケットにしまって今年一番の猛暑に飛び込んだ。
ろくな荷物も持たずに勢いで家を出てしまった私はニュースで言っていた通りのうだるような暑さの中、アイツがロードワークでいつも通っている公園に土手、よく使うってこの前言っていた家からはちょっと離れたコンビニ、アイツがいそうなところを思いつく限り全部回った。
けれどやっぱり今年もアイツと会うことはできなかった。
そりゃそうだよね。アイツももうプロデビューしたって言ってたしきっと今はすごい忙しいんだ。
ポケットの中の紙袋をそっと指で撫でて、私は来た道を戻るべく踵を返した。
「うそ」
来た道を戻ろうと振り向くと、軽快なリズムを刻みながらアイツがこちらに向かって走ってくるところだった。
「宮田?」
音楽でも聴いているのか、女の私よりも長いんじゃないかっていうくらい長く繊細な睫毛を伏せてこちらに向かってくるアイツにそう声をかけると、アイツは特に驚いたような様子もなく私の目の前で立ち止った。
「よお、久しぶりだな莉緒」
「うん、久しぶり」
宮田はにこりともせずにそうお決まりの挨拶をしてきた。
なんだかプレゼントまで用意して宮田のことを探していた私がばかみたいだ。
私はプレゼントをポケットのさらに奥まで指でぐっと押し込んで「元気してた?」と同じようにお決まりの質問を宮田に投げた。
宮田からはすぐに「ああ」と淡白な答えが返ってきた。けれど誕生日のこと以外に特にこれといって話すことも思いつかなかった私は「じゃあまた夏休み明けね」と言うことしかできず、そのまま手を振ってすぐさま家の方へと向き直った。
「待てよ」
アイツの意外によく通る声が響いた。
「え、なに?」
反射的に振り向くと、宮田はいつの間に取り出していたのか、手にした大きめの白いタオルで突然私の視界を包んで顔やら頭やらを引っかき回しはじめた。
「ちょっとなによ?」
わしゃわしゃと無造作に髪をかき乱してくる手を払いのけようとすると、「うるさい」と宮田がお日様のにおいがするほかほかのタオルを口元めがけて押し当ててきた。
こうなったらもうどうしようもないなと、私は抵抗するのを諦めた。
そのまま宮田にされるがまま私はタオルで顔と頭をぐしゃぐしゃにされて、「ここじゃ暑いから移動するぞ」と近くのコンビニまで腕を引かれて連れていかれた。
自動ドアをくぐって涼しい店内に入るなり私は乱れた髪を手櫛で直しながら宮田を睨みつけた。
「急になにすんのよ」
「なにって、お前あんな汗だくになるまでこの暑い中外にいたんだぜ。あのままにしてたら倒れてたぞ」
「それでも強引すぎ」
宮田に真顔でそんな正論を言われたものだから、つい口ごもりながらもそう文句を言ってやると、宮田は
「べつに、莉緒だし気い遣わなくてもいいだろ?」
と面倒臭そうに頭を掻いた。
「莉緒だしってなによ?」
そんな宮田の態度に腹が立って私はもう一度宮田を睨みつけた。
もう今年は誕生日プレゼントなんてあげなくてもいいかな。
私は小さくため息を吐きながら近くにあるお菓子コーナーに視線を移した。
あ、新発売のふわとろチョコだ。
雑誌の広告を見て気になっていたショコラブラウンのワンちゃんのパッケージを見つけてなんとなく手に取ると隣から不機嫌そうに「おい」と言う声が聞こえた。
「なに?」
目だけを宮田の方へ向けて適当に返事を返すと、宮田はいつも通りの無表情、いや、ちょっと不機嫌そうな顔で腕を組んでこちらをじっと見ていた。
まずい。もしかして怒ってる?めんどくさくて無視しようとしたから?それとも暑いのになにも考えないで外出するなとかお説教される?
一瞬でそこまで考えてから、私はすかさず体まで真っすぐ宮田の方に向けておそるおそる尋ねた。
「なに?宮田」
「莉緒。なんか俺に渡すもんねえのかよ?」
「は?」
予想外の発言に、滑り落ちそうになったふわとろチョコを慌てて掴んで、そう聞き返してみると、宮田は子どもの頃みたくはっきりと面倒くさそうなのがわかるくらい顔をしかめた。
「誕生日のやつだよ。毎年くれるだろ?今年はねえのか?」
「はあ?」
あの宮田が誕生日プレゼントのことを聞いてくるなんて信じられなくて、せっかく落とさないで済んだはずのふわとろチョコを今度は盛大に落っことしてしまった。すると宮田はふっと不敵に笑って、
「その反応は今年も用意してあるってことでいいんだな?」
なんて言ってきた。
そんな宮田に驚いて固まってしまって「え?え?」なんて上ずった声で、繰り返していると、いつの間にか宮田は私の目の前に落ちているお菓子の箱を拾い上げていた。
お菓子の箱を棚に戻しながら宮田はさらに「今それ持ってんならもらってやるよ」なんて腹立つ言い方で催促してきた。
私はまた一つため息を吐いてから「わかったよ。今あげる」と半歩宮田に近づいた。
そして、ポケットからもうかなり熱くなった深い青を引っ張り出してアイツの胸のところに「はい、これ、誕生日のやつ。おめでとう」と素っ気なく付け足して強めに押し付けた。
それなのに、宮田は私の押し付けた深い青を両手で受け止めて「サンキュー」と少し緩んだ表情でお礼を言ってくれた。
不覚にも珍しい宮田のそんな表情を見て固まってしまった。
けれど宮田はこちらのことなんてちらりとも見ずに、突然袋をぐちゃぐちゃに破りはじめた。
マジか。べつにどうせ聞かれたって普通にいいよって言うけどさ、そういうことは一応ちゃんと聞くものじゃないの?
私は一言文句を言ってやろうと口を開いた。
「ぷっ」
一足早く紙袋を剝ぎ取った宮田がなぜか突然吹き出した。
何事かと思って、文句を言ってやろうとしていたのも忘れて「え、なに?」と宮田の方を見やると、宮田はくくっと時折笑い声を漏らしながら失礼にも
「お前、これが今年のプレゼントかよ?」
なんて聞いてきた。
「なによ。宮田、バンテージよく使うじゃない。なにがおかしいのよ?」
手の中の私からのプレゼントをちらりと見ては堪えきれないと「くっくっく」と背中を丸める宮田に、私はここがコンビニだということもお構いなしにそう怒鳴った。
けれど、当の宮田は余計面白がってさらに腹を抱えるだけで、こちらを振り向いたのは近くでお菓子を選んでいた怖い顔をしたお姉さんだけだった。
私は慌ててそのお姉さんに謝って、宮田に「行くよ」と告げて店の外へ飛び出した。
近くの土手まで走ったところで息が切れてしまい、膝に手をついてしゃがみこむと、腹立たしいことに汗一つかかずに後ろをついてきた宮田が口元を手の甲で抑えて笑いを堪えながら「大丈夫か?莉緒」ともう片方の手を差し伸べてきた。
その手を借りて立ち上がるのはなんか癪だから、しばらく息を整えてから「大丈夫」と立ち上がると、宮田は「そうか」とまだ笑ったまま手を引っ込めた。
「それにしても去年はシャーペンで今年はバンテージか。お前のプレゼント年々女っ気無くなってきてねえか?」
「うるさいな。そんなこと言うなら来年は何もあげないよ?」
隣で失礼だけどそうじゃないとも言い切れないような軽口を叩いてくる宮田をそう睨みつけると、宮田は「悪い」とまた長い睫毛を伏せて笑った。
「じゃあ、一郎ちゃんは来年はかわいいかわいい莉緒ちゃんからのお誕生日プレゼントはいらないのね」
そんな宮田に腹が立って、私はあえて子供に対して言うみたいに大げさな抑揚をつけてゆっくりとそう言ってやった。
「かわいくねえな、お前。ガキの頃とかそんな生意気なこと言わなかったし、誕生日にカップケーキとか焼いて持ってきてくれたりしてたのにな」
「は?そんなの宮田だってそうじゃない。小さい頃はもっと素直で優しかったのに今じゃいっつも「ふっ」とか笑っちゃって変にかっこつけちゃってさ」
そう言って歩きながら宮田の脇腹を肘で小突くと、宮田も「うるせえ」と軽く体をぶつけてきた。
そんな風に時々お互いにちょっかいをかけながらしょうもない言い合いをしていたら、いつの間にか私の家の前に着いていた。
「ねえ、もううちに着いたんだけど」とまだ軽口を叩く隣のヤツをじろりと見上げると、宮田は「ああ、そうだな」とすぐに真顔でこちらを向き直った。
ついさっきまで散々色んなことを言い合ってたのにそれをぱっと止められると、本気でイラついていた私がばかみたいでなんかムカつく。
そんな気持ちで宮田の方をじろりと睨むように見上げると、なぜだか私を見て宮田は緩く微笑んだ。
そして、私のあげたバンテージを片手で軽く投げたりつかまえたりもてあそびながら「これ、ありがとうな。莉緒」と目を細めた。
「べつに毎年のことなんだからそんな何回もお礼とか言わなくてもいいよ」
私はそう笑う宮田から目を逸らしてそう返した。
なんだかんだ私のプレゼントを本当に喜んでくれる宮田を見てるのは嬉しいはずなのになぜか素直に笑顔でどういたしましてとは言えない。ここ数年は毎年そうだ。
「じゃ、来年はガキの頃みたくカップケーキな」
あんなに優しそうな笑顔で喜んでくれたと思ったらこれだ。
宮田はからかってくる時にいつもするあの不敵な笑みを浮かべてそんなことを言ってきた。
「は?誰が来年のリクエスト聞いてあげるなんて言ったのよ?カップケーキ作るなんて面倒なことしないからね」
私はまたここが家の前だなんてことも忘れて思いっきり大声でそう言うと、宮田は「かわいくねえな」と笑ってきた。
ムカつく。
「なによ、かわいくないって。そんなに言うなら来年は絶対宮田がかわいいって言うようなプレゼント用意してみせるから」
けれどそう声高々に宣言したら、宮田はなぜか満足そうにふっと笑って「はいはい、楽しみにしててやるよ」と去っていった。
なんなのよ、アイツ。
私は去っていくアイツの後ろ姿を人睨みして、玄関のドアを勢いよく閉めた。