夜の帰り道1章
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小宮。好きだ。
言われてからずっと頭の中で繰り返してしまう。
夜、遅くに家まで送ってくれた。雨の日に傘の中に入れてくれた。帰る時は歩幅を合わせてくれていた。荷物を何も言わずに持ってくれたこともあった。
前田の言葉は本当なんだ。
「おい、小宮、聞いてんのか」
「ごめん。驚いちゃって」
言いながら手が勝手にブレザーの裾を握りしめる。落ち着くために一度大きく息を吸い込んで吐いた。
「じゃあ、前田は好きだから私の前で余裕ぶろうとしてからかってきたってこと」
「バ、バカ。んなこと冷静に言うなよ。恥ずかしくなんだろうが」
食い気味に前田はそう言ってきた。わざと前田が恥ずかしくなるようなことを言おうとしたわけではなかったが、実際にからかう側になってみると、顔を少し赤くした前田はおもしろいと思った。
「おい。なに笑ってんだよ」
前田には悪いけれど、赤い顔のまま睨みつけられたって、全然怖くなんてない。
「照れてる前田って珍しいから。ごめん」
「そうかよ」
言ってから前田は黙り込んでしまった。私も男の子に告白されるなんて、はじめてで、何を話したらいいのかわからない。
「で、小宮は当然俺と付き合うんだよな」
赤くなってしまった顔を隠したいのか、あらぬ方向を向きながら、前田は尋ねてきた。
「付き合わないよ」
「はぁ」
前田はものすごい勢いで私の方を向きなおしてきた。
「逆になんで私と付き合えるなんて思ったの」
「なんだよ。意味わかんねぇ。お前、一緒に帰った時にちょっとなんかすると毎回顔赤くしてただろうが」
感情が昂っているのか、前田の声も身振り手振りも全部大きくなっている。一応私の家の前なんだし、住宅街だから気を遣ってほしい。
「それはそうかもしれないけど、男子にやさしくされたり二人きりになるのに慣れていないだけだから、緊張しちゃうのは前田だけじゃないよ」
私の言葉を聞いた前田は大きなため息を吐いて、頭を見ているだけで痛くなりそうなくらい引っ掻いてから口を開いた。
「っつーことは、小宮は俺のことが好きじゃねえのか」
「そうだなあ、友達としてとか、選手としては前田のことは好きだけど、付き合いたいとか、具体的に考えたことは無いかな」
前田からの返事は無い。しょうがないこととはいえ、傷つけるようなことを言ってしまったことが気まずくて、「ごめん」とだけ言って、私は家のドアノブに手をかけた。
「小宮」
大きな声で呼ばれて振り向いた。
「絶対に俺のことしか見られないようにしてやる。覚悟しとけよ」
よく通る声で、私を真っ直ぐに指差してそう宣言してきた。
「やめてよ。ここ、一応私の家の前なんだから。家族に聞かれてたらどうするの」
前田はニヤリと笑って、自分の顔を指差した。
「なに」
「お前のここ、真っ赤。もう俺のことしか考えられなくなったのか」
「バカじゃないの」
そう言って前田に向かってカバンを叩きつけようとしたら、すんなりかわされた。
「おっと、危ねえな。それ、意外と痛えんだよ。前にやられた時は、みぞおちに入って動けなくなったんだからな」
「えっ。そうだったの。ごめん」
「まあ、もういいぜ。そんなことより、小宮、手ぇ出せよ」
手をヒラヒラ動かして、ニヤついた顔のままそう言われた。普段なら絶対に言われた通りにしてあげない。けど、今日は素直に頷いてあげた。
「ほら、これやるよ」
そう言って前田はジャージのポケットをあさって、なにか小さいものを私の手の中に置いた。
置いてから、私が「ありがとう」を言う前に前田は「じゃあな」と走り去ってしまった。
前田の姿が見えなくなるまで、ぼうっと見てから、やっと自分の手に視線を戻した。手の中にあったのは、うすい黄色の袋に包まれたアメ玉だった。なんとなく裏返してみると、小さな袋いっぱいに大きく「わるい」と歪んだ字が黒マジックで濃く書かれていた。
あの前田が私のためにアメを用意して、こんなことを書いている様子を想像すると、おかしくて、少し笑ってしまった。
口の中に入れると、若干やわらかくなったアメから、やさしいハチミツの味がした。
言われてからずっと頭の中で繰り返してしまう。
夜、遅くに家まで送ってくれた。雨の日に傘の中に入れてくれた。帰る時は歩幅を合わせてくれていた。荷物を何も言わずに持ってくれたこともあった。
前田の言葉は本当なんだ。
「おい、小宮、聞いてんのか」
「ごめん。驚いちゃって」
言いながら手が勝手にブレザーの裾を握りしめる。落ち着くために一度大きく息を吸い込んで吐いた。
「じゃあ、前田は好きだから私の前で余裕ぶろうとしてからかってきたってこと」
「バ、バカ。んなこと冷静に言うなよ。恥ずかしくなんだろうが」
食い気味に前田はそう言ってきた。わざと前田が恥ずかしくなるようなことを言おうとしたわけではなかったが、実際にからかう側になってみると、顔を少し赤くした前田はおもしろいと思った。
「おい。なに笑ってんだよ」
前田には悪いけれど、赤い顔のまま睨みつけられたって、全然怖くなんてない。
「照れてる前田って珍しいから。ごめん」
「そうかよ」
言ってから前田は黙り込んでしまった。私も男の子に告白されるなんて、はじめてで、何を話したらいいのかわからない。
「で、小宮は当然俺と付き合うんだよな」
赤くなってしまった顔を隠したいのか、あらぬ方向を向きながら、前田は尋ねてきた。
「付き合わないよ」
「はぁ」
前田はものすごい勢いで私の方を向きなおしてきた。
「逆になんで私と付き合えるなんて思ったの」
「なんだよ。意味わかんねぇ。お前、一緒に帰った時にちょっとなんかすると毎回顔赤くしてただろうが」
感情が昂っているのか、前田の声も身振り手振りも全部大きくなっている。一応私の家の前なんだし、住宅街だから気を遣ってほしい。
「それはそうかもしれないけど、男子にやさしくされたり二人きりになるのに慣れていないだけだから、緊張しちゃうのは前田だけじゃないよ」
私の言葉を聞いた前田は大きなため息を吐いて、頭を見ているだけで痛くなりそうなくらい引っ掻いてから口を開いた。
「っつーことは、小宮は俺のことが好きじゃねえのか」
「そうだなあ、友達としてとか、選手としては前田のことは好きだけど、付き合いたいとか、具体的に考えたことは無いかな」
前田からの返事は無い。しょうがないこととはいえ、傷つけるようなことを言ってしまったことが気まずくて、「ごめん」とだけ言って、私は家のドアノブに手をかけた。
「小宮」
大きな声で呼ばれて振り向いた。
「絶対に俺のことしか見られないようにしてやる。覚悟しとけよ」
よく通る声で、私を真っ直ぐに指差してそう宣言してきた。
「やめてよ。ここ、一応私の家の前なんだから。家族に聞かれてたらどうするの」
前田はニヤリと笑って、自分の顔を指差した。
「なに」
「お前のここ、真っ赤。もう俺のことしか考えられなくなったのか」
「バカじゃないの」
そう言って前田に向かってカバンを叩きつけようとしたら、すんなりかわされた。
「おっと、危ねえな。それ、意外と痛えんだよ。前にやられた時は、みぞおちに入って動けなくなったんだからな」
「えっ。そうだったの。ごめん」
「まあ、もういいぜ。そんなことより、小宮、手ぇ出せよ」
手をヒラヒラ動かして、ニヤついた顔のままそう言われた。普段なら絶対に言われた通りにしてあげない。けど、今日は素直に頷いてあげた。
「ほら、これやるよ」
そう言って前田はジャージのポケットをあさって、なにか小さいものを私の手の中に置いた。
置いてから、私が「ありがとう」を言う前に前田は「じゃあな」と走り去ってしまった。
前田の姿が見えなくなるまで、ぼうっと見てから、やっと自分の手に視線を戻した。手の中にあったのは、うすい黄色の袋に包まれたアメ玉だった。なんとなく裏返してみると、小さな袋いっぱいに大きく「わるい」と歪んだ字が黒マジックで濃く書かれていた。
あの前田が私のためにアメを用意して、こんなことを書いている様子を想像すると、おかしくて、少し笑ってしまった。
口の中に入れると、若干やわらかくなったアメから、やさしいハチミツの味がした。