夜の帰り道1章
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何度も話しかけてくる前田を無視し続けて、他のマネージャー達や部員達にいらぬ心配をかけたこと以外は特に困ったことも起きずに遠征は終わった。とはいえマネージャーにはバスに積んである荷物を降ろすという仕事が残っているため、まだ家には帰れない。辰巳が部員全員で手伝うと言ってくれたが、二日間いつもの数倍はハードな練習に耐えてきた部員達に手伝わせるのは気が引けて、丁重にお断りした。
道具の点検は遠征先で済ませておいたため、意外とスムーズに仕事を終えられた。遠征後ということもあって解散する時間が早かったため、マネージャー達もまだ九時前だけれど、全員帰ることができた。
遠征の疲れなのか、歩き慣れた家までの道でも少しふらついた。なんとか家が見えてくる位置にまで来ると、玄関を塞ぐように人が立っていることに気づいた。「不審者」という言葉が頭に浮かんだが、だからといって疲れた頭と体では、考えたり逃げたりする気力もなくて、ふらふらとただ家まで歩いていってしまった。
家の前に立っていたのは前田だった。まだ不審者が立っている方がよかったと思う。
私が正面に立つと、前田はいつものようにニヤリと笑った。
「よお、小宮。そろそろ俺と二人きりで話したくなるだろうと思ってきてやったぜ」
「話したいことなんてないよ。どいて」
相変わらずの人をバカにするような態度だけど、連日こんなヤツの練習のためにつらい仕事をしてきたのかと思うと、疲れが吹き飛ぶくらい腹が立ってきた。
私がいつもよりきつめな態度で答えたせいか前田は少し怯んでいるように感じる。いつも、イライラして、あまり言い返せもせず、つい逃げてしまうのが悔しかったけれど、今日はさっさと前田を追い返せそうだ。
「俺はお前に言いたいことがあるんだよ」
いつものからかうような声でも、自信満々なはっきりした声でもなく、か細くて弱々しい声だった。心なしか、いつもピンと伸びている背中も丸まっているように見える。本当に大事な話があるんだ。
「小宮」
はっきりと私の名前を呼びながら、目をしっかり見つめてくる。
しかし、前田はすぐにそのまま黙り込んでしまった。急かすように私は「なに」と言った。
前田は一度目をすっと閉じて、また私のことをしっかり見つめ直してから今度こそ口を開いた。
「小宮。悪かった」
「え」
まさか、前田の口から謝罪の言葉が出てくるなんて思ってもみなくて、つい、間抜けな声が出てしまった。前田がそんなことを言うなんて、ありえない。けれど、固まっている私をよそに前田は続ける。
「小宮が嫌がっていたのはわかってた。でも、小宮の前だと、余裕なところを見せようと思っちまって、さんざんバカにするようなことを言っちまった。まじで、その、悪かった」
言いながら前田は私に頭まで下げてきた。
「わかった。前田、もういいよ。でも許す前に聞きたいことがあるの」
頭を上げた前田は、またしっかり私の目を見て「なんだ」と聞き返してきた。
「どうして私の前で余裕ぶる必要があったの。私達同じ学年で、もう一年以上の付き合いになるんだよ」
私の言葉を聞いて、なぜか、突然前田は目を丸くし、それから逸らした。
「それ、答えねぇとだめか」
よく聞き取れなかったけれど、多分こう言ったはずだ。
「当たり前でしょ。なんで傷つけられるようなことを言われたのかわからないと気がすまないよ」
「あー」と言葉になっていない声をあげながら、前田はゆっくり私と目を合わせた。
「小宮」
いつもより少しだけ低い声だ。
「好きだ」
道具の点検は遠征先で済ませておいたため、意外とスムーズに仕事を終えられた。遠征後ということもあって解散する時間が早かったため、マネージャー達もまだ九時前だけれど、全員帰ることができた。
遠征の疲れなのか、歩き慣れた家までの道でも少しふらついた。なんとか家が見えてくる位置にまで来ると、玄関を塞ぐように人が立っていることに気づいた。「不審者」という言葉が頭に浮かんだが、だからといって疲れた頭と体では、考えたり逃げたりする気力もなくて、ふらふらとただ家まで歩いていってしまった。
家の前に立っていたのは前田だった。まだ不審者が立っている方がよかったと思う。
私が正面に立つと、前田はいつものようにニヤリと笑った。
「よお、小宮。そろそろ俺と二人きりで話したくなるだろうと思ってきてやったぜ」
「話したいことなんてないよ。どいて」
相変わらずの人をバカにするような態度だけど、連日こんなヤツの練習のためにつらい仕事をしてきたのかと思うと、疲れが吹き飛ぶくらい腹が立ってきた。
私がいつもよりきつめな態度で答えたせいか前田は少し怯んでいるように感じる。いつも、イライラして、あまり言い返せもせず、つい逃げてしまうのが悔しかったけれど、今日はさっさと前田を追い返せそうだ。
「俺はお前に言いたいことがあるんだよ」
いつものからかうような声でも、自信満々なはっきりした声でもなく、か細くて弱々しい声だった。心なしか、いつもピンと伸びている背中も丸まっているように見える。本当に大事な話があるんだ。
「小宮」
はっきりと私の名前を呼びながら、目をしっかり見つめてくる。
しかし、前田はすぐにそのまま黙り込んでしまった。急かすように私は「なに」と言った。
前田は一度目をすっと閉じて、また私のことをしっかり見つめ直してから今度こそ口を開いた。
「小宮。悪かった」
「え」
まさか、前田の口から謝罪の言葉が出てくるなんて思ってもみなくて、つい、間抜けな声が出てしまった。前田がそんなことを言うなんて、ありえない。けれど、固まっている私をよそに前田は続ける。
「小宮が嫌がっていたのはわかってた。でも、小宮の前だと、余裕なところを見せようと思っちまって、さんざんバカにするようなことを言っちまった。まじで、その、悪かった」
言いながら前田は私に頭まで下げてきた。
「わかった。前田、もういいよ。でも許す前に聞きたいことがあるの」
頭を上げた前田は、またしっかり私の目を見て「なんだ」と聞き返してきた。
「どうして私の前で余裕ぶる必要があったの。私達同じ学年で、もう一年以上の付き合いになるんだよ」
私の言葉を聞いて、なぜか、突然前田は目を丸くし、それから逸らした。
「それ、答えねぇとだめか」
よく聞き取れなかったけれど、多分こう言ったはずだ。
「当たり前でしょ。なんで傷つけられるようなことを言われたのかわからないと気がすまないよ」
「あー」と言葉になっていない声をあげながら、前田はゆっくり私と目を合わせた。
「小宮」
いつもより少しだけ低い声だ。
「好きだ」