夜の帰り道1章
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「小宮!ありがとうな!これでテスト完璧だ!」
そう言うと、前田はさっき入ってきた下窓をまた蹴り飛ばした。
壊れたら困るし、手でやればいいのに。
「それならよかったよ」
言いながら私も前田に続いて下窓をくぐり抜けた。
ニヤニヤ笑って這い出てくる私を見下ろしてるのが本当に腹立つ。
「なあ、小宮はこの後どうすんだよ?」
「え?ヒメちゃんの言ってた駅前の服屋でも見ようかなって思ってるけど」
「お。いいじゃん俺は駅前のハンバーガー屋のハンバーグ2倍キャンペーンに行くぜ」
「ふうん、そうなんだ。じゃあまた明日ね」
なぜか食い気味に自分の予定を話してくる前田に適当に相槌を打って私は旧校舎を後にした。
「なんで付いてくるのよ!」
ピンクやアイスブルー、ペールイエローにオレンジと色とりどりのかわいらしい服を着たマネキンが飾られたショーウィンドウが並ぶいかにも若い女の子向けの服屋が集まるこの通りまで辿り着くと、私はついに聞いてもないのにくだらない話を後ろで延々と続けていた男を振り返った。
目的地の駅までっていうなら分かるけど前田の言ってるハンバーガー屋はこっちじゃないはず。本当に意味が分からない。
「なんでって、まずは小宮の服を見るんだろ?いやあ、この辺ってあんま来ねえけど結構よさそうな店多いんだな」
「そうだけど、そうじゃないでしょ!私、前田に一緒に行こうなんて言ってないんだけど!」
とぼけたような口を聞く前田に腹が立って一層声が大きくなってしまう。
話している途中で気付いて周囲を見渡すといろんな学校の制服の女の子達が何人かこちらを見てこそこそ話していた。
ああ、もう!大声なんて出したから私、変な人だと思われちゃったじゃない!
「前田のせいだからね!」って思いを込めて恥ずかしいやら腹が立つやらで真っ赤になった顔を向けると、前田はなぜか嬉しそうに目をキラキラ輝かせて私の手を取った。
「早速入ろうぜ!どの店だよ?」
「は!?」
逃げる間もなく繋がれていた手は気付いたら親指ごと手のひらをがっちり掴まれていて簡単に離れてくれそうにない。
「この先のピンクの花の写真が飾ってあるお店」
観念した私は再び前田に視線を合わせてそう答えた。
「おう!ピンクの花な…あれか!行くぞ小宮!」
「ちょ、ちょっと!」
変にテンションの高くなった前田はこっちのことなんかお構いなしに大股でどんどん進んでいった。
そのせいで手を引かれてる私は小走りになって足がもつれて転んじゃいそうだっていうのに。本当にコイツは自分のことばっかりで相手の気持ちっていうのがまるで分ってない。
店に入るとオシャレな店員のお姉さんやお客さんの同じくらいの年の女の子達の目が一斉にこちらを向いた。
ニコニコしながらこっちを見たり、友達にこっそり話しかけたり、パッと目を逸らしたり、反応はいろいろだけど、皆が私と前田がそういう仲なんだって思っているのは鈍い私にもすぐに分かった。
もしかしたら、服屋の前で前田に怒ってた時も…
そう思うと、恥ずかしくて恥ずかしくて仕方がないし、とにかく嫌だけど正直自分も男の子が顔を真っ赤にした女の子と手を繋いでいるのを見たら同じように思ってしまうような気がして何も言えなかった。
なんだか居心地が悪くて俯いていると、急に前田が繋いでいる方の手をぐいっと引っ張ってきた。
「なによ?」
「なあ、これ、お前に合うんじゃねえの?ここのボタンとか良くね?」
「え?」
渡された服を両手で抱えてみると、ウエストに綺麗な飾りボタンが付いた大人っぽいスカートだった。
「結構いい、かも?」
「だろ?お、あれもお前好きそう!とってきてやるからこの辺の見て待ってろよ」
「え!?うん、分かった。ありがとう」
そう言い残すと前田はどんどん店の奥に入っていった。
急にどうしたんだろう?アイツ。
さっきまで私の手をガッチリ掴んで嬉しそうにしてた前田がアッサリ離れてくれたのは引っかかるけど、気にしていても仕方ないので、私は当初の目的の洋服選びに集中することにした。
あ、このシャツかわいいかも。シンプルだし使いやすそう。でも、こっちの方が合うかな?
ああでもない、こうでもないってさっきのスカートに重ねてうんうん悩んでいる内に前田がまた私が好きそうなデザインの服を何着か持って戻ってきていた。
正直こんなにいい服を選んでくれるのはすごい嬉しいけど、ちょっと気持ち悪いな。
「ねえ、前田、こっちのシャツとこっちのシャツ、どっちがこのスカートに合うと思う?」
「あー、そうだな右のがいいんじゃねえの?派手な柄でクセが強えけど色味が近えからまとまるし、オシャレに見えると思うぜ?」
ふーん、前田はそう思うんだ。でも、手持ちの服とも合わせられる方がいいし…
「よし、こっちにしよう。ありがとう前田、買ってくる」
「は!?え!?なに?お前、結局そっちにすんの?」
「うん。柄物って合わせずらいかなって思って」
「そうじゃなくってさあ、決めてあるならなんで俺に聞いたんだよって話!」
「ああ、他の人の意見を聞いて自分の気持ちを再確認したいと思って」
質問にちゃんと答えたはずなのになぜかさっきの勢いのままに「いやいや!」と迫ってくる前田が面倒臭くって、私は近くにいた店員さんに声をかけた。
「すいません!お会計お願いします」
「あ!おい!ちょっと待て!話は終わってねえぞ!」
まだ後ろでなんか言ってる前田を無視して、私はレジへ一直線に向かった。
「お待たせ」
お店の外で待っていた前田の背中を叩くと、前田はムッとした顔をして「ん」と一言返事をした。
「なに?前田さっきから機嫌悪くない?どうしたのよ?」
「べつに?女っていっつもああだよなって思ってよ。やっぱ女の買い物面倒臭えー!」
持ってる鞄を放り投げちゃいそうな勢いでぐうんっと伸びをしながら前田がそう言う。
「なによ。嫌なら最初から付いてこなきゃいいじゃない!」
前田のその態度にカチンときてちょっと強い口調で言い返すと、前田はやれやれといった感じでワザとらしく肩をすくめてみせた。
「そうカリカリすんなって。小宮の買い物に付き合うのが嫌って言ってんじゃねえよ。むしろ、俺が選んだ服を着てくれんのすげえ嬉しい」
「なっ!あれは前田が選んでくれたから買ったってわけじゃなくて、ただ気に入ったから…あー、もう!やっぱあのスカート返品してこようかな!」
そう言ってさっきの服屋に向き直ろうとすると、すかさず肩を掴まれた。
「おいおいマジで返しに行くのかよ?」
「何?悪い?」
「いや、べつに?返せるもんなら返してみろよ。それ、セール品だけどな」
「え!?ウソ!?」
慌てて袋からスカートを引っ張り出すと、タグにはバッチリ30%OFFの赤いシールが貼られている。やられた…いや、やられてはいないんだけどなんか悔しい。
「小宮に似合っててしかもお得な服を見つけられる。さすが、俺だな」
「…そうだね」
それはそれは得意げにこちらを覗き込む前田が鬱陶しくて、私はとりあえず、そう答えた。
こうなった前田は本当に面倒臭い。嫌になる。気に入ったスカートを返しに行かないで済んだのはいいけどそれじゃ割に合わない。
「お?今日はやけに素直じゃねえの。さっきムキになって服を返しに行こうとしてたヤツと同じとは思えねえなあ」
「あっそう。私もこんな人のことをからかって面白がってる意地の悪いのとさっきのセンスが良くって気も遣えるいい人が同じ人だなんて思えないよ」
「めっずらしい~。小宮が俺を褒めてる。こりゃあ、明日は大雪だな」
「は?褒めてないんだけど?」
これはさすがに聞き捨てならない、とすかさず顔を上げると、ニヤニヤ笑ってこちらを見ていた前田と目が合った。
最悪。
どうせ前田が私をおちょくって面白がっているのなんて分かり切っていたのについカッとなって反応しちゃうの、本当に悪い癖だな。
「なあなあ、次はハンバーガー食いに行こうぜ!ハンバーグ2倍キャンペーンのとこ!」
「行かない。夕飯が食べられなくなる」
「いいじゃねえかよ、ハンバーガーくらい。そのくらいで腹いっぱいになんてなるかよ」
「なる。私、前田みたいな食べ盛りのわんぱく少年じゃないの」
しつこく迫ってくる前田に腹が立って声を荒らげると、前田はやれやれ、とわざとらしく肩をすくめてみせた。
「なんだよノリ悪いな。せっかくのキャンペーンだぜ?」
「…いいよべつに。ハンバーガー、大好物っていうわけでもないし」
「へえ、そうか、そりゃあしょうがねえな。じゃあ小宮は今回ナシな。いやあ、もったいねえなあ。実にもったいない!ここにクーポンもたっぷりあるんだけどな、期間限定夏のフルーツミックスシェイク50円引き、3種のベリーパンケーキ100円引き、お、ポテトSサイズ無料!?すげえな!」
「…シェイク飲むくらいならべつに問題はない。一応」
「おっしゃ決まり!早速行こうぜ!」
新聞紙みたく大きなチラシから顔を上げた前田の顔はしてやったり、とばかりに歪んでいて、シェイクなんかに釣られた自分が馬鹿らしく思えてきた。
「言っとくけど、私、ハンバーガーは絶対買わないから」
なけなしのプライドでそう言うと、腕を引いて目の前を歩く前田がニヤニヤ笑いながら振り返る。
「しょうがねえな。俺の食いかけ一口分けてやるよ」
「なっ…!いらないって言ったでしょ!」
「たかだか回し食いくらいでなあに赤くなってんだよ。小宮のスケベ」
「…前田にだけは言われたくないんだけど。この、絵ロしりとり野郎」
「お、おい!だからそれは忘れろって…」
絵ロしりとりの話を出した途端、前田は顔を真っ赤にして立ち止まった。
これは、使えるかも
「千葉、なんて言ってたっけな。たしか…」
「うわ!それ以上はやめろ!」
「なんでよ。何か言われて困ることでもあるの?」
「…分かったよ、もうお前のことイジらねえから!」
「あ、そう?じゃあ、言わないでおいてあげる」
澄ました顔でそう答えると、前田は恨めしそうにこちらを睨んだ。
「なに?やっぱり言ってあげようか?」
ニヤニヤ笑いながら見つめ返すと、前田はムッと恐い顔になったけど、いい返しが思いつかなかったのかしばらくしたらフンっと顔を背けてしまった。
「ほら、ハンバーガー食べたいんでしょ。早く行くよ」
随分おとなしくなってしまった前田の腕をぐいぐい引いて、私は気分よく歩き出した。
「おい小宮!ハンバーグ2倍キャンペーンでダブルハンバーグバーガーなんて頼んだらどうなっちまうんだろうな?!なあなあ!どう思うよ!」
ハンバーガー屋に着いた途端これだ。なんなのコイツ?
「…ハンバーグが4枚挟まってるんじゃないの?」
「だよなだよな!うわ!やべえ、絶対ダブルハンバーグバーガー頼むしかねえじゃん!おい、小宮も同じのにするよな」
「…私はシェイクだけにする」
「なんだよー!ノリ悪いな!お、順番回ってきた!俺達、ダブルハンバーグバーガー2つで!!!」
「ちょっと!すいません。ダブルハンバーグバーガー1つキャンセルで期間限定シェイク1つでお願いします…!!!」
そう言うと、前田はさっき入ってきた下窓をまた蹴り飛ばした。
壊れたら困るし、手でやればいいのに。
「それならよかったよ」
言いながら私も前田に続いて下窓をくぐり抜けた。
ニヤニヤ笑って這い出てくる私を見下ろしてるのが本当に腹立つ。
「なあ、小宮はこの後どうすんだよ?」
「え?ヒメちゃんの言ってた駅前の服屋でも見ようかなって思ってるけど」
「お。いいじゃん俺は駅前のハンバーガー屋のハンバーグ2倍キャンペーンに行くぜ」
「ふうん、そうなんだ。じゃあまた明日ね」
なぜか食い気味に自分の予定を話してくる前田に適当に相槌を打って私は旧校舎を後にした。
「なんで付いてくるのよ!」
ピンクやアイスブルー、ペールイエローにオレンジと色とりどりのかわいらしい服を着たマネキンが飾られたショーウィンドウが並ぶいかにも若い女の子向けの服屋が集まるこの通りまで辿り着くと、私はついに聞いてもないのにくだらない話を後ろで延々と続けていた男を振り返った。
目的地の駅までっていうなら分かるけど前田の言ってるハンバーガー屋はこっちじゃないはず。本当に意味が分からない。
「なんでって、まずは小宮の服を見るんだろ?いやあ、この辺ってあんま来ねえけど結構よさそうな店多いんだな」
「そうだけど、そうじゃないでしょ!私、前田に一緒に行こうなんて言ってないんだけど!」
とぼけたような口を聞く前田に腹が立って一層声が大きくなってしまう。
話している途中で気付いて周囲を見渡すといろんな学校の制服の女の子達が何人かこちらを見てこそこそ話していた。
ああ、もう!大声なんて出したから私、変な人だと思われちゃったじゃない!
「前田のせいだからね!」って思いを込めて恥ずかしいやら腹が立つやらで真っ赤になった顔を向けると、前田はなぜか嬉しそうに目をキラキラ輝かせて私の手を取った。
「早速入ろうぜ!どの店だよ?」
「は!?」
逃げる間もなく繋がれていた手は気付いたら親指ごと手のひらをがっちり掴まれていて簡単に離れてくれそうにない。
「この先のピンクの花の写真が飾ってあるお店」
観念した私は再び前田に視線を合わせてそう答えた。
「おう!ピンクの花な…あれか!行くぞ小宮!」
「ちょ、ちょっと!」
変にテンションの高くなった前田はこっちのことなんかお構いなしに大股でどんどん進んでいった。
そのせいで手を引かれてる私は小走りになって足がもつれて転んじゃいそうだっていうのに。本当にコイツは自分のことばっかりで相手の気持ちっていうのがまるで分ってない。
店に入るとオシャレな店員のお姉さんやお客さんの同じくらいの年の女の子達の目が一斉にこちらを向いた。
ニコニコしながらこっちを見たり、友達にこっそり話しかけたり、パッと目を逸らしたり、反応はいろいろだけど、皆が私と前田がそういう仲なんだって思っているのは鈍い私にもすぐに分かった。
もしかしたら、服屋の前で前田に怒ってた時も…
そう思うと、恥ずかしくて恥ずかしくて仕方がないし、とにかく嫌だけど正直自分も男の子が顔を真っ赤にした女の子と手を繋いでいるのを見たら同じように思ってしまうような気がして何も言えなかった。
なんだか居心地が悪くて俯いていると、急に前田が繋いでいる方の手をぐいっと引っ張ってきた。
「なによ?」
「なあ、これ、お前に合うんじゃねえの?ここのボタンとか良くね?」
「え?」
渡された服を両手で抱えてみると、ウエストに綺麗な飾りボタンが付いた大人っぽいスカートだった。
「結構いい、かも?」
「だろ?お、あれもお前好きそう!とってきてやるからこの辺の見て待ってろよ」
「え!?うん、分かった。ありがとう」
そう言い残すと前田はどんどん店の奥に入っていった。
急にどうしたんだろう?アイツ。
さっきまで私の手をガッチリ掴んで嬉しそうにしてた前田がアッサリ離れてくれたのは引っかかるけど、気にしていても仕方ないので、私は当初の目的の洋服選びに集中することにした。
あ、このシャツかわいいかも。シンプルだし使いやすそう。でも、こっちの方が合うかな?
ああでもない、こうでもないってさっきのスカートに重ねてうんうん悩んでいる内に前田がまた私が好きそうなデザインの服を何着か持って戻ってきていた。
正直こんなにいい服を選んでくれるのはすごい嬉しいけど、ちょっと気持ち悪いな。
「ねえ、前田、こっちのシャツとこっちのシャツ、どっちがこのスカートに合うと思う?」
「あー、そうだな右のがいいんじゃねえの?派手な柄でクセが強えけど色味が近えからまとまるし、オシャレに見えると思うぜ?」
ふーん、前田はそう思うんだ。でも、手持ちの服とも合わせられる方がいいし…
「よし、こっちにしよう。ありがとう前田、買ってくる」
「は!?え!?なに?お前、結局そっちにすんの?」
「うん。柄物って合わせずらいかなって思って」
「そうじゃなくってさあ、決めてあるならなんで俺に聞いたんだよって話!」
「ああ、他の人の意見を聞いて自分の気持ちを再確認したいと思って」
質問にちゃんと答えたはずなのになぜかさっきの勢いのままに「いやいや!」と迫ってくる前田が面倒臭くって、私は近くにいた店員さんに声をかけた。
「すいません!お会計お願いします」
「あ!おい!ちょっと待て!話は終わってねえぞ!」
まだ後ろでなんか言ってる前田を無視して、私はレジへ一直線に向かった。
「お待たせ」
お店の外で待っていた前田の背中を叩くと、前田はムッとした顔をして「ん」と一言返事をした。
「なに?前田さっきから機嫌悪くない?どうしたのよ?」
「べつに?女っていっつもああだよなって思ってよ。やっぱ女の買い物面倒臭えー!」
持ってる鞄を放り投げちゃいそうな勢いでぐうんっと伸びをしながら前田がそう言う。
「なによ。嫌なら最初から付いてこなきゃいいじゃない!」
前田のその態度にカチンときてちょっと強い口調で言い返すと、前田はやれやれといった感じでワザとらしく肩をすくめてみせた。
「そうカリカリすんなって。小宮の買い物に付き合うのが嫌って言ってんじゃねえよ。むしろ、俺が選んだ服を着てくれんのすげえ嬉しい」
「なっ!あれは前田が選んでくれたから買ったってわけじゃなくて、ただ気に入ったから…あー、もう!やっぱあのスカート返品してこようかな!」
そう言ってさっきの服屋に向き直ろうとすると、すかさず肩を掴まれた。
「おいおいマジで返しに行くのかよ?」
「何?悪い?」
「いや、べつに?返せるもんなら返してみろよ。それ、セール品だけどな」
「え!?ウソ!?」
慌てて袋からスカートを引っ張り出すと、タグにはバッチリ30%OFFの赤いシールが貼られている。やられた…いや、やられてはいないんだけどなんか悔しい。
「小宮に似合っててしかもお得な服を見つけられる。さすが、俺だな」
「…そうだね」
それはそれは得意げにこちらを覗き込む前田が鬱陶しくて、私はとりあえず、そう答えた。
こうなった前田は本当に面倒臭い。嫌になる。気に入ったスカートを返しに行かないで済んだのはいいけどそれじゃ割に合わない。
「お?今日はやけに素直じゃねえの。さっきムキになって服を返しに行こうとしてたヤツと同じとは思えねえなあ」
「あっそう。私もこんな人のことをからかって面白がってる意地の悪いのとさっきのセンスが良くって気も遣えるいい人が同じ人だなんて思えないよ」
「めっずらしい~。小宮が俺を褒めてる。こりゃあ、明日は大雪だな」
「は?褒めてないんだけど?」
これはさすがに聞き捨てならない、とすかさず顔を上げると、ニヤニヤ笑ってこちらを見ていた前田と目が合った。
最悪。
どうせ前田が私をおちょくって面白がっているのなんて分かり切っていたのについカッとなって反応しちゃうの、本当に悪い癖だな。
「なあなあ、次はハンバーガー食いに行こうぜ!ハンバーグ2倍キャンペーンのとこ!」
「行かない。夕飯が食べられなくなる」
「いいじゃねえかよ、ハンバーガーくらい。そのくらいで腹いっぱいになんてなるかよ」
「なる。私、前田みたいな食べ盛りのわんぱく少年じゃないの」
しつこく迫ってくる前田に腹が立って声を荒らげると、前田はやれやれ、とわざとらしく肩をすくめてみせた。
「なんだよノリ悪いな。せっかくのキャンペーンだぜ?」
「…いいよべつに。ハンバーガー、大好物っていうわけでもないし」
「へえ、そうか、そりゃあしょうがねえな。じゃあ小宮は今回ナシな。いやあ、もったいねえなあ。実にもったいない!ここにクーポンもたっぷりあるんだけどな、期間限定夏のフルーツミックスシェイク50円引き、3種のベリーパンケーキ100円引き、お、ポテトSサイズ無料!?すげえな!」
「…シェイク飲むくらいならべつに問題はない。一応」
「おっしゃ決まり!早速行こうぜ!」
新聞紙みたく大きなチラシから顔を上げた前田の顔はしてやったり、とばかりに歪んでいて、シェイクなんかに釣られた自分が馬鹿らしく思えてきた。
「言っとくけど、私、ハンバーガーは絶対買わないから」
なけなしのプライドでそう言うと、腕を引いて目の前を歩く前田がニヤニヤ笑いながら振り返る。
「しょうがねえな。俺の食いかけ一口分けてやるよ」
「なっ…!いらないって言ったでしょ!」
「たかだか回し食いくらいでなあに赤くなってんだよ。小宮のスケベ」
「…前田にだけは言われたくないんだけど。この、絵ロしりとり野郎」
「お、おい!だからそれは忘れろって…」
絵ロしりとりの話を出した途端、前田は顔を真っ赤にして立ち止まった。
これは、使えるかも
「千葉、なんて言ってたっけな。たしか…」
「うわ!それ以上はやめろ!」
「なんでよ。何か言われて困ることでもあるの?」
「…分かったよ、もうお前のことイジらねえから!」
「あ、そう?じゃあ、言わないでおいてあげる」
澄ました顔でそう答えると、前田は恨めしそうにこちらを睨んだ。
「なに?やっぱり言ってあげようか?」
ニヤニヤ笑いながら見つめ返すと、前田はムッと恐い顔になったけど、いい返しが思いつかなかったのかしばらくしたらフンっと顔を背けてしまった。
「ほら、ハンバーガー食べたいんでしょ。早く行くよ」
随分おとなしくなってしまった前田の腕をぐいぐい引いて、私は気分よく歩き出した。
「おい小宮!ハンバーグ2倍キャンペーンでダブルハンバーグバーガーなんて頼んだらどうなっちまうんだろうな?!なあなあ!どう思うよ!」
ハンバーガー屋に着いた途端これだ。なんなのコイツ?
「…ハンバーグが4枚挟まってるんじゃないの?」
「だよなだよな!うわ!やべえ、絶対ダブルハンバーグバーガー頼むしかねえじゃん!おい、小宮も同じのにするよな」
「…私はシェイクだけにする」
「なんだよー!ノリ悪いな!お、順番回ってきた!俺達、ダブルハンバーグバーガー2つで!!!」
「ちょっと!すいません。ダブルハンバーグバーガー1つキャンセルで期間限定シェイク1つでお願いします…!!!」
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