夜の帰り道1章
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前田と二人で帰ったあの雨の日から私は前田を極力避けるようになった。避けはじめた頃は前田もしつこく話しかけてきたが、私の様子がいつもと違うことに気づいてくれた辰巳が前田に「小宮に必要以上に関わるな」と言ってくれたようで、もう一週間くらい前田とは碌に話していない。
ちょうどインターハイも近づいてきて、これから練習試合や遠征も増えてくる大事な時期ということもあり、レギュラーの前田はもちろん、強豪校なのに片手で数えられる程しかいないマネージャーの一人である私も忙しい毎日を送っている。前田はバレー部の中でも特にバレーを最優先にしているから素直に辰巳の言うことを聞いて私というおもちゃを諦める気になったんだろう。
明日からは土日を利用して他県の強豪校との練習試合のための遠征に行くことになっている。今日はそのために各自備えるということで、いつもの練習を少しペースを上げてやり、早く部活が終了した。しかし、マネージャーには遠征のための荷物をまとめてバスに乗せるという仕事が残っているため帰りは10時過ぎになりそうだ。
持ち込む練習道具の点検を済ませてバスに運んでいるうちに、10時半を過ぎ、他のマネージャー達は一人、また一人と帰っていった。残ったのは特に門限が無い私だけ。
一人で作業を進めていると、突然、後ろから肩を叩かれた。
振り返ると、そこにいたのは辰巳だった。
「小宮か。こんな時間に何をしている。忘れ物でもしたのか」
「違うよ。明日の遠征の準備のために残っていたの」
私の答えを聞いて辰巳は心底申し訳なさそうな顔になった。
「そうか。マネージャーだけに準備をさせてしまっていることに気づけず、すまなかった。あとは俺がやっておくから小宮は他のマネージャー達と帰るんだ」
そう言って辰巳は私の持っていた大きな箱を取り上げた。少しだけ触れた指先が強張ったことに気づいて恥ずかしくなった。
「ありがとう辰巳。運ぶ荷物はあと2、3個で全部部室にあるからよろしくね」
恥ずかしさを紛らわせるためにほとんど息継ぎをしないで言い切った。「ああ」と辰巳が頷いたのを確認して「じゃあ」と早足でカバンが置きっぱなしになっている体育館へ向かった。
誰もいない体育館に着いたら自然と大きなため息が出た。普段二人きりになることなんてほとんどない辰巳と一緒にいたから緊張したんだ。と自分に言い聞かせた。
なるべく手早く帰り支度をして急いで体育館を出ると部室の戸締りをしている辰巳を見つけた。なんとなく気まずくて足音をたてずにその場から去ることにした。
「小宮」
辰巳に気づかれたんだ。無反応で立ち去るのも悪い気がして振り向いた。
「前田」
一筋、背中に嫌な汗が流れた。なんで辰巳の声じゃないって気づかなかったんだろう。
「どうして、んな時間にこんなところにいるんだよ。まさか俺の部屋にでも来るつもりだったのか。いいぜ。今なら辰巳もいないしな」
言いながら前田の口元は歪んでいく。
「違う。明日の遠征の準備をしててこれから帰るところ。じゃあね」
前田の嫌味な顔をしっかり睨みつけて言ってやった。私は前田のニヤけ面を振り払うように走り出した。
「待てよ」
前田は走り出そうとする私の肩を強く掴んで無理矢理自分の方に向けさせた。
「なんで逃げんだよ。小宮は俺のことが好きなんじゃねえの」
かあっと頭に血が昇っていって、手が小刻みに震えだした。肩を掴んできた時は必死な様子のように感じたのに。
「最低。私を勘違いさせて遊んでたあんたなんか嫌いだよ。離して」
近所迷惑だから、みっともない、辰巳に聞こえる、そんなこと全部忘れて思い切り叫んだ。今度こそ校門に向かって走りだした。
ちょうどインターハイも近づいてきて、これから練習試合や遠征も増えてくる大事な時期ということもあり、レギュラーの前田はもちろん、強豪校なのに片手で数えられる程しかいないマネージャーの一人である私も忙しい毎日を送っている。前田はバレー部の中でも特にバレーを最優先にしているから素直に辰巳の言うことを聞いて私というおもちゃを諦める気になったんだろう。
明日からは土日を利用して他県の強豪校との練習試合のための遠征に行くことになっている。今日はそのために各自備えるということで、いつもの練習を少しペースを上げてやり、早く部活が終了した。しかし、マネージャーには遠征のための荷物をまとめてバスに乗せるという仕事が残っているため帰りは10時過ぎになりそうだ。
持ち込む練習道具の点検を済ませてバスに運んでいるうちに、10時半を過ぎ、他のマネージャー達は一人、また一人と帰っていった。残ったのは特に門限が無い私だけ。
一人で作業を進めていると、突然、後ろから肩を叩かれた。
振り返ると、そこにいたのは辰巳だった。
「小宮か。こんな時間に何をしている。忘れ物でもしたのか」
「違うよ。明日の遠征の準備のために残っていたの」
私の答えを聞いて辰巳は心底申し訳なさそうな顔になった。
「そうか。マネージャーだけに準備をさせてしまっていることに気づけず、すまなかった。あとは俺がやっておくから小宮は他のマネージャー達と帰るんだ」
そう言って辰巳は私の持っていた大きな箱を取り上げた。少しだけ触れた指先が強張ったことに気づいて恥ずかしくなった。
「ありがとう辰巳。運ぶ荷物はあと2、3個で全部部室にあるからよろしくね」
恥ずかしさを紛らわせるためにほとんど息継ぎをしないで言い切った。「ああ」と辰巳が頷いたのを確認して「じゃあ」と早足でカバンが置きっぱなしになっている体育館へ向かった。
誰もいない体育館に着いたら自然と大きなため息が出た。普段二人きりになることなんてほとんどない辰巳と一緒にいたから緊張したんだ。と自分に言い聞かせた。
なるべく手早く帰り支度をして急いで体育館を出ると部室の戸締りをしている辰巳を見つけた。なんとなく気まずくて足音をたてずにその場から去ることにした。
「小宮」
辰巳に気づかれたんだ。無反応で立ち去るのも悪い気がして振り向いた。
「前田」
一筋、背中に嫌な汗が流れた。なんで辰巳の声じゃないって気づかなかったんだろう。
「どうして、んな時間にこんなところにいるんだよ。まさか俺の部屋にでも来るつもりだったのか。いいぜ。今なら辰巳もいないしな」
言いながら前田の口元は歪んでいく。
「違う。明日の遠征の準備をしててこれから帰るところ。じゃあね」
前田の嫌味な顔をしっかり睨みつけて言ってやった。私は前田のニヤけ面を振り払うように走り出した。
「待てよ」
前田は走り出そうとする私の肩を強く掴んで無理矢理自分の方に向けさせた。
「なんで逃げんだよ。小宮は俺のことが好きなんじゃねえの」
かあっと頭に血が昇っていって、手が小刻みに震えだした。肩を掴んできた時は必死な様子のように感じたのに。
「最低。私を勘違いさせて遊んでたあんたなんか嫌いだよ。離して」
近所迷惑だから、みっともない、辰巳に聞こえる、そんなこと全部忘れて思い切り叫んだ。今度こそ校門に向かって走りだした。