夜の帰り道1章
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「13対13の同点!!!」
実況の声に合わせて湧き上がる会場に、はじめて坂見台に追いつかれたんだと気が付いた。
「ねえ、小宮ちゃん、これ、大丈夫だよね?」
そう尋ねてくるナッツも、コートに立ち尽くすみんなを見上げたままだった。
「大丈夫だよ、きっと。今日もいつも通り絶対に勝てるよ!」
ぐっと拳を握るといつもよりも大きな声が出た。
だけど、ナッツからの返事は無かった。
どくん、どくんと酸素を求めて、心臓が激しく動き始めた。
ああ、だめなのかもしれない。
祈るように目をぎゅっと瞑るナッツに倣って、私も瞼を下ろした。
ピーーーッ!
試合終了のどこか間延びした合図が聞こえた。
「ありがとうございました!」
応援に来てくれた保護所に向かって、先生に向かって、そして私達マネージャーに向かって。
こんな時でも綺麗に揃えられた礼が痛々しく感じて、私は皆から顔を背けた。
「小宮ちゃん、行こう」
さっきまであんなに必死になって祈っていたナッツは、どこかスッキリしたような顔でさっと荷物を背負った。
どうせ、今のは決勝戦で今日はもう他の試合なんてないんだからそんなに急がなくたっていいじゃない。
勢いをつけて持ち上げたカゴは軽すぎてぐらりと中身がこぼれそうになった。
片付けも全部終わって、体育館に戻ると、選手達はすでに監督の周りに集まっていた。
慌ててその輪の中に3人固まって並ぶと、監督は部員全員を見回してからゆっくりと口を開いた。
「明日の部活はなし。各自家に帰って休め。解散」
「待ってください!」
言うなり、部員の間をすり抜けていく監督に辰巳が声を上げた。
「それだけですか?」
「ああ。今後に向けて好きに過ごせばいい」
「ありがとうございます」
辰巳が頭を下げると、みんなも続いてバラバラと頭を下げ始めた。
私もそれに合わせて軽く頭を下げた。
みんなが帰り支度を始めると、決まって声をかけてくるナッツもさとちゃんも今日ばっかりは黙々と準備を進めている。
自分はもうとっくに終わっているけれど、2人を誘う気分になれなくて、黙ってその場を後にした。
あれ?なんでこんなところに来たんだろう?
校門に向かって歩いていた、と思っていたのに、気付いたら部室の前に来ていた。
疲れてたし、ぼーっとしてたんだな。今日までかなり忙しくしてたから。
…せっかくだし、ちょっとここで休んでいこうかな。
カバンをイスにして、私は部室の壁にもたれた。
「わっ!!!」
夕方のちょっと涼しい風にうつらうつらしかけていたところで、両肩をガシッと掴まれた。
人が気持ちよくうたた寝しようとしてるって時にこんなことしてくるようなヤツはアイツしかいない。
落ちかけた瞼をこすって顔を上げると、前田がニヤッと笑ってこちらをのぞき込んできた。
「よお、よく眠れたか?小宮」
「まあね。前田に起こされてなかったらもっとよく寝れたけど」
「そりゃあ悪かったな。目の前で無防備に寝られてちゃ、ちょっかいかけないわけにいかなかったもんでよ」
「あっそ。じゃあ、今度から寝てても無視してどっか行ってくれない?」
ふい、と前田から顔を背けて、カバンにべったりついた砂を叩き落とす。
「なんか、お前ちょっと機嫌悪くねえ?腹でも減ってんのかよ?」
「そんなんじゃないよ。っていうか、女の子にそんなこと聞くとか、本当に前田ってデリカシーない」
ぶら下げていたカバンを抱えると、まだ落ちきっていない砂がざらり、と手を汚した。
「なんだよ。お前、どうしたんだよ?らしくねえな」
「らしくないってなによ。もともと私はこんなヤツでしょ。前田だって知ってるじゃない」
腕の中のカバンをきつく抱き締めると、尖った砂が食い込んで、手のひらにぼこぼこと跡を残した。
「…」
ふわり、ところどころ薄くなったネイビーブルーが視界を覆った。
前田のタオルだ。
「なんのつもり?」
絞り出した声はなぜか震えていた。
「べつに、大した意味はねえよ」
ぼそり、となぜかバツが悪そうに前田は呟く。
どうしてだか、嫌な予感がした。
それなのに、振り向くどころか、顔にかかったままのタオルを払い除けることすらできない。
ついに、ざっと砂が擦れる音が聞こえた。
「待って!」
音が止んだ。
「前田、タオル、すぐ返すから、もう少しだけここで待ってて」
風がゆるくタオルをまき上げた。
まだここにいるのかも、ちゃんと聞いてくれているのかも分からないのに、前田が頷いてくれたような気がした。
ぐっとタオルを掴むと、あの試合の熱がじわり、と広がった。
実況の声に合わせて湧き上がる会場に、はじめて坂見台に追いつかれたんだと気が付いた。
「ねえ、小宮ちゃん、これ、大丈夫だよね?」
そう尋ねてくるナッツも、コートに立ち尽くすみんなを見上げたままだった。
「大丈夫だよ、きっと。今日もいつも通り絶対に勝てるよ!」
ぐっと拳を握るといつもよりも大きな声が出た。
だけど、ナッツからの返事は無かった。
どくん、どくんと酸素を求めて、心臓が激しく動き始めた。
ああ、だめなのかもしれない。
祈るように目をぎゅっと瞑るナッツに倣って、私も瞼を下ろした。
ピーーーッ!
試合終了のどこか間延びした合図が聞こえた。
「ありがとうございました!」
応援に来てくれた保護所に向かって、先生に向かって、そして私達マネージャーに向かって。
こんな時でも綺麗に揃えられた礼が痛々しく感じて、私は皆から顔を背けた。
「小宮ちゃん、行こう」
さっきまであんなに必死になって祈っていたナッツは、どこかスッキリしたような顔でさっと荷物を背負った。
どうせ、今のは決勝戦で今日はもう他の試合なんてないんだからそんなに急がなくたっていいじゃない。
勢いをつけて持ち上げたカゴは軽すぎてぐらりと中身がこぼれそうになった。
片付けも全部終わって、体育館に戻ると、選手達はすでに監督の周りに集まっていた。
慌ててその輪の中に3人固まって並ぶと、監督は部員全員を見回してからゆっくりと口を開いた。
「明日の部活はなし。各自家に帰って休め。解散」
「待ってください!」
言うなり、部員の間をすり抜けていく監督に辰巳が声を上げた。
「それだけですか?」
「ああ。今後に向けて好きに過ごせばいい」
「ありがとうございます」
辰巳が頭を下げると、みんなも続いてバラバラと頭を下げ始めた。
私もそれに合わせて軽く頭を下げた。
みんなが帰り支度を始めると、決まって声をかけてくるナッツもさとちゃんも今日ばっかりは黙々と準備を進めている。
自分はもうとっくに終わっているけれど、2人を誘う気分になれなくて、黙ってその場を後にした。
あれ?なんでこんなところに来たんだろう?
校門に向かって歩いていた、と思っていたのに、気付いたら部室の前に来ていた。
疲れてたし、ぼーっとしてたんだな。今日までかなり忙しくしてたから。
…せっかくだし、ちょっとここで休んでいこうかな。
カバンをイスにして、私は部室の壁にもたれた。
「わっ!!!」
夕方のちょっと涼しい風にうつらうつらしかけていたところで、両肩をガシッと掴まれた。
人が気持ちよくうたた寝しようとしてるって時にこんなことしてくるようなヤツはアイツしかいない。
落ちかけた瞼をこすって顔を上げると、前田がニヤッと笑ってこちらをのぞき込んできた。
「よお、よく眠れたか?小宮」
「まあね。前田に起こされてなかったらもっとよく寝れたけど」
「そりゃあ悪かったな。目の前で無防備に寝られてちゃ、ちょっかいかけないわけにいかなかったもんでよ」
「あっそ。じゃあ、今度から寝てても無視してどっか行ってくれない?」
ふい、と前田から顔を背けて、カバンにべったりついた砂を叩き落とす。
「なんか、お前ちょっと機嫌悪くねえ?腹でも減ってんのかよ?」
「そんなんじゃないよ。っていうか、女の子にそんなこと聞くとか、本当に前田ってデリカシーない」
ぶら下げていたカバンを抱えると、まだ落ちきっていない砂がざらり、と手を汚した。
「なんだよ。お前、どうしたんだよ?らしくねえな」
「らしくないってなによ。もともと私はこんなヤツでしょ。前田だって知ってるじゃない」
腕の中のカバンをきつく抱き締めると、尖った砂が食い込んで、手のひらにぼこぼこと跡を残した。
「…」
ふわり、ところどころ薄くなったネイビーブルーが視界を覆った。
前田のタオルだ。
「なんのつもり?」
絞り出した声はなぜか震えていた。
「べつに、大した意味はねえよ」
ぼそり、となぜかバツが悪そうに前田は呟く。
どうしてだか、嫌な予感がした。
それなのに、振り向くどころか、顔にかかったままのタオルを払い除けることすらできない。
ついに、ざっと砂が擦れる音が聞こえた。
「待って!」
音が止んだ。
「前田、タオル、すぐ返すから、もう少しだけここで待ってて」
風がゆるくタオルをまき上げた。
まだここにいるのかも、ちゃんと聞いてくれているのかも分からないのに、前田が頷いてくれたような気がした。
ぐっとタオルを掴むと、あの試合の熱がじわり、と広がった。