夜の帰り道1章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「なあ、小宮」
「なに?」
作業を進めながら背中越しに叫ぶ。
「あのな」
「だからなに?」
いつもと違う歯切れの悪い声に苛立ちながら、また声を張り上げると、前田はぼそりと口を開いた。
「テーピング巻いてくれないか?」
「テーピング?」
「だめならいい」
そのままの調子で聞き返すと、らしくない控えめな声が返ってきた。
まだ整理中のカゴも放って立ち上がる。
前田はもう背中を向けていた。
「だめなんて言ってない。さっさとこっち片づけるからベンチのとこで待ってて!」
「…分かった」
くしゃり、と笑った前田に心臓が一瞬止まったような気がした。だけど、全然嫌な感じではなかった。
ふう、と息を吐いてゆっくりしゃがみ込む。
さっき落としたのか、カゴの中身がころりと転がって手に触れた。
あーあ、前田のせいで仕事増えちゃったな。
握りしめた荷物は、そのままぽいっとカゴに投げ入れた。
「お待たせ」
言いながらテープとハサミをガシャンと床に並べると、前田はすっと手を差し出してきた。
こくん、と頷いて人差し指をとる。
前田はなぜかふい、と顔を逸らしてしまった。
「前田?」
一度動きを止めて見上げる。
前田はちらりと持ち上げられたままの指に目を遣ると、また「なんでもねえよ」と顔を背けてしまった。
「本当になんなの?なんか今日の前田、おかしい。テーピング頼んでくることだって珍しいし。なにかあった?」
聞きながら、人差し指、中指、と順番に巻いていくと、前田の指がぴくりと揺らいだ。
「別に。ただ小宮にやってもらった方が気合入ると思ってよ」
「なにそれ」
思わず吹き出すと、前田がつん、と爪を立ててきた。
「全然痛くないよ。前田、いつもちゃんと爪きれいに整えてるじゃん」
「うるせえ」
きゅっと指に力が込められる。けどやっぱり痛くない。
「はいはい。いつもならこういう時、余計なこと言ってくるのに今日の前田はおとなしいね」
「悪いかよ」
「いや。むしろ今の方がいい」
「そうかよ」
言いながら前田の指が寝ていく。
「さっきから思ってたんだけどさ」
「なんだよ」
「前田、ちょっと不安になってるでしょ」
ふう、と吐息がつむじを掠めた。
「まあな」
「私も」
テープを巻く手に少し力がこもる。
「私も不安なんだよね。ほら、昨日の坂見台のマネージャーの子、ちょっと雰囲気あったじゃない?」
「意外だな。お前でもそういう気分になることあんだな」
「それを言うなら前田もでしょ。ほら、もう終わり。さっさと戻って」
しっかりとテープが巻かれた手をバシン、と叩いて立ち上がる。
前田は、指をくいくい曲げると、こっちを向いてニヤッと嬉しそうに笑った。
「小宮、結構上手いじゃねえか。これから毎日頼むわ」
「毎日!?普段自分で巻いてるでしょ!」
「いいじゃねえかそれくらい!ケチケチすんなよ」
「私だってマネージャーの仕事で忙しいから毎日そんな時間取ってられないよ。いつも今日みたいにおとなしくしてくれるなら考えるけどさ」
「おい!それじゃもう一生やってもらえねえじゃねえか」
「何言ってるの?おとなしくしてるだけって小学生にもできることでしょ。簡単じゃない」
「バカ、それじゃお前のことからかって遊べなくなるだろうが!」
「だから、それが嫌なんだって!あ、ちょっと前田、テーピング緩んできてる。貸して」
しっかりと組まれた腕をするりと抜き取ってまた巻き直す。
すると、前田はなぜかニヤニヤ笑いはじめた。
「なに笑ってるの?」
じとっと睨みつけるように見上げると、前田は急に私の指のつけねをすっと撫でた。
「なにするの!」
咄嗟にぱっと手を離すと、前田はニヤリと得意げに笑って、また私の手を取った。
「なるほどな。こうすれば小宮にテーピングしてもらえるってわけか」
「調子に乗らないで!」
ぶんっと腕を大きく振り上げて引き剥がす。
「ふざけてる暇なんてないでしょ。もうあっちに戻りなよ」
「なんだよ。ちょっと手え握っただけでキレんなよな」
「はあ?触り方、エロ親父みたいですごい気持ち悪かったんだけど」
まとめた荷物を持ち上げてふい、と背を向けると、前田はまたギャーギャー言いはじめたけど、もう知ったこっちゃない。
あー!触られたとこ、鳥肌立ちそう。
「何こっち見てるの?早く行きなよ」
「分かってるっつうの!」
「あっそ。じゃあ、いってらっしゃい」
「おう」
きゅっと握りしめたハサミがぺたりと手に張り付いた。
「なに?」
作業を進めながら背中越しに叫ぶ。
「あのな」
「だからなに?」
いつもと違う歯切れの悪い声に苛立ちながら、また声を張り上げると、前田はぼそりと口を開いた。
「テーピング巻いてくれないか?」
「テーピング?」
「だめならいい」
そのままの調子で聞き返すと、らしくない控えめな声が返ってきた。
まだ整理中のカゴも放って立ち上がる。
前田はもう背中を向けていた。
「だめなんて言ってない。さっさとこっち片づけるからベンチのとこで待ってて!」
「…分かった」
くしゃり、と笑った前田に心臓が一瞬止まったような気がした。だけど、全然嫌な感じではなかった。
ふう、と息を吐いてゆっくりしゃがみ込む。
さっき落としたのか、カゴの中身がころりと転がって手に触れた。
あーあ、前田のせいで仕事増えちゃったな。
握りしめた荷物は、そのままぽいっとカゴに投げ入れた。
「お待たせ」
言いながらテープとハサミをガシャンと床に並べると、前田はすっと手を差し出してきた。
こくん、と頷いて人差し指をとる。
前田はなぜかふい、と顔を逸らしてしまった。
「前田?」
一度動きを止めて見上げる。
前田はちらりと持ち上げられたままの指に目を遣ると、また「なんでもねえよ」と顔を背けてしまった。
「本当になんなの?なんか今日の前田、おかしい。テーピング頼んでくることだって珍しいし。なにかあった?」
聞きながら、人差し指、中指、と順番に巻いていくと、前田の指がぴくりと揺らいだ。
「別に。ただ小宮にやってもらった方が気合入ると思ってよ」
「なにそれ」
思わず吹き出すと、前田がつん、と爪を立ててきた。
「全然痛くないよ。前田、いつもちゃんと爪きれいに整えてるじゃん」
「うるせえ」
きゅっと指に力が込められる。けどやっぱり痛くない。
「はいはい。いつもならこういう時、余計なこと言ってくるのに今日の前田はおとなしいね」
「悪いかよ」
「いや。むしろ今の方がいい」
「そうかよ」
言いながら前田の指が寝ていく。
「さっきから思ってたんだけどさ」
「なんだよ」
「前田、ちょっと不安になってるでしょ」
ふう、と吐息がつむじを掠めた。
「まあな」
「私も」
テープを巻く手に少し力がこもる。
「私も不安なんだよね。ほら、昨日の坂見台のマネージャーの子、ちょっと雰囲気あったじゃない?」
「意外だな。お前でもそういう気分になることあんだな」
「それを言うなら前田もでしょ。ほら、もう終わり。さっさと戻って」
しっかりとテープが巻かれた手をバシン、と叩いて立ち上がる。
前田は、指をくいくい曲げると、こっちを向いてニヤッと嬉しそうに笑った。
「小宮、結構上手いじゃねえか。これから毎日頼むわ」
「毎日!?普段自分で巻いてるでしょ!」
「いいじゃねえかそれくらい!ケチケチすんなよ」
「私だってマネージャーの仕事で忙しいから毎日そんな時間取ってられないよ。いつも今日みたいにおとなしくしてくれるなら考えるけどさ」
「おい!それじゃもう一生やってもらえねえじゃねえか」
「何言ってるの?おとなしくしてるだけって小学生にもできることでしょ。簡単じゃない」
「バカ、それじゃお前のことからかって遊べなくなるだろうが!」
「だから、それが嫌なんだって!あ、ちょっと前田、テーピング緩んできてる。貸して」
しっかりと組まれた腕をするりと抜き取ってまた巻き直す。
すると、前田はなぜかニヤニヤ笑いはじめた。
「なに笑ってるの?」
じとっと睨みつけるように見上げると、前田は急に私の指のつけねをすっと撫でた。
「なにするの!」
咄嗟にぱっと手を離すと、前田はニヤリと得意げに笑って、また私の手を取った。
「なるほどな。こうすれば小宮にテーピングしてもらえるってわけか」
「調子に乗らないで!」
ぶんっと腕を大きく振り上げて引き剥がす。
「ふざけてる暇なんてないでしょ。もうあっちに戻りなよ」
「なんだよ。ちょっと手え握っただけでキレんなよな」
「はあ?触り方、エロ親父みたいですごい気持ち悪かったんだけど」
まとめた荷物を持ち上げてふい、と背を向けると、前田はまたギャーギャー言いはじめたけど、もう知ったこっちゃない。
あー!触られたとこ、鳥肌立ちそう。
「何こっち見てるの?早く行きなよ」
「分かってるっつうの!」
「あっそ。じゃあ、いってらっしゃい」
「おう」
きゅっと握りしめたハサミがぺたりと手に張り付いた。