夜の帰り道1章
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「小宮」
準備もひと段落したことだし、とナッツとさとちゃんとベンチでしゃべっていたら、とんっと肩を叩かれた。
「どうしたの?工藤君?」
いち早く反応したナッツがさとちゃんの方へつめてスペースを作る。
そこへ「悪いな」と手を挙げて腰かけた工藤はすぐにくるりと私の方に向き直った。
「前田がどこ行ったか知らないか?そろそろ試合の時間だってのに姿が見えねえんだよな」
「知らないよ」
また前田のことか、とうんざりする気持ちから、いつもより若干素っ気なく答えると、工藤も「そうだよな」と眉を下げた。
「お前らも知らないよな」
「ごめん。知らない」
「莉緒先輩が知らなかったら私達も知らないですよー、でも…」
わざとらしく唸りはじめたさとちゃんに全員の視線が集まる。
「どうした?」
ナッツと私にちら、と目配せしてから工藤が聞き返した。
「やっぱり、アレですよねー。前田先輩が戻ってこないとまずいですし、探しに行かないとですよねー」
言いながらこちらに向けられる熱い視線から逃げるようにベンチの下に目を遣って無視を決め込む。
それにしびれを切らしたのか、さとちゃんは突然スッと立ち上がって、ぐるんっと勢いよく私達の前に出てきた。
「と、いうことで、二手に分かれて前田先輩を探しに行きましょう!なっちゃん先輩と工藤先輩、莉緒先輩と私で!」
「いや、でもまだそんなにやばい時間でもないし、そこまでしなくてもいいんじゃないか?」
そろり、と手を上げながら発言する工藤にさとちゃんは、きっと鋭い視線を投げた。
「工藤先輩!早く見つかるに越したことないじゃないですか!私と莉緒先輩はもう行きますからね!二人もしっかり探してくださいよ!」
言うなり、さとちゃんは物凄い勢いで私を引っ張り上げてずんずん歩き出してしまった。
なんか、さとちゃんって、将来大物になりそう…
私は、自信に満ちた小さな背中に「ちょっと待ってよ」と力無く声をかけた。
さっきまで座っていたベンチが見えなくなった頃、さとちゃんが突然ピタッと立ち止まった。
「どうしたの?」
すかさず緩んだ手をパッと放して問いかけると、さとちゃんは満面の笑みで振り返った。
「え?本当にどうしたの?」
「どうしたもこうしたも無いですよ!大成功ですよ!先輩!」
「え?大成功?何が?」
一歩後ろに下がりながら聞き返す。
さとちゃんは、ふん、ふん、と鼻息も荒くこっちに詰め寄ってきた。
「なっちゃん先輩と、工藤先輩くっつけ大作戦に決まってるじゃないですか!あの二人、莉緒先輩と前田先輩ほどじゃないですけど、超いい雰囲気なんですから!!!あれは、絶対、相思相愛ってやつですよ!!!三度の飯より月9の私には分かるんです!!!」
「え?あの二人が?そんな気配全然ないと思うんだけど…私と前田のことも勘違いしてるみたいだし、気のせいなんじゃない?」
言いながら、私は壁に背を預けて水筒に口を付けた。
「そんなことないです!絶対!どっちも超怪しいんです!」
さとちゃんは、私の隣にならんでむうっとした顔を向ける。
「はいはい、分かった、分かった。さ、一応、私達も探しに行くよ」
「…はい」
キュッと水筒をしっかり締めて、私はさとちゃんの前を歩いた。
「おーい!お前達!」
探し始めてまだ30秒と経たないうちに、黒木監督が声をかけてきた。
最悪。前田をさっさと見つけて休憩に戻るつもりだったのに。
「なんですか?」
一応、真面目な顔を作って振り返る。
「昨日の練習の時のスコアはどうした?確認したいことがある」
「それならたしか私達が持ってきたカバンの中にあるはずです!」
さっきまでずっといかにも迷惑そうな顔で黙り込んでいたのが嘘みたいに、さとちゃんが急にはいはーい!と手を挙げた。
「どうしたの?」と私が監督に見えないように小突いて合図を送るけど、それにも、嬉しそうにウインクを一つ返すだけだ。
そうこうしているうちに監督との話もまとまって、さとちゃんは監督と共に去っていった。
本当になんなの?
ナッツと工藤も探してるだろうし、一人でも探さないとな。
そう、ぼうっと考えながら、いろんなユニフォームや制服が集まっているトイレの周りなんかをぶらつく。
あれ?あの子…
入場口近くに差し掛かった時、ベンチに座る一人の女の子に目が留まった。
その子は、あごの辺りで切りそろえられた髪をふわふわ揺らして、何かを熱心に手帳に書き込んでいるようだった。
芸能人みたいにオーラがある、とかそういうわけじゃないけど、真剣な表情でペンを走らせてる姿からは目が離せなかった。
制服を着ているし多分マネージャーの子だと思うけど、紺と赤のセーラー服ってだけじゃどこの学校の子か分からないな。でも、あんなに熱心なマネージャーがいるところって強いんだろうなあ…私も頑張らないと…
え!?
ふと目を離した間に、あの子の真横から、ジャージのポケットに手を突っ込んだ男子が顔を覗かせていた。しかも、背が高くて、色黒で結構カッコいい。髪型がちょっと個性的すぎる気もするけど。
これって、もしかして、そういう仲、なのかな!?
この前友達に借りた少女漫画を思い出して小さく肩が跳ねる。
慌てて近くの柱の陰になるような位置にさりげなく移動してがら、じっと見てみる。
いつの間にか二人は立ち上がっていて、女の子の手帳を取り合っていた。
なんだろう?あの子があの男子の練習メニューとか考えてたってこと?
いや、ないか、それだったら普通に見せるよね…
あ!もしかして、あの男子への想いを人知れず書いていた、とか!?だったら、あれだけ必死になって取り返そうとしてるのも納得かも!
もう!素直に見せちゃえばいいのに!じれったいなあ~!
ん?あの子の後ろに来た、あのいけすかない男子、まさか…
やっぱり前田じゃん!こんなところで何してんのよ!二人の邪魔になるからさっさとどっか行って!
そう水筒を握りしめている間にも、前田はズンズンあの子に近づいていく。
あ、ちょっと何やってんのよ!やめてやめて!あー…やっちゃった…
ついに前田はあの子の手帳をスルリと奪い取ってしまった。
本当に何してんのよ、あのバカ…二人の雰囲気最悪だし…うわ、すんごい中見てる…よく二人を前にしてあんなに堂々と中身見てられるよなあ…
ほらもう!やっぱりあの子も怒ってるし!
え?ちょっと待って!あそこにいるのってうちの1年生の子じゃない?もしかして、前田を呼びに来た?
やっぱり!よかったー!
去っていく前田の背中を見送って、壁に掛けてある時計に目をやると、まだまだ5分ちょっとしか経っていない。
もう少し余裕あるけど、前田のせいで二人の雰囲気悪くなっちゃったもんな…早めに移動しておこう。
私は、水筒を抱え直して、来た道をゆっくり戻っていった。
「よお、小宮」
「え?」
聞き慣れた声に慌てて振り向く。
「前田?なんでこんなところにいるの?」
「じっとこっち見てるかと思ったら、さっさと帰ろうとするから気になって来てみたんだよ」
そう、前田は得意げに胸を張って見せた。
「だったら話が早い」
私は、きっと、目の前のニヤけ面を睨みつけた。
「前田さ、すんごいあの二人の邪魔になってたんだけど!せっかくいい雰囲気だったのに!
「あの二人?」
わざとらしくポカンとした顔で繰り返す前田に腹が立つ。
「あの二人って言ったらあの二人でしょ!ショートカットのかわいい女の子と、背が高くて色黒の男子!前田の邪魔が入る前は仲良さそうで本当にいい雰囲気だったんだから!」
勢いに任せて捲し立てると、前田は一瞬固まって、それから、「ああ!」と大声を上げた。
「それ、隆彦と隆彦んとこのマネージャーじゃねえか!?」
「え!?隆彦君って、あの隆彦君!?あの赤いジャージの男子だよ?」
「ああ、坂見台のジャージ着てたし間違いねえ!」
「ええ!?あれが隆彦君だったんだ!じゃあ、あの子は坂見台のマネージャーなんだ」
「おう」
前田は誇らしげに頷く。
「そっか。ねえ、前田、隆彦君とあのマネージャーの子、どういう関係なの?」
「それなんだけどな、俺も全然知らねえんだよ。タカがあんだけ仲良くなるような女子って結構珍しいから怪しいとは思うんだけどよ、アイツ、案外シャイなとこあるからな…そういうの教えてくんねえだろうな」
「そうなの!?もっと知りたかったなあ…」
「ところがどっこい!あのマネージャーの奴の気持ちは分かるんだな、これが」
「うそ!?えー、あの子、隆彦君のことどう思ってるの!?」
「小宮はどう思う?」
ニイ、と自慢げに笑ってみせるのが気に食わなくて、「早く言って!」と数回小突くと、前田は割と簡単に口を開いてくれた。
「それがな、アイツ、タカのことそっちの意味で好きっぽいんだよ」
「やっぱり!じゃあ、あの手帳には隆彦君への想いが綴られてたりするんだろうなあ~、あんなに熱心に書いてたし絶対そうだよね…!!!」
「え!?お前、なんでそんなこと知ってんだよ」
「ってことは、まさか…?」
小突いてくる前田を避けざまに聞く。
「そのまさかだよ!」
避けた背中にバシッと強い一撃を食らった勢いでつんのめりながらも、「じゃあ…!」と振り向くと、前田はパッと目を輝かせて大きく頷いた。
「あのノートな、『隆彦が試合に出たら、俺達にも絶対勝てる!』みたいなこと書いてあったんだよ!大舞台でタカの活躍が見たいっつうことだよな、これ!」
「絶対そうでしょ!一番信頼してて期待してるけど、面と向かって言うのは恥ずかしいってことだよ!きっと!うわあ…じれったい、けど、いいなあ!青春ドラマみたい!」
「だろ!だから俺さ、そのノート、隆彦の前で読んでやったぜ!」
「あー、それはやりすぎ…でも気持ちわかるなあ~!私も読もうかな?とは考えるだろうしなあ~絶対!」
「前田さん!小宮さん!」
今までの隆彦君の恋愛遍歴に話が差し掛かったところで、バン!と大きな音を立てて入場口が開かれた。
慌てて壁の時計を確認すると、試合開始10分前。かなり急がないとまずい。
「あのさ、前田…」
「続きは試合に勝ってからゆっくり聴かせてやるよ」
「分かった!」
ニヤリ、と意地悪く笑った前田は、もう、入場口に向かって駆け出していた。
準備もひと段落したことだし、とナッツとさとちゃんとベンチでしゃべっていたら、とんっと肩を叩かれた。
「どうしたの?工藤君?」
いち早く反応したナッツがさとちゃんの方へつめてスペースを作る。
そこへ「悪いな」と手を挙げて腰かけた工藤はすぐにくるりと私の方に向き直った。
「前田がどこ行ったか知らないか?そろそろ試合の時間だってのに姿が見えねえんだよな」
「知らないよ」
また前田のことか、とうんざりする気持ちから、いつもより若干素っ気なく答えると、工藤も「そうだよな」と眉を下げた。
「お前らも知らないよな」
「ごめん。知らない」
「莉緒先輩が知らなかったら私達も知らないですよー、でも…」
わざとらしく唸りはじめたさとちゃんに全員の視線が集まる。
「どうした?」
ナッツと私にちら、と目配せしてから工藤が聞き返した。
「やっぱり、アレですよねー。前田先輩が戻ってこないとまずいですし、探しに行かないとですよねー」
言いながらこちらに向けられる熱い視線から逃げるようにベンチの下に目を遣って無視を決め込む。
それにしびれを切らしたのか、さとちゃんは突然スッと立ち上がって、ぐるんっと勢いよく私達の前に出てきた。
「と、いうことで、二手に分かれて前田先輩を探しに行きましょう!なっちゃん先輩と工藤先輩、莉緒先輩と私で!」
「いや、でもまだそんなにやばい時間でもないし、そこまでしなくてもいいんじゃないか?」
そろり、と手を上げながら発言する工藤にさとちゃんは、きっと鋭い視線を投げた。
「工藤先輩!早く見つかるに越したことないじゃないですか!私と莉緒先輩はもう行きますからね!二人もしっかり探してくださいよ!」
言うなり、さとちゃんは物凄い勢いで私を引っ張り上げてずんずん歩き出してしまった。
なんか、さとちゃんって、将来大物になりそう…
私は、自信に満ちた小さな背中に「ちょっと待ってよ」と力無く声をかけた。
さっきまで座っていたベンチが見えなくなった頃、さとちゃんが突然ピタッと立ち止まった。
「どうしたの?」
すかさず緩んだ手をパッと放して問いかけると、さとちゃんは満面の笑みで振り返った。
「え?本当にどうしたの?」
「どうしたもこうしたも無いですよ!大成功ですよ!先輩!」
「え?大成功?何が?」
一歩後ろに下がりながら聞き返す。
さとちゃんは、ふん、ふん、と鼻息も荒くこっちに詰め寄ってきた。
「なっちゃん先輩と、工藤先輩くっつけ大作戦に決まってるじゃないですか!あの二人、莉緒先輩と前田先輩ほどじゃないですけど、超いい雰囲気なんですから!!!あれは、絶対、相思相愛ってやつですよ!!!三度の飯より月9の私には分かるんです!!!」
「え?あの二人が?そんな気配全然ないと思うんだけど…私と前田のことも勘違いしてるみたいだし、気のせいなんじゃない?」
言いながら、私は壁に背を預けて水筒に口を付けた。
「そんなことないです!絶対!どっちも超怪しいんです!」
さとちゃんは、私の隣にならんでむうっとした顔を向ける。
「はいはい、分かった、分かった。さ、一応、私達も探しに行くよ」
「…はい」
キュッと水筒をしっかり締めて、私はさとちゃんの前を歩いた。
「おーい!お前達!」
探し始めてまだ30秒と経たないうちに、黒木監督が声をかけてきた。
最悪。前田をさっさと見つけて休憩に戻るつもりだったのに。
「なんですか?」
一応、真面目な顔を作って振り返る。
「昨日の練習の時のスコアはどうした?確認したいことがある」
「それならたしか私達が持ってきたカバンの中にあるはずです!」
さっきまでずっといかにも迷惑そうな顔で黙り込んでいたのが嘘みたいに、さとちゃんが急にはいはーい!と手を挙げた。
「どうしたの?」と私が監督に見えないように小突いて合図を送るけど、それにも、嬉しそうにウインクを一つ返すだけだ。
そうこうしているうちに監督との話もまとまって、さとちゃんは監督と共に去っていった。
本当になんなの?
ナッツと工藤も探してるだろうし、一人でも探さないとな。
そう、ぼうっと考えながら、いろんなユニフォームや制服が集まっているトイレの周りなんかをぶらつく。
あれ?あの子…
入場口近くに差し掛かった時、ベンチに座る一人の女の子に目が留まった。
その子は、あごの辺りで切りそろえられた髪をふわふわ揺らして、何かを熱心に手帳に書き込んでいるようだった。
芸能人みたいにオーラがある、とかそういうわけじゃないけど、真剣な表情でペンを走らせてる姿からは目が離せなかった。
制服を着ているし多分マネージャーの子だと思うけど、紺と赤のセーラー服ってだけじゃどこの学校の子か分からないな。でも、あんなに熱心なマネージャーがいるところって強いんだろうなあ…私も頑張らないと…
え!?
ふと目を離した間に、あの子の真横から、ジャージのポケットに手を突っ込んだ男子が顔を覗かせていた。しかも、背が高くて、色黒で結構カッコいい。髪型がちょっと個性的すぎる気もするけど。
これって、もしかして、そういう仲、なのかな!?
この前友達に借りた少女漫画を思い出して小さく肩が跳ねる。
慌てて近くの柱の陰になるような位置にさりげなく移動してがら、じっと見てみる。
いつの間にか二人は立ち上がっていて、女の子の手帳を取り合っていた。
なんだろう?あの子があの男子の練習メニューとか考えてたってこと?
いや、ないか、それだったら普通に見せるよね…
あ!もしかして、あの男子への想いを人知れず書いていた、とか!?だったら、あれだけ必死になって取り返そうとしてるのも納得かも!
もう!素直に見せちゃえばいいのに!じれったいなあ~!
ん?あの子の後ろに来た、あのいけすかない男子、まさか…
やっぱり前田じゃん!こんなところで何してんのよ!二人の邪魔になるからさっさとどっか行って!
そう水筒を握りしめている間にも、前田はズンズンあの子に近づいていく。
あ、ちょっと何やってんのよ!やめてやめて!あー…やっちゃった…
ついに前田はあの子の手帳をスルリと奪い取ってしまった。
本当に何してんのよ、あのバカ…二人の雰囲気最悪だし…うわ、すんごい中見てる…よく二人を前にしてあんなに堂々と中身見てられるよなあ…
ほらもう!やっぱりあの子も怒ってるし!
え?ちょっと待って!あそこにいるのってうちの1年生の子じゃない?もしかして、前田を呼びに来た?
やっぱり!よかったー!
去っていく前田の背中を見送って、壁に掛けてある時計に目をやると、まだまだ5分ちょっとしか経っていない。
もう少し余裕あるけど、前田のせいで二人の雰囲気悪くなっちゃったもんな…早めに移動しておこう。
私は、水筒を抱え直して、来た道をゆっくり戻っていった。
「よお、小宮」
「え?」
聞き慣れた声に慌てて振り向く。
「前田?なんでこんなところにいるの?」
「じっとこっち見てるかと思ったら、さっさと帰ろうとするから気になって来てみたんだよ」
そう、前田は得意げに胸を張って見せた。
「だったら話が早い」
私は、きっと、目の前のニヤけ面を睨みつけた。
「前田さ、すんごいあの二人の邪魔になってたんだけど!せっかくいい雰囲気だったのに!
「あの二人?」
わざとらしくポカンとした顔で繰り返す前田に腹が立つ。
「あの二人って言ったらあの二人でしょ!ショートカットのかわいい女の子と、背が高くて色黒の男子!前田の邪魔が入る前は仲良さそうで本当にいい雰囲気だったんだから!」
勢いに任せて捲し立てると、前田は一瞬固まって、それから、「ああ!」と大声を上げた。
「それ、隆彦と隆彦んとこのマネージャーじゃねえか!?」
「え!?隆彦君って、あの隆彦君!?あの赤いジャージの男子だよ?」
「ああ、坂見台のジャージ着てたし間違いねえ!」
「ええ!?あれが隆彦君だったんだ!じゃあ、あの子は坂見台のマネージャーなんだ」
「おう」
前田は誇らしげに頷く。
「そっか。ねえ、前田、隆彦君とあのマネージャーの子、どういう関係なの?」
「それなんだけどな、俺も全然知らねえんだよ。タカがあんだけ仲良くなるような女子って結構珍しいから怪しいとは思うんだけどよ、アイツ、案外シャイなとこあるからな…そういうの教えてくんねえだろうな」
「そうなの!?もっと知りたかったなあ…」
「ところがどっこい!あのマネージャーの奴の気持ちは分かるんだな、これが」
「うそ!?えー、あの子、隆彦君のことどう思ってるの!?」
「小宮はどう思う?」
ニイ、と自慢げに笑ってみせるのが気に食わなくて、「早く言って!」と数回小突くと、前田は割と簡単に口を開いてくれた。
「それがな、アイツ、タカのことそっちの意味で好きっぽいんだよ」
「やっぱり!じゃあ、あの手帳には隆彦君への想いが綴られてたりするんだろうなあ~、あんなに熱心に書いてたし絶対そうだよね…!!!」
「え!?お前、なんでそんなこと知ってんだよ」
「ってことは、まさか…?」
小突いてくる前田を避けざまに聞く。
「そのまさかだよ!」
避けた背中にバシッと強い一撃を食らった勢いでつんのめりながらも、「じゃあ…!」と振り向くと、前田はパッと目を輝かせて大きく頷いた。
「あのノートな、『隆彦が試合に出たら、俺達にも絶対勝てる!』みたいなこと書いてあったんだよ!大舞台でタカの活躍が見たいっつうことだよな、これ!」
「絶対そうでしょ!一番信頼してて期待してるけど、面と向かって言うのは恥ずかしいってことだよ!きっと!うわあ…じれったい、けど、いいなあ!青春ドラマみたい!」
「だろ!だから俺さ、そのノート、隆彦の前で読んでやったぜ!」
「あー、それはやりすぎ…でも気持ちわかるなあ~!私も読もうかな?とは考えるだろうしなあ~絶対!」
「前田さん!小宮さん!」
今までの隆彦君の恋愛遍歴に話が差し掛かったところで、バン!と大きな音を立てて入場口が開かれた。
慌てて壁の時計を確認すると、試合開始10分前。かなり急がないとまずい。
「あのさ、前田…」
「続きは試合に勝ってからゆっくり聴かせてやるよ」
「分かった!」
ニヤリ、と意地悪く笑った前田は、もう、入場口に向かって駆け出していた。