夜の帰り道1章
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「あれ?」
1時限目が始まる10分前。机の奥に入れっぱなしのはずのアレの感触がない。
「どうしたの莉緒ちゃん?」
前の席のミヤちゃんが立ち上がって手元を覗き込んできた。
「ありゃ、莉緒、もしかして辞書忘れちゃった?」
いつの間にか隣にいたヒメちゃんもやたらオーバーなリアクションで聞いてくる。
「いや、そんなわけないよ。昨日ちゃんとカバンに入れたし。多分」
二人から言い当てられたのがなんとなく恥ずかしくて、机の中を見るように視線を移す。
「それ、やばいじゃん!」
「なにが?」
耳がキーンとなるくらいの大声に顔を顰めながら振り向くと、ヒメちゃんはバンッと私の机を叩いた。
半ば諦めながらも、漁っていた手を引っ張り出して聞き返すと、ヒメちゃんは自分の机みたいに興奮気味にバンバン叩いて、こっちに詰め寄ってきた。
「莉緒!英語の鍋島、先週また奥さんに実家に帰られて超機嫌悪いらしいじゃん!別のクラスでもちょっと授業に遅れた子が呼び出しくらって昼休み潰されたんだよ!」
「それ、もう知ってるよ。っていうか、教えたの私じゃなかった?」
机を両手で押さえながらじろりと見遣ると、ヒメちゃんは分かりやすく目を逸らした。
「でも莉緒ちゃん」
「ちょっとトイレー」なんてわざとらしく離れていくヒメちゃんを横目に、カバンを机の上に持ち上げたところで、さっきまでずっと黙っていたミヤちゃんが突然口を開いた。
「なに?ミヤちゃん」
カバンに視線を注ぎながら答えると、ミヤちゃんは私の目の前に回り込んで、ぎゅっと机の縁を掴んだ。
「もしもカバンの中にも辞書が無かったら別のクラスの子に借りに行った方がいいんじゃない?たしか今日って、1組以外は英語がある日だったはずだし」
「…そうだね」
私のために言ってくれているはずなのになんだか無性に腹が立って、私は素っ気なく一回首を縦に振った。
「よお小宮、荒れてんな」
「え!?前田!?」
咄嗟に机を隠して振り向くと、前田はいつになくニヤニヤ小馬鹿にするように笑ってこっちを見下ろしていた。
「聞いたぜ小宮。お前、辞書忘れたんだってな」
言いながらつま先立ちで机を見ようとする前田から遮るようにじり、と後ずさる。
「まあいいや」
前田はぐいっと口角を上げて、我が物顔で隣の席に寄り掛かった。
「そういえば小宮、これ、なんだと思う?」
「は?英和辞書でしょ。それがなに?」
やると思った。さっきからずっと腕組みっぱなしですごく怪しかったし。
見せびらかすようにして顔の前に出された辞書を見ないように視線を外して答えると、前田はふんっと鼻から息を吐きだしてふんぞり返るようにどすっと戻っていった。
「いや?別になにもねえけどよ」
「あっそ、じゃあもう教室に戻ったら?また授業に遅れても知らないからね」
「なんだよ、人がせっかく貸してやろうとしてんのに」
「大きなお世話。どうせすぐ見つかるはずだし全然大丈夫だから。心配してくれてありがとう」
「あ?なんだよその言い方!残り2分で見つけられるもんなら見つけてみろよ?どうせ小宮には無理だろうけどな!精々ギリギリまでムダに探して鍋島に絞られるんだな」
「は?それ前田のことでしょ?この前昼休みに職員室の前通った時見たんだから!」
「あ、あん時あそこ通ったのお前かよ!」
「ちょっとストップ!」
「うわっ」
突然ミヤちゃんが袖を力いっぱい引っ張ってきた。
「え?なに?ミヤちゃん」
「莉緒ちゃん!もう時間ないし素直に前田君から借りよう!ね?前田君もそれでいい、よね?」
珍しくそう声を荒らげたミヤちゃんは、言い切るなり、さっと私の肩に隠れてしまった。
一瞬、おずおずと差し出されたミヤちゃんの手にムッとした表情を見せた前田だったけれど、すぐにこちらに向き直ると、ニヤリと得意げに笑った。
「ま、小宮の友達にそこまで言われちゃしょうがねえよな。感謝しろよ、小宮」
そう、顎をつんと持ち上げるようにこっちを見下ろすと、前田は「ほら」と、私の頭に辞書をのっけてきた。
「何するのよ!私まだ借りるなんて言ってないんだけど!」
すぐさま突っ返そうと詰め寄ったところで、さっきまでざわついていた教室が突然静かになった。
「やべっ!鍋島だ!おい小宮!それ、5限の前までに返しに来いよ!」
「え!?ちょっと!」
咄嗟に腕を掴もうとして伸ばした手もそのままに、私はチャイムとほぼ同時に走り去っていく背中に肩を落とした。
信じられないんだけど!
授業が終わって早々、やけに楽しそうに近づいてきたヒメちゃんを躱して、私は早足で前田のクラスに向かった。
空いている扉の真横の席の、ちょっと前髪が長めの女の子に声をかけようとしたところで、待ってましたとばかりに前田がこっちに向かってきた。
「おう、小宮。授業、どうだった?」
「お陰様で宿題に出てなかったとこ聞かれたけど大丈夫だった。それはありがとう」
「そりゃよかったじゃねえか。マジで俺に感謝しろよ?」
「でも!」
言いながら私はずっと指を突っ込んでおいたページを前田に向かってバッと開いた。
「これ何?信じられないんだけど?」
「は?なんだよ急に…あ!やべえ!s●xのとこ印付けてたの忘れてた!」
「ちょっと!大きな声で言わないでよ!恥ずかしい!」
勢いよくひったくられてヒリヒリする指を撫でながら睨みつけると、前田はいつになくバツが悪そうにそっとこっちを見てきた。
「おい、小宮、これ、さっきの友達に話してねえだろうな?」
「話すわけないでしょ!そんなに気になるならもうそういうことは私、っていうか女子に分からないようにやって!じゃあね!」
そう言い捨てて、私はぴしゃりと教室の扉を締めた。
1時限目が始まる10分前。机の奥に入れっぱなしのはずのアレの感触がない。
「どうしたの莉緒ちゃん?」
前の席のミヤちゃんが立ち上がって手元を覗き込んできた。
「ありゃ、莉緒、もしかして辞書忘れちゃった?」
いつの間にか隣にいたヒメちゃんもやたらオーバーなリアクションで聞いてくる。
「いや、そんなわけないよ。昨日ちゃんとカバンに入れたし。多分」
二人から言い当てられたのがなんとなく恥ずかしくて、机の中を見るように視線を移す。
「それ、やばいじゃん!」
「なにが?」
耳がキーンとなるくらいの大声に顔を顰めながら振り向くと、ヒメちゃんはバンッと私の机を叩いた。
半ば諦めながらも、漁っていた手を引っ張り出して聞き返すと、ヒメちゃんは自分の机みたいに興奮気味にバンバン叩いて、こっちに詰め寄ってきた。
「莉緒!英語の鍋島、先週また奥さんに実家に帰られて超機嫌悪いらしいじゃん!別のクラスでもちょっと授業に遅れた子が呼び出しくらって昼休み潰されたんだよ!」
「それ、もう知ってるよ。っていうか、教えたの私じゃなかった?」
机を両手で押さえながらじろりと見遣ると、ヒメちゃんは分かりやすく目を逸らした。
「でも莉緒ちゃん」
「ちょっとトイレー」なんてわざとらしく離れていくヒメちゃんを横目に、カバンを机の上に持ち上げたところで、さっきまでずっと黙っていたミヤちゃんが突然口を開いた。
「なに?ミヤちゃん」
カバンに視線を注ぎながら答えると、ミヤちゃんは私の目の前に回り込んで、ぎゅっと机の縁を掴んだ。
「もしもカバンの中にも辞書が無かったら別のクラスの子に借りに行った方がいいんじゃない?たしか今日って、1組以外は英語がある日だったはずだし」
「…そうだね」
私のために言ってくれているはずなのになんだか無性に腹が立って、私は素っ気なく一回首を縦に振った。
「よお小宮、荒れてんな」
「え!?前田!?」
咄嗟に机を隠して振り向くと、前田はいつになくニヤニヤ小馬鹿にするように笑ってこっちを見下ろしていた。
「聞いたぜ小宮。お前、辞書忘れたんだってな」
言いながらつま先立ちで机を見ようとする前田から遮るようにじり、と後ずさる。
「まあいいや」
前田はぐいっと口角を上げて、我が物顔で隣の席に寄り掛かった。
「そういえば小宮、これ、なんだと思う?」
「は?英和辞書でしょ。それがなに?」
やると思った。さっきからずっと腕組みっぱなしですごく怪しかったし。
見せびらかすようにして顔の前に出された辞書を見ないように視線を外して答えると、前田はふんっと鼻から息を吐きだしてふんぞり返るようにどすっと戻っていった。
「いや?別になにもねえけどよ」
「あっそ、じゃあもう教室に戻ったら?また授業に遅れても知らないからね」
「なんだよ、人がせっかく貸してやろうとしてんのに」
「大きなお世話。どうせすぐ見つかるはずだし全然大丈夫だから。心配してくれてありがとう」
「あ?なんだよその言い方!残り2分で見つけられるもんなら見つけてみろよ?どうせ小宮には無理だろうけどな!精々ギリギリまでムダに探して鍋島に絞られるんだな」
「は?それ前田のことでしょ?この前昼休みに職員室の前通った時見たんだから!」
「あ、あん時あそこ通ったのお前かよ!」
「ちょっとストップ!」
「うわっ」
突然ミヤちゃんが袖を力いっぱい引っ張ってきた。
「え?なに?ミヤちゃん」
「莉緒ちゃん!もう時間ないし素直に前田君から借りよう!ね?前田君もそれでいい、よね?」
珍しくそう声を荒らげたミヤちゃんは、言い切るなり、さっと私の肩に隠れてしまった。
一瞬、おずおずと差し出されたミヤちゃんの手にムッとした表情を見せた前田だったけれど、すぐにこちらに向き直ると、ニヤリと得意げに笑った。
「ま、小宮の友達にそこまで言われちゃしょうがねえよな。感謝しろよ、小宮」
そう、顎をつんと持ち上げるようにこっちを見下ろすと、前田は「ほら」と、私の頭に辞書をのっけてきた。
「何するのよ!私まだ借りるなんて言ってないんだけど!」
すぐさま突っ返そうと詰め寄ったところで、さっきまでざわついていた教室が突然静かになった。
「やべっ!鍋島だ!おい小宮!それ、5限の前までに返しに来いよ!」
「え!?ちょっと!」
咄嗟に腕を掴もうとして伸ばした手もそのままに、私はチャイムとほぼ同時に走り去っていく背中に肩を落とした。
信じられないんだけど!
授業が終わって早々、やけに楽しそうに近づいてきたヒメちゃんを躱して、私は早足で前田のクラスに向かった。
空いている扉の真横の席の、ちょっと前髪が長めの女の子に声をかけようとしたところで、待ってましたとばかりに前田がこっちに向かってきた。
「おう、小宮。授業、どうだった?」
「お陰様で宿題に出てなかったとこ聞かれたけど大丈夫だった。それはありがとう」
「そりゃよかったじゃねえか。マジで俺に感謝しろよ?」
「でも!」
言いながら私はずっと指を突っ込んでおいたページを前田に向かってバッと開いた。
「これ何?信じられないんだけど?」
「は?なんだよ急に…あ!やべえ!s●xのとこ印付けてたの忘れてた!」
「ちょっと!大きな声で言わないでよ!恥ずかしい!」
勢いよくひったくられてヒリヒリする指を撫でながら睨みつけると、前田はいつになくバツが悪そうにそっとこっちを見てきた。
「おい、小宮、これ、さっきの友達に話してねえだろうな?」
「話すわけないでしょ!そんなに気になるならもうそういうことは私、っていうか女子に分からないようにやって!じゃあね!」
そう言い捨てて、私はぴしゃりと教室の扉を締めた。