夜の帰り道1章
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「それじゃあ、お邪魔しました」
「いいえ、こちらこそありがとうね。小宮さん。また来てね」
にこやかに手を振ってくれる前田のお母さんに一礼して外へ出るのに、前田も渋々といった様子で続く。
「前田?」
今もまだムッとした表情で店の方を振り返ってばかりいる前田に声をかけるも、振り向く様子もない。
なんなの?コイツ。
「ねえ、もしかして前田、テレビ見たいんじゃないの?」
「バカ!んなことじゃねえよ!ただオフクロが…いや、やっぱいいわ。それより小宮こそ大声出してよ、もしかして俺に構ってもらえなくて寂しかったとか?」
「そんなわけないでしょ。ただ早く帰りたいのにずっと立ち止まったままだからムカついて声かけただけ。なんにもないならもう行くよ」
「素直じゃねえな」
「いつも違うって素直に言ってるんだけどね」
図星のはずないのになぜか反射的にかあっと熱くなっていく顔を隠すように、私は歩くスピードをぐんと上げた。
そう。無視されてムカついたっていうのと構ってもらえなくて寂しいっていうのが意味似てるから図星って咄嗟に思っただけ。絶対そうだから。
「おい、待てよ小宮」
せっかくずっと先を歩いていたのに、軽く追いついてきた前田にムッとして、「なに?」と返事だけを返した。
「カバン、貸せよ。重いだろ?」
前田の言葉に勝手に体が立ち止まった。
なんでこういうときばっかり前田は…
「大丈夫だから」
私は振り払うように顔を横に振った。
のに、すっと肩が軽くなった。
「前田?」
ゆっくり見上げると、前田がニヤっと笑ってみせた。
「明日、試合だから荷物多いんだろ?遠慮すんなよ」
前田のクセに。
「…ありがとう」
何か他に言いたいことがいっぱいあるような気がするのに、なぜかそれ以上言葉が出てこない。
私は、ただ、ぽっかり空いた肩をきゅっと押さえた。
「ふっ、やけに素直だな、小宮?いつもみたいに照れ隠しにキレねえのか?」
「は?いつも怒ってんのは前田が変なこと言うからでしょ。前田が普通に親切だったら私も普段から怒ったりなんてしないし」
あー、やっぱりこんなバカありえない。
なにが「ふうん」よ。ニヤニヤしながらこっち見ないで。
「あ、そうだ。なあ、小宮」
「なに?」
じとっと前田の方を見遣ると、前田は、ポケットから出したアメを口の中に放り込んで、再び口を開いた。
「お前さ、なんで俺ん家知ってたんだ?」
「ああ、みんなに頼まれた時に、知らないって言ったら辰巳が教えてくれたんだよね」
「ふうん。で、知ってたのか。マジ、急に家に来てびっくりしたわ」
言いながら道端に包みを捨てようとした前田を肘で小突いた。
「私だって、まさか自分が前田の家まで届けにいく羽目になるなんて思わなかったよ。最悪」
ちらりと前田の方に目を遣ると、注意されたからか両手をポケットに突っ込んで恨めしそうにこっちを見てきた。
いや、あんたが悪いんでしょ。
「そういえばさ、前田」
「なんだ?」
しばらくの沈黙の後、なんとなく声をかけると、前田はポケットの中をぐちゃぐちゃいわせるのに夢中なのか、どこか浮いた声で返事をしてきた。
本当にコイツは…
「あのさあ、前田のお母さんに聞いたんだけど、前田に双子の兄弟がいて、しかもその子もバレーやってるって本当?」
「あー、まあな」
ちらりとこちらを見下ろした前田は、すぐに向き直ってカラン、とアメを転がした。
「へえ、名前はなんていうの?」
「隆彦」
アメをカランコロン、と転がして、答えた。
「ふうん。前田とどっちがお兄ちゃんなの?」
「俺」
カラカラ、カラカラ…アメが激しく転がり回っている音は聞こえてくるのに、態度だけはそっけない。
なによコイツ。もしかしてさっき注意したの根に持ってんの?
「あっそ。で、隆彦君はどこの学校に通ってんの?」
ガキンッ
私が語気を強めたのと同時に嫌な音が路地に響き渡った。
「前田…?」
おそるおそる前田を見上げる。
ゴクリ、と大きく喉仏が動いた。
「坂見台」
「え?」
「タカは坂見台のエースだ」
「うそ、じゃあ去年戦った彼が…聞いちゃってごめん」
そう、私はぐっと足元を睨んだ。
「何謝ってんだよ。お前、謝るようなことしてねえだろ。行くぞ」
「…うん」
私は、皺になったスカートの裾を引っ張って、脇を通り過ぎていった前田を追いかけた。
「いいえ、こちらこそありがとうね。小宮さん。また来てね」
にこやかに手を振ってくれる前田のお母さんに一礼して外へ出るのに、前田も渋々といった様子で続く。
「前田?」
今もまだムッとした表情で店の方を振り返ってばかりいる前田に声をかけるも、振り向く様子もない。
なんなの?コイツ。
「ねえ、もしかして前田、テレビ見たいんじゃないの?」
「バカ!んなことじゃねえよ!ただオフクロが…いや、やっぱいいわ。それより小宮こそ大声出してよ、もしかして俺に構ってもらえなくて寂しかったとか?」
「そんなわけないでしょ。ただ早く帰りたいのにずっと立ち止まったままだからムカついて声かけただけ。なんにもないならもう行くよ」
「素直じゃねえな」
「いつも違うって素直に言ってるんだけどね」
図星のはずないのになぜか反射的にかあっと熱くなっていく顔を隠すように、私は歩くスピードをぐんと上げた。
そう。無視されてムカついたっていうのと構ってもらえなくて寂しいっていうのが意味似てるから図星って咄嗟に思っただけ。絶対そうだから。
「おい、待てよ小宮」
せっかくずっと先を歩いていたのに、軽く追いついてきた前田にムッとして、「なに?」と返事だけを返した。
「カバン、貸せよ。重いだろ?」
前田の言葉に勝手に体が立ち止まった。
なんでこういうときばっかり前田は…
「大丈夫だから」
私は振り払うように顔を横に振った。
のに、すっと肩が軽くなった。
「前田?」
ゆっくり見上げると、前田がニヤっと笑ってみせた。
「明日、試合だから荷物多いんだろ?遠慮すんなよ」
前田のクセに。
「…ありがとう」
何か他に言いたいことがいっぱいあるような気がするのに、なぜかそれ以上言葉が出てこない。
私は、ただ、ぽっかり空いた肩をきゅっと押さえた。
「ふっ、やけに素直だな、小宮?いつもみたいに照れ隠しにキレねえのか?」
「は?いつも怒ってんのは前田が変なこと言うからでしょ。前田が普通に親切だったら私も普段から怒ったりなんてしないし」
あー、やっぱりこんなバカありえない。
なにが「ふうん」よ。ニヤニヤしながらこっち見ないで。
「あ、そうだ。なあ、小宮」
「なに?」
じとっと前田の方を見遣ると、前田は、ポケットから出したアメを口の中に放り込んで、再び口を開いた。
「お前さ、なんで俺ん家知ってたんだ?」
「ああ、みんなに頼まれた時に、知らないって言ったら辰巳が教えてくれたんだよね」
「ふうん。で、知ってたのか。マジ、急に家に来てびっくりしたわ」
言いながら道端に包みを捨てようとした前田を肘で小突いた。
「私だって、まさか自分が前田の家まで届けにいく羽目になるなんて思わなかったよ。最悪」
ちらりと前田の方に目を遣ると、注意されたからか両手をポケットに突っ込んで恨めしそうにこっちを見てきた。
いや、あんたが悪いんでしょ。
「そういえばさ、前田」
「なんだ?」
しばらくの沈黙の後、なんとなく声をかけると、前田はポケットの中をぐちゃぐちゃいわせるのに夢中なのか、どこか浮いた声で返事をしてきた。
本当にコイツは…
「あのさあ、前田のお母さんに聞いたんだけど、前田に双子の兄弟がいて、しかもその子もバレーやってるって本当?」
「あー、まあな」
ちらりとこちらを見下ろした前田は、すぐに向き直ってカラン、とアメを転がした。
「へえ、名前はなんていうの?」
「隆彦」
アメをカランコロン、と転がして、答えた。
「ふうん。前田とどっちがお兄ちゃんなの?」
「俺」
カラカラ、カラカラ…アメが激しく転がり回っている音は聞こえてくるのに、態度だけはそっけない。
なによコイツ。もしかしてさっき注意したの根に持ってんの?
「あっそ。で、隆彦君はどこの学校に通ってんの?」
ガキンッ
私が語気を強めたのと同時に嫌な音が路地に響き渡った。
「前田…?」
おそるおそる前田を見上げる。
ゴクリ、と大きく喉仏が動いた。
「坂見台」
「え?」
「タカは坂見台のエースだ」
「うそ、じゃあ去年戦った彼が…聞いちゃってごめん」
そう、私はぐっと足元を睨んだ。
「何謝ってんだよ。お前、謝るようなことしてねえだろ。行くぞ」
「…うん」
私は、皺になったスカートの裾を引っ張って、脇を通り過ぎていった前田を追いかけた。