夜の帰り道1章
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やっと今日でテストが全て終わった。昨日の猛勉強と、あと、ちょっとだけ前田のくれたノートの写しのおかげで先生が難しくすると息巻いていた物理のテストも思ったよりすらすら解けた。
正解してるかどうかはまた別の話だけど。
それでもテストと前田からの解放感と今日から再開する部活が楽しみなのとで部室に向かう足取りは軽い。
久しぶりの部活だし今日はいつもより早めに行こうかな。
「よお、小宮」
せっかくマネージャー仲間との楽しいおしゃべりを想像しながら部室までの道のりを急いでいたのに突然後ろから聞きなれた嫌な声に呼び止められてしまった。
呼び止めてきたアイツにもわかるようにわざと大きめにため息を一つつきながら振り向くと、やっぱりアイツが手をひらひら振ってこちらへやって来るところだった。
「なに?前田」
あからさまに嫌な顔をして答えるも前田に全然動じる様子はない。というか「なにイラついてんだよ。まさかあの日か?女子は大変だな」とかめちゃくちゃ失礼なこと言ってきた。違うし。というかはったおすよ?
目の前のデリカシー無し男に厳しい視線を送って「用が無いなら先に行く。じゃあね」と歩くスピードを速めると、「悪いって、小宮」と大声で言いながら小走りでついてきた。
怒らせて慌てるくらいなら最初からそういうこと言わなければいいのにと呆れながら「はいはい」と適当に許して、「で、私に何か用でもあるの?」と歩調を緩めることなく聞くと、前田は「お、そうだそうだ」とたった今思い出しましたみたいなわざとらしい演技をしながらこっちに向き直った。
「小宮、忘れてんだろうなって思ってわざわざ言いにきてやったんだったわ」
「は?」
「今日も一緒に帰るからな、小宮」
「はあ?何言ってんの?一緒に帰るのってテスト期間まででしょ?今日でテスト終わったじゃん」
言いながら前田の方を睨むと、前田はしてやったりといった風にニヤリと笑って、制服のポケットからしわしわの紙を一枚目の前に引っ張り出して、ひらひらと見せつけるように揺らし始めた。
「なに、これ?」
今度はしわしわの紙、いや、一週間ほど前に配られたばっかりなのにもうぼろぼろになっている前田の今月の予定表を睨みつける。
「お、やっぱり忘れてんな。ここ見ろよ、ここ」
言いながら前田は予定表の上の部分をビシビシ指さしてきた。
今日の予定がなんだって言うのよ。
腹を立てながらも私は、一応前田が指している箇所に視線を向けた。
「え?うそ、今日までテスト期間ってことになってるの?」
驚きのあまりいつもより大きな声でそう尋ねると、前田はまたさらにニヤリと笑った。
「おう。だから今日も一緒に帰るぞ、小宮」
「え、嫌なんだけど」
自信満々の笑みを浮かべる前田がが腹立たしくて、そう言葉を遮ると、前田は、
「あれ?でも、テスト期間中は毎日一緒に帰る約束だったろ?」
とまたご丁寧にたった今思い出しましたみたいなわざとらしい演技まで付けて聞いてきた。
このままだとどうせいいよって言うまで同じこと言ってくるだろうな。
私は隣で「帰るまでが遠足」とかなんとか意味の分からないことを力説してくる前田に短く「わかった」と適当に決めた待ち合わせ場所を言ってさっさと部室の中に入っていった。
夜十時半過ぎ、久しぶりの部活ということもあって私達マネージャーも、選手たちも、監督やコーチもいつも以上に練習に熱が入り、ただでさえ普段から最終下校時刻を何時間もオーバーするほど練習をしているのだけれど、今日はそれよりも長く活動してしまった。
部活をしている間は私も仕事に夢中だったから何とも思わなかったけれど、終った途端にその場に座り込んでしまうくらい疲れてしまっていたようだ。
正直忘れていたけど昨日までテストのために勉強漬けだったからというのもあるのかもしれない。
そういえば今日もこれから前田と二人きりで帰らないといけないんだっけ。
まだ部活が終わってから前田の顔すら見ていないっていうのにどっと疲れてきた体をぐっと起こして私はやけにぎらついた明かりを放つ体育館へとカバンを引きずっていった。
到着するなり私は肩にぶら下がっているカバンを半ば払い落とすように床へ置き、目が痛くなりそうなほど明るいままの体育館に足を踏み入れた。
「前田」
やけに広く感じる体育館の中央で何やら真剣によれよれのノートを読み込んでいる前田に声をかける。けれど返事は無い。
「前田?」
もう一度さっきよりも少し大きな声で呼んでみる。けれどやっぱり返事は返ってこない。
そうこうしている内に体育館の倉庫からさっき片付けたばっかりのネットとポールを担いだ辰巳が出てきて、二人でそのまま体育館の真ん中にコートを作り直しはじめた。
二人共あれだけ練習した後なのにまだ練習するつもりなんだ。
「前田、辰巳」
これ以上練習したら二人共体を壊してしまうかもしれない。
私は体育館中に響き渡るくらい大きな声で二人を呼んだ。
バシーン
その瞬間床がビリビリ痺れるほどの強い衝撃が走った。
「前田」
スパイクサーブだ。
こうなったら二人とも満足できるところまで練習しないと止まらない。
しょうがないな。
ため息混じりにそう零して、私は部室へと戻っていった。
たっぷりの氷と前に後援会の方に頂いたちょっといいスポーツドリンクの残り全部をなみなみと入れた大きなスクイズ二本を抱えて戻ってきた私はそれをこっそり体育館の入り口脇の机に置いた。
あ、そうだ。
一応差し入れだって分かるようにしておかないと。
私はカバンの奥からメモ帳と筆箱を取り出した。
えっと、辰巳へ、練習お疲れ様。これ飲んでしっかり休んでね。あと、スクイズは洗って元の場所に戻しておいて。小宮。っと。
前田へ。
そのまま前田へのメッセージも書こうと思ったのになぜかペンが止まってしまった。
前田のにも辰巳と同じこと書けばいいんだよね?
いや、べつに相手は前田なんだから内容なんて深く考えなくったって大丈夫でしょ。
突然気になったどうでもいい疑問をかき消すようにそう頭の中で言い聞かせて、私はペンをメモに軋ませた。
前田、へ。練習お疲れ。これ飲んでしっかり休んで。スクイズは洗って元の場所によろしく。小宮。で、いいよね。
書き終えたメモを入念に読み返してから二つのメモをスクイズの下に挟む。
それでもまだ前田に書いたメモが気になってもう一度スクイズの下から引っ張り出した。
これ、やっぱり「これは物理のノートのお礼と今日一緒に帰れなかった分」って書き足した方がいいかな?
何回読んでもおかしいところは無かったはずのメモにまた書き忘れが見つかった。
正解してるかどうかはまた別の話だけど。
それでもテストと前田からの解放感と今日から再開する部活が楽しみなのとで部室に向かう足取りは軽い。
久しぶりの部活だし今日はいつもより早めに行こうかな。
「よお、小宮」
せっかくマネージャー仲間との楽しいおしゃべりを想像しながら部室までの道のりを急いでいたのに突然後ろから聞きなれた嫌な声に呼び止められてしまった。
呼び止めてきたアイツにもわかるようにわざと大きめにため息を一つつきながら振り向くと、やっぱりアイツが手をひらひら振ってこちらへやって来るところだった。
「なに?前田」
あからさまに嫌な顔をして答えるも前田に全然動じる様子はない。というか「なにイラついてんだよ。まさかあの日か?女子は大変だな」とかめちゃくちゃ失礼なこと言ってきた。違うし。というかはったおすよ?
目の前のデリカシー無し男に厳しい視線を送って「用が無いなら先に行く。じゃあね」と歩くスピードを速めると、「悪いって、小宮」と大声で言いながら小走りでついてきた。
怒らせて慌てるくらいなら最初からそういうこと言わなければいいのにと呆れながら「はいはい」と適当に許して、「で、私に何か用でもあるの?」と歩調を緩めることなく聞くと、前田は「お、そうだそうだ」とたった今思い出しましたみたいなわざとらしい演技をしながらこっちに向き直った。
「小宮、忘れてんだろうなって思ってわざわざ言いにきてやったんだったわ」
「は?」
「今日も一緒に帰るからな、小宮」
「はあ?何言ってんの?一緒に帰るのってテスト期間まででしょ?今日でテスト終わったじゃん」
言いながら前田の方を睨むと、前田はしてやったりといった風にニヤリと笑って、制服のポケットからしわしわの紙を一枚目の前に引っ張り出して、ひらひらと見せつけるように揺らし始めた。
「なに、これ?」
今度はしわしわの紙、いや、一週間ほど前に配られたばっかりなのにもうぼろぼろになっている前田の今月の予定表を睨みつける。
「お、やっぱり忘れてんな。ここ見ろよ、ここ」
言いながら前田は予定表の上の部分をビシビシ指さしてきた。
今日の予定がなんだって言うのよ。
腹を立てながらも私は、一応前田が指している箇所に視線を向けた。
「え?うそ、今日までテスト期間ってことになってるの?」
驚きのあまりいつもより大きな声でそう尋ねると、前田はまたさらにニヤリと笑った。
「おう。だから今日も一緒に帰るぞ、小宮」
「え、嫌なんだけど」
自信満々の笑みを浮かべる前田がが腹立たしくて、そう言葉を遮ると、前田は、
「あれ?でも、テスト期間中は毎日一緒に帰る約束だったろ?」
とまたご丁寧にたった今思い出しましたみたいなわざとらしい演技まで付けて聞いてきた。
このままだとどうせいいよって言うまで同じこと言ってくるだろうな。
私は隣で「帰るまでが遠足」とかなんとか意味の分からないことを力説してくる前田に短く「わかった」と適当に決めた待ち合わせ場所を言ってさっさと部室の中に入っていった。
夜十時半過ぎ、久しぶりの部活ということもあって私達マネージャーも、選手たちも、監督やコーチもいつも以上に練習に熱が入り、ただでさえ普段から最終下校時刻を何時間もオーバーするほど練習をしているのだけれど、今日はそれよりも長く活動してしまった。
部活をしている間は私も仕事に夢中だったから何とも思わなかったけれど、終った途端にその場に座り込んでしまうくらい疲れてしまっていたようだ。
正直忘れていたけど昨日までテストのために勉強漬けだったからというのもあるのかもしれない。
そういえば今日もこれから前田と二人きりで帰らないといけないんだっけ。
まだ部活が終わってから前田の顔すら見ていないっていうのにどっと疲れてきた体をぐっと起こして私はやけにぎらついた明かりを放つ体育館へとカバンを引きずっていった。
到着するなり私は肩にぶら下がっているカバンを半ば払い落とすように床へ置き、目が痛くなりそうなほど明るいままの体育館に足を踏み入れた。
「前田」
やけに広く感じる体育館の中央で何やら真剣によれよれのノートを読み込んでいる前田に声をかける。けれど返事は無い。
「前田?」
もう一度さっきよりも少し大きな声で呼んでみる。けれどやっぱり返事は返ってこない。
そうこうしている内に体育館の倉庫からさっき片付けたばっかりのネットとポールを担いだ辰巳が出てきて、二人でそのまま体育館の真ん中にコートを作り直しはじめた。
二人共あれだけ練習した後なのにまだ練習するつもりなんだ。
「前田、辰巳」
これ以上練習したら二人共体を壊してしまうかもしれない。
私は体育館中に響き渡るくらい大きな声で二人を呼んだ。
バシーン
その瞬間床がビリビリ痺れるほどの強い衝撃が走った。
「前田」
スパイクサーブだ。
こうなったら二人とも満足できるところまで練習しないと止まらない。
しょうがないな。
ため息混じりにそう零して、私は部室へと戻っていった。
たっぷりの氷と前に後援会の方に頂いたちょっといいスポーツドリンクの残り全部をなみなみと入れた大きなスクイズ二本を抱えて戻ってきた私はそれをこっそり体育館の入り口脇の机に置いた。
あ、そうだ。
一応差し入れだって分かるようにしておかないと。
私はカバンの奥からメモ帳と筆箱を取り出した。
えっと、辰巳へ、練習お疲れ様。これ飲んでしっかり休んでね。あと、スクイズは洗って元の場所に戻しておいて。小宮。っと。
前田へ。
そのまま前田へのメッセージも書こうと思ったのになぜかペンが止まってしまった。
前田のにも辰巳と同じこと書けばいいんだよね?
いや、べつに相手は前田なんだから内容なんて深く考えなくったって大丈夫でしょ。
突然気になったどうでもいい疑問をかき消すようにそう頭の中で言い聞かせて、私はペンをメモに軋ませた。
前田、へ。練習お疲れ。これ飲んでしっかり休んで。スクイズは洗って元の場所によろしく。小宮。で、いいよね。
書き終えたメモを入念に読み返してから二つのメモをスクイズの下に挟む。
それでもまだ前田に書いたメモが気になってもう一度スクイズの下から引っ張り出した。
これ、やっぱり「これは物理のノートのお礼と今日一緒に帰れなかった分」って書き足した方がいいかな?
何回読んでもおかしいところは無かったはずのメモにまた書き忘れが見つかった。