夜の帰り道1章
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部活の後、家まで送ってくれたあの日以来、前田は毎日私に「家まで送る」と言ってくれるようになった。どうやら不思議なことに人気の無い静かな夜道だったのにあの言葉は聞こえていなかったようで、前田の振ってくる話題や態度に変化がない。自分は何とも思っていないくせに女の子には期待させるようなことをしてくる前田と二人きりになるのは、あの日みたいにドキっとさせられるのが癪で、一人の帰り道は暗くて不安だけど毎回断るようにしている。
「おい、小宮。家まで送ってく」
部活が終わった直後、やっぱり前田は私に声をかけてきた。今日はすでにジャージまで羽織って、準備万端のようだ。
「一人で大丈夫だよ。ありがとう」
前田の方に顔も向けずに、帰り支度をしながらそう言う。いつもならこう言ったら「そうかよ」という不機嫌な声と足音が聞こえるはずなのに今日は聞こえてこない。視線を前田に向ければ、しっかり前田と目が合った。前田の顔を見ていたら、突然いつも誘いを断っているのは悪いなと思って、また目線を逸らしてしまった。
「本当に大丈夫だから前田は早く寮に戻りなよ」
前田は私の手元をチラりと見てから、私の隣にどかっと腰をおろした。
「いや、今日は絶対にお前を送って行く。俺と一緒に帰らなきゃお前、後悔するぜ」
前田は私が支度を済ませるまで待つつもりのようだ。前田の態度を見てるとなんだか断り切れなくてつい承諾してしまった。前田はニヤニヤしながら私がカバンに部活で使った道具を詰めている様子を見ている。一緒に帰るのがどんどん嫌になってきた。ニヤついている前田を見ないようにして手早く帰り支度を済ませた私は「お待たせ」と声をかけた。
学校を出て、いつも通りになんてことない話をしながら進んでいると、ちょうど家と学校の中間地点を超えたくらいで顔に何か冷たいものが当たる感じがした。
「雨だ」
「知ってるか。雨が降ってきたことに早く気付くヤツはバカなんだぜ」
「うるさい。前田は私よりも勉強できないくせに」
前田とくだらないことを話しているうちにどんどん雨足は強くなってくる。シャツは徐々にはりついてきて、ブレザーとスカートは変色して重くなってきた。そういえば、今日は夜遅くから雨が降るって早朝のニュース番組のお姉さんが言っていた。
「小宮」
呼びながら前田は私の腕を引いた。勢いあまって背中が温かくて少しかたいものとぶつかった。前田の胸の下あたりだ。普段じゃ考えられないくらい近い距離に緊張して鼓動が少し早くなる。離れないと胸も頭もおかしくなりそうだ。
「前田、近い」
前田をつき飛ばそうとしたけれど前田の体はびくともしない。
「なにすんだよ小宮。濡れるぞ」
「え」
その時はじめて私と前田の頭上に黒い大きな傘があることに気づいた。私が傘に気づいたことを悟った前田は勝ち誇ったように笑う。
「な。俺と帰らなきゃ後悔するっつったろ」
その笑顔がムカつくけど、雨に濡れないで家まで帰れることは正直とても助かるから、素直に頷いた。また勘違いしそうだ。
「おい。勘違いしたか」
「え」
一気に視界が狭くなった気がした。まさかまた声に出ていたのかな。
「その反応だとまた勘違いしたみたいだな」
声には出ていなかったようだけど、前田に気づかれてる。どんどん体が冷たくなっていくのに、くわしく聞きたくなんてないって思っているはずなのに、私の口からは「また、ってどういうこと」と震えた声が出る。すこしは期待してもいいのだろうか。前田はニヤニヤと私を見下ろしたまま答える。
「前に送ってやった時に分かれた後、お前が勘違いしたみたいなことを言ったようにきこえたんだよ」
ドクンと勝手に心臓が動いた。やっぱり聞こえていたんだ。
「なあ、小宮はどんな勘違いをしたんだ」
前田のバカにしているような声が耳に入り込んでくる。見えないけれど、どうせ顔はまだニヤついているはずだ。
「どうしてそんなことを聞くの」
「どうしてって、お前が俺のすることにいちいちドキドキしてんのを見るのが好きなんだよ」
そうか、前田はただ私の反応を見て楽しんでいただけなんだ。
「最低」
言いながら私は持っていたカバンを前田に叩きつけて走り出した。家まではもう大した距離じゃないし、他の子よりもたくさんの荷物で膨らんで少し大きいカバンがあるから多少は雨を防げる。逆に雨が降る夜で都合がよかったかもしれない。だんだん強くなる雨音に混ざって前田が何か叫んでいるのを振り払うように全力で走り抜けた。
どうせ、ラーメンが目当てなんだから私のことなんてどうも思ってくれないんだろうな。
「おい、小宮。家まで送ってく」
部活が終わった直後、やっぱり前田は私に声をかけてきた。今日はすでにジャージまで羽織って、準備万端のようだ。
「一人で大丈夫だよ。ありがとう」
前田の方に顔も向けずに、帰り支度をしながらそう言う。いつもならこう言ったら「そうかよ」という不機嫌な声と足音が聞こえるはずなのに今日は聞こえてこない。視線を前田に向ければ、しっかり前田と目が合った。前田の顔を見ていたら、突然いつも誘いを断っているのは悪いなと思って、また目線を逸らしてしまった。
「本当に大丈夫だから前田は早く寮に戻りなよ」
前田は私の手元をチラりと見てから、私の隣にどかっと腰をおろした。
「いや、今日は絶対にお前を送って行く。俺と一緒に帰らなきゃお前、後悔するぜ」
前田は私が支度を済ませるまで待つつもりのようだ。前田の態度を見てるとなんだか断り切れなくてつい承諾してしまった。前田はニヤニヤしながら私がカバンに部活で使った道具を詰めている様子を見ている。一緒に帰るのがどんどん嫌になってきた。ニヤついている前田を見ないようにして手早く帰り支度を済ませた私は「お待たせ」と声をかけた。
学校を出て、いつも通りになんてことない話をしながら進んでいると、ちょうど家と学校の中間地点を超えたくらいで顔に何か冷たいものが当たる感じがした。
「雨だ」
「知ってるか。雨が降ってきたことに早く気付くヤツはバカなんだぜ」
「うるさい。前田は私よりも勉強できないくせに」
前田とくだらないことを話しているうちにどんどん雨足は強くなってくる。シャツは徐々にはりついてきて、ブレザーとスカートは変色して重くなってきた。そういえば、今日は夜遅くから雨が降るって早朝のニュース番組のお姉さんが言っていた。
「小宮」
呼びながら前田は私の腕を引いた。勢いあまって背中が温かくて少しかたいものとぶつかった。前田の胸の下あたりだ。普段じゃ考えられないくらい近い距離に緊張して鼓動が少し早くなる。離れないと胸も頭もおかしくなりそうだ。
「前田、近い」
前田をつき飛ばそうとしたけれど前田の体はびくともしない。
「なにすんだよ小宮。濡れるぞ」
「え」
その時はじめて私と前田の頭上に黒い大きな傘があることに気づいた。私が傘に気づいたことを悟った前田は勝ち誇ったように笑う。
「な。俺と帰らなきゃ後悔するっつったろ」
その笑顔がムカつくけど、雨に濡れないで家まで帰れることは正直とても助かるから、素直に頷いた。また勘違いしそうだ。
「おい。勘違いしたか」
「え」
一気に視界が狭くなった気がした。まさかまた声に出ていたのかな。
「その反応だとまた勘違いしたみたいだな」
声には出ていなかったようだけど、前田に気づかれてる。どんどん体が冷たくなっていくのに、くわしく聞きたくなんてないって思っているはずなのに、私の口からは「また、ってどういうこと」と震えた声が出る。すこしは期待してもいいのだろうか。前田はニヤニヤと私を見下ろしたまま答える。
「前に送ってやった時に分かれた後、お前が勘違いしたみたいなことを言ったようにきこえたんだよ」
ドクンと勝手に心臓が動いた。やっぱり聞こえていたんだ。
「なあ、小宮はどんな勘違いをしたんだ」
前田のバカにしているような声が耳に入り込んでくる。見えないけれど、どうせ顔はまだニヤついているはずだ。
「どうしてそんなことを聞くの」
「どうしてって、お前が俺のすることにいちいちドキドキしてんのを見るのが好きなんだよ」
そうか、前田はただ私の反応を見て楽しんでいただけなんだ。
「最低」
言いながら私は持っていたカバンを前田に叩きつけて走り出した。家まではもう大した距離じゃないし、他の子よりもたくさんの荷物で膨らんで少し大きいカバンがあるから多少は雨を防げる。逆に雨が降る夜で都合がよかったかもしれない。だんだん強くなる雨音に混ざって前田が何か叫んでいるのを振り払うように全力で走り抜けた。
どうせ、ラーメンが目当てなんだから私のことなんてどうも思ってくれないんだろうな。