夜の帰り道1章
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テスト一日目がやっと終わった。
今日行われたテストは簡単だったというわけではないけれど、予想していたよりも余裕を持って解けたと思う。直前にノートで確認できなくて少し不安だった国語のテストもなんとか解ききれてよかった。まだ明日のテスト最終日には苦手教科も残っているとはいえ、肩の荷が降りたような、やりきったような、そんな気分だ。
残って勉強をするという友達に「じゃあね」と声をかけて、私は教室をいつもよりも少し軽い足取りで後にした。
テストが終わった解放感からか少し騒がしい廊下を通り抜けて、部室の近くまで辿り着くと、前田が腕を組んで立って待っているのが見えた。目が合ったから小さく手を振ると、前田は「遅えぞ」と大声で言いながら昨日貸してあげたノートをブンブン振り返してきた。口では遅いなんて言ってはいるけれど、ちょっと嬉しそうに見えるし、今日のテストは手応えがあったのかもしれない。ノートを貸した手前、貸してもダメだったらどうしようとちょっとだけ心配していたから安心した。
「ごめん、前田。お待たせ」
小走りで近づいてそう声をかけると、前田は私のノートで軽く何度か私の頭を叩きながら「ほんと遅えよ」と笑ってきた。だから私は持っていたカバンを軽くぶつけてやった。軽く小突くつもりだったけれど、意外といいところに入ったらしく、前田は「痛え」と腹のあたりを抑えてうずくまり、私の方を恨めしそうに見上げてきた。
「マジで小宮容赦ねえな」
「ごめん。やりすぎた」
「まあ、いいけどよ」
「いい」なんて言いながらも前田はまだこちらを少し睨みながら腹をさすっている。なかなか前田が立ち上がらないので、もしかして本当にやばいのかなと思って、おそるおそる私は「前田?」と声をかけた。
すると、前田はしてやったりというような顔で、「隙あり」とさっきよりも強めにノートを頭にぶつけてきた。
少し痛む頭を片手で抑え、いつもよりも大きな声で「ちょっと」と怒ったけれど、いつの間にか立ち上がっていた前田はさっきと同じ嫌味な笑顔を崩さないで、「ほらよ」と私のノートを差し出してきた。
ひったくるように差し出された私のノートを受け取って、すぐに前田から顔を逸らした。けれど、またすぐに前田は回り込んで、ニヤケた顔で私の顔を覗き込んできた。
「なによ」
「いや?なんで小宮はそんなにぷりぷり怒っちゃってんのかと思ってよ」
「怒ってないし」
今度は体ごと逸らして前田を避けてみたけれど、それでも前田はしつこく回り込んできて、私の視界に入ってきた。
「なあ、そんなぷりぷり怒ってないで機嫌直せよ。小宮」
まだニヤニヤ笑いながら、そう顔を近づけてくる前田を手で振り払って、私は「話しかけてこないで」という意思表示として、さっき受け取ったノートを開いて、前田に背を向けた。
もう少ししつこく絡んでくると思ったけれど、「ちぇっ」と小さな舌打ちが聞こえたものの、なんだかんだ前田は私をからかうのをやめてくれた。
ノートに視線を落としているため見えないけれど、きっと前田がすごく不機嫌そうな顔になっているのが簡単に想像できて、小さく吹き出してしまった。
しかし、笑っているのがバレたら前田が拗ねてしまうかもしれないと思い、ノートを確認するのに集中しようと、一度ゆっくり目を閉じてからまた開いてみた。
「なにこれ」
気を取り直してノートを開くと、たまたま開いたページの元々あったであろう空白部分は全て変な顔の人の落書きでいっぱいになっていた。慌てて次のページ、その次のページと捲ってみると、どのページにも似たような落書きがたくさん描かれていた。
「ちょっと、これ、どういうこと」
落書きだらけのノートを前田の顔スレスレに突き出してそう聞くと、前田はノートを軽く払いのけてニヤニヤ笑いだした。
「結構似てんだろ?それ」
「は?似てるって、このブサイクなの全部私ってこと?」
ノートいっぱいに描かれた頭の悪そうな顔の落書き達を睨みつけながら私がそう問い詰めると、前田はなぜか慌てて「バカ、違えよ」なんて食い気味に否定してきた。せっかく貸してあげたノートを落書きだらけにしておいて、何が違うのだろうか。
私は、ノートが歪んでしまうくらいノートを強く握り締め、じっと、前田のことをノート越しに睨みつけてやった。けれど、しっかりと握っていたはずのノートは、いとも簡単に前田にスルリと抜き取られてしまった。
そして、前田は焦った様子で先ほど私から奪ったノートを開いて見せてきた。
「このハゲ頭は数学の小林、んで、こっちはいっつも眼鏡が汚ねえ生物の中野」
いつもよりもやや早口で興奮気味に前田はそう、開いたページの落書きを一つ一つ説明してくれた。勝手に貸したノートに落書きされて怒っていたはずなのに、どの落書きもヘタクソだけれど特徴を掴んでいて、また、つい吹き出してしまった。
そうしたら、前田も気をよくしたのか、ノリノリで今度は落書きの先生のモノマネまで披露してくれた。そっちは面白かったけれど、誇張しすぎていてあんまり似ていなかった。
前田とノートを挟んで大笑いしていたら、いつの間にか周りから聞こえてくる他の生徒たちの話し声が先ほどよりも小さくなっているのに気付いた。
もう少し話を聞いていたい気もするけれども、このまま話に夢中になっていたら明日のテストのために勉強する時間が少なくなってしまう。私は慌てて隣でゲラゲラ笑いながら先生のモノマネをしている前田の脇腹をつついた。
「なんだよ。小宮」
「そろそろ帰らない?」
「は?ここからがいいところなんだぜ?」
話を止められて不機嫌そうに前田は唇を尖らせた。私も、もう少し話したいし気持ちはわかる。
「じゃあさ、歩きながら続き、話してよ」
少し背伸びをして前田からノートを取り返しながら私がそう言うと、前田は「おう。いいぜ」とニヤニヤ笑って、また私のノートを難なく奪い返してきた。
少しムッとしたけれど、その後見せられた落書きも、前田のクオリティの低いモノマネもやっぱり全部おもしろくて、また私は笑い出してしまった。
今日行われたテストは簡単だったというわけではないけれど、予想していたよりも余裕を持って解けたと思う。直前にノートで確認できなくて少し不安だった国語のテストもなんとか解ききれてよかった。まだ明日のテスト最終日には苦手教科も残っているとはいえ、肩の荷が降りたような、やりきったような、そんな気分だ。
残って勉強をするという友達に「じゃあね」と声をかけて、私は教室をいつもよりも少し軽い足取りで後にした。
テストが終わった解放感からか少し騒がしい廊下を通り抜けて、部室の近くまで辿り着くと、前田が腕を組んで立って待っているのが見えた。目が合ったから小さく手を振ると、前田は「遅えぞ」と大声で言いながら昨日貸してあげたノートをブンブン振り返してきた。口では遅いなんて言ってはいるけれど、ちょっと嬉しそうに見えるし、今日のテストは手応えがあったのかもしれない。ノートを貸した手前、貸してもダメだったらどうしようとちょっとだけ心配していたから安心した。
「ごめん、前田。お待たせ」
小走りで近づいてそう声をかけると、前田は私のノートで軽く何度か私の頭を叩きながら「ほんと遅えよ」と笑ってきた。だから私は持っていたカバンを軽くぶつけてやった。軽く小突くつもりだったけれど、意外といいところに入ったらしく、前田は「痛え」と腹のあたりを抑えてうずくまり、私の方を恨めしそうに見上げてきた。
「マジで小宮容赦ねえな」
「ごめん。やりすぎた」
「まあ、いいけどよ」
「いい」なんて言いながらも前田はまだこちらを少し睨みながら腹をさすっている。なかなか前田が立ち上がらないので、もしかして本当にやばいのかなと思って、おそるおそる私は「前田?」と声をかけた。
すると、前田はしてやったりというような顔で、「隙あり」とさっきよりも強めにノートを頭にぶつけてきた。
少し痛む頭を片手で抑え、いつもよりも大きな声で「ちょっと」と怒ったけれど、いつの間にか立ち上がっていた前田はさっきと同じ嫌味な笑顔を崩さないで、「ほらよ」と私のノートを差し出してきた。
ひったくるように差し出された私のノートを受け取って、すぐに前田から顔を逸らした。けれど、またすぐに前田は回り込んで、ニヤケた顔で私の顔を覗き込んできた。
「なによ」
「いや?なんで小宮はそんなにぷりぷり怒っちゃってんのかと思ってよ」
「怒ってないし」
今度は体ごと逸らして前田を避けてみたけれど、それでも前田はしつこく回り込んできて、私の視界に入ってきた。
「なあ、そんなぷりぷり怒ってないで機嫌直せよ。小宮」
まだニヤニヤ笑いながら、そう顔を近づけてくる前田を手で振り払って、私は「話しかけてこないで」という意思表示として、さっき受け取ったノートを開いて、前田に背を向けた。
もう少ししつこく絡んでくると思ったけれど、「ちぇっ」と小さな舌打ちが聞こえたものの、なんだかんだ前田は私をからかうのをやめてくれた。
ノートに視線を落としているため見えないけれど、きっと前田がすごく不機嫌そうな顔になっているのが簡単に想像できて、小さく吹き出してしまった。
しかし、笑っているのがバレたら前田が拗ねてしまうかもしれないと思い、ノートを確認するのに集中しようと、一度ゆっくり目を閉じてからまた開いてみた。
「なにこれ」
気を取り直してノートを開くと、たまたま開いたページの元々あったであろう空白部分は全て変な顔の人の落書きでいっぱいになっていた。慌てて次のページ、その次のページと捲ってみると、どのページにも似たような落書きがたくさん描かれていた。
「ちょっと、これ、どういうこと」
落書きだらけのノートを前田の顔スレスレに突き出してそう聞くと、前田はノートを軽く払いのけてニヤニヤ笑いだした。
「結構似てんだろ?それ」
「は?似てるって、このブサイクなの全部私ってこと?」
ノートいっぱいに描かれた頭の悪そうな顔の落書き達を睨みつけながら私がそう問い詰めると、前田はなぜか慌てて「バカ、違えよ」なんて食い気味に否定してきた。せっかく貸してあげたノートを落書きだらけにしておいて、何が違うのだろうか。
私は、ノートが歪んでしまうくらいノートを強く握り締め、じっと、前田のことをノート越しに睨みつけてやった。けれど、しっかりと握っていたはずのノートは、いとも簡単に前田にスルリと抜き取られてしまった。
そして、前田は焦った様子で先ほど私から奪ったノートを開いて見せてきた。
「このハゲ頭は数学の小林、んで、こっちはいっつも眼鏡が汚ねえ生物の中野」
いつもよりもやや早口で興奮気味に前田はそう、開いたページの落書きを一つ一つ説明してくれた。勝手に貸したノートに落書きされて怒っていたはずなのに、どの落書きもヘタクソだけれど特徴を掴んでいて、また、つい吹き出してしまった。
そうしたら、前田も気をよくしたのか、ノリノリで今度は落書きの先生のモノマネまで披露してくれた。そっちは面白かったけれど、誇張しすぎていてあんまり似ていなかった。
前田とノートを挟んで大笑いしていたら、いつの間にか周りから聞こえてくる他の生徒たちの話し声が先ほどよりも小さくなっているのに気付いた。
もう少し話を聞いていたい気もするけれども、このまま話に夢中になっていたら明日のテストのために勉強する時間が少なくなってしまう。私は慌てて隣でゲラゲラ笑いながら先生のモノマネをしている前田の脇腹をつついた。
「なんだよ。小宮」
「そろそろ帰らない?」
「は?ここからがいいところなんだぜ?」
話を止められて不機嫌そうに前田は唇を尖らせた。私も、もう少し話したいし気持ちはわかる。
「じゃあさ、歩きながら続き、話してよ」
少し背伸びをして前田からノートを取り返しながら私がそう言うと、前田は「おう。いいぜ」とニヤニヤ笑って、また私のノートを難なく奪い返してきた。
少しムッとしたけれど、その後見せられた落書きも、前田のクオリティの低いモノマネもやっぱり全部おもしろくて、また私は笑い出してしまった。