夜の帰り道1章
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「あー、小宮。明日の国語さ、全然勉強してねえんだけど、出そうなとこ教えてくんねえか」
ずっと一言も話さないままだった前田が学校を出たあたりでやっと口を開いた。さっき千葉にからかわれたことを気にしているのか、心なしか少し声が小さいし、目も合わない。
「えっ。出そうなところって言っても大体は読解問題だろうしな。あ、そうだ。文学史のプリントから出るってやつなら今からでもなんとかできるかも」
「マジで。ちょっと問題出してくんねえ」
いつもは勉強の話になるとつまらなそうにして、ほとんど聞き流してそうなのに、テストが絡んでいるからか、かなり食い気味にそう頼んできた。
特に断る理由もないし「いいよ」と頷いて私はカバンの中からノートを取り出して挟んであったプリントを広げた。
「じゃあ一問目。『人間失格』の著者は誰でしょうか」
「全然わかんねえ。つうか人間失格っつう本も知らねえよ」
しばらく真面目に考えていたようだったけれど、とうとう前田は頭をぐちゃぐちゃに搔き乱ながらそう騒ぎ出した。
「なあ小宮ー、答え」
子供みたいに唇を尖らせてそう言う前田に自然と大きなため息が出てしまう。しょうがない、答えを言おうと私は口を開いたのだけれど、その時、突然前田が私の肩を軽く小突いてきた。
「なに」と見上げるとニヤニヤと得意げな笑みを浮かべた顔としっかり目が合った。
「やっぱわかったわ。答えは「だこうおさむ」だろ」
前田のとんでもない答えに呆れて、さっきよりもさらに大きなため息が出る。
「なんだよ。お前のプリントにそう書いてあるじゃねえか。合ってんだろ」
「間違ってるよ。読み方は「だこう」じゃなくて「だざい」」
プリントを前田にも見えやすいように高く掲げて、そう丁寧に説明してあげているのに、何がそんなに不満なのか、前田はプリントが破れてしまいそうなくらいバシバシ叩いてきた。
「は。これ「幸せ」っつう字だろ。「こう」って読むんじゃねえのかよ」
「これ、「幸せ」じゃなくて太宰府の「宰」だよ。ほんと、カンニングするならせめて正解してよね」
叩きつけてくる前田の手を躱して、私はプリントを前田の鼻先に押し付けてやった。「おわっ」と情けない声を出して汗ではり付いたプリントをはがす前田を見てもまだ怒りがおさまらない。
「わあったよ。おい、小宮次の問題」
前田はぐしゃぐしゃになったプリントを私に投げて寄越しながら図々しくもそう命令してきた。
「今出したやつが一番簡単なやつだったから無理」
なんとか捕まえたプリントを丁寧にたたみ直しながら、なるべく素っ気なくそう答えたら、「うそだろ。じゃあマジで俺やべえじゃん」と前田はわざとらしく身振り手振りを付けて言ってきた。
今までちゃんと勉強してこなかった自分が悪いくせに。見え見えの演技を続ける前田がうざくてもう何も応えてやらないことにした。
「小宮」
散々ヘタクソな芝居を見せていた前田がやっと黙ったなと思っていたら、らしくない覇気のない声でそう呼んできて、ずっと無視を決め込むつもりだったのも忘れて振り向いてしまった。
「さっきのって小宮が俺をからかってやろうってめちゃめちゃ難しい問題出したんじゃなくて本当に簡単なのだったのか」
「そうだけど」
どうせ演技なんだからさっきみたいに流されてたまるかと、できるだけ冷静に素っ気なく答えたら、「マジか」とポツリと言ったきり、また前田はさっきみたいに黙り込んでしまった。
ほんとうにどうしようもないなとさっきにも増して大きなため息が出る。でも、いくら相手が前田だからといって無視とか、私もちょっとやり過ぎたかもしれないな。
「前田」
「なんだよ」
数歩先で前田は気だるげにこちらを振り向いた。
「今回だけだからね。はい、これ貸してあげる」
いつもより少し大股で近づいて、汗を吸って手の形に表紙が少し膨らんだノートを前田の胸元に強く押し付けてやった。
押し付けられたノートを数秒間ぼうっと見つめてから、やっと状況を理解できたのか、前田は「やりぃ」と得意げに指を鳴らした。
いつもの前田に戻ったのはいいんだけれど、なんだかその態度が気にくわなくて「そのかわり」と今度アイスとかジュースとか何か私が食べたいものを奢ることを約束させた。
「なあ、ついでに家に着くまでの間にここ教えてくんねえ」
意外と真剣にノートを見てるなあと思ったらこれだ。
前田にもわかるくらい大げさに肩をすくめて見せてから、私は背伸びして前田の手元を覗き込んだ。
ずっと一言も話さないままだった前田が学校を出たあたりでやっと口を開いた。さっき千葉にからかわれたことを気にしているのか、心なしか少し声が小さいし、目も合わない。
「えっ。出そうなところって言っても大体は読解問題だろうしな。あ、そうだ。文学史のプリントから出るってやつなら今からでもなんとかできるかも」
「マジで。ちょっと問題出してくんねえ」
いつもは勉強の話になるとつまらなそうにして、ほとんど聞き流してそうなのに、テストが絡んでいるからか、かなり食い気味にそう頼んできた。
特に断る理由もないし「いいよ」と頷いて私はカバンの中からノートを取り出して挟んであったプリントを広げた。
「じゃあ一問目。『人間失格』の著者は誰でしょうか」
「全然わかんねえ。つうか人間失格っつう本も知らねえよ」
しばらく真面目に考えていたようだったけれど、とうとう前田は頭をぐちゃぐちゃに搔き乱ながらそう騒ぎ出した。
「なあ小宮ー、答え」
子供みたいに唇を尖らせてそう言う前田に自然と大きなため息が出てしまう。しょうがない、答えを言おうと私は口を開いたのだけれど、その時、突然前田が私の肩を軽く小突いてきた。
「なに」と見上げるとニヤニヤと得意げな笑みを浮かべた顔としっかり目が合った。
「やっぱわかったわ。答えは「だこうおさむ」だろ」
前田のとんでもない答えに呆れて、さっきよりもさらに大きなため息が出る。
「なんだよ。お前のプリントにそう書いてあるじゃねえか。合ってんだろ」
「間違ってるよ。読み方は「だこう」じゃなくて「だざい」」
プリントを前田にも見えやすいように高く掲げて、そう丁寧に説明してあげているのに、何がそんなに不満なのか、前田はプリントが破れてしまいそうなくらいバシバシ叩いてきた。
「は。これ「幸せ」っつう字だろ。「こう」って読むんじゃねえのかよ」
「これ、「幸せ」じゃなくて太宰府の「宰」だよ。ほんと、カンニングするならせめて正解してよね」
叩きつけてくる前田の手を躱して、私はプリントを前田の鼻先に押し付けてやった。「おわっ」と情けない声を出して汗ではり付いたプリントをはがす前田を見てもまだ怒りがおさまらない。
「わあったよ。おい、小宮次の問題」
前田はぐしゃぐしゃになったプリントを私に投げて寄越しながら図々しくもそう命令してきた。
「今出したやつが一番簡単なやつだったから無理」
なんとか捕まえたプリントを丁寧にたたみ直しながら、なるべく素っ気なくそう答えたら、「うそだろ。じゃあマジで俺やべえじゃん」と前田はわざとらしく身振り手振りを付けて言ってきた。
今までちゃんと勉強してこなかった自分が悪いくせに。見え見えの演技を続ける前田がうざくてもう何も応えてやらないことにした。
「小宮」
散々ヘタクソな芝居を見せていた前田がやっと黙ったなと思っていたら、らしくない覇気のない声でそう呼んできて、ずっと無視を決め込むつもりだったのも忘れて振り向いてしまった。
「さっきのって小宮が俺をからかってやろうってめちゃめちゃ難しい問題出したんじゃなくて本当に簡単なのだったのか」
「そうだけど」
どうせ演技なんだからさっきみたいに流されてたまるかと、できるだけ冷静に素っ気なく答えたら、「マジか」とポツリと言ったきり、また前田はさっきみたいに黙り込んでしまった。
ほんとうにどうしようもないなとさっきにも増して大きなため息が出る。でも、いくら相手が前田だからといって無視とか、私もちょっとやり過ぎたかもしれないな。
「前田」
「なんだよ」
数歩先で前田は気だるげにこちらを振り向いた。
「今回だけだからね。はい、これ貸してあげる」
いつもより少し大股で近づいて、汗を吸って手の形に表紙が少し膨らんだノートを前田の胸元に強く押し付けてやった。
押し付けられたノートを数秒間ぼうっと見つめてから、やっと状況を理解できたのか、前田は「やりぃ」と得意げに指を鳴らした。
いつもの前田に戻ったのはいいんだけれど、なんだかその態度が気にくわなくて「そのかわり」と今度アイスとかジュースとか何か私が食べたいものを奢ることを約束させた。
「なあ、ついでに家に着くまでの間にここ教えてくんねえ」
意外と真剣にノートを見てるなあと思ったらこれだ。
前田にもわかるくらい大げさに肩をすくめて見せてから、私は背伸びして前田の手元を覗き込んだ。