夜の帰り道1章
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授業が一時限、また一時限と終わっていくにつれて昨日の前田との帰り道のことが頭から離れなくなってきた。
正直、昨日は前田に「嫉妬したのか」なんて変なことを聞かれたからか動揺して、冷静に考えてみたら恥ずかしくなるようなことをたくさん言ってしまった。
本来お礼なんてする必要は特に無かったんだから、今からでも「もう二人で帰るのをやめる」って言いに行きたい。
でも、動揺していたとはいえ、待ち合わせしようって提案したのは自分だ。
考えなんてまとまるはずがないのに、授業中も休み時間もずっと前田との約束のことばかり考えて悩みこんでしまう。「今日の授業でテストに出る重要なところやってたけど、大丈夫」と心配して聞いてくれた友達も何人かいたけれど、テストのことなんて今は全然頭に入ってきてはくれない。
そうこうしているうちに授業は全て終わってしまった。帰りのホームルームも今日に限って担任が不在だったため、副担任が簡単な挨拶と連絡をするだけで済んでしまった。
いつもより弾んだ声で「じゃあね」と友達が声をかけ、去っていく中、いつもの私だったら考えられないくらいノロノロと帰る支度をした。
やっとのことで支度を終えて、カバンを持ち、廊下に出た。出る時にたまたま目に入った時計を見る限りいつも前田と合流するのとほぼ同じ時間には待ち合わせ場所の部室前に着けそうだ。
いつも通りなら前田が先に着いているだろうと考えていたが、部室前には人の気配が無かった。鍵が無いため部室に入って涼むわけにもいかず、仕方ないので目立つところに立って教科書でも読んでいよう。そう思い足を踏み出した瞬間
目の前が突然真っ暗になった。思わず肩が跳ね、「きゃっ」と小さく悲鳴をあげてしまった。
「だーれだ」
少しして聞き覚えのある声が降ってきて自然と大きなため息が出た。
「前田でしょ」
「あったりー」という声と同時に目の前を覆っていた大きな手が外される。振り向くといつものようにニヤニヤと笑っている前田が両手を私の顔くらいの高さまで上げたまま立っていた。少しばかり睨みつけても、「おー、怖え、怖え」と前田は余裕の表情を崩さない。
「にしてもちょっと目隠ししたくらいで「きゃっ」っつってビビるとか小宮もかわいいところあるじゃねえか」
「べつに大体の女子はびっくりしたらさっきの私みたいな反応するし、普通だから。そんなことでからかわないでくれる」
「お。なんだよ小宮、かわいいとか言ったから照れてんのか」
「なに言ってんの。そんなことないから。ほら、早く行くよ」
手に持っていた教科書を無造作にカバンの中に放り込んで、私は早足で歩きはじめた。
早足で歩いたはずなのに前田は「置いてくなよ」とか言いながらもすぐに追いついてきた。前田は私と並んで歩きながら「やっぱり照れてんじゃん」とか「なあ、こっち向けよ」とか「真っ赤になっちまって見せらんねえの」とか聞いているだけでイライラするようなことを言い続けてくる。他の生徒が通学路にいないとはいえ、すごくムカつく。
「いい加減にしてよ」
もう少し行けば家が見えてくる頃にはとうとう我慢できなくなってそう叫んでしまった。それでも前田は余裕の表情を崩さずに、「なにをいい加減にしてほしいんだ」なんて聞いてきた。
「なに」と聞かれても、なぜだか前田にさっき言われて嫌だったところを説明して指摘することができなくて黙り込んでしまった。
「俺がかわいいっつっただけなのに赤くなっちまってさ、本当に小宮はかわいいな」
私が黙り込んでいるのをいいことに「くっくっく」と笑うのも堪えないで、でも、私に全部ちゃんと伝わるようにゆっくり丁寧にそう言ってきた。
しょうがないじゃない。男の子に「かわいい」だなんて言われたこと、今まで無かったんだから。いくら相手が前田で、ただ私のことをからかってやろうとして出た言葉かもしれないからって、真っ赤にだってなってしまう。
恥ずかしさのせいで生理的な涙が少し浮かんだ目で睨んだって「怖え、怖え」とさっきみたいに笑われるだけだろうけれど、しっかりと前田のことを睨みつけた。
「またそんな怖え顔してどうしたんだよ、小宮。まさか、かわいいなんて言われたの、俺がハジメテだったのか」
心臓が一際大きく跳ねた。もしかして口に出ていたのかな。
落ち着くために大きく息を吸って、吐いてから私は口を開いた。
「そうだよ。かわいいって男子に言われたのは前田がはじめてだけど、でも、だからなんなの」
結構冷静に言えたと思うんだけど、前田は「いや、べつに」とさっきよりも一層嫌味な顔で笑う。
「じゃあ、なんでそんな悪そうな顔するの」
「いや、なあに。小宮が俺のことを意識してんのが嬉しくって顔に出ちまったんだ。それだけだから気にすんなよ」
「気にするな」なんて言われたら普段なら気にならないようなことでも気になってしまう。でも、そんな風に思うことがもうすでに前田の思うつぼだ。変なことを考えないように、手のひらに爪が少し食い込むくらい手を握り締めた。
「それよりさ、小宮」
「なに」
手に意識を集中させすぎていて、前田の声に応えるのが一瞬遅れた。
「もうとっくにお前ん家に着いてんぞ」
「うそ」
前田の言葉がどうしても信じられなくて辺りを確認したら、そこにはちゃんと見慣れた私の家が目の前にあった。
「な。うそじゃないだろ。まあ、まだ俺と話したいならもっとここにいてやってもいいんだぜ」
「十分話したからもういい」
「ふうん。じゃあ、小宮の好きな俺がもう帰っちゃってもいいのか」
「いいよ、べつに。早く帰って。前田のことなんか好きじゃないから大丈夫だよ」
「へえ、つうことは、大好きってことか」
そう言いながら背を曲げて視線を合わせようとしてくる前田を「そんなわけないでしょ」と両手で押しのけて、玄関に駆け込む。
「私のことからかっている暇があったら早く帰ってテスト勉強しなよ。前田のバカ」
ドアから顔だけを覗かせて私はそう怒鳴った。
「小宮こそ俺のことで頭いっぱいになって集中できねえだろうけどせいぜい頑張れよ」
かなり大きな声で怒鳴ったはずなのに前田はまだおかしそうに笑ったままそう言ってきた。
「前田のことで頭いっぱいになんてなるはずないでしょ」
そうはっきりと言い切って私は、前田の答えなんて聞かずにドアをバタンと壊れてしまいそうなくらい大きな音を立てて閉めた。
少しして、前田のものと思われる足音が遠のいていくのが聞こえたらなぜだか突然、全身の力が抜けてドアを背に座り込んでしまった。
前田なんかに頭の中を引っ掻き回されている自分にいらいらする。
正直、昨日は前田に「嫉妬したのか」なんて変なことを聞かれたからか動揺して、冷静に考えてみたら恥ずかしくなるようなことをたくさん言ってしまった。
本来お礼なんてする必要は特に無かったんだから、今からでも「もう二人で帰るのをやめる」って言いに行きたい。
でも、動揺していたとはいえ、待ち合わせしようって提案したのは自分だ。
考えなんてまとまるはずがないのに、授業中も休み時間もずっと前田との約束のことばかり考えて悩みこんでしまう。「今日の授業でテストに出る重要なところやってたけど、大丈夫」と心配して聞いてくれた友達も何人かいたけれど、テストのことなんて今は全然頭に入ってきてはくれない。
そうこうしているうちに授業は全て終わってしまった。帰りのホームルームも今日に限って担任が不在だったため、副担任が簡単な挨拶と連絡をするだけで済んでしまった。
いつもより弾んだ声で「じゃあね」と友達が声をかけ、去っていく中、いつもの私だったら考えられないくらいノロノロと帰る支度をした。
やっとのことで支度を終えて、カバンを持ち、廊下に出た。出る時にたまたま目に入った時計を見る限りいつも前田と合流するのとほぼ同じ時間には待ち合わせ場所の部室前に着けそうだ。
いつも通りなら前田が先に着いているだろうと考えていたが、部室前には人の気配が無かった。鍵が無いため部室に入って涼むわけにもいかず、仕方ないので目立つところに立って教科書でも読んでいよう。そう思い足を踏み出した瞬間
目の前が突然真っ暗になった。思わず肩が跳ね、「きゃっ」と小さく悲鳴をあげてしまった。
「だーれだ」
少しして聞き覚えのある声が降ってきて自然と大きなため息が出た。
「前田でしょ」
「あったりー」という声と同時に目の前を覆っていた大きな手が外される。振り向くといつものようにニヤニヤと笑っている前田が両手を私の顔くらいの高さまで上げたまま立っていた。少しばかり睨みつけても、「おー、怖え、怖え」と前田は余裕の表情を崩さない。
「にしてもちょっと目隠ししたくらいで「きゃっ」っつってビビるとか小宮もかわいいところあるじゃねえか」
「べつに大体の女子はびっくりしたらさっきの私みたいな反応するし、普通だから。そんなことでからかわないでくれる」
「お。なんだよ小宮、かわいいとか言ったから照れてんのか」
「なに言ってんの。そんなことないから。ほら、早く行くよ」
手に持っていた教科書を無造作にカバンの中に放り込んで、私は早足で歩きはじめた。
早足で歩いたはずなのに前田は「置いてくなよ」とか言いながらもすぐに追いついてきた。前田は私と並んで歩きながら「やっぱり照れてんじゃん」とか「なあ、こっち向けよ」とか「真っ赤になっちまって見せらんねえの」とか聞いているだけでイライラするようなことを言い続けてくる。他の生徒が通学路にいないとはいえ、すごくムカつく。
「いい加減にしてよ」
もう少し行けば家が見えてくる頃にはとうとう我慢できなくなってそう叫んでしまった。それでも前田は余裕の表情を崩さずに、「なにをいい加減にしてほしいんだ」なんて聞いてきた。
「なに」と聞かれても、なぜだか前田にさっき言われて嫌だったところを説明して指摘することができなくて黙り込んでしまった。
「俺がかわいいっつっただけなのに赤くなっちまってさ、本当に小宮はかわいいな」
私が黙り込んでいるのをいいことに「くっくっく」と笑うのも堪えないで、でも、私に全部ちゃんと伝わるようにゆっくり丁寧にそう言ってきた。
しょうがないじゃない。男の子に「かわいい」だなんて言われたこと、今まで無かったんだから。いくら相手が前田で、ただ私のことをからかってやろうとして出た言葉かもしれないからって、真っ赤にだってなってしまう。
恥ずかしさのせいで生理的な涙が少し浮かんだ目で睨んだって「怖え、怖え」とさっきみたいに笑われるだけだろうけれど、しっかりと前田のことを睨みつけた。
「またそんな怖え顔してどうしたんだよ、小宮。まさか、かわいいなんて言われたの、俺がハジメテだったのか」
心臓が一際大きく跳ねた。もしかして口に出ていたのかな。
落ち着くために大きく息を吸って、吐いてから私は口を開いた。
「そうだよ。かわいいって男子に言われたのは前田がはじめてだけど、でも、だからなんなの」
結構冷静に言えたと思うんだけど、前田は「いや、べつに」とさっきよりも一層嫌味な顔で笑う。
「じゃあ、なんでそんな悪そうな顔するの」
「いや、なあに。小宮が俺のことを意識してんのが嬉しくって顔に出ちまったんだ。それだけだから気にすんなよ」
「気にするな」なんて言われたら普段なら気にならないようなことでも気になってしまう。でも、そんな風に思うことがもうすでに前田の思うつぼだ。変なことを考えないように、手のひらに爪が少し食い込むくらい手を握り締めた。
「それよりさ、小宮」
「なに」
手に意識を集中させすぎていて、前田の声に応えるのが一瞬遅れた。
「もうとっくにお前ん家に着いてんぞ」
「うそ」
前田の言葉がどうしても信じられなくて辺りを確認したら、そこにはちゃんと見慣れた私の家が目の前にあった。
「な。うそじゃないだろ。まあ、まだ俺と話したいならもっとここにいてやってもいいんだぜ」
「十分話したからもういい」
「ふうん。じゃあ、小宮の好きな俺がもう帰っちゃってもいいのか」
「いいよ、べつに。早く帰って。前田のことなんか好きじゃないから大丈夫だよ」
「へえ、つうことは、大好きってことか」
そう言いながら背を曲げて視線を合わせようとしてくる前田を「そんなわけないでしょ」と両手で押しのけて、玄関に駆け込む。
「私のことからかっている暇があったら早く帰ってテスト勉強しなよ。前田のバカ」
ドアから顔だけを覗かせて私はそう怒鳴った。
「小宮こそ俺のことで頭いっぱいになって集中できねえだろうけどせいぜい頑張れよ」
かなり大きな声で怒鳴ったはずなのに前田はまだおかしそうに笑ったままそう言ってきた。
「前田のことで頭いっぱいになんてなるはずないでしょ」
そうはっきりと言い切って私は、前田の答えなんて聞かずにドアをバタンと壊れてしまいそうなくらい大きな音を立てて閉めた。
少しして、前田のものと思われる足音が遠のいていくのが聞こえたらなぜだか突然、全身の力が抜けてドアを背に座り込んでしまった。
前田なんかに頭の中を引っ掻き回されている自分にいらいらする。