夜の帰り道1章
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「小宮ー」
担任が出ていったドアから前田がよく通る声で私の名前を呼んできた。何事かとクラスの大多数が私と前田に向けてくる視線が痛い。クラスの女の子の何人かは「前田君よ」と小声だけれども好きなアイドルや俳優に町で遭遇したかのようなテンションで騒ぎはじめた。
こういう場面を見ると、今日の昼休みに聞いた「前田君って結構モテるんだよ」という友達の言葉もあながち嘘ではなかったんだと思える。
前田には聞こえているのか聞こえていないのかわからないけれど、一応「はいはい」と答えてゆっくりと準備に取り掛かった。
今日もまた「頑張ってね」と少し興奮気味な友達に言われながら教室のドアをくぐると、女の子達に騒がれたからかかなり得意気な様子の前田が立っていた。
「よお、小宮。カバン、持ってやろうか」
そう聞きながら前田はわざわざ少し背を曲げて私と目を合わせて手を差し出してきた。
気のせいかもしれないけれど、さっきよりもひそひそ話している女の子達の声が大きくなったような気がする。
「一人で持てるから大丈夫。それより、早く行こう」
差し出された手を振り払い、私は騒がしい教室には目も向けずに歩きだした。
明日までにはみんなどうせ私と前田が一緒に帰ることなんて気にもならなくなっているはずだけど、前田と話している姿をこれ以上見られたら恥ずかしいなんて少し思ってしまう。
前田なら絶対に簡単に追いつけるはずなのに、前田は廊下中に響くよく通る声で「待てよ小宮」と呼びながらゆったりと大股で後を付いてくる。
学校を出てしばらく歩いたところでやっと私は立ち止った。少ししてやっと追いついてくれた前田が私の肩を叩いた。
「やっと追いついた」なんて言われたけれど、少し息が上がっている私とは違って前田は余裕そうな笑みを浮かべていた。
「なに言ってんの。前田なら簡単に私に追いつけたでしょ」
「そんなことねえよ。小宮、歩くのマジで速かったからな」
言いながら前田は大げさな仕草で大して張り付いてもいない前髪をかき上げた。そこそこ絵になるのがまた腹立つ。
「そんなわけないじゃん。それよりもう私のことわざわざ迎えに来ないで」
「は。なんでだよ」
食い気味に前田はそう聞いてきた。
「なんでって、前田って意外と目立つみたいだし、前田のせいでさっきみたいに注目されるの嫌なの。だから、明日からは教室まで迎えに来ないで、部室前で待ち合わせようよ」
「ふうん」
「なによ」
ニヤついている前田の顔を見ると本能的に後退ってしまう。
「小宮さあ、俺が他の女子にキャーキャー言われて注目されてたからって嫉妬したのかよ。え」
「そういう意味じゃないし。ただ目立つ前田と二人で帰ってるのを見られて変なウワサされるのがいやだっただけだから」
嫉妬しただなんて前田がおかしなことを言うものだから慌てて反論したものの、一息で一気に捲し立てたせいでただでさえ苦しかった呼吸が余計に苦しくなってしまった。
目の前の余裕そうに歪められた笑みがさっきよりも腹立たしい。
「べつに俺はそういう勘違いをされても構わねぇけど、嫌なら二人きりで帰るのをやめればいいんじゃねぇの」
「約束しちゃったんだから、私の都合でやめたら無責任でしょ。もうここでいいから。送ってくれてありがとう。また明日」
これ以上前田と話したってからかわれるだけなんだろうなって思うとなんだか癪で、私はまた苦しいのに一息でそう言い切った。そして、前田に背を向けて早足で歩き出した。
まだ数歩歩いただけなのにもう何キロも走ったみたいに息は苦しいし体中が熱い。
でも、ここで立ち止まったのを前田に見られでもしたら、また何を言われるかわからないから必死に手足を動かした。
ここからはほんの数十メートルしかない家までの距離が恨めしく感じる。
担任が出ていったドアから前田がよく通る声で私の名前を呼んできた。何事かとクラスの大多数が私と前田に向けてくる視線が痛い。クラスの女の子の何人かは「前田君よ」と小声だけれども好きなアイドルや俳優に町で遭遇したかのようなテンションで騒ぎはじめた。
こういう場面を見ると、今日の昼休みに聞いた「前田君って結構モテるんだよ」という友達の言葉もあながち嘘ではなかったんだと思える。
前田には聞こえているのか聞こえていないのかわからないけれど、一応「はいはい」と答えてゆっくりと準備に取り掛かった。
今日もまた「頑張ってね」と少し興奮気味な友達に言われながら教室のドアをくぐると、女の子達に騒がれたからかかなり得意気な様子の前田が立っていた。
「よお、小宮。カバン、持ってやろうか」
そう聞きながら前田はわざわざ少し背を曲げて私と目を合わせて手を差し出してきた。
気のせいかもしれないけれど、さっきよりもひそひそ話している女の子達の声が大きくなったような気がする。
「一人で持てるから大丈夫。それより、早く行こう」
差し出された手を振り払い、私は騒がしい教室には目も向けずに歩きだした。
明日までにはみんなどうせ私と前田が一緒に帰ることなんて気にもならなくなっているはずだけど、前田と話している姿をこれ以上見られたら恥ずかしいなんて少し思ってしまう。
前田なら絶対に簡単に追いつけるはずなのに、前田は廊下中に響くよく通る声で「待てよ小宮」と呼びながらゆったりと大股で後を付いてくる。
学校を出てしばらく歩いたところでやっと私は立ち止った。少ししてやっと追いついてくれた前田が私の肩を叩いた。
「やっと追いついた」なんて言われたけれど、少し息が上がっている私とは違って前田は余裕そうな笑みを浮かべていた。
「なに言ってんの。前田なら簡単に私に追いつけたでしょ」
「そんなことねえよ。小宮、歩くのマジで速かったからな」
言いながら前田は大げさな仕草で大して張り付いてもいない前髪をかき上げた。そこそこ絵になるのがまた腹立つ。
「そんなわけないじゃん。それよりもう私のことわざわざ迎えに来ないで」
「は。なんでだよ」
食い気味に前田はそう聞いてきた。
「なんでって、前田って意外と目立つみたいだし、前田のせいでさっきみたいに注目されるの嫌なの。だから、明日からは教室まで迎えに来ないで、部室前で待ち合わせようよ」
「ふうん」
「なによ」
ニヤついている前田の顔を見ると本能的に後退ってしまう。
「小宮さあ、俺が他の女子にキャーキャー言われて注目されてたからって嫉妬したのかよ。え」
「そういう意味じゃないし。ただ目立つ前田と二人で帰ってるのを見られて変なウワサされるのがいやだっただけだから」
嫉妬しただなんて前田がおかしなことを言うものだから慌てて反論したものの、一息で一気に捲し立てたせいでただでさえ苦しかった呼吸が余計に苦しくなってしまった。
目の前の余裕そうに歪められた笑みがさっきよりも腹立たしい。
「べつに俺はそういう勘違いをされても構わねぇけど、嫌なら二人きりで帰るのをやめればいいんじゃねぇの」
「約束しちゃったんだから、私の都合でやめたら無責任でしょ。もうここでいいから。送ってくれてありがとう。また明日」
これ以上前田と話したってからかわれるだけなんだろうなって思うとなんだか癪で、私はまた苦しいのに一息でそう言い切った。そして、前田に背を向けて早足で歩き出した。
まだ数歩歩いただけなのにもう何キロも走ったみたいに息は苦しいし体中が熱い。
でも、ここで立ち止まったのを前田に見られでもしたら、また何を言われるかわからないから必死に手足を動かした。
ここからはほんの数十メートルしかない家までの距離が恨めしく感じる。